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Entry 2019/12/15
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映画『グッドライアー』キャストのイアン・マッケランへのインタビュー【偽りのゲーム】FILMINK-vol.32

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FILMINK-vol.32「The Many Sides of Sir Ian McKellen」

オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。


(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

今回お届けするのは、2020年2月7日より日本で公開される、『グッドライアー 偽りのゲーム(原題:The Good Liar)』主演のサー・イアン・マッケランへのインタビューです。

ガンダルフ役でも人気のイアン・マッケラン。『グッドライアー 偽りのゲーム』ではヘレン・ミレンの敵として出演する彼が、映画やキャリア、“ネットでの出会い”についても率直に語ってくれました。

【連載レビュー】『FILMINK:list』記事一覧はこちら

サー・イアン・マッケランと『グッドライアー 偽りのゲーム』について

敬愛された英国俳優のサー・イアン・マッケランは『ロード・オブ・ザ・リング』のガンダルフ役や「X-MEN」シリーズのマグニート役で有名ですが、それは彼のキャリアや舞台での注目を集めているほんの一部にすぎません。

マッケランがビル・コンドン監督の映画に出演するのは、『グッドライアー 偽りのゲーム』で4回目。

彼らはこれまでに、『フランケンシュタイン』(1931)の監督ジェイムズ・ホエールを演じオスカーにノミネートされた『ゴッド・アンド・モンスター』(1998)や、『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件 』(2015)、『美女と野獣』(2017)という作品たちを制作してきました。

本作でマッケランは、『ゴールデンボーイ』(1998)でのナチスの司令官役以来ともいえる狡猾なキャラクター、ベテラン詐欺師のロイ・コートネイ役で主演しています。ロイの新たなターゲットはヘレン・ミレン演じる未亡人で資産家のベティ・マクリーシュ夫人です。

現在80歳のマッケランはFILMINKのインタビューに答えてくれました。

ヘレン・ミレンとの共演は


(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

──本作品『グッドライアー 偽りのゲーム』の共演者、ヘレン・ミレンの最も尊敬するところはどこですか?

イアン・マッケラン(以下マッケラン):キャリアがあり続け、しかもそれらを上手に使っている。そして、なお向上しようとする気構えあるところです。彼女は困難としてのくぼみや溝にも引っかかりません。

実年齢よりも10歳は若く見えるようにしているとか、そういうことではなくてね。ヘレンはいつもその瞬間、この瞬間に存在しています。だからこそ、愛されているんでしょう。

──あなたはヨハン・アウグスト・ストリンドベリによる戯曲『The Dance of Death』の9.11以降のステージでヘレンと共演されましたね。覚えていることを教えてください。

マッケラン:とても記憶があります、当時マンハッタンは封鎖されました。

島を離れることも島に行くこともできなかったので、ニューヨークに観光客がいなかったんです。観光客が近寄れなかったものですから『プロデューサーズ』のような大ヒットミュージカルも席が余っていました。

でもブロードウェイのオーディエンスには地元の人々がいて…。歩いて来場できる方たちです。『The Dance of Death』の観客はほとんど地元の人だったんですよ!素晴らしいでしょう。

──成功を納めたのですね。

マッケラン:大ヒットでしたよ。まあ、ヘレンと私が演じたキャラクターは、恐ろしく泥沼な関係でしたけどね。

本作におけるキャスティング


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──本作『グッドライアー 偽りのゲーム』への出演を決めたのはいつのころでしょう?

マッケラン:私とヘレンは遅れて製作プロセスに入りました。

監督のビル(・コンドン)が原作を読んだらしいんです。それで彼が良い映画になるだろうと思ったか、それとも誰かが彼に、これは映画にできると助言したのか…。何が起こっているのか私は分かっていませんでした。スクリプトを決定するには何年もかかる可能性もありますからね。

それからまたかなり遅れて製作チームがキャスティングを始めました。あまり普通では行われないことなんですが、彼らが俳優二人、つまり、私とヘレンの元を訪れました。そして私たちは出演を承諾したんです。

撮影は週末を中心に、数ヶ月かけて行われました。私とヘレンが加わる頃には作曲家のカーター・バーウェルがすでにいて、キース・マッデンが衣装担当で参加していました。

──キャスティングは映画にぴったりだと思いましたか?

マッケラン:はい、良い配役だったと思います、そうボーナスみたいにね。実験的ではなく、私たちくらいの年齢の人々についての物語であったことが喜ばしことでした。

ビル・コンドン監督のセンス


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──ビル・コンドン監督とのタッグは4回目ですがいかがだったでしょう?

マッケラン:ビルは演劇やミュージカル出身です。いつもやってくると、私にこう聞くんです。「何を観に行けばいいでしょうか?」と。

そしてもちろん劇場や演劇と同じくらい、ビルは映画に夢中ですから、彼が参考するポイントは一定しています。彼は自分がどこにいるか正確に把握し、何を賞賛すべきか知っており、過去の振り返り方も知っています。

──非常に多様な作品を製作する監督ですよね。

マッケラン:ビルのスタイルのセンスは素晴らしいものです。『ドリームガールズ』(2006)や『ゴッド・アンド・モンスター』(1998)、ベネディクト・カンバーバッチを主演にした『フィフス・エステート/世界から狙われた男』(2003)、それに『美女と野獣』(2017)。もうこれ以上、大きくはなれないというほど巨大な映画たちです。彼の映画は信頼性がありますよね。

良い嘘つきは良い俳優となるか


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──タイトルにかけて、良い嘘つきは良い俳優となると思いますか?

