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映画『木の上の軍隊』あらすじ感想と評価レビュー。実話を基に山田裕貴と堤真一で描く沖縄戦を生き抜いた日本兵の物語|映画という星空を知るひとよ259

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第259回

終戦に気づかないまま、2年の間木の上に潜伏していた2人の日本兵の実話に着想を得た井上ひさし原案の同名舞台劇を、映画化した『木の上の軍隊』。

映画からは太平洋戦争末期に熾烈な地上戦が繰り広げられた沖縄で、必死に生き抜こうとした人間たちの姿が浮かび上がってきます。

監督と脚本を担当したのは、代表作に『ミラクルシティコザ』(2022)がある沖縄出身の平一紘。主演に堤真一と山田裕貴を抜擢し、オール沖縄ロケで制作しました。

『木の上の軍隊』は、2025年6月13日(金)沖縄先行公開/7月25日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー。映画公開に先駆けて、本作をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『木の上の軍隊』とは


(C)2025「木の上の軍隊」製作委員会

【原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案:井上ひさし】

作家・井上ひさしが生前やりたい事として記していた、オキナワを舞台にした物語『木の上の軍隊』。この作品は、終戦を知らぬまま2年間ガジュマルの木の上で生活した2人の日本兵の実話をもとにしています。

井上ひさしが遺した1枚のメモから着想。井上没後、こまつ座&ホリプロ公演として2013年に、藤原竜也、山西惇、片平なぎさを迎え、初演されました。

その後、『父と暮せば』『母と暮せば』と並ぶこまつ座『戦後“命”の三部作』に位置づけられ、2016年、2019年にはこまつ座公演として、山西惇、松下洸平、普天間かおりが出演し、再演、再々演され、2019年には沖縄でも上演されました。

映画『木の上の軍隊』の作品情報


(C)2025「木の上の軍隊」製作委員会

【日本公開】
2025年(日本映画)

【監督・脚本】
平一紘

【主題歌】
Anly:「ニヌファブシ」

【出演】
堤真一、山田裕貴、津波竜斗、玉代㔟圭司、尚玄、岸本尚泰、城間やよい、川田広樹(ガレッジセール)、山西 惇

【作品情報】
太平洋戦争中日本で唯一本土決戦となった沖縄に、激戦の後木の上に潜んで難を逃れ、終戦を知らずに2年間も生き抜いた2人の日本兵の実話がありました。この話に着想を得た井上ひさし原案の同名舞台劇を映画化。

堤真一と山田裕貴が木の上に潜伏する兵隊を演じます。原作舞台劇で上官役を務めた山西惇のほか、沖縄出身の津波竜斗、川田広樹(ガレッジセール)らが共演。『ミラクルシティコザ』(2022)の平一紘が監督・脚本を手がけ、全編沖縄ロケで完成させました。

映画『木の上の軍隊』のあらすじ


(C)2025「木の上の軍隊」製作委員会

太平洋戦争末期の戦況が悪化の一途をたどる1945年のこと。飛行場の占領を狙い、沖縄・伊江島に米軍が侵攻。激しい攻防戦の末に、島は壊滅的な状況に陥っていました。

宮崎から派兵された少尉・山下一雄(堤真一)と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴)は、敵の銃撃に追い詰められ、大きなガジュマルの木の上に身を潜めます。

仲間の死体は増え続け、圧倒的な戦力の差を目の当たりにした山下は、援軍が来るまでその場で待機することにしました。

戦闘経験が豊富で国家を背負う厳格な上官・山下と、島から出たことがなくどこか呑気な新兵・安慶名は、話が嚙み合わないながらも、2人きりで木の上でじっと恐怖と飢えの毎日に耐え忍んでいました。

やがて戦争は日本の敗戦をもって終結しますが、そのことを知る術もない2人の“孤独な戦争”は続いていきます。

極限の樹上生活の中で、彼らが必死に戦い続けたものとは……。

映画『木の上の軍隊』の感想と評価


(C)2025「木の上の軍隊」製作委員会

日本兵のそれぞれの願い

『木の上の軍隊』は、敵に襲われ逃げ延びる際に近くにあった大きなガジュマルの木の上に登って命拾いした2人の日本兵を主人公にしています。

その2人とは、宮崎から派兵された少尉・山下一雄と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュンです。

山下は沖縄に派兵された軍人。敵から沖縄を守るのが任務とする筋金入りの日本軍の幹部です。一方の安慶名は、沖縄生まれの沖縄育ちで、現地で招集された故郷を愛する新兵でした。

沖縄から敵を撃退するためには多少の犠牲も伴わないという考えの山下に、安慶名は強い反発を覚え苦手意識を持っています。

こんな2人が奇しくも、一緒に樹上生活を送ることとなりました。もちろん、最初から上手くいくはずがありません。

木の上に隠れたまま援軍を待とうとする山下に対して、木から降りて島の様子を見に行き、日本軍と合流したい安慶名。

2人の意見が対立するのは、当然といえば当然のこと。見つかれば殺されるかもしれないという極限の窮地で、生き延びるために何をすればいいのかと、「少尉」と「新兵」は果てることのない議論を交わします

結果的には、2年間も木の上の潜伏生活を強いられることになった2人。追い詰められた生活の中で、「生きたい」「帰りたい」という彼らの願いがひしひしと伝わってきます

タイトルが意味するものとは?


(C)2025「木の上の軍隊」製作委員会

ここで疑問に思うのは、タイトルはなぜ「日本兵たち」ではなく「軍隊」にしているのかということです。

木の上に隠れたのは少尉と新兵の2人だけですが、階級社会である軍隊の厳しい規律が強く感じられる日々が映し出されます。

持っていた少ない食料は2人分を足して半分ずつ分け合いますが、2人の関係は現代風にいうと上司と部下の間柄です。

上司はあくまで円滑な組織運営を目指し、部下はその通りにします。意見を求められても、食い違ったまま平行線を辿りました。

このように兵隊2人の間にははっきりとした指揮系統があり、武器を携行して敵と戦うという任務を背負い、戦場にいる意識を持ったままなので、タイトルに「軍隊」とつけたのでしょう

ですが、次第に2人の関係は変化していきます。戦況についてあくまで援軍に期待する山下少尉と、早く仲間のもとに帰りたい安慶名は、喧嘩にならないよう距離を持ち始めます。

その反面、米軍の食糧を見つけた時、敵の食べ物は食べないと頑なな態度を取る山下少尉に対して、安慶名は「食べなければ死にますよ」と何とかして食べさせようとしました。

彼らは軍隊形式で暮らしていましたが、そんな形式よりもまず‟生きる”ことを一番に考えるようになったのです。そして2年という月日を見事に生き延びました。

こんな状況で生き抜いた彼らから、‟生きる”という執念がどんなに心の支えになるのかと、考えさせられます

まとめ


(C)2025「木の上の軍隊」製作委員会

沖縄県の伊江島を舞台に、終戦を知らぬまま2年間ガジュマルの木の上で生活した2人の日本兵の物語を実話をもとに、作家・井上ひさしが描いた舞台劇を映像化した『木の上の軍隊』。

太平洋戦争終結から80年たった現在、戦争の愚かさと懸命に生き抜くことの大切さを改めて思い知らされる作品です。

少尉と新兵という2人の階級の違いは、そのまま彼らの性格の違いでもありました。‟生き抜くこと”に対して、木の上で意見をぶつけ合う2人にご注目ください。

『木の上の軍隊』は、2025年6月13日(金)沖縄先行公開/7月25日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショーされます。

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。



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