連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第32回
2020年11月6日(金)に全国ロードショー公開を迎える映画『461個のおべんとう』は、高校へ行く息子のためにおべんとう作りを3年間、毎日欠かすことなく続けたシングルファザーの父親と息子の心温まる実話に基づく物語。
「TOKYO No.1 SOUL SET」の渡辺俊美による実話エッセイを原作に、『キセキ あの日のソビト』(2017)などで知られる兼重淳監督が映画化。「V6」の井ノ原快彦と関西ジャニーズJr.によるユニット「なにわ男子」の道枝駿佑が親子を好演しました。
親から子へ贈る、3年間の“美味しいラブレター”を堪能できます。
CONTENTS
映画『461個のおべんとう』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
渡辺俊美『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』
【監督】
兼重淳
【脚本】
清水匡、兼重淳
【キャスト】
井ノ原快彦、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、田村海琉(少年忍者/ジャニーズJr.)、森七菜、若林時英、工藤遥、阿部純子、野間口徹、KREVA、やついいちろう、映美くらら、坂井真紀、倍賞千恵子
【作品概要】
「No.1 SOUL SET」の渡辺俊美によるエッセイ『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』を、「V6」の井ノ原快彦、関西ジャニーズJr.によるユニット「なにわ男子」の道枝駿佑の共演で映画化。監督は『キセキ あの日のソビト』(2017)などで知られる兼重淳。
森七菜、若林時英、工藤遥、阿部純子、野間口徹、映美くらら、坂井真紀、倍賞千恵子など、若手からベテラン俳優までそろった共演陣を勢揃いしている他、道枝駿佑演じる息子・虹輝の小学生時代を本作が映画初出演となるジャニーズJr.「少年忍者」の田村海琉が務めています。また音楽界からもKREVA、やついいちろうが参戦。ミュージシャンとして活動する父・一樹役の井ノ原と演じるバンドのライブシーンにも注目です。
映画『461個のおべんとう』のあらすじ
ミュージシャンの鈴本一樹(井ノ原快彦)は妻・周子(映美くらら)と息子・虹輝(小学生時代:田村海琉)と3人で小高い丘の上の家で幸せに暮らしていました。けれども、月日が経つうちに家庭内に亀裂が入り込み、一樹は長年連れ添った妻との別れを決意します。
息子の虹輝(道枝駿佑)はどちらと暮らすかで選択を迫られ、父と暮らすことを選びます。しかし、15歳という多感な時期を迎える虹輝に対し、一樹は罪悪感を抱いていました。
「なんのために高校へ行くのか」と悩む虹輝は、高校受験に失敗します。
気弱になる虹輝に、これまで自由に生きてきた一樹は「学校だけがすべてではない。自由に好きに育ってくれたらそれでいい」と思っていました。ですが、虹輝は再び高校進学の道を選んで勉強を始め、翌春めでたく高校合格を果たしました。
一樹が「お昼ご飯はどうする?」と尋ねると、「父さんのおべんとうがいい」と虹輝は言います。
「よし、俺が3年間毎日おべんとうを作る。その代わり、お前は3年間休まずに学校へ行け」
父と息子の約束が取り付けられ、一樹はミュージシャンの仕事をしながらも、通学する息子のためにおべんとうを作り続けることを決意。ライブ明けの日も、徹夜の日も、学校が休みの日以外、毎朝父の手作りのおべんとうを用意します。
一樹が用意したずっしりと重い二段のおべんとうを抱え、毎日学校へと通う虹輝。やがて、言葉少なくすれ違いも生じる父と息子の毎日を、おべんとうが繋げてくれるようになっていきます……。
映画『461個のおべんとう』の感想と評価
親が子供にしてあげられることってたくさんありますが、まず身近で出来ることと言えば、「おべんとう作り」は外せません。映画『461個のおべんとう』は、親から子への愛情をもっとも分かりやすく描いた映画と言えます。
おべんとうに込められた愛情と約束
井ノ原演じるミュージシャンのシングルファザーの一樹が、一年遅れで高校生になった息子の虹輝に「3年間のおべんとう作り」を約束します。
遠方の仕事のために早出の日も、二日酔いの朝も、息子との約束を自分への課題として、一樹はバタバタと朝早く台所へ駆け込み、普通の主婦でも作らないような、手の込んだおべんとうを作ります。
コトコト、ジュウジュウと台所から奏でられる音は、そのうちに美味しそうな料理に変身をとげ、観る者を楽しませてくれます。
一樹のおべんとう作りの3カ条がまた素晴らしい。
その1:調理の時間は40分以内であること。その2:1食にかける値段は300円以内であること。その3:おかずは材料から作ること。
虹輝のお弁当箱は一体いくつあるのやら……。一樹は日替わりで何種類も用意したお弁当箱にご飯やおかずを詰め込みます。しかも、どれもこれも、2段組。
おかずも、彩りと栄養バランスを考えたものが作られ、決して「レンジでチン」は出てきません。一樹は自由奔放で楽観的な性格ですが、とても凝り性な一面を持っているのです。
離婚して息子から母親を無くしてしまったという負い目もあるのか、この「べんとうを作る」という約束は絶対に成し遂げようとする一樹。父親の愛情がはっきりと形になって現れたようなおべんとうは、どれもこれも美味しそうで満点をあげたくなります。
おべんとうが取り持つ父と息子の関係
父が毎朝奮闘して作るおべんとうを持って、学校へ行く虹輝。一年遅れで高校生になったこともありクラスからも少し浮いた存在ですが、父の作る美味しそうなおべんとうに魅かれて、一緒にお昼を食べる友人ができます。
そのうちに淡い初恋も経験し、ダイエットに適したおべんとうまで父に注文するようになった虹輝ですが、自分の将来についての不安などを誰にも打ち明けられず悩みだしました。
複雑な虹輝の心理を思いやり一樹も落ち込みますが、いつものようにおべんとうを作り、「大丈夫。全部うまくいく」とモットーをささやきます。
おべんとうの重さはそのまま、一樹が虹輝に向ける愛の深さでもあったのです。
いつも通りの温かく重いおべんとう。さりげない「父と息子の約束」の象徴が、スクリーンいっぱいに広がります。
まとめ
映画のイントロは「この映画はただおべんとうを作る話です」で始まります。『461個のおべんとう』は、シングルファーザーが息子に3年間べんとうを作る約束をして、それを果たすという映画ですから、決して噓でないイントロでした。
ですが、この父の作るおべんとう、そこらにあるようなおべんとうではありません。栄養バランスと彩りを考え、それでいてリーズナブルな素材を使ったおべんとう。そこに詰められているのは、父への子供に対する愛情の証でした。
本作は、「3年間おべんとうを作る」という約束を果たした父と、そんな父の背中を見つめて自分の将来も明るく考えられるようになった息子の心温まる物語なのです。そして父の手作りのおべんとうによって息子がいかに成長したのかという「証」も、映画終盤でのとある場面にて印象的に描かれています。
また本作では、父・一樹の職業はミュージシャンということから、彼が所属するバンドでのライブシーンも楽しめます。
劇中、井ノ原らが演奏する3曲は、原作者のミュージシャン渡辺俊美が書き下ろしたものだそうです。そして、井ノ原・KREVA・やついいちろうといったメンバーの劇中バンド「Ten 4 The Suns」が歌うラップ部分は、KREVAが作詞・作曲しています。
豪華なキャストならではの、音楽シーンが用意されているのも注目の作品です。