マッケラン:嘘とは何でしょうか。人間は皆役者です。犬は猫のふりなどしないでしょうし、まずそれをすることができないでしょう。そして私たちは他の動物のふりをすることはありません(マッケランは『キャッツ』で劇場猫ガスを演じていますが)。

しかし、私たちは様々な機会に現れる、異なる側面を持っています。例えば学校にいる時、家にいる時とは全く異なる語彙やアクセントを持っていたりね。両親への話し方は祖父母への話し方とも異なります。

また、会社の同僚に休日に道端で会うと、ユニフォームも雰囲気も違いますから誰だか分からなかったりもします。人間は皆、自分たちをどのように提示するかに熟達しているんです。あんまり得意じゃなかったならばそれは問題です。

朝起きてからその日のために他の人と同様にプロとして決定を下すんです。「今日はどんなコスチュームを着よう、何が合うだろう」という風に。

──本作のようなオールドファッションなスリラー作品はお好きですか?

マッケラン:実は、映画を観ていると巻き込まれるような気分になってしまって…、怖いのは嫌いなんです!

何かがおかしくなってきたり、誰かが家の中にいて灯りがつかない、なんて時は「これは映画の世界だ」と自分に言い聞かせています。ですが、時すでに遅しで怯えているんですけど…。

ネットでの出会いと孤独感


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──あなたが演じるロイとヘレンのキャラクターは最初ネットで出会いますね。オンライン上でのデートについてどう思われますか?

マッケラン:私にはネットで出会って結婚したゲイの友人がたくさんいます。彼らはまさに望んでいた人を発見したんです。素晴らしいと思いませんか?時には間違うこともあるかもしれませんが…。

──あなた自身のご経験は…?

マッケラン:私の場合、まずはこの人は同性愛者かそうじゃないか知らなければいけませんでした。もしゲイ・クラブん以外のところで出会ったら判断しようがありませんし…ボルトンにはそんな場所ありませんしね。

最初は握手をして、お互いがどんな人間なのかを観察します。まあ、非常に興味深く誰かを知るためのプロセスの一部ですが、ただ誰かと出会ってイチャイチャしたいのが一番にやりたいことなら退屈でしょうね。

インターネットは、都市の中心部には住んでおらず、近すぎる人間関係に息苦しさを感じる人々、孤独を感じる人々にとっては素晴らしいツールだと思います。繁華街に行って何回孤独を感じたことがありますか?もし無いならば、ネットでの出会いは必要無いかもしれませんね。

ただキャラクターとして現れる


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──公的な場所いる時、また観客に会った時どのように感じますか?

マッケラン:劇場で観客を目の前にするようになった時はロンドンでショーをしていました。私と同じくらいの年齢の方が「数年前にお会いしましたよね。1976年の『マクベス』で」と声をかけて下さいました。私は仰天して…。彼女は「夫は亡くなったんですが、あれは初めて二人で一緒に外出した日で、私たちは興奮していたんです」って。そんなちょっと変わったエピソードもあります。

知らない人々の生活の一部を見ることでもありますから、素晴らしいことですよね。実際、私のキャリアの伝説的な顔は私ではなく、演じたキャラクターです。「ロード・オブ・ザ・リング」のガンダルフは、私が演じるずっと前に確立されているキャラクターです。私はガンダルフを追い、彼は私を連れて行ってくれたのです。

──それはほとんどの人々が知っているあなたの姿だと思いますか?

マッケラン:『グレアム・ノートン・ショー』でギャグを飛ばした私、だけを知っている方々もいると思いますよ。それも本当の私ではありませんが、私の側面ではあります。みな自分を笑わせた人のことを覚えていて、親近感を抱く傾向があるんです。

ステージやスクリーンにただキャラクターとして現れる、それが私が一番望んでいることです。

若者時代の私のヒーローであったローレンス・オリヴィエは、街中で見かける親しみやすい人ではありませんでした。彼はサインもしませんでしたしトークショーへの出演も、確かインタビューも受けなかったんです。

ジョン・ギールグッドもポール・スコフィールドも同様でした。現実にいる人間として俳優自身が、人々に会うというのは新しいアイディアです。他の人々の、俳優個人に対する見方を理解することはなかなか困難ですからね。

バーブラ・ストライサンドは私の伝説です!『アマデウス』の舞台の時、私の楽屋に現れた彼女を見て気絶しそうになったんですよ。

FILMINK【The Many Sides of Sir Ian McKellen

英文記事/James Mottram
翻訳/Moeka Kotaki
監修/Natsuko Yakumaru(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au

本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です。

映画『グッドライアー 偽りのゲーム』の作品情報

【製作】
2019年(アメリカ映画)

【日本公開】
2020年2月7日より

【原題】
The Good Liar

【監督】
ビル・コンドン

【キャスト】
ヘレン・ミレン、イアン・マッケラン、ジム・カーター、ラッセル・トーヴィー、マーク・ルイス・ジョーンズ、ヨハンズ・ハウクル・ヨハンネソン

映画『グッドライアー 偽りのゲーム』のあらすじ


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インターネットの出会い系サイトを通じて知り合った老紳士のロイと未亡人のベティ。

実はベテラン詐欺師のロイは、夫を亡くしてまもない資産家ベティから全財産をだまし取ろうと策略をめぐらせていました。

世間知らずのベティは徐々にロイのことを信頼するようになりますが、単純な詐欺のはずだった計画は徐々に思いがけない方向へと進んでいき…。

【連載レビュー】『FILMINK:list』記事一覧はこちら


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