連載コラム「海外ドラマ絞りたて」第9回
「海外ドラマ絞りたて」は選りすぐりの海外ドラマをご紹介するコラム。たくさんのドラマがある中、どのドラマを見ようか迷っている読者の参考にして頂こうと企画したコラムです。
今回は、サイコスリラー『セブン』(1996)を監督したデヴィッド・フィンチャーが発起人のNetflixドラマ『マインドハンター』。
あらすじを3話ネタバレで掲載し、撮影秘話も含め見所をお伝えします。
本作は、FBI内に現存する行動分析課・BAU(Behavioral Analysis Unit)の成り立ちを描く実話を基にした大人向けのクライムスリラー。
従来の動機を解明する手法では立ち行かなくなった70年代、変容する凶悪事件に挑む為、想像を絶する犯罪を犯したシリアル・キラーを研究対象にしようと思いついたFBI捜査官達が主人公の緊迫感溢れる物語です。
CONTENTS
ドラマ『マインドハンター』の主な登場人物
ホールデン・フォード(ジョナサン・グロフ)
本作の主人公。人質交渉専門でマニュアル通りに仕事をこなす29才のFBI捜査官。
ビル・テンチ(ホルト・マッキャラニー)
地方警察に講師として派遣されるFBIのベテラン捜査官。ホールデンとコンビを組まされ苦労する場面も。
ウェンディ・カー(アナ・トーヴ)
大学で教鞭を取る心理学者。プロファイリングの基礎となる犯罪者の行動分析に高い価値を見い出す第一人者。
エドモンド・ケンパー(キャメロン・ブリットン)
データ収集の為にホールデンが刑務所で面会した最初の連続殺人犯。
デビー(ハンナ・グロス)
ホールデンのガールフレンドで大学院生。
ナンシー・テンチ(ステーシー・ロカ)
忙しいビルの留守中、自閉症の息子を面倒見ながら家を切り盛りする妻。
ドラマ『マインドハンター』シーズン1の第1話あらすじとネタバレ
FBI捜査官のホールデン・フォードは、人質事件の現場へやって来ます。倉庫に人質を取って立てこもる男性の望み通り、包囲した警察官を下がらせるよう現場指揮官へ指示。
興奮した犯人を落ち着かせることを優先させ、群がる記者を除くことも補足。すると、自分が透明人間だと信じ込む犯人がズボンを脱いで全裸に。
警察が犯人の妻を呼び出しますが、ホールデンは逆効果だと訴え妻を警察車両内で待機させます。
妻と話がしたいと主張する犯人は、力になると話し掛けるホールデンの目の前で自分の頭をショットガンで撃ち自殺。
バージニア州・クワンティコ。FBI本部へ登庁したホールデンは、定石通り対応したにも拘らず解決できなかった不本意さを副長官のシェパードに吐露します。
シェバードは人質が全員無事だったことは成功だとホールデンを励まし、FBIのアカデミーで講師を務めるよう命じます。
ホールデンは講義に立ち、犯人と対する時は脅威を与えたり拒絶したりする行動は慎み、相手の話をよく聞いて理解するよう努め、落ち着かせるコミュニケーションを図るよう教えます。
最後に、人質全員救出こそネゴシエイターの役割だと付け加えます。
同じ様に講師として招かれたラスマン教授がサムの息子事件を起こしたデヴィッド・バーコウィッツを取り上げ、明確な動機を持たない犯行について講義しているのを耳にしたホールデンは、一緒にビールを飲もうと誘います。
2人は、昨今起きる犯罪の性質に変化が生じ、新時代を迎えたという見解で一致。ラスマンが帰った後、ホールデンは博士号取得を目指す大学院生のデビーに出会い、若くはっきりものを言う彼女に惹かれます。
ホールデンは、シェパードに心理学の知識を持つ専門家から意見を聞いて情報をアップデートすべきだと進言。シェパードは、行動科学課の捜査官を紹介すると言います。
ニューヨークからカリフォルニアまで地方警察へ出向きFBIの捜査技術を教える行動科学課のビル・テンチは、事件発生時、最初に対応する警察官から学ぶこともあると言い、自分に同行するようホールデンを誘います。
ドラマ『マインドハンター』シーズン1の第2話あらすじとネタバレ
カリフォルニア州、サンタクルーズ。チャールズ・マンソンに面会したいと言うホールデンに、誰も会えない相手だと呆れて首を振るビル。
毎年起きる殺人事件の内35パーセントが未解決になるカリフォルニア州は、どの州よりも多いと言うビルは、地理的要因が影響していると警察署で講義。
ホールデンは、隣に座る刑事にマンソンに会いたいと内緒話。刑事は、たとえFBIでも近づけないと言い、代わりにエドモンド・ケンパーに会うようアドバイスします。
