連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第97回
韓国屈指のビーチリゾート地・カンヌン(江陵)を舞台に、開発利権をめぐる男たちの抗争を描いたノワールアクション『狼たちの墓標』。
地元に根を張り誰よりも義理を重んじる昔気質のヤクザのキルソクと、非情な新興組織のボス・ミンソクの2人が、強烈な火花を散らします。
多様な作品を通じて圧倒的カリスマ性を見せてきたユ・オソンがキルソクを、端正なルックスに加えて高い身体能力と確かな演技力で観客を魅了してきたチャン・ヒョクがミンソクを演じています。
これが長編デビューとなる新鋭ユン・ヨンビン監督が、仁義に生きる男と欲望に生きる男という2人の生き様が交錯する作品に仕上げました。
韓国ノワール・アクション『狼たちの墓標』は、2022年5月27日(金) より、シネマート新宿ほか順次公開されます。
映画『狼たちの墓標』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【監督・脚本】
ユン・ヨンビン
【撮影】
ユン・ジュファン
【キャスト】
ユ・オソン、チャン・ヒョク、ク・ソングン、オ・デファン、イ・ヒョンギュン、シン・スンファン
【作品概要】
新鋭ユン・ヨンビン監督が手がけた『狼たちの墓標』は、韓国のビーチリゾート地・カンヌン(江陵)を舞台に、開発利権をめぐる男たちの抗争を描いたノワールアクション。
仁義を重んじる昔気質のヤクザ者キルソクを『友へ チング』(2001)のユ・オソン、新興組織の冷徹非情なボスのミンソクを『ありふれた悪事』(2017)『剣客』(2020)『愛の棘』(2014)のチャン・ヒョクが演じています。
映画『狼たちの墓標』のあらすじ
2018年の平昌オリンピック直前、韓国屈指のビーチリゾート地のカンヌン(江陵)はさらなる大規模開発に湧いていました。
この地を牛耳るのは、裏組織の幹部キルソク(ユ・オソン)。彼はヤクザですが、安易な暴力に頼ることなく秩序と義理を重んじ、地元警察からも一目置かれていました。
キルソクは自身が持つそのカリスマ性で、町に安定をもたらしています。そんな彼の前に、巨大な開発利権を狙う新たな勢力が現れました。
キルソクの前に立ちはだかるのは、目的のためならば手段を選ばない非情な男ミンソク(チャン・ヒョク)。
2人の邂逅は、やがて2つの組織、そして警察をも巻き込み血で血を洗う凄惨な抗争へと発展してゆき……。
映画『狼たちの墓標』の感想と評価
映画『狼たちの墓標』は、大規模開発に湧く韓国屈指のビーチリゾート地・江陵での開発利権を争う裏組織の争いが描かれています。
もともと江陵を牛耳っていたキルソクが重んじるのは、秩序と義理。人としての筋を通すキルソクなので、街は安泰でした。
そこへ、自分の欲望だけを成し遂げたい冷酷なミンソクがのし上がって来ました。
一つの街に利権を狙う野心家が2人いれば、その先に何が起こるのか、わかりきったこと。数分ごとにおこる、争い、拷問、闘争……。
本作では、次々と社会のダークな部分をさらけ出すというノワール作品特有の血生臭い描写が続きます。
けれども、この争いは刃物と素手やこん棒を使った殴り合いが多く、拳銃や爆発物は出てきません。
トップであるミンソクやキルソクすら、相手に近づいていきなり隠し持った刃物で刺す戦法を取っています。
そこには、相手を油断させて命を奪うという薄汚い心理作戦が見え隠れしていますが、これが彼らのやり方なのでしょう。
そして、刃物での格闘となれば、流血は不可欠! 一段と残忍さも増します。
噴き出す血しぶきをあびるキャストたちですが、抗争の残忍さが強調される場面でも臆することなく役に徹しています。
血だらけになりながら、自分の野望を成し遂げようとするミンソクに扮するチャン・ヒョク。
冷酷なヤクザながらも目標を貫こうとする強い意志が感じられるリアルな演技に、ファンのみならず魅了されることは間違いありません。
一方のキルソクを演じるのは、韓国ノワールでの悪役をやらせれば一級品とも言われるユ・オソン。
黙って座っているだけでも周りを威圧する存在感があり、まるで番犬のような凄みのある演技に引き込まれます。
このような冷酷非情な争いの果てに、彼らを待っているものとは何なのでしょう。ラストへの興味もそそられます。
まとめ
『狼たちの墓標』の監督を務めたのは、本作が長編デビューとなるユン・ヨンビンです。
自身の出身地でもある江陵(カンヌン)市を舞台に、力強い筆致で男たちの熾烈な戦いを描きだしました。
華やかなリゾート地の影で流血の争いが巻き起こります。勝ち残るのは「仁義」か「欲望」かと、正反対のやり方の2人の激闘に最後まで目が離せません。
『新しき世界』(2013)『悪人伝』(2019)などの名作を生み出してきた韓国ノワール・アクションのジャンルに、また一つ傑作が誕生したと言えます。
韓国ノワール・アクション『狼たちの墓標』は、2022年5月27日(金) より、シネマート新宿ほか順次公開。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。