Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

映画『クィーン・オブ・ベルサイユ』感想とレビュー評価。「大富豪の華麗なる転落」という“天国と地獄”|だからドキュメンタリー映画は面白い38

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第38回

浮世離れしたアメリカンドリーマーの華麗なる転落

今回取り上げるのは、2014年日本公開の『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』。

不動産で巨万の財をなしたアメリカの大富豪シーゲル夫妻の転落人生に密着した、リアルドキュメントです。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』の作品情報


(C)2012 Queen of Versailles, LLC. All rights reserved.

【日本公開】
2014年(アメリカ・オランダ・イギリス・デンマーク合作映画)

【原題】
The Queen of Versailles

【監督・製作】
ローレン・グリーンフィールド

【製作】
ダニエル・レンフルー

【撮影】
トム・ハーウィッツ

【編集】
ビクター・リビングストン

【音楽】
ジェフ・ビール

【キャスト】
デヴィッド・シーゲル、ジャッキー・シーゲル、ヴィクトリア・シーゲル、ドナルド・トランプ

【作品概要】
不動産で巨万の富を築いた夫婦が、2009年のリーマンショックにより頂点から転落していく過程を記録したドキュメンタリー。

ヴェルサイユ宮殿を模した巨大新居をアメリカに建設しようとした、夫婦の顛末に密着します。

サンダンス映画祭ドキュメンタリー監督賞をはじめ、50を超える世界中のメディアの賞を受賞するなど、批評的にも興行的にも大ヒットを記録しました。

映画『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』のあらすじ

(C)2012 Queen of Versailles, LLC. All rights reserved.

無一文から、年収500万円前後の庶民向けのタイムシェア(共同所有)リゾートビジネスで、巨万の富を築いたデヴィッド・シーゲルと、彼の3人目の妻で元ミスフロリダの経歴を持つジャクリーン(通称ジャッキー)。

それまで2500平米もの大邸宅で贅沢な暮らしを送っていた2人は、アメリカ最大の邸宅を作るという夢を抱き、2007年、総工費100億円を費やし、ヴェルサイユ宮殿を模した8500平米の巨大邸宅をフロリダに建設すると発表します。

建設は順調に進んでいたものの、翌2008年、サブプライムローンの破綻(リーマンショック)によって運命が一転してしまい、2人は莫大な借金を抱え、大邸宅の建設も行き詰まることに。

デヴィッドは金策に走るようになりますが、一方のジャッキーは節約をする気持ちはあるものの、なかなか浪費癖が抜け出せません。

はたして、彼らの運命は?

スポンサーリンク

当初の撮影プランを逸脱、予想だにしないドキュメンタリーに展開


(C)2012 Queen of Versailles, LLC. All rights reserved.

本作『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』は、大富豪のシーゲル夫妻がフロリダに巨大邸宅を建てるとして、監督のローレン・グリーンフィールドがその模様を記録しようと、2007年から撮影を開始。

最初の予定では、邸宅の完成をゴールとした現代のアメリカンドリームの体現を追うというものでしたが、それが大きく変わることとなったのは、翌年秋に起こったリーマンショックからでした。

金融恐慌のあおりを受け、一気に巨額の負債を抱えてしまったシーゲル夫妻は、保有するホテルの売却や大規模なレイオフを行いつつ、邸宅完成を目指すこととなります。

アメリカドリームの成功ところか、地獄のどん底に落ちてしまう模様を収める展開になるとは、当然ながらグリーンフィールドも予想だにしていなかったと語ります。

ここに、先が読めないドキュメンタリー映画制作の奥深さがあります。

金策に走る夫と、浪費癖が止まらない妻

(C)2012 Queen of Versailles, LLC. All rights reserved.

リーマンショック前までは、とにかく贅の限りを尽くす生活をしていたシーゲル夫妻。

しかし財政破綻したことで、夫のデヴィッドは半分ほど完成していた豪邸の建設を中断し、会社の立て直しに奔走するようになります。

一方、妻のジャッキーは、それまでのセレブ生活から抜けきれません。

「節約のため」と言いながら、専用リムジンでマクドナルドに乗り付けてポテトをほお張れば、ショッピングモールでは日用品を大量に爆買い。

その買い物品も、家に置ける場所がなく貯まる一方で、倉庫には乗ったことのない自転車が20台以上も積まれている有様。

家政婦から止められるぐらい、子どもたちへのクリスマスプレゼントも買い込んでしまう彼女の金遣いぶりに、デヴィッドも神経過敏となり、光熱費を節約しようと「俺を愛しているなら、電気を消せ!」と怒鳴る始末です。

物が貯まるのに反比例するかのように、お金の貯えは減っていく一方。

ついには家政婦を雇う金もなくなり、家の中は犬のフンの後始末もできなくなるほど汚れていきます。

豪邸を建設時、なぜヴェルサイユ宮殿のようなデザインにしたのかと尋ねられ、「私にはそれが出来るから」と答えていたデヴィッド。

ちゃんとしたトイレを作らなかったために、あらゆる所が排泄物だらけだったと云われるヴェルサイユ宮殿を、まさかこのような形で再現するとは、彼自身夢にも思っていなかったことでしょう。

