連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第41回
「東の渋沢栄一、西の五代友厚」と評される、近代日本経済の基礎を構築した五代友厚の生涯を描いたオリジナルストーリー『天外者』が、2020年12月11日(金)より全国公開されました。
田中光敏監督が三浦春馬を主役に迎え、「凄まじい才能の持ち主」を意味する「天外者(てんがらもん)」と呼ばれた五代友厚の生きざまを描き出します。
攘夷か開国か。究極の選択を迫られる幕末において、「誰もが自由に夢をみられる国を俺が作る」と公言し邁進する薩摩の五代友厚。
最後の主演作となった三浦春馬の雄姿が、より一層鮮明に「五代友厚」に命を吹き込んでいます。
映画『天外者』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【脚本】
小松江里子
【監督】
田中光敏
【キャスト】
三浦春馬、三浦翔平、西川貴教、森永悠希、森川葵、迫田孝也、宅間孝行、丸山智己、徳重聡、榎木孝明、筒井真理子、内田朝陽、八木優希、ロバート・アンダーソン、かたせ梨乃、蓮佛美沙子、生瀬勝久
【作品概要】
映画『天外者』は、幕末から明治初期にかけて近代日本経済の基礎を構築した五代友厚の生涯を描いたオリジナルストーリー。攘夷と開国の狭間で揺れる江戸末期の日本を舞台に、五代友厚が、遊女のはると出会って「自由な夢を見たい」という思いに駆られ、誰もが夢見ることのできる国を作るために奔走します。
五代友厚役に三浦春馬、坂本龍馬役に三浦翔平、岩崎弥太郎に西川貴教、伊藤博文に森永悠希、遊女はる役に森川葵が扮します。監督は『精霊流し』(2003)『利休にたずねよ』(2013)の田中光敏が務めました。
映画『天外者』のあらすじとネタバレ
江戸末期、ペリー来航に震撼した日本の片隅で、新しい時代の到来を敏感に察知した2人の青年武士、五代才助(後の友厚、三浦春馬)と坂本龍馬(三浦翔平)がいました。
薩摩藩の島津斉彬に才能を見出され、長崎海軍伝習所で勉学に励む才助は、橋の上から川に飛び込むように見えた遊女のはる(森川葵)を見かけて止めますが、「この身体に触りたければ、金持ってお店においで」と言われて愕然とします。
その後も才助は勉学に励んでいましたが、ある日教育の最中に「早く航海させろ」と教官に意気込みます。
自分が1日早く学べば日本が1日早く進歩するというのです。その破天荒な自信たっぷりの公言を面白く思わない侍たちから、追いかけられました。
逃げる途中、才助は後の伊藤博文となる利助(森永悠希)にぶつかり、利助のもっていた万華鏡を壊しますが、それを器用に直し、利助を感心させます。
そして遊女仲間に文字を教えているはるを見かけます。文字など遊女に要らないと冷やかす男たちに、はるが「女が夢をみて何が悪い」と言うのを聞きき、才助は、ハッとして、すぐにはるを助けました。
一方、同じように侍から追われていた坂本龍馬。いつの間にか才助と一緒になって逃げていました。追い詰められた2人は、才助の刀裁きと龍馬のピストルで侍たちを追い払うことに成功。
日本の未来を遠くまで見据える五代友厚(才助)と坂本龍馬の人生が、この瞬間から重なり始めました。
才助は幼少のころから利口でした。平面の世界地図を地球儀にせよという島津斉彬の命令を、子供才助が独創で成し遂げ、父親を驚かせたことがあります。
母親は才助の人を驚かす並外れた能力を認め、「天外者(てんがらもん)」と呼びました。しかし兄(内田朝陽)は、お家を大事にする武士らしからぬ振る舞いの才助を一家の恥さらしだと思っていました。
長崎に来るとき、才助は日本開国後の貿易の利益で産業を発展させるための具体的な明細を計算し、上申書にまとめていました。
