Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/04/02
Update

映画『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』感想レビュー。“略奪という行為”は社会に存在してはならない|銀幕の月光遊戯26

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第26回

ピカソ、フェルメール、ルノワール、ブリューゲル、マティス、ムンク、モネ…。ナチス・ドイツに略奪され、今なお行方不明の名画たち。

なぜナチス・ドイツは美術品を略奪したのか?!

略奪された美術品が辿った闇の美術史に迫るドキュメンタリー映画『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』は、4月19日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開されます。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』のあらすじ


(C)2018 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

ナチス・ドイツがヨーロッパ各地で略奪した芸術品の総数は約60万点にのぼり、今尚、多くの作品の所在が確認できていません。

アドルフ・ヒトラーは、若かりし頃、画家を目指し、ウィーン美術アカデミーを受験していますが、二度失敗しています。

1933年にドイツ首相に上り詰めると、ユダヤ人富裕層からの美術品没収を開始します。

ヘルマン・ゲーリングがその役を担いますが、彼は自らも美術品収集にのめり込みました。

ゲーリングのエージェントとなったのが、W・ホーファーです。

映画の案内人として登場するのはイタリア映画界が誇る名優トニ・セルヴィッロです。彼は語ります。

「本作にはW.ホーファーのような人物が数多く登場する。キュレーターや歴史家、批評家だけでなく、芸術家もナチ政権に協力し、ユダヤ人からの美術品強奪に加担したのだ」

ナチス・ドイツはなぜ美術品を略奪したのでしょうか?!

略奪された美術品とそれに関わった人々が辿った運命が、歴史家や美術研究家、美術品の相続人や、奪還運動に関わる人々など、多くの人々の証言を元に明かされていきます。

映画『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』の解説と感想

略奪者たち


(C)2018 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

本作は、ナチス・ドイツが、1937年にミュンヘンにて開催した2つの美術展の重要さを指摘しています。

一つはピカソ、ゴッホ、クレー、シャガール、カンディンスキーらの絵画が集められた「退廃芸術展」です。

それらはナチスの美の概念にあてはまらないものとして非難され、「退廃芸術」の烙印を押されました。

もう一つは「大ドイツ芸術品」といい、ヒトラー自らが企画。写実的でわかりやすい古風な作品が集められました。

とりわけ農業を描いた風景画が多かったといいます。ヒトラーは故郷リンツの町に“ルーヴル美術館”を建設する野望を抱いていました。

今、どちらの展覧会に行きたいか?と聞かれたなら、迷わず「退廃芸術展」と応える人がほとんどではないでしょうか。

ヒトラーにとって、自分が理解できない芸術は嘲笑、憎しみの対象だったのでしょうか? その驚異を知っていたからこそ、凡庸を愛したのでしょうか。

権力は芸術をも支配できると奢るナチスの姿が見えてきます。

略奪された人々


(C)2018 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

銀行家のドイツ系ユダヤ人のグートマン一族の資産管理人・フリッツの孫であるサイモン・グッドマンの証言は衝撃的です。

グートマン一族は、ビスマルク皇帝も嫉妬するほどのルネサンス期の金・銀製品やルノワールなどの名画を所有していました。

第一次大戦後にオランダに移住しますが、オランダはナチスに占領されてしまいます。

ゲーリングの仲介者としてW・ホーファーやアロイス・ミードルといった画商がグートマン家の前に現れます。彼らは金・銀製品を二束三文で買い叩き、ナチに譲っていました。

彼らは戦後、自分たちは仕事をしただけだと主張したといいますが、相手はヒトラーなのです。

ナチスは仲介者を通して形だけは正当な取引があったかのようにみせかけていました。実際のところ、それは財産没収であり強奪でした。

サイモンの祖父と祖母が辿ったあまりにも悲劇的な顛末にナチスの非道が浮かび上がります。

紛失した美術品の回収が専門の弁護士・交渉人であるクリストファー・A・マリネッロ氏の「美術品略奪も(ユダヤ人撲滅のための)兵器なのだ」という言葉が痛切に響きます。

美術品を追跡する人、奪還する人


(C)2018 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

ナチス・ドイツによる美術品強奪というと、ジョージ・クルーニーが主演・監督した映画『ミケランジェロ・プロジェクト』(2013)を思い浮かべる方も多いでしょう。

参考映像:『ミケランジェロ・プロジェクト』(2014)

