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Entry 2024/07/03
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『このろくでもない世界で』あらすじ感想と評価考察。韓国ノワールの裏社会に生きる孤独な男|映画という星空を知るひとよ214

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第214回

第76回カンヌ国際映画祭&第28回釜山国際映画祭にも公式出品された話題の韓国映画『ファラン(原題/オランダを意味する)』『HOPELESS(英題)』。

このたび、この作品が『このろくでもない世界で』という邦題で、2024年7月26日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開されます。

本作はある寂れた町を舞台に、継父からの暴力と貧困に喘ぐ18歳の少年ヨンギュと、彼の絶望漂う瞳にかつての自分を重ねた裏社会の男チゴンの物語。

キム・チャンフン監督が手がけた脚本に惚れ込んだ、『スペース・スウィーパーズ』(2021)『ロ・ギワン』(2024)などで主演をしたソン・ジュンギが、チゴン役を熱演します。

ソン・ジュンギ演じる‟裏社会に生きる孤独な男”が観客を魅了することは間違いないでしょう。

社会格差の闇を描き続ける韓国映画界にまた新たな名作が誕生したといえる映画『このろくでもない世界で』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『このろくでもない世界で』の作品情報


(C)2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2024年(韓国映画)

【原題】
화란

【英題】
HOPELESS

【監督・脚本】
キム・チャンフン

【キャスト】
ホン・サビン、ソン・ジュンギ、キム・ヒョンソ(BIBI)

【作品概要】
『このろくでもない世界で』は、カンヌ国際映画祭&第28回釜山国際映画祭にも公式出品された話題の韓国映画『ファラン(原題/オランダを意味する)』、『HOPELESS(英題)』の邦題です。

監督及び脚本を担当したのは、本作が初長編作品となるキム・チャンフン。その脚本に惚れ込んだソン・ジュンギがチゴン役を熱望し、ヨンギュ役は、映画初主演となるホン・サビンが務めました。

本作は、第76回カンヌ国際映画祭 「ある視点」部⾨、第28回釜⼭国際映画祭に出品し、また第44回⻘⿓映画賞、第22回ディレクターズ・カット・アワーズを受賞、さらに第60回百想芸術大賞では、4部門でノミネート、キム・ヒョンソが見事新人演技賞(女性)を受賞しました。

映画『このろくでもない世界で』のあらすじ


(C)2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

継父のDVに怯える18歳のヨンギュ(ホン・サビン)は、義理の妹ハヤン(キム・ヒョンソ)を守るために暴力沙汰を起こして高校を停学になります。

その上、怪我をさせた相手側から高額な示談金を求められました。

血の繋がらない父はすぐにヨンギュに暴力を振るうため、お金の相談はできません。行き止まりの現実に苦しむ彼の夢は、いつの日か母とともにオランダへ移住することでした。

その願いも空しく、継父の暴力により顔につけられた傷跡のせいでバイト先をクビになったヨンギュは、地元の犯罪組織のリーダー、チゴン(ソン・ジュンギ)の門を叩くほかありませんでした。

仕事という名で“盗み”を働き、徐々に憧れのチゴンに認められていくヨンギュでしたが、ある日、組織の非情な掟に背いてしまいます。

荒んだ日常の中で互いに寄り添ったハヤンをも巻き込み、意を決してチゴンのもとへ駆けつけるのですが……。

映画『このろくでもない世界で』の感想と評価


(C)2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

冒頭から始まるのは、ヨンギュが石で男子学生の頭を殴るという暴力シーン。それはヨンギュの血の繋がらない妹をいじめた相手への仕返しでしたが、殴られた方はすぐさま報復に出ます。

膨大な慰謝料を請求され、折り合いの悪いDV継父には内緒にしたいヨンギュは、次第に犯罪組織に近づいていきます。

貧困社会が生み出す悪の落とし穴へ引きずり込まれるヨンギュ。観客としては救世主を待ち望むのですが、本作では救世主ではなく、ヨンギュの気持ちに沿う人物として、犯罪組織のリーダー・チゴンが現れます。

社会格差の闇が色濃いこのろくでもない世界で、響き合った2つの魂に、ほんの一瞬でも陽が注ぐことはあるのでしょうか? ヨンギュとチゴンの交錯した運命から目が離せません。

本作の監督を務めたのは、キム・ チャンフン。身体的痛みと心の叫びが渾然一体となったデッドエンドのクライム・ドラマを創出し、長編デビュー作にして本作をカンヌ国際映画際へ導きました

脚本に惚れ込んだソン・ジュンギがチゴン役を熱望したことから、この企画が本格的に動き出したと言います。ソン・ジュンギが惚れ込んで演じるチゴンの凄み、熱量の半端なさを体感して欲しいものです

まとめ


(C)2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

本作は、カンヌ国際映画祭&第28回釜山国際映画祭にも公式出品された話題の韓国映画です。

韓国では話題をさらい、以下のように数々の映画祭に出品し受賞の栄誉に輝きました。

第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品、
第28回釜山国際映画祭「Korean Cinema Today – Special Premiere」、
第60回百想芸術大賞映画部門受賞 
<新人演技賞(女性)>:キム・ヒョンソ、ノミネート<助演賞(男性)>:ソン・ジュンギ
<新人演技賞(男性)>:ホン・サビン
<新人監督賞>:キム・チャンフン>
第44回 青龍映画賞 受賞 <人気スター賞>:ソン・ジュンギ <新人男優賞>:ホン・サビン>
第22回 ディレクターズ・カット・アワーズ 受賞 <新人男優賞>:ホン・サビン

映画受賞の実績が物語るように、本作では新人監督キム・チャンフンが、韓国の社会格差の闇を抉り出すように、切なくエネルギッシュに描き出しています。ぜひスクリーンでご覧ください。

映画『このろくでもない世界で』は22024年7月26日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開!

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。



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