10代の少女6人を殺害した前例の無い猟奇的な犯罪手口を聞きながら、ホールデンは顔色一つ変えず興味津々にメモ。
ケンパーを逮捕した刑事を紹介されたホールデンとビルは、ケンパーが誰も捕まえに来ないので自分から連絡を寄こし自白した経緯を聞かされます。
おしゃべり好きのケンパーに面会するべきとするホールデンに対し、ビルは突拍子もないと反対。
2人が宿泊する部屋では、ニューヨークで逮捕された連続殺人犯デヴィッド・バーコウィッツの報道が流れています。
シェパードの怒りを買うと分かっていても価値があると譲らないホールデンに、ビルは仕方なく譲歩。
ヴァカヴィルに在る刑務所。ホールデンを送ったビルはゴルフ場へ。自己防衛の為に拳銃を携帯したホールデンですが、FBIの身分証明書と共に提出を求められます。
更に、署内で暴行されたり、人質に取られたり、或いは死亡してもアメリカ政府の責任ではないと記載された免責事項に署名させられます。
面会室で待つホールデンの前に2メートルを超える長身のエドモンド・ケンパーが巨漢を揺らしながら入って来ます。
手錠と足枷を外すよう警護官に指示するホールデン。自己紹介するホールデンに、ケンパーは署内の卵サンドイッチは美味しいと長旅を労い朝食を勧めます。
ホールデンは断りますが、ケンパーは、何でも手に入ると半ば強引に卵サンドイッチを用意して欲しいと隣室の警護官に頼みます。
ケンパーの言った通り、サンドイッチを気に入ったホールデン。ケンパーは、礼儀よく振舞う自分と警護官は気が合うと述べます。
ホールデンは、リサーチの為に話を聞きたいと訪問の理由を説明。
「人を惨殺するのは肉体的にも精神的にも労力を必要とする。うっぷんを発散する為だ」とケンパーは落ち着いた様子で話し始めます。
刑務所は有益ではなく、逆に精神外科治療は一定の効果があるかもしれないと自己分析するケンパーは、女優フランシス・ファーマーが受けたロボトミーを例に出します。
まるで検品を見るような目つきだとケンパーから指摘されたホールデンは、どこから見ても普通のケンパーと犯した罪にかい離を感じると話します。
「僕は、人生の殆どを郊外に暮らす一般庶民として過ごした。動物を飼い新学校へ通う恵まれた家庭だったよ」
「しかし、同時に下劣で堕落した二重生活でもあり、暴力と恐怖、そして死で溢れていた」
ケンパーの手口が稀だと言うホールデンに、ケンパーは作業だと呼び、研究対象にすればよいと提案。
「僕みたいな人間は他にもたくさん居る」
メモを取る手を止めたホールデンは顔を上げ、次から次へと殺害する人のことかと尋ね返し、「シークエンス・キラー(Sequence Killer)」と自分なりに呼称していることを説明。
腕組みをしたケンパーは思考を巡らせた後、あくまで推測だと前置きし、北米では35人以上は居るだろうと返答。
数字を聞いて驚くホールデンに、「彼等が望まない限り、絶対に見つかることは無いよ」とケンパーは断言し、投降しなければ自分も捕まらなかったと続けます。
自分に何を望んでいるのかと訊くケンパーに、ホールデンは見当もつかないと動揺。
ドラマ『マインドハンター』シーズン1の第3話あらすじとネタバレ
マサチューセッツ州、ボストン。ホールデンとビルは、ボストン大学の教授ウェンディ・カーを訪問。
知能犯罪者について本を執筆していたウェンディは、ホールデンが送ったケンパーのインタビューメモに目を通しており、知能犯罪者とケンパーに類似性があるとコメント。ホールデンは詳しい説明を求めます。
「先ず、全員サイコパス」そう話し始めたウェンディは、自ら行った大企業家の研究に触れます。
「IBM、MGM、エクソン、ありとあらゆる大企業家を研究したわ。皆妻子持ちで犬や金魚を飼っている。サイコパスでなくなった訳では無く、別の傾向があるのよ」
ビルは、共通した基本特性があるのか訊きます。
ウェンディは、「ケンパーも同様に良心の呵責が欠落し、感情構造も欠損している」と述べ、会話を録音して文字起こししたものがあればより明確な答えを導けただろうと言います。
そして、ホールデンとビルのプロジェクト自体まだ初期段階だが、ハーヴィ・クレックレーが書いた『正気の仮面』に次ぐものだと2人を賞賛。
ホールデンとビルは、初めて自分達の行ったインタビューに対する肯定意見を聞き安堵します。
