Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/04/23
Update

映画『ハケンアニメ!』あらすじ感想と評価解説レビュー。吉岡里帆ら×声優キャスト勢揃いで描くアニメ制作の現場と“作り続けた先”とは|山田あゆみのあしたも映画日和2

  • Writer :
  • 山田あゆみ

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第2回

今回ご紹介するのは、2022年5月20日(金)公開の映画『ハケンアニメ!』です。

直木賞と本屋大賞受賞作家・辻村深月による同名のベストセラー小説の実写映画化。日本のアニメ業界の裏側とそこで魂を削るクリエイターたちの奮闘を描いた作品です。

吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子ら豪華な顔ぶれが出演。好きなことを貫き通す熱い思いが、勇気と感動をくれる心震わす映画となっています。

それでは、あらすじや見どころについて解説していきます。

連載コラム『山田あゆみのあしたも映画日和』記事一覧はこちら

映画『ハケンアニメ!』の作品情報


(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
辻村深月『ハケンアニメ!』(マガジンハウス刊)

【監督】
吉野耕平

【脚本】
政池洋佑

【キャスト】
吉岡里帆、中村倫也、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳、六角精児、柄本佑、尾野真千子

【作品情報】
直木賞&本屋大賞受賞作家・辻村深月の同名人気小説を映画化。世界中が注目する日本のアニメ業界を舞台に、最も成功したアニメの称号=「ハケン(覇権)」を手にすべく闘う者たちの姿を描いた究極の“胸熱”お仕事ムービー。

一世一代の大チャンスを掴んだ新人監督・斎藤瞳役を吉岡里帆、彼女のライバルとなる天才ワガママ監督・王子千晴役を中村倫也、瞳を振り回すつかみどころのない超クセ者プロデューサー・行城理役を柄本佑、王子の才能に人生を懸ける作品命のプロデューサー・有科香屋子役に尾野真千子と実力派俳優陣が集結。

監督は『水曜日が消えた』の吉野耕平。また劇中アニメの制作にはProduction I.Gをはじめ、日本アニメ界を代表するトップクリエイター陣が参加。さらに実写本編の監修を東映アニメーションが務める。

映画『ハケンアニメ!』のあらすじ


(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳。だが、気合いが 空振りして制作現場には早くも暗雲が……。

瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。「なんで分かってくれないの!」「だけど、日本中に最高のアニメを届けたい!」そんなワケで目下大奮闘中。

最大のライバルは『運命戦線リデルライト』。瞳も憧れる天才・王子千晴監督の復帰作だ。王子復活に賭けるのはその才能に惚れ抜いたプロデューサーの有科香屋子……しかし、彼女も王子の超ワガママ、気まぐれに振り回され「お前、ほんっとーに、ふざけんな!」と、大大悪戦苦闘中だった。

瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い“想い”をぶつけ合いながら“ハケン=覇権”を争う戦いを繰り広げる!!

その勝負の行方は!? アニメの仕事人たちを待つのは栄冠か? 果たして、瞳の想いは人々の胸に刺さるのか?

映画『ハケンアニメ!』感想と評価


(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

仕事に魂を燃やす人々

本作は「トウケイ動画」に所属する新人監督・斉藤瞳(吉岡里帆)と、「スタジオえっじ」に所属する人気監督・王子千春(中村倫也)とのライバル関係が物語の大きな軸となっています。

すでに実績がある王子の視点からは、ヒット作の後に新たなコンテンツを生み出すことへのプレッシャーが描かれ、挑戦者の立場である斉藤の視点では「新人」という立ち位置から、どうにか結果を出したいという葛藤や業界内にあるジレンマが描写されています。

しかし両者の最大の目的は、どちらも「誰かの人生を変える、支える存在になるアニメを作りたい」という想い。キャリアは違えど、志を同じくするもの同士がそれぞれに奮闘する姿は見ていて心地よく、「互いに最高のもので勝負する」という姿勢は、ある意味スポーツマンシップに則ったような爽やかさすら感じさせます。

「誰かに届けたい」という想いのもと、必死に自分の力の限りをふり絞って作ったものが、必ずしも評価されない、届かない場合だって当たり前のようにある。「ではその中で、なぜ作り続けるのか」というクリエイターとしての問いに誠実に向き合った内容になっています。

アニメに限らず映画や書籍など、コンテンツを生み出す者たちが一度はぶつかったことがあるだろう壁や悩み、そして作品作りに欠かせない誇りやこだわりを丁寧に描いているので、同じような経験のある人にとっては深く共感できるポイントが満載なはずです。

好きなものを仕事にしている、または好きなことを仕事にしたいともがいている人にとっては切実に心に刺さることでしょう。

好きだからがんばれる。しかし好きだからこそ、待ち受ける苦難もある。そんな苦難を乗り越えて、挑戦し続けることによってしか見えてこない希望があり、それを信じ続けることの尊さを本作は伝えてくれます。映画の終わりには清々しい余韻と勇気を胸に残してくれるでしょう。

「チーム」だからこそ実現できるもの


(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

本作の見どころの1つは、それぞれの監督のそばにいるプロデューサーの存在。そして制作進行、作画担当、美術監督そして声優などがチーム一丸となったアニメ制作の現場が生き生きと描かれている点です。

アニメに限らず映画や本などは、宣伝においてネームバリューのある人物の名前ばかりが先行しがちです。ですが、誰か1人の力では作品は完成しません

作品の生みの親は監督ですが、その作品を監督と同様に理解し、多くの人に届くようにスポンサー側や宣伝サイドなど、各所に働きかけるプロデューサーの存在、そして作品に命を吹き込む職人たちの、文字通り魂を削る努力があってようやく作品は成り立ちます。

