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Entry 2019/04/07
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松下恵映画『アラフォーの挑戦 アメリカへ』ネタバレ感想レビュー。語学留学先で見た多様な価値観と本当の行き先とは⁈|だからドキュメンタリー映画は面白い12

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第12回

「アラサー」、「アラフォー」って呼ぶのは“エイハラ”になるって知ってましたか?

『だからドキュメンタリー映画は面白い』第12回は、2019年4月6日(土)より公開の、『アラフォーの挑戦 アメリカへ』。

結婚・出産に関する漠然とした悩みを抱える女優・松下恵が、語学勉強のためアメリカにホームステイ。

現地生活を通して多様な価値観に触れることで、人生観を見つめ直していきます。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『アラフォーの挑戦 アメリカへ』の作品情報

(C)アラフォー・フィルムパートナーズ

【日本公開】
2019年(日本・アメリカ合作映画)

【監督】
すずきじゅんいち

【キャスト】
松下恵、サラ・ジョンストン、ユカリ・ジョンストン、ロバート・ジョンストン、キャロリン・ヒル、ロジャー・クリスチャンセン、ユリ・ナカムラ、タカヨ・フィッシャー、デビッド・グリーンスパン、シャロン・グリーンスパン

【作品概要】
元アイドル女優・榊原るみの実娘で、自身も女優である松下恵。

年齢も30歳代半ばを過ぎ、未だ独身である彼女が、自分をリセットするために約1ヵ月ほどアメリカに語学留学。

語学を学ぶかたわら、自らインタビュアーとなってアメリカ人の結婚や仕事に対する考えを聞いていきます。

監督は、松下の義父でもあり『マリリンに逢いたい』(1988)、『秋桜(コスモス)』(1997)などを手がけた、すずきじゅんいちが担当しました。

映画『アラフォーの挑戦 アメリカへ』のあらすじ

(C)アラフォー・フィルムパートナーズ

特撮ドラマ『帰ってきたウルトラマン』などで、1970年代に人気を博した女優の榊原るみを母に持つ、松下恵。

テレビドラマ『3年B組金八先生』の生徒役や、映画『秋桜(コスモス)』では初出演にして初主役を務めるなど、母と同じ女優の道を歩んできました。

そんな彼女も37歳(撮影時)という、いわゆるアラフォー世代に。

恋愛経験もそれなりにしてきたものの、今なお独身の松下は仕事面での悩みも相まって、行き詰まりを感じていました。

2018年、そんな彼女にアメリカからある企画の話が持ち上がります。

それは、現地で語学学校を経営するプロデューサーからの、若者に海外留学を勧めるための映画製作依頼でした。

以前からオンラインでの語学レッスンを受けていた松下は、現地での生きた英語に触れたいという気持ちから、短期語学留学を決意。

語学を学ぶかたわら、自らインタビュアーとなってアメリカ人の結婚、仕事に対する考えを聞くことにしたのです。

「自由の国」と称されるも、必ずしもプラスな事ばかりではないアメリカの実情、そしてそのアメリカから、自分が語学以外に得られる物はあるのか…。

様々なアンテナを張りめぐらせてアメリカに飛び込んだ、松下の挑戦や如何に?

ドキュメンタリーならぬ「ゲキメンタリー」

(C)アラフォー・フィルムパートナーズ

本作は、主演の松下恵がアメリカへ1ヶ月ほど語学留学でアメリカに滞在した模様を、彼女の義父である監督のすずきじゅんいちが延べ180時間近く撮影し、まとめたものです。

ただし本作は、松下自身がホームステイ先を探すのに悪戦苦闘したり、町ゆくアメリカ人に突撃インタビューを敢行する…といった内容ではありません。

あらかじめ下宿が決まっていたホームステイ先の家族や松下の友人、またはメディア関係者たちから話を聞くことで、結婚観や貧困問題、はてはLGBTの価値観などといったアメリカの“今”を知るという構成となっています。

アメリカの“今”と松下自身の“今”を照らし合わせていく、ドキュメンタリーというよりモキュメンタリー、製作スタッフの言葉で言うところの、“ゲキメンタリー”なのです。

人生には多様性がある

(C)アラフォー・フィルムパートナーズ

松下が見たり体験するアメリカの実情は、驚くべきことばかり。

彼女が最初に驚いたのは、ボランティアへの関心の高さ。

最初にホームステイしたミラー一家では、家族総出でボランティア活動に勤し、二軒目に訪れた80歳を超えるロバートは、路上生活のホームレス女性に食事券を与え続けます。

高いといえば、アメリカの離婚率の高さも特筆すべき点です。

カリフォルニア州の離婚率は、初婚だと80%、2回目になるとなんと90%にまで上がるのだとか。

そして、ハリウッドでメイキャップアーティストとして活躍するユリ・ナカムラは、「アラフォー」、「アラフィフ」なる言葉自体、アメリカでは年齢で差別するエイジハラスメントとみなされると語ります。

アメリカでは年齢は単なる“数字”でしかなく、人生は数字で縛られない多様性がある。

37歳で未婚という現状に焦りを見せていた松下は、「結婚すること、家庭を持つことが全てのゴールではない」という考え方があることに気づかされるのです。

モヤモヤ感を経て見えてくる本当の「挑戦」


(C)アラフォー・フィルムパートナーズ

本作を観ていて終始気になったのは、松下がとにかく恵まれていること。

宣伝コピーこそ“がけっぷち女優”と書かれていますが、前述のように、ホームステイ先から取材先から何から何まで最初から仕込まれていますし、元々語学勉強をしていたこともあって、英語での会話も比較的難なくこなせています。

正直言って、映画全体がNHK-Eテレ番組のような作りになってしまっているのは否めません。

せめて撮影自体は、彼女自身がカメラを回すセルフ手法で良かったのではと…思われます。

義理の父が監督だからというのもあるのか、娘に無理はさせられないというある種の過保護感も伝わってきて、とにかくモヤモヤした印象を受けるのです。

そうしたモヤモヤの原因が分かったのは、終盤でインタビューを受けた男性同性婚カップルの一人、マイケルの言葉から。

彼は、松下の悩みの根底には、親離れ、子離れしきれていない母娘関係があるとズバリ指摘します。

現在も母の榊原るみと同居しているという松下は、本作の初日舞台挨拶上でも「毎日、結婚しろと言われている」ことを吐露しています。

そんな彼女は本作で、テレビドラマ『フレンズ』を手がけたプロデューサーのロジャー・クリスチャンセンから、監督業をやってみてはどうかと言われます。

ジョディ・フォスターやアンジェリーナ・ジョリーのように、ハリウッドには映画監督業にも進出した女優がいることを踏まえての提案です。

舞台挨拶でも、「続編を作るなら自分で監督できれば…」的なニュアンスのコメントを発している松下。

いずれにせよ、タイトルこそ『アラフォーの挑戦』となっていますが、レールに敷かれた状態でアメリカへ行くことが、「挑戦」ではありません。

アメリカ行きは、あくまでもスタートライン。

親元を離れての完全自立こそが、松下恵の本当の「挑戦」なのかもしれません。

『アラフォーの挑戦 アメリカへ』は、2019年4月6日(土)より公開です。

次回の「だからドキュメンタリー映画は面白い」は…

(C)「蹴る」製作委員会

次回紹介するのは、2019年3月23日(土)より、ポレポレ東中野を皮切りに全国順次公開中の、『蹴る』。

重度の障がいを抱えながらも、電動車椅子サッカーワールドカップ優勝を目指す選手たちを、6年という長期にわたり撮影した渾身の一作です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

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