ウェンティは、犯罪者の家族構成、犯行時に過った思考、殺害時に興奮した際の思考等、もっと具体的な質問票を作成するよう助言。
充分な情報が集まったら対象比較して出版すべきとするウェンディに対し、ビルは、極秘の活動で各地にFBIのテクニックを教える教官業のお蔭でケンパーにも面会できたと説明。
非公式なプロジェクトだと気づいたウェンディに、ビルは、学問の観点から自分達のやっていることに価値があるのか尋ねたかったと話します。
ウェンディは、自分の本を出版するのに10年近く要した理由は、ナルシストは病院へ行かず、サイコパスは自分達を正常だと確信している為、研究できないのだと明かします。
更に、完璧に近い実験室条件下で彼等を研究できる路をホールデンとビルが見つけたことは、大変興味深く遠大である一方、データの収集は片手間に出来る作業ではなく、学問研究としてまとめるまでに4年から5年の時間が掛かるとウェンディは述べます。
FBI本部に戻った2人は、地下のオフィスで大量殺人を犯した服役囚の位置と警察署をマッチングしながらインタビューの予定を立てて行きます。
そこへ、サクラメント警察署から電話が入り、同じ手口の犯罪が起き、今度は被害者が殺害されたと知らされます。
犯人がエスカレートした犯行を起こすとホールデンが予想していたことから、シェパードもFBIの責任範囲と結論し、2人をサクラメントへ派遣。
刑事は一番怪しかった少年にはアリバイが有ったと手短に説明。遺体発見時の写真を見たホールデンは、子供の犯行ではなく、被害者女性が母親の年齢である大人の男かもしれないとつぶやきます。
刑事はホールデンから聞いたプロファイリングで十代の少年だけを注目していたと文句を言い、黒人かラテン系ではないのかと尋ねます。
ビルは、黒人やラテン系は高齢の女性を敬うと答え、低所得者層の白人だろうと侮蔑的な言葉で推測。
事件が起きたのか捜索中に話し掛けて来た地元の男性を思い出した刑事は、2人を連れてその男性の家へ向かいます。
息子を口汚く罵る初老の母親と同居するドワイトはおどおどした様子。家の中には犬の餌が残った器が置かれています。
外で話そうとビルがドワイトを誘うと、母親は「息子を連行してよ!そうすれば私もホッとする」と煙草の煙を吐き出します。
腕を摩るドワイトに理由を尋ねると、ドワイトは、引っ掻き傷が生々しい腕を見せ、酔っぱらって木にぶつけたと返答。
母親と2人暮らしか訊かれたドワイトは、母親が数週間前に出会ったばかりの男性を連れ込んだと苛ついた表情。
「母親に命令されてばかりいたら腹が立つよな」「あんな扱いをさせるべきじゃない、言い返せよ」
「でも母親は特別?」「自分の母親に手を出せば、全て終わりだからな」そうホールデンとビルが交互に話しながら話しやすい環境作りをしていると、ドワイトが泣きだします。
ドワイトは自供し事件が解決。警察署では警官が集まり、担当刑事がホールデンを現代のシャーロックでビルをワトソンだと呼称し、拍手が起こります。
ドラマ『マインドハンター』の感想と評価
デヴィッド・フィンチャーのプロジェクト
シャーリーズ・セロンから連絡を受けたデヴィッド・フィンチャーは、本作の原作『マインドハンター FBI連続殺人犯プロファイリング班』を紹介されます。その後、製作に向け2人は話し合いを続け、セロンが既に手配した作家が脚本を執筆。
しかし、目を通したフィンチャーは、謎に包まれた連続殺人犯に、より迫った物語を作りたいと考えます。セロンは、自分が出演した『ザ・ロード』(2010)で脚本を書いたジョー・ペンホールを推薦し、フィンチャーはペンホールにアイデアを伝えました。
ペンホールは、原作の手記を書いたジョン・ダグラスとマーク・オルシェイカーをそのまま登場人物に設定すれば、捜査官の功績やFBI自体の話になってしまうと懸念。その為、2人をモデルにしながらも、連続殺人犯との会話に主眼を置いたストーリーを創出。
こうして、「服役しているシリアル・キラーにインタビューしデータを収集することで、シリアル・キラーを仕留める方法を編み出して行くFBI捜査官を描きたかった」というフィンチャーの意向に叶う『マインドハンター』が生まれました。
残虐な描写が殆ど無い本作ですが、連続殺人犯の不気味さが伝染する様に伝わってくる良質なサイコスリラーです。
独特の制作手法と構成
参考映像:『マインドハンター』シーズン2