ナチスがヨーロッパで略奪を繰り広げている第二次世界対戦下、ルーズベルト大統領から建造物や美術品を保護する任務を託された美術館館長フランク・ストークス(ジョージ・クルーニー)は、美術専門家を集めたチーム「モニュメンツ・メン」を結成。戦地に赴き、ナチスが隠した美術品を見つけ出します。

映画で、一行は、ベルギーの大聖堂から持ち去られたヘントの祭壇画を探してオーストリアの山間部にあるアルトアウスゼー岩塩坑にたどりつきますが、本作『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』でもそのことが言及されています。

アルトアウスゼー岩塩坑の中に実際に入った臨場感溢れる映像とともに、作家・ジャーナリストのピエール・アスリンが、「モニュメンツ・メン」の解説を行っています。

さらに、本作は、“グルリット事件”というまるで映画のような事件についても詳しく解説しています。実際の名画が画面に映し出されるため、大変な説得力があります。

参考映像:『黄金のアデーレ名画の帰還』(2015)

また、2015年の映画『黄金のアデーレ名画の帰還』(サイモン・カーティス監督)は、ナチスに奪われたクリムトの世界的名画「黄金のアデーレ」返還を求めて訴訟を起こした女性を描いた作品でした。

このように、奪われた作品を遺族が取り戻すことは容易なことではありません。

本作『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』は、返還訴訟で勝訴したハウトスティッカー家や、今尚、行方不明の美術品の追跡を行っている人々が登場。社会に略奪があってはならないということを訴えています。

スポンサーリンク

まとめ


(C)2018 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

さて、ここまで来て、まったくピカソが登場しないではないかという方がいるかもしれません。

ピカソが登場してくるのは、終盤です。それもほんの僅かな時間に過ぎません。しかし、彼の言葉を聞いた時、どうしてこのタイトルになったのかが理解できるでしょう。

芸術というものの本質をこれ以上無いと言ってもいいほどずばりと言い当てたその言葉こそ、ヒトラーの思想をこてんぱんに打ち砕くものだからです。

是非、その言葉、その瞬間を目撃してください。

『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』は4月19日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開されます。

次回の銀幕の月光遊戯は…


(C)Red Society Films
次回の銀幕の月光遊戯は、クラウドファンディングでの上映実現が話題の台湾映画「台北セブンラブ』をお届けします。

お楽しみに!

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『オール・ディス・パニック』あらすじと感想。多感な10代少女たちの実態に迫る|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館1

ニューヨークに住む10代の少女7人が直面する、等身大の葛藤と成長。 2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活する映画館、京都みなみ会館。そのリニューアルを記念して、9月6日(金)から『ルーキー映 …

連載コラム

森山未來映画『オルジャスの白い馬』あらすじと感想レビュー。海外初主演作はカザフスタンで描かれる父子の物語|TIFF2019リポート26

第32回東京国際映画祭・特別招待作品『オルジャスの白い馬』 2019年にて通算32回目となる東京国際映画祭。 令和初の開催となった本映画祭は、2019年10月28日(月)に無事開会の日を迎え、11月5 …

連載コラム

映画『ザ・ナンバー』ネタバレ感想。南アフリカに実在するプリズンギャングの実話を映像化|未体験ゾーンの映画たち2019見破録4

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第4回 様々な理由から日本公開が見送られてしまう、傑作・怪作映画をスクリーンで体験できる劇場発の映画祭、「未体験ゾーンの映画たち」が2019年も実施さ …

連載コラム

映画『TECHNOLOGY』感想レビューと評価。遠藤麻衣子監督が手掛ける新次元の映像体験|SF恐怖映画という名の観覧車107

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile107 物語や脚本、そして俳優は映画にとって重要な要素であり、映画の評価の多くはこの部分に集中されています。 しかし、物語や脚本より最初に目に入 …

連載コラム

『真・仮面ライダー』あらすじと感想評価。白倉伸一郎による“大人のための仮面ライダー”へと続く序章(プロローグ)|邦画特撮大全57

連載コラム「邦画特撮大全」第57章 2019年8月1日、『シン・ウルトラマン』の製作が発表されました。 (C)2016 TOHO CO.,LTD. 円谷プロダクション、東宝、カラーによる共同製作作品で …

U-NEXT
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【Cinemarche】今週のおすすめ映画情報
凱里(かいり)ブルース|2020年6月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次ロードショー予定!
映画『異端の鳥』2020年10月9日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
映画『朝が来る』2020年10月23日(金)より全国公開
ドラマ『そして、ユリコは一人になった』
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学
国内ドラマ情報サイトDRAMAP