「仕事は決して1人では成り立たない」という社会人なら誰しもが知っている事実を改めて浮き彫りにしており、絵コンテからアニメーションができあがる過程やビジネスの側面も垣間見えて、アニメの裏側はもちろん「お仕事ムービー」としての面白さが詰まっているといえます。

本作では吉岡里帆、柄本佑、中村倫也、尾野真千子の4人が、2組の監督とプロデューサーの関係性を演じています。

新人監督の斎藤瞳は、柄本佑演じる敏腕プロデューサーの行城理の手段を選ばない宣伝方法にはじめは反発し、制作チームとの意思疎通が取れずに悪戦苦戦します。対する王子千春のプロデューサー・有科香屋子を演じた尾野真千子は、自由奔放な監督に翻弄されながらも作品のことを誰よりも理解し、どんな窮地でも監督の意向を優先します。

前半では斉藤が行城プロデューサーに翻弄され、王子が有科プロデューサーを翻弄していますが、その力関係は徐々に変化していきます。

それぞれ経験値や表現方法に違いはあれど、アニメへの情熱からくる行動や、自身が信じたものを貫き通す姿を通して、仕事への情熱の様々な形を感じさせられます

全員がそれぞれ情熱を注いでいるからこそぶつかり合い、より高みを目指すことができるのです。

まとめ


(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

本作の劇中では、斎藤・王子がそれぞれに監督を務める2作のアニメ作品が登場しますが、そのクオリティの高さにも大注目の作品となっています。

まず1つ目のアニメ「サウンドバック 奏の石」では、『テルマエ・ロマエ』『若女将は小学生!』などの谷東が監督を務め、メカデザインを『機動戦士ガンダム00』『攻殻機動隊ARISE』を担当した柳瀬敬之が手がけています。

そして、2つ目の『運命戦線リデルライト』を手がけるのは『ONE PIECE STAMPEDE』や「プリキュア」シリーズで知られる大塚隆史。またキャラクター原案を『魔法少女まどか☆マギカ』『ハイキュー!』などで活躍する岸田隆宏が担当しています。

「映画の世界でのみ存在する架空の作品」とは決して思えないほどのクオリティの高さは、ストーリーも映像の迫力も含めて「この2本の作品も実際に全編を観たい!」と感じてしまうほどの仕上がりとなっています。

また声優も豪華な顔ぶれが勢ぞろい。『ウマ娘 プリティダービー』の高野麻里佳は声の出演のみならず俳優としても参加。また『進撃の巨人』『僕のヒーローアカデミア』の梶裕貴、『HUNNTER×HUNNTER』の潘めぐみ、「魔法使いプリキュア!』の高橋季依と堀江由衣、『呪術廻戦0』の花澤香菜のほか、木野日菜、速水奨、小林ゆう、近藤玲奈、兎丸七海、大橋綾香ら人気声優たちが出演しています。

このアニメパートの質の高さがあるからこそ、映画全体の説得力が増してそこに情熱を燃やすクリエイターたちの感情に入り込むことができるのです。また、実写にアニメーションが混じる演出も本作の個性になっているので、注目してみてはいかかでしょうか。

映画『ハケンアニメ!』は2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー公開!

連載コラム『山田あゆみのあしたも映画日和』記事一覧はこちら

山田あゆみのプロフィール

1988年長崎県出身。2011年関西大学政策創造学部卒業。2018年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを計13回開催。『カランコエの花』『フランシス・ハ』などを上映。

好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を観る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中(@AyumiSand)。




関連記事

連載コラム

映画『ニューイヤー・ブルース』あらすじ感想と評価解説。4組のカップルの群像劇を親近感溢れる姿でクリスマスから年越しまでを描く|コリアンムービーおすすめ指南27

映画『ニューイヤー・ブルース』は2021年12月10日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国順次公開! ある4組のカップルの、クリスマスから年越しまでの1週間を描く韓国映画『ニューイヤー …

連載コラム

『浜辺のゲーム』あらすじと感想。ヴァカンス映画の引用と軽く境界線を越える人物たち|銀幕の月光遊戯29

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第29回 湘南を舞台に、一軒の別荘に集まってきた3人組の女子と個性的で国際的な面々・・・。 大阪アジアン映画祭2019のコンペティション部門で初上映され、反響を呼んだ夏都愛 …

連載コラム

映画『アジアの天使』感想評価とレビュー解説。池松壮亮×オダギリジョー×チェヒソを迎え石井裕也監督が家族を描く|映画という星空を知るひとよ68

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第68回 『舟を編む』などの話題作を手掛けてきた石井裕也監督が、オール韓国ロケで作り上げた映画『アジアの天使』。 本作は、それぞれが心に傷を持つ日本と韓国の家族 …

連載コラム

『ダークナイトライジング』ネタバレ解説。シリーズのラストに見たスーパーヒーロー終焉の仕方|最強アメコミ番付評15

こんにちは、野洲川亮です。 今回はクリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」シリーズの第三作にして、完結編となる『ダークナイト ライジング』(2012)を考察していきます。 クリスチャン・ベールが …

連載コラム

SF映画おすすめ5選!洋画邦画ランキング(1960年代)の名作傑作【糸魚川悟セレクション】|SF恐怖映画という名の観覧車85

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile085 第2次世界大戦が終結し世界に平和が訪れたかと思いきや、新たな戦争の火種が見え隠れしていた1960年代。 映画『博士の異常な愛情 または私 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学