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映画『CURED』ネタバレあらすじと感想レビュー。キューアードはゾンビパニックという排他的な世界観で人間の恐ろしさと絶望を描く|サスペンスの神様の鼓動31

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは「Cinemarche」のシネマダイバー、金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ご紹介する作品は、ウィルスの拡散が収束した後の世界を舞台に、忌々しい記憶に苦悩する主人公を描いたスリラー『CURED』です。

人間を凶暴化させる、新種の病原体による壊滅状態に陥ったアイルランドを舞台に、「回復者」と呼ばれる存在になったセナンが遭遇する、人間の恐ろしさを描いたスリラー。

回復者となった青年セナンを、ロン・ハワード監督の『白鯨との闘い』など、多くの映像作品に出演している、サム・キーリー。

セナンの理解者となる義姉アビーを、映画『JUNO/ジュノ』で、アカデミー賞主演女優賞、ゴールデン・グローブ賞女優賞などにノミネートされた、エレン・ペイジ。

アイルランドの注目新人監督、デビッド・フレインが、監督と脚本を務めています。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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映画『CURED』のあらすじ


(C)Tilted Pictures Limited 2017
感染した人間は凶暴化してしまう新種の病原体「メイズ・ウィルス」。

ヨーロッパ全域に拡散された「メイズ・ウィルス」は、特にアイルランドへ壊滅的な被害をもたらします。

ですが、「メイズ・ウィルス」の治療法が発見された事で、世界は秩序を取り戻し始めました。

「メイズ・ウィルス」の拡散から6年後、感染者のうちの、75%は正常に戻り「回復者」と呼ばれ社会に復帰しますが、残りの25%は、軍が管理する施設に収容されていました。

回復者の1人であるセナンは、施設で友人になったコナーと共に、社会復帰しますが、かつて人を襲っていた回復者を、社会は怪物扱いし、受け入れようとしません。

セナンは、義理の姉でジャーナリストの、アビーの家に同居する事になります。

セナンの兄で、アビーの夫だったルークは、「メイズ・ウィルス」の感染者に襲われ命を落としています。

アビーはセナンを好意的に迎え入れ、残された息子のキリアンと対面させ、3人は家族のように過ごし始めます。

セナンは新たな仕事として、「メイズ・ウィルス」の感染者が収容されている、軍の収容所で働き始めます。

収容所には、感染者を1人でも回復させて救おうとする、ライアンズ博士が研究を続けており、セナンは助手として雇われます。

収容所の感染者は、セナンを襲おうとせず、ライアンズ博士から「回復者はウィルスが体に残っており、仲間と判断される為、感染者に襲われない」と聞かされます。

また、収容所の地下には、多くの感染者が収容されており、「これ以上の救済は不可能」と考えた軍は、安楽死を計画していました。

さらに、「メイズ・ウィルス」の回復者は、感染して人を襲っていた時の記憶が残っており、セナンはルークの死に関する、断片的な記憶に悩まされていました。

一方、セナンと共に社会へ復帰したコナーですが、感染前は選挙に出馬するほどのエリートだった事から、自身に与えられた、清掃員の仕事に不満を抱えていました。

社会への反抗的な態度から、軍の上層部にも目を付けられたコナーは、回復者に対する世間の差別に対抗する為、回復者だけの反乱組織を結成します。

コナーは、友人のセナンにも、反乱組織に入るよう誘います。

セナンは、収容所にいた時に世話になった、コナーの誘いに一度は乗りますが、その活動は犠牲者も出してしまう程の、危険な内容でした。

コナーの危険な思想に、恐怖を抱いたセナンは、コナーを軍の上層部に引き渡そうとします。

ですが、コナーは軍を振り切って逃走、回復者による反乱の、最終計画を実行します。


(C)Tilted Pictures Limited 2017

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『CURED』ネタバレ・結末の記載がございます。『CURED』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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アビーの待つ家に戻ったセナンは、ルークが死んだ日の記憶が完全に戻ります。

