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Entry 2020/07/28
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『異端の鳥』映画考察と内容解説。ラストまで目が離せない発禁書にある鑑賞厳禁な美しい残酷|映画という星空を知るひとよ11

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第11回

映画『異端の鳥』は、疎開先から家を目指してさすらう少年が理不尽な差別や迫害に次々と出会う作品です。当時の迫害の体験者であるポーランド出身のイェジー・コシンスキの著書を、バーツラフ・マルホウルが脚色し、監督も務めました。

映画『異端の鳥』は2020年10月9日(金)TOHOシネマズシャンテ他にてロードショーされます。

この映画には少年が受ける無残な迫害だけでなく、日常を妨げる出来事を徹底的に攻撃する”普通の人々”の姿が赤裸々に描かれています。終始モノクロ画像で描かれる人間の真の姿に驚愕する問題作です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『異端の鳥』の作品情報


COPYRIGHT (c)2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN CESKA TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKY

【日本公開】
2020年公開(チェコ、スロヴァキア、ウクライナ合作映画)

【原題】
The Painted Bird

【脚本・監督】
ヴァーツラフ・マルホウル

【キャスト】
ペトル・コトラール、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、バリー・ペッパー、ウド・キアー、イトカ・チュヴァンチャロヴァー、レフ・ディブリク

【作品概要】
『異端の鳥』は、ユダヤ人迫害の戦時下、疎開先から家を目指してさすらう少年が理不尽な差別や迫害に次々と出会う映画です。ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した同名小説を原作に、チェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督が11年の歳月をかけて映像化しました。

少年に抜擢されたのは新人のペトル・コラール。「ニンフォマニアック」シリーズなどのステラン・スカルスガルドやハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズらが共演。第76回 ベネチア国際映画祭(2019年)コンペティション部門・出品作品。第32回東京国際映画祭では『ペインテッド・バード』というタイトルで「ワールド・フォーカス部門で上映。第92回アカデミー賞チェコ代表。

映画『異端の鳥』のあらすじ


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東欧地域のとある国。ホロコースト(主にユダヤ人に対する大虐殺)を逃れて疎開した少年は、村の子供たちと明らかに容姿が異なり、近隣の子供たちから暴力を受け阻害されていました。

早く家に帰りたいという思いを募らせ、いじめに耐える毎日の中で、預かり先である一人暮らしの小母が急死。それを発見して驚きのあまりに落としたランタンの火が周りに燃え移り、小母の家は全焼してしまいました。

それから少年は、自分の家に帰ろうと一人でさまよい歩き、行く先々で迫害と理不尽な扱いを受けます。

ある村で魔術師で医療をする女に買われた少年。女の医療の手伝いをしますが、患者の病気がうつり病に倒れました。

女は彼を助けるために、土に埋めるという呪術的な治療をします。頭だけ地上に出ている少年を死人と思ったカラスが襲いかかり、彼の頭部は血だらけになりましたが、すんでのところで、女が助けてくれました。

無事に病を克服した少年ですが、村人の態度は変わりません。川で魚を釣っている時、村の男に驚かされて少年は川に落ち、そのまま流されて行きました。

少年を川から救い出したのは粉ひき屋の助手でした。少年はそのままその家で粉ひきの手伝いをします。

粉ひきの主人は嫉妬深い男で自分の妻が助手と浮気をしていると思い込み、喧嘩のはてに助手の眼球を抉り出しました。身の危険を感じた少年はそっと家を出ます。

次に少年は小鳥を買う男と暮らしました。羽にインクをつけて仲間の群れに飛ばした小鳥が、仲間から迫害を受けて地上に落下。

悲惨な現実を少年は目の当たりにします。

小鳥屋の男の恋人は性に奔放な女でした。村の少年をたぶらかしたと村の女たちからリンチを受けて恋人が死ぬと、小鳥屋の男も自殺します。

少年はまた一人、旅にでました。行く先々で酷い仕打ちに遭いながらも、彼はなんとか生き延びようと必死でもがき続け、旅を続けながら次第に戦争の中心地に近づいてきました。

映画『異端の鳥』の感想と評価

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第二次大戦中、ナチスのホロコーストから逃れるためにたった一人で田舎に疎開した少年。

映画『異端の鳥』は、差別と迫害に抗いながら強く生き抜くその少年の物語を、フォトグラフのようなモノクロ映像で映し出します。

9つの章に分けられたエピソードは、迫害を受けながらも徐々に成長していく少年の姿を物語っていました。

『異端の鳥』の冒頭は、村の子供たちから少年が必死で逃げるシーンで始まります。村の子供たちは、逃げる少年が抱いていたペットを取り上げ、焼き殺してしまいました。

少年の毎日がすべてこのような調子です。さすらいの旅に出ても、行く先々で待っているのは、少年への理不尽な仕打ち。それはすべて少年がユダヤ人であることに由来していました。

村の人々とは異なる黒い髪に黒い瞳。純粋で大人しい少年ですが、村人たちは誰も彼の内面を見ようとせず、外面だけで“自分たちとは異質のもの”としていたのです。

それは少年がペンキを塗った小鳥を鳥の群れに放った章でもはっきりとわかります。ペンキを塗られた小鳥は、同じ種族と認めてもらえず、仲間の鳥たちから迫害されて死んでしまいました。

人間界の縮小ともいえるこのシーンは、映画のタイトルである「異端の鳥」という言葉の出典であるとともに、少年の悲痛な思いも込められているようです。

さらに本作では、各章ごとに出てくる驚異、妬み、嫉妬、欲情、強奪といった人間の醜い感情や本能を鋭く抉り出しています。

加えて、描かれている“普通の人々”が何気なく行う異質に対する残酷な仕打ちは、目を覆いたくなるほど酷いものでした。

このような環境で成長していく少年はどんな人間になるのでしょうか。最初の章と終わりの方の章では、少年の表情がまるで変ってきますが、予想通りの展開に心が痛みました。

驚愕の残虐シーンの連続の本作、正視できないほど酷い場面もある作品ですが、どこまでも続く原野や大自然の風景と異国情緒漂う美しいモノクロ映像に、“観たい”気持ちをそそられます。

目を手で覆ってもそのすきまから覗きたくなるような、残酷ファンタジーともいえるでしょう。

美しい風景の中で本能の赴くままに生きている人間の醜い性を思い知らされ、そんな中でも生き抜く少年の強さに圧倒される180分でした。

まとめ

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映画『異端の鳥』の原作は、自身もホロコーストの生き残りである、ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した代表作『ペインティッド・バード(初版邦題:異端の鳥)』です。

ポーランドでは発禁書となり、作家自身も後に謎の自殺を遂げた“いわくつきの傑作”を、チェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督が11年の歳月をかけて映像化しました。

人はなぜ異質な存在を排除しようとするのでしょう。ホロコーストや戦争にまで発展する人間の愚かさを、監督は鮮烈に描き出しています。

オカルトやホラー、殺人よりももっと恐ろしいものが描かれた『異端の鳥』。監督が描くその鋭い視点に胸をゆすぶられることでしょう。

映画『異端の鳥』は2020年10月9日(金)TOHOシネマズシャンテ他にてロードショーされます。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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