攘夷か、開国か。才助は国内の激しい内輪揉めには目もくれず、一歩先の世界に目を向けていたのです。
才助は、遊女のはるの「自由な夢を見たい」という想いに駆られ、はるのいる遊廓にも通うようになります。
そして、いつかはるの夢が叶うような国にすることをはるに約束しました。
その頃、近代化を進めたい薩摩藩は才助に上海で蒸気船を入手するように命じます。龍馬、薩摩藩の岩崎弥太郎(西川貴教)、利助は牛鍋を囲みながら才助の運を羨みます。
そして利助は、才助のアドバイスに従って資金を工面し、イギリス留学を果たしました。
上海に行く直前に才助ははるに簪をプレゼントします。「誰でも夢見ることが出来る国を俺が作る」と言う才助に、「いつか自由になったら2人で海が見たい」というはる。
しかし、才助が上海に行くと、はるは裕福なイギリス人の元へ身請けされました。
映画『天外者』の感想と評価
物語の舞台は、開国か攘夷かで揺れ動く動乱の幕末。坂本龍馬、岩崎弥太郎、伊藤博文といった幕末の志士たちが多く登場します。
特に薩摩藩においては、西郷隆盛や島津斉彬といった大河ドラマなどでもおなじみのメンツが揃っていますが、五代友厚も薩摩藩士でした。
「凄まじい才能の持ち主」を意味する「天外者(てんがらもん)」と呼ばれた五代友厚。彼が頭に描いていたのは、目先のことではなく、その一歩先の未来図です。
幕末の志士たちは、みな日本の将来を考えています。彼らは国が滅びそうになったとき必ず現れる英雄のように、自分でやってやろうという強い気概がある勇者なのです。
五代友厚も良く言えば「英雄」で悪く言えば「井の中の蛙」。ですが、彼は周囲から嫌われ憎まれても、誰もが夢を見られる国を目指してその理想を追求していきました。
常に人の一歩先を見つめて実際にそれに向かって行くのは、普通の人では出来ません。
また、五代は映画の最後に大阪商法会議所で「地位か名誉か金か、いや大切なのは目的だ」と大声をあげます。何のために経済活動をするのかという目標を見失ってはいけないと、警告を発していたのです。
この五代の言葉を、扮する三浦春馬は声をからしながら大熱演。
現代の俳優三浦春馬が演じる五代友厚なのですが、時代を超えて本当に五代の志がそこに現われたかのような錯覚に陥りました。
日本経済への熱い思いが五代友厚の人生全てであり、その業績によって現代日本があるのなら、現代人にとっても彼は「天外者(てんがらもん)」だったのに違いありません。
一方、彼に扮した三浦春馬。その演技は、観る者の心を揺さぶります。三浦春馬もまたこの国の将来を深く見つめている英雄だったのかも知れません。
まとめ
映画『天外者』は、近代日本経済の基礎を構築した五代友厚の生涯を描いています。
歴史上の重要人物も多く登場する本作では、共演者も三浦翔平、西川貴教、森永悠希と多彩なキャスティングで、三浦春馬の天外者を支えていました。
ところで、田中光敏監督は、五代友厚が生きた時代を動かしたのは、1人のヒーローだけでなく、同じ思いを持ったたくさんの若者達がいろいろな触発を受けてその時代を変えようとしたのだろうと語っています。
「この日本を俺は変えて見せる」。作中何度か聞かれるこの言葉がなんと頼もしく響くことでしょう。
自信家であろうと憎まれ者であろうと、本当に国のことを思っている五代友厚。今の社会にこのような人物がいるでしょうか。歴史上でもとても稀有な存在と言えます。
五代友厚の生き様と志を体得したかのような俳優三浦春馬が彼を演じ切り、燃え滾る想いがストレートに伝わってきて目頭が熱くなります。
三浦春馬が身をもって教えてくれた五代友厚の教訓を、今一度、真剣に学ぶ必要があると思える作品です。