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『五香宮の猫』あらすじ感想評価。想田和弘監督最新作の観察映画10作目は《人と猫と自然》を見つめる|映画という星空を知るひとよ226

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第226回

映画『五香宮の猫』は、『選挙』(2007)『精神』(2008)など「観察映画」と称する独自手法の作品で知られる想田和弘監督が、『牡蠣工場』(2015)『港町』(2019)の舞台となった岡山県牛窓の人と猫と自然をとらえたドキュメンタリーです

数10匹の野良猫が住み着く瀬戸内海の港町・牛窓の鎮守の社・五香宮。

2021年に27年暮らしてきたニューヨークを離れて、牛窓に移住した想田監督と妻でプロデューサーの柏木規与子は、この町の人々と猫との関わり合いを映像に収めました。

高齢化の進む小さな港町とその中心となる五香宮にカメラを向け、四季折々の美しい自然の中で猫と人間が織りなす、のどかで心温まる光景が映し出されます。

映画『五香宮の猫』は、2024年10月19日(土)より[東京]シアター・イメージフォーラム、[大阪]第七藝術劇場、10月25日(金)より、[岡山]シネマ・クレールほか全国順次公開

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『五香宮の猫』の作品情報


(C)2024 Laboratory X, Inc

【日本公開】
2024年(日本映画)

【英題】
The Cats of Gokogu Shrine

【監督・撮影・編集】
想田和弘

【製作】
想田和弘 柏木規与子

【出演者】
牛窓町の皆さん、猫たち、生きとし生けるもの

【撮影協力】
五香宮・牛窓神社、牛窓町本町自治会、てんころ庵、牛窓東小学校

【作品概要】
2021年に27年暮らしてきたニューヨークを離れて、牛窓に移住した想田監督と妻でプロデューサーの柏木規与子が映し出す、五香宮に住む野良猫の物語『五香宮の猫』。

地元の猫の保護活動に携わったことから、五香宮には実に様々な人々が様々な理由で出入りしていて、不思議な公共性があることに気が付いた想田和弘監督。

監督はこれまでの作品同様、「観察映画の十戒」に基づき、事前のリサーチや打ち合わせなしに、行き当たりばったりで撮影を行いました。

記念すべき観察映画第10弾となる本作は、ベルリン国際映画祭をはじめとして、世界各国の映画祭で、熱狂の拍手で迎えられました。自然と人間の関係を観察し考える作品。

映画『五香宮の猫』のあらすじ


(C)2024 Laboratory X, Inc

2021年、映画作家の想田和弘とプロデューサーの柏木規与子は、27年間暮らしたニューヨークを離れ、『牡蠣工場』(2015)や『港町』(2018)を撮った岡山県の牛窓に移住。

新入りの住民である夫婦の生活は、瀬戸内の海のように穏やかに凪ぎますが、時に大小の波が立ちます。

牛窓には、野良猫が多く住み着いている五香宮があり、地域住民たちが猫たちにご飯をやっていました。

猫好きのふたりは、地域が抱える猫の糞尿被害やTNR 活動、さらには超高齢化といった現実に直面し、住民として深く関わっていくことになるのです。

映画『五香宮の猫』の感想と評価


(C)2024 Laboratory X, Inc

岡山県・牛窓の五香宮に住む野良猫たちとそれを見守る人々を映し出したドキュメンタリー『五香宮の猫』。効果音もバックミュージックもない、本当にありのままの音源だけが収録された静かな作品です。

この町にニューヨークから移住してきた映画作家の想田和弘と妻でありプロデューサーの柏木規与子夫妻は、野良猫を保護したことがきっかけで猫たちの保護活動に参加することになります。

猫の保護活動には住民からは賛否両論の声があがり、小さな町のコミュニティでの問題点も発生。

「ある港町のお宮に、たくさんの猫が住み着いたそうな。めでたし、めでたし―。なんてそう簡単にはいかんなあ」

ポスタービジュアルのコピーに書かれた言葉が、作品への興味をそそります。

五香宮で寝泊まりし、地域住民からご飯をもらい、漁師から魚をわけてもらう猫たち。お腹がすけばご飯を探しに、お腹いっぱいになれば‟へそ天”姿で、何の恐れもなく寝込む猫たちです。

ペットとして飼われることなく、悠々自適の自由な生活を満喫しているたくましい猫たちからは、人間に媚びることない誇りと自由を感じ、羨望の気持すら持つことでしょう。

そんな猫たちと共存する町の人々も、自分たちが過ごす日常生活の中に猫の世話も入れています。五香宮では、自然のままの生活を猫たちに送らせているのです。

猫たちの愛らしい仕草や表情を、小さな日常生活とともに、想田和弘監督のカメラは捉えます。冷静に、リアルに、そして愛情深く……

本作は、「ドキュメンタリーに大事件や大惨事やメッセージ性は必要なく、自分に見えた世界をありのままに描写できればそれでよし」と信じて、観察映画を作り続けてきた想田和弘監督の集大成ともいえる作品であることに間違いありません。


(C)2024 Laboratory X, Inc

まとめ


(C)2024 Laboratory X, Inc

想田和弘監督の記念すべき観察映画第10弾となった『五香宮の猫』をご紹介しました。

「牛窓で暮らし始めてから、すでに破局が近づいているように見える自然と人間の関係について、考えさせられることが多い。外で暮らす猫たちと接していると、自然の掟に従い、野生の習性を失っていない彼らは「自然」そのものであると感じる。そういう意味では、『五香宮の猫』は自然と人間の関係を観察し、考える作品になったのではないかと思っている。」

想田和弘監督が本作について語ったことが、『五香宮の猫』の見どころではないでしょうか。

監督の猫たちの想いは、2024年10月発売の書籍『猫様』(想田和弘・著 定価:2,970 円 発行=ホーム社 発売=集英社 装丁=川名潤)にも綴られます。

本作では、瀬戸内の美しい自然とのんびりした猫との共存生活が映し出されました。猫好きに限らず、観る人の眼も心も癒してくれる作品です。

映画『五香宮の猫』は、2024年10月19日(土)より[東京]シアター・イメージフォーラム、[大阪]第七藝術劇場、10月25日(金)より、[岡山]シネマ・クレールほか全国順次公開

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。



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