連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第87回
今回紹介するのは、2025年4月18日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開の『104歳、哲代さんのひとり暮らし』。
広島県尾道市で、100歳を超えてひとり暮らしを続ける石井哲代さんの101歳から104歳までの日々に密着しました。
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映画『104歳、哲代さんのひとり暮らし』の作品情報
(C)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
【日本公開】
2025年(日本映画)
【監督・編集】
山本和宏
【プロデューサー】
中村知喜、古田直子、出雲志帆、髙山英幸
【撮影】
的場泰平、筒井俊行
【音響効果】
金田智子
【ナレーション】
リリー・フランキー
【作品概要】
広島県尾道市で100歳を超えてひとり暮らしを続ける石井哲代さんの日々を見つめたドキュメンタリー。
テレビ朝日「世界の車窓から」やNHKのドキュメンタリー番組を手がけてきた山本和宏が、テレビ企画として2022年から密着撮影した映像を、劇場用映画として編集し、リリー・フランキーがナレーションを担当。
広島県では1月31日から先行公開され、公開17日目の2月16日に観客動員1万人を突破。翌17日の興行通信社発表のミニシアターランキング(公開30館以下スタートの作品が対象)でも、広島県内5館にも関わらず公開3週目にして第3位を記録しました。
映画『104歳、哲代さんのひとり暮らし』のあらすじ
(C)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
尾道の自然豊かな山あいの町にある一軒家で、100歳を超えてひとり暮らしをしている石井哲代さんは、小学校の教員として働き、退職後は民生委員として地域に尽くしてきました。
83歳で夫を見送ってからは、姪や近所の人たちと助けあいながら過ごしてきた哲代さんは、年齢を重ねて思うようにいかないことが増えても、自分を上手に励まし、自由な心で暮らしをしなやかに変えていきます。
そんな哲代さんの101歳から104歳までの日々にカメラを向け、老いて楽しく生きるヒントにあふれた暮らしを映します。
老いてなお元気な百寿超えのおばあちゃん
(C)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
広島県尾道市で、ひとり暮らしをしていた石井哲代さんが注目を浴びたのは、100歳を迎えた2020年に、地元の中国新聞で紹介されたのがきっかけでした。
「人生100年時代のモデル」として、新聞連載をまとめて刊行された書籍もベストセラーになるなど、その存在が全国にまで知られるようになった哲代さん。本作『104歳、哲代さんのひとり暮らし』は、その哲代さんの101歳から104歳までの日々にカメラを向けたものです。
独居老人が被写体のドキュメンタリーと聞くと、老人介護や福祉が抱える課題に鋭いメスを入れる…といった深刻な内容を連想する方もいるかもしれません。しかしながら本作には、そうした描写はほぼありません。
孤独に寂しく暮らしているどころか、カメラを向ける撮影クルーに「こんなところを撮らナイチンゲール」とダジャレを言えば、老いを自虐的に笑いのネタにする。頭の回転が早く、字幕を必要としないほどハキハキと喋るその姿は、とても百寿超えのおばあちゃんには見えません。
食事面でも食が細くなるどころか肉を好み、包丁さばきも衰え知らず。ノートに日記を毎日つければ詩も嗜むなど、元教員ということもあってか常に活字と向き合う。物忘れする頻度も親戚や隣人の介助を要する機会が徐々に増えるも、自分でできる最低限のことは自分で行います。
雑草は教えてくれる
(C)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
笑顔を絶やさない哲代さんですが、大正から昭和、さらに平成から令和へと元号が移り変わってきた中で、さまざまな紆余曲折を辿ってきました。太平洋戦争、結婚、夫との死別、コロナ禍でのケアホームに暮らす妹との対面…それら道標を文字に刻んでいきます。
本作監督の山本和宏は、哲代さんに密着した狙いを「長寿の素晴らしさを語っていただくため」としています。「100歳まで生きたい」と考える人はわずか2割とされるこの日本。ですが、「一人暮らしだけど一人じゃない」とノートに記したように、哲代さんの生活は長寿大国で生きる指針の1つとなるやもしれません。
冒頭、目に付いた道に生えている雑草を抜くことを日課としていた101歳の哲代さん。ですが終盤で104歳になった哲代さんは、その雑草を抜くのを止めます。
本人が語るその理由もまた、「長寿の素晴らしさ」とイコールとなっているのです。
(C)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューのほか、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)