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Entry 2023/01/24
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『銀平町シネマブルース』あらすじ感想と内容評価。つぶれかけた映画館を舞台に“映画を愛する人”たちに捧ぐ感動の人間ドラマ|TIFF東京国際映画祭2023-3

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『銀平町シネマブルース』は2023年2月10日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開!

つぶれかけた小さな映画館を舞台に繰り広げられる人間模様を描いた、ハートフルな群像悲喜劇『銀平町シネマブルース』が2023年2月10日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開されます。

愛なのに』(2022)の城定秀夫監督と、『れいこいるか』(2020)のいまおかしんじが脚本を手がけ、強力タッグを組みました。

本作が本格主演復帰となる小出恵介をはじめ、吹越満、宇野祥平、浅田美代子、渡辺裕之ら実力派が出演します。

小さなミニシアターに集ったはぐれ者たちが紡ぐ、喪失と再生の温かな物語です。

映画への愛に満ちあふれた本作の魅力をご紹介します。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2023』記事一覧はこちら

映画『銀平町シネマブルース』の作品情報


(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・編集】
城定秀夫

【脚本】
いまおかしんじ

【出演】
小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、日高七海、中島歩、小野莉奈、さとうほなみ、片岡礼子、藤田朋子、浅田美代子、渡辺裕之

【作品概要】
つぶれかけた長い歴史を持つ小さな映画館を舞台に、映画愛に満ちた人々が繰り広げる人間模様を涙と笑いで描いた作品です。

『アルプススタンドのはしの方』(2020)『愛なのに』(2022)の城定秀夫が監督を務め、『れいこいるか』(2020)『神田川のふたり』(2020)のいまおかしんじが脚本を手がけました。

「銀平スカラ座」に流れ着く主人公・近藤役で、小出恵介が本格主演復帰を果たしています。

吹越満、宇野祥平、浅田美代子、渡辺裕之、片岡礼子らベテラン勢のほか、藤原さくら、日高七海、さとうほなみら若手も出演します。

映画『銀平町シネマブルース』のあらすじ


(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

青春時代を過ごした街・銀平町に帰ってきた一文無しの青年・近藤は、映画好きの路上生活者の佐藤から話しかけられ、映画のチラシを買わされました。

近藤が友人と話していた隙に、佐藤は近藤のバッグを持ち逃げします。慌てて追いかけたものの見つけられず、あきらめて公園で寝ようとする近藤。

彼に黒田という女性が声をかけ、とある喫茶店に連れて行きます。そこには、先ほどの佐藤も来ていました。黒田は体格のよい強面の男ととともに生活保護受給について説明し始めますが、商店街の一角にある映画館・銀平スカラ座の支配人・梶原は、黒田らを怪しげだといって警戒します。

梶原に連れられて近藤がスカラ座にいくと、給料がもらえていないスタッフたちが梶原に苦情を言ってきました。金のない近藤は、寝泊まりさせてもらう代わりに、映画館で働くことになります。

同僚のスタッフや、老練な映写技師、売れない役者やミュージシャン、映画の世界に夢を見ている中学生など、個性豊かな常連客との出会いを通じて、近藤はかつての自分と向き合い始め…。

映画『銀平町シネマブルース』の感想と評価


(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

映画へのあふれんばかりの愛

映画を愛するすべての人たちに捧げられた一作です。

時代に取り残されたかのような小さな映画館・銀平スカラ座に集うのは、映画をこよなく愛する、世の中からこぼれ落ちた人たちでした。

金がなくても映画だけは観るというホームレス、赤字続きのミニシアターを守り続ける気のいい支配人、老練な渋い映写技師、給料が入ってこないのに勤め続けるふたりのバイトスタッフ、売れない役者やミュージシャン、映画オタクの中学生ら常連客たち。

そこに流れ着いたのが、主人公の近藤猛でした。一文無しの彼は、不思議な力に導かれるかのように銀平スカラ座にたどり着きます。

近藤を生き生きと演じているのは小出恵介です。本作で本格的に主演作復帰を果たした小出が、映画好きな人々に囲まれて再生していく近藤の姿に重なります。

どこかファンタジックな銀平スカラ座を舞台に、近藤の辛い過去、彼の家族との関係、弱い者がむしり取られる世の世知辛さなど、リアルな世界も映し出されていきます。

ユーモラスな描写に笑いながらも、ラスト近くは泣かされっぱなしになることでしょう。しかしそれでいて、心はぽかぽかと温かくなる作品です。

ロケ地である現役で活躍するミニシアター・川越スカラ座には、観る者をいつの間にか虜にする魔力があるようです。じんわりと胸を打つ秀作をどうぞじっくり楽しんでください。

豪華キャストの味わい深い演技に魅了される


(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

本作には数多くの名優たちが参加しています。味わい深い彼らの演技に魅了されずにはいられません。

ミニシアター・銀平スカラ座の支配人の梶原を演じるのは、映画『冷たい熱帯魚』(2011)やドラマ『特捜9』で人気の実力派・吹越満です。人情味あふれ、色気もある魅力的な梶原を、ユーモラスに演じています。

映画『罪の声』(2020)などで知られる名バイプレーヤー・宇野祥平が、飄々とした風貌の憎めないホームレスの佐藤を演じます。観る者すべての感情を揺さぶる宇野の演技に注目です。

怪しいブローカー役の浅田美代子、梶原の元カノ役の藤田朋子、近藤の友人の母役の片岡礼子らベテラン演技派が揃い、作品世界を奥深いものにしています。

また、老練の映写技師役の故・渡辺裕之の演技にも注目です。

藤原さくらや中島歩をはじめとする個性的なスタッフや常連客の配役のバランスも素晴らしく、目が離せなくなります。

劇中でトランぺッターを演じる黒田卓也が本作の音楽を担当。エンディングでは古きよき時代を思わせるようなしみじみとしたブルースを奏でて、作品の余韻を楽しませてくれます。

まとめ


(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

劇中で宇野祥平演じるホームレスが言う「映画っていいじゃねぇか。」という言葉に思わず何度も頷いてしまう、映画への愛に満ちあふれた作品です。

時代に取り残されたかのような小さなさびれた映画館。そこには、60年もの間の人々の愛や涙、笑いがぎっしりと詰まっていました。

日本のあちこちに残ってがんばっている小さな映画館を、どうにかしてみんなで守っていきたいという熱い思いが伝わってくる作品です。

じんわりとした温かな感動がいつまでも胸に残る秀作『銀平町シネマブルース』は2023年2月10日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開です。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2023』記事一覧はこちら





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