連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第2回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回紹介する作品は、2020年1月24日公開の『ロマンスドール』です。
タナダユキ監督が、2008年に雑誌で連載していた同名小説を、自ら脚本・監督を手掛け、10年の時を経て映画化となりました。
ラブドール職人・哲雄とモデルの女性・園子との、嘘と秘密、そして純愛と性愛が織り交ざった夫婦愛を描いています。映画化に伴い、高橋一生と蒼井優の共演も大いに注目です。
何とも官能的な匂いが漂う小説『ロマンスドール』、映画公開に先駆け、原作のあらすじ、映画化で注目する点を紹介します。
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CONTENTS
小説『ロマンスドール』のあらすじとネタバレ
妻・園子が、腹上死した。哲雄の上にいる、園子の重力。それはまるで人形のようでした。哲雄はなぜだか、恐怖も哀しみも感じませんでした。
哲雄が、妻の園子と出会ったのは、今の職に付いたのがきっかけでした。哲雄は、ラブドール職人です。
美大の彫刻科を卒業した哲雄は、フリーターをしていましたが、大学の先輩から技術を生かせる仕事があると紹介されます。
初めて工場を訪れた哲雄は、女性の人形が仰向きに何体も置かれ、足を少し開き、手を空へと伸ばす姿に不気味さと滑稽さを感じるも、何よりそのレベルの高さに驚きます。
空気を入れて膨らませる浮き輪みたいなイメージとは違い、やわらかく美しい肌色、綺麗な顔立ちは、人間と間違いそうなリアルさがありました。
哲雄は単純に面白そうと感じ、仕事を引き受けますが、次第に奥深いラブドールの世界に夢中になっていきます。
また、工場で働く人々との出会いも、哲雄にとっては楽しいものでした。工場で唯一の造形士・相川金次(キンキン)は、お調子者のおじさんだが、仕事には熱意を持って取組む職人でした。
哲雄とキンキンは、シリコンを使用した人形製作に挑戦していましたが、どうしてもリアルさが出せません。
「生身の人間で型を取るってのはどうかな?」。病院用の疑似乳房の製作と、何とも嘘くさい誘いです。
そして、やってきたモデルが園子でした。
園子は、工場に舞い降りた天使のように美しく完璧でした。園子に一目ぼれした哲雄は、思い切って告白します。あまりの必死さに、園子はその場で頷くのでした。
付き合いが始まっても哲雄は園子に、本当はラブドールの型取りだったと言う事が出来ず、嘘を付きとおします。
哲雄と園子の、結婚が決まりました。美人で清楚なのに乳はでかくて、料理もうまくて、しっかりしてて。誰もがうらやむ奥さん。哲雄は、天にも昇る気持ちでした。
製作したドールの売り上げは伸び、さらにはバージョンアップも期待され、哲雄は仕事に邁進していきます。
結婚生活も5年になろうとしていました。園子とのセックスは、もうほとんどしていませんでした。これからのことを考えたくない哲雄は、ひとり酒を飲み歩くことが増えていきます。
映画『ロマンスドール』
【日本公開】
2020年(日本映画)
【監督・原作・脚本】
タナダユキ
【キャスト】
高橋一生、蒼井優、浜野謙太、三浦透子、大倉孝二、ピエール瀧、渡辺えり、きたろう
映画『ロマンスドール』ここに注目!
ラブドール職人の哲雄とモデルの園子の、出会いから腹上死するまでの10年間を描いた小説『ロマンスドール』。
これだけ聞くと、濃厚な官能小説かと思いきや、そこには笑いと感動、そして夫婦の愛の形が描かれていました。
映像化するにあたり、高橋一生と蒼井優の共演で、どこまで赤裸々に再現されるのか気になる所ではありますが、その他注目したい点を紹介します。
哲雄を取り巻く人間関係
『ロマンスドール』の登場人物は、哲雄(高橋一生)と園子(蒼井優)も個性的ですが、他の人物も実に魅力的です。
ラブドール職人・キンキン(きたろう)は、陽気で明るい変態オジさんですが、哲雄と園子のキューピット的存在です。
仕事のためと言いながら風俗へと通い、工場のおばちゃん達に手を出しまくる姑息さ。でも、憎まれない人っ子の良さ。その裏では、妻と別れたことをずっと後悔していました。
そして、キンキンと良い中の田代まりあ(渡辺えり)。ラブドールを作る工場で働く世話好きオバちゃんです。
特殊な職場ながら、ムードメーカーでもあり、男たちを応援する優しさもあります。
そしてもう一人。哲雄の浮気相手、理香です。原作では理香という名ですが、映画では、ひろ子(三浦透子)という名のようです。
園子とはまた違う魅力を持った理香。気丈が激しく、哲雄の家に乗り込む一面もありますが、実は本命に愛されない寂しさを抱えていました。
魅力的な登場人物を、それぞれ個性派俳優たちがどのように演じるのか。きたろう、渡辺えり、そして浜野謙太、大倉孝二、出演者を見るだけで面白いこと間違いなしです。
ラブドール職人の技
「ラブドール」。主に男性がセックスを疑似的に楽しむための女性に近い形状の人形。今やそのクオリティの高さに驚きました。
こんなことになってるなんて!肌の感触や形状が実物のものと変わらないという職人の技に、時代はここまで来ているのかとカルチャーショックを受けました。
中国のAIラブドール誕生、韓国ではラブドール輸入禁止騒動、女性職人が作る高級ラブドール。
そりゃあ、蒼井優のそっくり人形が何体もいたら、生身の人間でも勝てる気がしません。
リアルな世界で恋愛が出来ない若い世代が増えていると聞きます。AIとの恋愛映画も増えています。それもひとつの愛の形なのかもしれません。
しかし、『ロマンスドール』では、どんなに技術が進んでも、生身の人間には適わないと説いています。愛し合うこと、命の尊さを教えてくれます。
まとめ
僕と妻の、10年の、嘘と秘密と、ほんとの愛。原作『ロマンスドール』を紹介しました。
愛のあるセックス、愛のないセックス。純愛を求めながらも、性愛との狭間でどうしようもなく揺れ動く人間の弱さ。
そして、人形と生身の人間の明白な違い。血の通った人間同士だからこそ感じられる極上の愛の世界を覗いてみましょう。
映画『ロマンスドール』は、2020年1月24日公開です。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回の第3回目に取り上げるのは、映画『記憶屋 あなたを忘れない』の原作。
織守きょうやの小説『記憶屋』が、山田涼介を主演で映画化。映画『記憶屋 あなたを忘れない』として、2020年1月17日(金)に公開されます。
恋人の記憶の中から自分だけが消えていた。人の記憶を消せる「記憶屋」の存在とは?映画公開の前に原作のあらすじを紹介します。
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