感染者に襲われ、街の人が避難する事になった際、家に残っていたルークを、セナンは呼びに行きました。

しかし、その際にセナンは襲われてしまい、ウィルスに感染、理性を保つ事ができず、ルークを襲ってしまいます。

ルークの命を奪ったのは、凶暴化したセナンで、セナンを襲った感染者はコナーでした。

その事実を聞いたアビーは逆上し、セナンを家から追い出します。

一方、回復者の反乱組織は、軍の思想に納得のいかない、ライアンズ博士の手引きにより、収容施設に侵入します。

そして、収容施設に収監されている、感染者達を開放させます。

収容所はパニックになり、ライアンズ博士も感染者に襲われてしまいます。

軍は、解放された感染者を抑止できず、街には感染者の群れが溢れます。

アビーは、軍により、強制的に避難させられますが、学校にいるキリアンを心配します。

混乱した街の様子を目の当たりにし、心配してアビーの家に戻ったセナンは、アビーの悲痛な叫びを聞き、キリアンを助けに学校に戻ります。

学校で、無事にキリアンを救出したセナンでしたが、感染者の群れが、キリアンに襲いかかって来ます。

キリアンを連れて逃げるセナンの前に、コナーが立ち塞がります。

セナンは、キリアンを先に逃がし、コナーと対決しますが、自身を裏切ったコナーの怒りの前に、セナンは圧倒されてしまいます。

圧倒的に不利な状況でしたが、セナンは一瞬の隙をついて、銃でコナーを撃ちます。

セナンは、キリアンに襲いかかる感染者を倒し、無事にキリアンを救出しますが、倒れていたはずのコナーが姿を消していました。

セナンがキリアンを連れて、家に帰ると、アビーが2人を待っていました。

キリアンが帰って来た事を喜ぶアビーですが、その直後、家に潜んでいた感染者にキリアンが噛まれてしまいます。

アビーは、キリアンが凶暴化する前に、銃で撃とうとしますが、セナンは「治療する方法がある」と説得、キリアンを連れて収容所へ戻ります。

数か月後、街に溢れた感染者の抑制に成功し、街には平穏が訪れていました。

自宅に戻ったアビーは、テレビで放映された「現在の感染者収容所の様子」を偶然、目にします。

そこには、キリアンを抱きかかえ、根気よく治療を試みる、セナンの姿がありました。

サスペンスを構築する要素①「ウィルス終焉後の絶望的な世界」


(C)Tilted Pictures Limited 2017
正体不明の病原体により、凶暴化した人間がもたらした、絶望的な世界を描いた『CURED』。

いわゆる「ゾンビパニック」映画ですが、本作の特徴は、凶暴化した感染者を鎮静化させ、騒ぎがある程度収束した世界を舞台にしているという事です。

「メイズ・ウィルス」によるパニックで、荒廃した街並みに住む人達は、明らかな疑心暗鬼に陥っているなど、騒ぎが収束したはずの世界からは、絶望的な雰囲気しか感じません。

さらに、街全体を軍が統括しており、一般市民は逆らう事を許されない、独裁的な空気に支配されています。

本作の前半は、凶暴化した感染者が人を襲うという「ゾンビパニック」映画の恐怖は薄れていますが、「ゾンビパニック」映画の多くが描かない、騒動収束後だからこその、絶望的な世界を舞台にしており、中盤以降のエピソードにリアリティを持たせています。

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サスペンスを構築する要素②「回復者たちの反乱」


(C)Tilted Pictures Limited 2017
凶暴化した感染者のパニックにより、荒廃した世界を舞台にした映画『CURED』。

本作のもう1つの特徴が、主人公のセナンが、凶暴化した感染者からの、回復者であるという設定です。

回復者は、収容所での治療を終え、社会に復帰する事を許されますが、前述したように、人々が疑心暗鬼に陥っている社会で受け入れられる訳も無く、回復者は徹底した差別を受けます。

セナンを受け入れた、義姉のアビーも、家に嫌がらせを受ける等、回復者に対する差別は深刻なものになっています。

この、回復者に対する差別に対して、全てを受け入れ耐えるセナンに対し、セナンの友人であるコナーは、反乱組織を作り、徹底して戦う姿勢を見せます。

凶暴化するウィルスからの回復者という、自分の意思ではコントロールできない事への差別に対する、セナンとコナーの考え方の違いが、中盤の物語の主軸となります。

セナンを仲間に引き込みたいコナーが、セナンの家族とも言える、アビーとキリアンに近付き揺さぶりをかけるという、サスペンス的な恐怖が強調されます。

本作は中盤まで、恐怖の対象は、回復者への差別であったり、街を支配する軍人であったり、回復者への反乱を企てるコナーであったりと、人間による恐怖となっています。

サスペンスを構築する要素③「セナンを苦しめる記憶の真相とは?」


(C)Tilted Pictures Limited 2017
回復者が抱える恐怖は、徹底した差別だけでなく、自らの記憶にもあります。

回復者は「メイズ・ウィルス」により凶暴化し、人を襲っていた時の記憶が残っており、その記憶に苦しめられる事となります。

セナンは兄であり、アビーの夫であったルークを、凶暴化した際に襲ってしまった記憶に悩まされています。

この記憶には、セナンを襲った感染者はコナーであるという、もう1つの秘密があります。

作中で、軍の上層部は「感染者は何も考えずに人を襲っている訳では無く、誰を襲い仲間に引き込むかを考えている」という台詞があります。

もし、コナーが最初から、セナンを仲間に引き込む為に襲っていたとしたら、その後、収容施設でセナンに親切にしたのは、全て計画的だった事になります。

また、セナンがルークを襲った事実が、アビーと決裂する理由となりますが、セナンとアビーにとって大事な人であったルークを失った絶望が、「メイズ・ウィルス」に感染しながらも、生き続けているキリアンに対する希望に代わるという、素晴らしいラストへ繋げています。

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映画『CURED』まとめ


(C)Tilted Pictures Limited 2017
本作で描かれているのは、混乱状況に陥った時の、人間の恐ろしさとなっています。

秩序の安定しない、荒廃した世界だからこそ、人は人を信じられず、回復者への差別に繋がっています。

回復者は「メイズ・ウィルス」に感染し、理性を失わないように戦いながらも、自分ではコントロールできなくなります。

自分ではコントロール不可能な理由から起きる、理不尽な差別。

この点は「人種差別」を連想させ、現在も無くならない人類の汚点を強調した展開となります。

物語の終盤では、収容されていた感染者たちが街に溢れ、「ゾンビパニック」映画ならではの恐怖が描かれていますが、ここでも、恐怖の主軸は、一般市民を力で従わせようとする軍人であったり、自分のプライドから、街を意図的に混乱に陥れた、コナーの傲慢さんであったりと、人間の内面となっています。

ただ「怖いのは人間の内面」というテーマは、『CURED』が特別ではなく、ゾンビ映画の多くは、極限状態で明らかになる、人間の内面の恐怖を描いた作品が多いです。

ですが、ここまで荒廃した世界を作り上げ、「人種差別」と「公民権運動」を絡ませながら、最期は人間の未来が持つ希望を、キッチリと描いた本作の監督、デビッド・フレインの見事な手腕は必見です。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…


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連続殺人犯に翻弄される刑事が直面する真実を描く、実際の連続殺人事件をモチーフにした、サスペンスミステリー『暗数殺人』をご紹介します。


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