連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第9回
今回ご紹介するのは、北欧発ガールズ青春映画の『ガール・ピクチャー』です。
3人の少女が3度の金曜日に経験する、運命的な恋や性体験を巡る葛藤や成長を描いています。
性的欲求をもてないロンコ。感情をうまくコントロールできないミンミ。フィギュアスケートの選手でスランプに直面するエマ。それぞれが悩みながらも、自分自身に向き合おうとします。
恋の切なさや友情の尊さ、そして恋愛の本質にも触れるような一作となっています。それでは、見どころについて解説していきます。
映画『ガール・ピクチャー』の作品概要
【日本公開】
2023年(フィンランド映画)
【監督・脚本】
アッリ・ハーパサロ
【脚本】
イロナ・アハティ、ダニエラ・ハクリネン
【キャスト】
アーム・ミロノフ、エレオノーラ・カウハネン、リンネア・レイノ
【作品情報】
監督は、本作が長編映画3作目となるフィンランド出身のアッリ・ハーパサロ。2019年には7人の脚本家と監督が製作した、ジェンダーバイアスと構造的な権力の誤用について描かれた『Force of Habit』に参加しています。
世界で高く評価された本作は、ユッシ賞(フィンランド・アカデミー映画賞)の作品賞・監督賞・ 脚本賞にノミネートし、2020年には北欧理事会映画賞を受賞しました。
ミンミ役のアーム・ミロノフは、12歳からテレビシリーズや映画に出ており、本作が『エデン』以来2度目の長編主演映画となります。
ロンコ役のエレオノーラ・カウハネンは、フィンランド・ナショナルオペラバレエスクールでバレエを習得。その後舞台やミュージカルで主演を務め、本作が長編映画初出演作でもあります。
またエマ役のリンネア・レイノは、フィンランド語・デンマーク語・英語・フランス語・イタリア語の5ヶ国語を操る女優であり、本作で主演デビューを果たしました。
映画『ガール・ピクチャー』のあらすじ
たった3度の金曜日で、全てが変わることもある……流動的でジェンダークィアなジェネレーションZの青春映画。
子どもと大人のはざま、17歳から18歳に差し掛かる3人の少女、ミンミとロンコとエマ。
3度の金曜日で、ミンミと エマはお互いの人生を揺るがすような運命の恋をし、ロンコは未知の性的快感を求め冒険する……。
10代はジェットコースターのようにアップダウンが激しく、多感な時期。本作は、そんなティーンエイジャーが抱える性、人間関係、未来への悩みをリアルかつまっすぐに映し出す。
〈こうあるべき自分〉を思い描き、つまづき、ぶつかり、失敗しながらも誰かと寄り添い、自由を獲得する方法を学んでいく。
今の10代から、かつてティーンだった大人たちまでもが楽しめる、北欧発〈ジェネレーション Z〉のみずみずしい青春映画が誕生した。
映画『ガール・ピクチャー』感想と評価
好きな人とつながりたい
10代の少女たちが恋や性に悩みながら、アイデンティティに向き合う物語となっています。ピュアな彼女たちの心の揺れ動きが、繊細ながらとてもパワフルに描かれています。
性的欲求を持てないことで悩んでいるロンコ。ロンコはセックスをすることで、好きな人と深くつながれるのではないかと、考えていました。
好きな相手ともっと近づきたい、分かり合いたいという欲求は、10代じゃなくても抱くもの。恋愛のある意味での本質に10代で気づいているロンコって、実はするどいのでは?
ただ、未知なる体験への好奇心と焦りから様々な男性にセックスを迫り、イタイ失敗を数々していくわけですが……。
ロンコが映画の最後で出した答えは、若者から大人まで、1人として同じではないアイデンティティを持つ私たちにとって、自由を与えてくれるものとなっています。
まだ分からないことだらけの未来に、前向きに生きようとするロンコを、私たちは応援しながらも励まされているのかもしれません。分からなくても、自分のままでいいのだと。
女性の声
この映画で描かれる女性像というのは、男性のキャラクターがあって際立っています。
ミンミとエマがクラブで出会った2人組の男性とのやり取りは、特に印象的です。
エマが、レスリングの選手だと言うと、男性の1人が「女性なのに筋肉系を選択するなんてすごい。男が近づかないんじゃない」と言います。
対してエマは「それを聞くなんてフェミニストなのね」と皮肉で返します。
そこでもう1人の男性が「許してやって。女性アスリートを尊敬してる」と言います。
エマはこれに「”女性”って言う必要はない」と返しました。そして、男性2人が最後に「そうだね」と納得していることも重要です。
この一連のやり取りを見ていて、本作はとてつもなく信頼できる作り手による作品なのだと確信しました。
さらりと描いているようですが、攻撃ではなく、訂正・主張する形で女性の声をしっかりと見せているからです。
また、ロンコが出会う数名の男性たち、彼らにもぜひ注目してほしいところ。
空回りながらもセックスを迫るロンコに対して、彼らがどういう態度だったか。この映画では、決して男性を非難するわけでもなく、男性も女性を利用していません。
まとめ
ファッションやメイク、じゃれ合う様子など、とにかく可愛いロンコとミンミ、エマ。そんな3人を見ているだけでも癒される本作。
感動やキュンポイントは人によって違いますが、友情モノとしても微笑ましい場面がある作品です。
その中のひとつに、「私は普通じゃないのよ」と苦悩を吐露するロンコに、ミンミが慰める場面があります。ミンミは「あんたは女神よ」と言ってロンコを全肯定します。
この場面は『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』(2019)に通じるものがあります。
自分を卑下する発言をしたモリー(ビーニー・フェルドスタイン)に、エイミー(ケイトリン・デヴァ―)がビンタして「私の親友に何てことを」と言い、「あんたは強くてクールで賢くて美しい」と励ますのです。
自分のように相手を大事に想い、全力で褒め称えてくれる親友の存在。そんな存在がひとりでもいれば、どんな苦境にも立ち向かえるのかもしれません。
10代を懐かしむ大人にも、青春時代まっただ中の若者にも楽しめる一作となっています。
『ガール・ピクチャー』は2023年4月7日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開!
山田あゆみのプロフィール
1988年長崎県出身。2011年関西大学政策創造学部卒業。2018年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを計13回開催中。『カランコエの花』『フランシス・ハ』などを上映。
好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を観る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中(@AyumiSand)。