連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第210回
戦時下でも決して失われることのなかった、海の男たちの誇りと絆を描いた重厚な戦争秘話を描いた映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』が、2024年7月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開されます。
第二次世界大戦、イタリア海軍の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニが沈めた敵国船の乗組員を救助したという実話を基に誕生した作品です。
イタリアの名優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノが演じるサルヴァトーレ・トーダロ艦長の、海の男としての確固たる信念と誇り、そして苦渋の決断がもたらす重厚な人間ドラマが展開されます。
撮影では、数奇な運命をたどった潜水艦コマンダンテ・カッペリーニを実物大で再現。よりリアルで臨場感溢れる映像を追求しています。
細部にまでこだわった映像が潜水艦ファンを唸らせる『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』をご紹介します。
CONTENTS
映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』の作品情報
【日本公開】
2024年(イタリア・ベルギー合作映画)
【監督・原案】
エドアルド・デ・アンジェリス
【脚本】
サンドロ・ヴェロネージ、エドアルド・デ・アンジェリス
【撮影】
フェラン・パレデス・ルビオ
【音楽】
ロバート・デル・ナジャ(3D)
【キャスト】
ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、マッシミリアーノ・ロッシ、ヨハン・ヘルデンベルグ、パオロ・ボナチェリ、シルヴィア・ダミーコ
【作品概要】
『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』は、第二次世界大戦下にイタリア海軍の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニが沈めた敵国船の乗組員を救助した実話を基にしています。2023年ヴェネツィア国際映画祭オープニング作品にも選ばれました。
数奇な運命をたどった潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ。本作の製作にあたってイタリア海軍全面協力のもと実物大で再現し、臨場感たっぷりの撮影が行われました。
監督は本作で2度目のヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出されたエドアルド・デ・アンジェリス。主演のサルヴァトーレ・トーダロ艦長役は『炎の戦線エル・アラメイン』(2004)『シチリアーノ裏切りの美学』(2020)など、数々のイタリア映画の巨匠たちに重宝される名優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。
映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』のあらすじ
1940年10月、イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは、イギリス軍への物資供給を断つために地中海からジブラルタル海峡を抜けて大西洋に向かっていました。
その作戦行動中、船籍不明の貨物船に遭遇。艦砲を装備し、戦争地帯で灯火管制をしての航行であったため同船を撃沈しました。
ですが、それは中立国であるはずのベルギー船籍の自衛武装を備えた貨物船カバロ号だったのです。
“イタリア海軍一無謀な少佐”ことサルヴァトーレ・トーダロ艦長は、「我々は敵船を容赦なく沈めるが、人間は助けよう」とカバロ号の乗組員たちを救助し、彼らを最寄りの安全な港まで運んでいく決断を下します。
しかし狭い潜水艦の艦内に、彼らを収容するスペースはありません。仕方なく船上に彼らを乗せることにしますが、そうすれば潜水艦は海に潜れなくなります。
艦長の決断は、自らと部下たち、さらには艦を危険に晒すのを覚悟の上で、無防備状態のままイギリス軍の支配海域を航行することを意味していました……。
映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』の感想と評価
海に生きる男の決断と勇気
『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』では、海の男たちの誇りと絆をリアルかつダイナミックに描いています。
潜水艦コマンダンテ・カッペリーニが撃沈させた貨物船カバロ号の乗組員たちは海に飛び込み難を逃れますが、あろうことか近くにいたコマンダンテ・カッペリーニに助けを求めました。
本来ならば「中立国ベルギーの所属船とはいえ『艦砲の装備』『戦争地帯での灯火管制』という状況、そして接近に対し応戦してきた時点で『敵国船』と判断すべき船」の乗組員からのSOSは、無視されても仕方ありません。
しかし、海に生きる“海の男”であるサルヴァトーレ・トーダロ艦長は、海で遭難した人を見捨てることができませんでした。
たとえイタリア海軍に所属する軍人であっても、“海の男”として、海での遭難においては人命が大事と敵国の乗組員を助けるのです。
それによって生じるリスクもかなり高いのですが、艦長は勇気を出して海の男としての決断を下します。そこには誇りに満ちあふれた艦長の勇姿があり、潜水艦とその乗組員たちの運命に決定打を撃ちます。
実在した潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ
本作の主人公は艦長サルヴァトーレ・トーダロですが、彼と乗組員たちを乗せた潜水艦も主役といえます。特に本作は実話を基にしていますので、潜水艦にまつわる秘話はとてもリアルです。
1939年に就役したイタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは、第二次世界大戦に参加し戦局によってイタリア・ドイツ・日本と渡り歩き、数奇な運命を辿った潜水艦でもあります。
ドイツ降伏後には日本軍に接収され特殊警備潜水艦「伊号第五百三潜水艦」となり、1945年の日本軍降伏後には連合国に接収され、紀伊水道で海没処分されました。
ドイツ軍下にあってもドイツの傀儡であるサロ政権側についたイタリア海軍将兵が乗艦し、日本軍下でも日本側についたイタリア人水兵が乗艦していたそうです。
ちなみに、その物語は2022年に二宮和也主演のスペシャルテレビドラマ『潜水艦カッペリーニ号の冒険』として放映されています。
厳格な日本海軍の軍人と陽気なイタリア人たちの国境を超えた友情と恋を描く、実話に基づいた物語。本作とはまた違った意味で、コマンダンテ・カッペリーニの潜水艦としての役割と活躍が見られる作品です。
まとめ
映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』をご紹介しました。
戦争の中で戦う潜水艦のお話とは違い、本作品では潜水艦が沈めた敵国側の船の乗務員を救出するという話です。船は沈めるが人は助けようと、人命を第一に考えるサルヴァトーレ・トーダロ艦長は狭い艦内に救助した乗組員を乗せます。
それによって、艦内は過密状態になり、また海に潜ることも出来なくなるというリスクを背負うことになるのですが、艦長は毅然とした態度で事態に臨みます。
イタリア海軍の全面協力を得て再現された実物大の潜水艦での撮影は、CGでは表現できない本物の重厚な質感と、乗組員たちの過酷な勤務状況がリアルに表現されていますので、潜水艦ファンは必見です。!
『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』は2024年7月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開!
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。