シーズン2まで既に配信されている本作は、最初から終わりまで全体に暗い映像です。
シーズン1の中心となるエドモンド・ケンパーとの面会場面は、モスグリーンがかっています。デビー宅やホールデンのアパートも照明を利用した茶色が混じった黄色。フィンチャーが監督した『セブン』(1996)を思わせる薄暗さは、怪しさをまとい底知れぬ怖さを醸し出します。
また、フィンチャーが2日間かけて撮影したケンパーとのインタビュー場面は、一語一語実際に語ったケンパー本人の言葉を台詞にしており長回しで撮っています。短く刻んでクロスアップ等を挟まないことで、見ている側は一気に引き込まれます。
フィンチャーは、従来の刑事ドラマにあるようなアクションを排除。大量殺人を犯した人間との会話にテーマの軸足を置いたことで、交わされる言葉に聞き入る視聴者の想像力が掻き立てられる効果を生み、まるで小説を読んだような余韻が残ることも特筆すべき点です。
ドラマ『マインドハンター』のキャスト
ジョナサン・グロフ
キャスティングのプロセスにも関わったフィンチャーは、主人公ホールデン・フォードに、『ソーシャル・ネットワーク』(2010)のオーディションに来たジョナサン・グロフを覚えており今回主演にキャストしました。
グロフは『アナと雪の女王』(2014)やテレビドラマ『glee/グリー』等で知られていますが、トニー賞に2度ノミネートされているミュージカルスターです。撮影中、「笑顔を止めて」と何度もフィンチャーに注意されたグロフは、職業病だと笑って明かします。
ホルト・マッキャラニー
『エイリアン3』、『ファイト・クラブ』に続き、フィンチャーとは本作で3度目のタッグを組むホルト・マッキャラニー。
1986年にデビューして以来、長いキャリアを持つ職人のような俳優です。行動分析課を立ち上げたベテランFBI捜査官ビル・テンチを演じるにあたり、エドモンド・ケンパーに手紙を送付。返事を貰えなかったマッキャラニーは、服役しているマンソンのカルト信者ボビー・ボーソレイユに面会し役作りしたと話します。
キャメロン・ブリットン
『蜘蛛の巣を払う女』でリスベットの友人・プレイグ役を演じたキャメロン・ブリットンが凶悪連続殺人犯エドモンド・ケンパーを演じています。
過去に特殊学級で8年間講師として従事していたブリットンは、当時感情を抑えなければ勤まらなかった職務経験がケンパーを演じることに役立ったと言います。
殆ど身動きせず座って話すブリットン扮するケンパーは、眼鏡の奥に見える瞳に底知れぬ怖さを湛えています。特に、母親のことを語る場面で、ブリットンは言葉を荒げることなくふつふつと沸くような静の怒りを表現。ブリットンは、ケンパーの演技でエミー賞にノミネートを果たし注目を集めています。
アナ・トーヴ
テレビドラマ『FRINGE /フリンジ』のオリビア・ダナム役で知られるオーストラリア人俳優のアナ・トーヴは、オーディションでウェンディ・カー役を獲得。
難しい役柄をなんなく演じてしまえるトーヴは、同性愛者・大学教授・FBIのコンサルタントとまだ差別の色濃い70年代に生きる様々な顔を持つ女性を見事に演じています。
高圧的な態度を取るビルに視線だけで不快感を表す場面や新しく恋人になった女性に辛くあたる傷ついた心情も抑えて表現し逆に雄弁。また、地下にある洗濯場でワインを飲みながら子猫に餌をあげる台詞の無いシーンでも、トーヴはスペースを上手く支配しながら姿を現さない子猫に対するワクワク感を表現。本作では数少ない女性の主要キャラクターで、知性と品を備えた美しさが魅力。
まとめ
まだシリアル・キラーという言葉が存在していなかった70年代後半。事件の様相が変化した時代を迎え、人質交渉人のFBI捜査官・ホールデンは連続殺人犯に面会し事件対処に役立てようと考えます。
行動分析の専門家ビル・テンチとコンビを組み、2人で始めた連続殺人犯達のインタビューは、後にFBIの捜査手法に革命的変化を与えることになります。
「誰も『ティファニーで朝食を』のリメイクをしようと声を掛けてくれない」と笑うデヴィッド・フィンチャーは、計り知れないからこそ興味が尽きないと『セブン』『ゾディアック』(2007)に続き、連続殺人犯を取り上げた『マインドハンター』を製作・監督し、実在のFBI捜査官ジョン・ダグラスが行ったプロジェクトを描いています。
次回のコラム『海外ドラマ絞りたて』は、実話に基づいた刑事ドラマ『アンビリーバボー』をご紹介します。