スポンサーリンク

お金とは、成功とは、幸せとは何か

多くの人は、金持ちセレブの凋落ぶりがどんなものなのかを目当てに、本作を鑑賞したことでしょう。

確かに、デヴィッドの常軌を逸した成金趣味には度肝を抜かれますし、ジャッキーの危機感のない金銭感覚には呆れ、笑ってしまいます。

ただ、最初の撮影プランとは大きく逸脱したものの、2人を笑い者にする目的で本作が製作されたわけではないと思われます。

貧しい境遇を乗り越えて巨万の富を築き、「ブッシュの息子(ジョージ・W・ブッシュ)を再選させたのはこの私」と豪語するデヴィッドですが、カメラは、奥底にある孤独感を仕事に没頭して紛らわそうとする彼の姿を、暗にフォーカスします。

デヴィッドが築こうとするヴェルサイユ宮殿のような豪邸は、彼にとって最大の成功の証。

年齢が30以上離れたジャッキーを3人目の妻としたのも、彼にすれば「トロフィーワイフ」と呼ばれる成功の証なのかもしれません。

そのジャッキーも、元々は平凡な労働者階級の出身。

わずかな賃金のバイト生活からミスコンで優勝し注目されるも、最初に結婚した夫からのDVが原因で離婚し、どん底に。

しかし、デヴィッドに見初められて再婚したという、浮き沈み人生を歩んできた女性なのです。

だからこそ、自分もお金がないにもかかわらず、自宅を差し押さえられた友人に資金援助をすれば、「生活が苦しくても、デヴィッドと一生一緒にいる」と言い切れるのでしょう。

そんな、お金に対する苦労を誰よりも知っていたはずの2人が、ようやく成功して手にした富に執着するあまり、幸せの基準値を見失ってしまう――。

本作の最大のテーマとしては、「お金、成功、幸せ」の3つのパワーバランスの崩壊を追うことにあると思います。

8人いる子息の中で、唯一養子縁組をした姪の言葉「お金に自由なようでいて、お金に縛られている」が、夫妻の本質を見事に突いています。

凋落夫婦の「その後」


(C)2012 Queen of Versailles, LLC. All rights reserved.

最後に、本作の後日談を。

デヴィッド・シーゲルはその後、本作での取り上げられ方を不服とし、グリーンフィールド監督を名誉毀損で訴える事態に発展。

金遣いこそ難あれど、家族や知人思いな一面を見せるジャッキーに比べて、デヴィッドが愛情に薄いビジネスに失敗した人物という描かれ方をされた感は確かにあるものの、結果としては名誉棄損に当たらないとして、グリーンフィールド側の勝訴となっています。

ビジネス面では、企業経営権を譲渡したり、新たな企業買収を経てラスベガスのホテル事業を軌道に乗せたり、フットボールチームのオーナーになるなど、ある程度の立て直しに成功。

この騒動で注目を集めたことで、夫妻揃ってテレビタレントとしても活動しました。

その一方で、2人の娘の長女ヴィクトリアが、2015年に18歳で亡くなる不幸も。

本作に出演したことで周囲からいじめを受け、それで心身を患ったことによる薬物の過剰摂取が原因とも言われています。

そして、肝心かなめなフロリダの邸宅ですが、一時は売りに出されるも再び建設を開始。

2020年2月時点で完成したという報を聞かないアメリカのヴェルサイユ宮殿は、無事に建城するのか、それとも砂上の楼閣に終わるのか?今後が気になるところです。
 

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『ジョージ・ワシントン』あらすじと感想。デヴィッド・ゴードン・グリーンが幻のデビュー作で描く人間の純粋な強さ|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館5

2018年3月から一時閉館していた京都みなみ会館が、2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活。 リニューアル記念イベントとして、2019年9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ …

連載コラム

映画『スクールズ・アウト』感想と評価。キャストの演技力が結末の衝撃まで牽引する|SF恐怖映画という名の観覧車70

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile070 当コラムでは今週も引き続き「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」より、おススメの作品をピックアップして深堀してい …

連載コラム

映画『照射されたものたち』感想と評価レビュー。リティパン監督が人類の3つの大虐殺をドキュメンタリーで描く【東京フィルメックス2020】|映画という星空を知るひとよ36

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第36回 人類史上の3大悲劇といわれる、ナチスのユダヤ人大虐殺、カンボジアのポル・ポト政権下の虐殺、広島・長崎の原爆投下を、大量の資料映像のモンタージュから描き …

連載コラム

【ホラー映画2021】注目ランキング5選!劇場公開ベスト作の洋画邦画の見どころ解説【糸魚川悟セレクション】|SF恐怖映画という名の観覧車136

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile136 新年あけましておめでとうございます。 人々の暮らしを大きく変えた新型コロナウイルスは猛威は年を明けても収まらず、2021年も厳しく長い1 …

連載コラム

映画『ファイティン!』感想と解説。マ・ドンソクの強さと優しさの魅力を探る|コリアンムービーおすすめ指南3

連載コラム「コリアンムービーおすすめ指南」第3回 こんにちは西川ちょりです。韓国映画を取り上げる月に一度の連載も今回で3回目。 今回は10月20日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にてロードシ …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学