連載コラム「インディーズ映画発見伝」第10回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第10回目では、木村聡志監督の映画『恋愛依存症の女』をご紹介いたします。
レプロエンタテインメントとタッグを組んで最新作『階段の先には踊り場がある』を準備中の木村聡志監督の長編初映画『恋愛依存症の女』。
さまざまな登場人物たちが織り成すユーモラスな恋愛群像劇を199分という長尺で描き、どこかクセのある登場人物たちが愛おしく思える映画です。
映画『恋愛依存症の女』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【監督、脚本】
木村聡志
【キャスト】
ひらく、品田誠、山谷武志、小島彩乃、大須みづほ、金久保茉由、松森モヘー、安楽涼、吉田裕美、澁川智代、高橋花生、向井稜太郎、井手口裕樹、三森麻美、安達可奈、村上亜利沙、山下ケイジ、出倉俊輔、ヤノキョーコ、佐藤雄紀、はぎの一、平岡佑介、渋谷恭子、杉木悠真、南久松真奈、大塚ヒロタ
【作品概要】
監督を務めた木村聡志監督は、2013年「ENBUゼミナール映画監督コース」卒業後、フリーの撮影部や録音部として映画製作に携わり、映画『恋愛依存症の女』で長編監督デビューしました。他作品に短編『テンダーガール』、『暇乞い白書』など。
ニコ役にはミスiD 2016のファイナリスト・ひらく。ニコが想いを寄せるバイト先の店長役を務めるのは『飢えたライオン』(2018)、『帝一の國』(2017)などに出演するだけでなく、監督としても活躍している品田誠。その他『真っ赤な星』(2018)の山谷武志、『かぞくあわせ』(2019)の小島彩乃などが出演。
映画『恋愛依存症の女』のあらすじ
舞台『恋愛依存症の女』でヒロインさえ役を演じることになったニコ(ひらく)はバイト先の店長に片想いをしていますが、なかなか想いを伝えられずにいます。
ある日、バイト先のカフェに店長の元妻がやってきて、ニコは店長への気持ちを募らせていきますが……。
一方、舞台の原作小説を書いた小説家の鏑木(山谷武志)は、小説『恋愛依存症の女』でヒットするもその後は泣かず飛ばずで、世間からも忘れられ細々と生活しています。
出版社に新作を渡しに行ってもトレンドではないと出版にまで漕ぎ着けません。そんな時以前恋人だったチー坊(小島彩乃)が結婚するという話を編集長から聞かされ、会社内で偶然チー坊と再会します。
再会して想いが再熱した鏑木ですが、鏑木は他にも複数の女の子と曖昧な関係を持っており、次第に恋のもつれはややこしくなっていきます。どのような終着が待ち受けているのでしょうか……。
映画『恋愛依存症の女』感想と評価
本作では、『恋愛依存症の女』の作家鏑木とチー坊をめぐる恋愛と、舞台『恋愛依存症の女』で主人公さえを演じるニコの店長への片想いを中心に描きつつ、鏑木の隣に引っ越してきたアリスとエビちゃんなど、様々なクセのある登場人物達の恋愛が描かれています。
映画『街の上で』のように、それぞれの登場人物の物語が展開されながら同じ場所でその登場人物たちがすれ違い、次第に繋がっていき、大団円に向かっていく様は観客の心をくすぐり、あっと驚かせてくれます。
このような手法は『恋愛依存症の女』以前に製作された中編『暇乞い白書』にもあらわれており、『暇乞い物語』では別れと受け継がれてくものという繋がりを描いています。
ニコはさえという恋愛依存症の女を演じることになりますが、ニコ自身は恋愛の経験がなく、初めての気持ちに戸惑いを感じています。一方店長は妻と離婚し、その後は恋愛や人とちゃんと向き合うことを遠ざけていました。
ニコの真っ直ぐな想いに対し、店長は自分ではなくても他にいい人がいる、自分は人とちゃんと向き合ったり人の気持ちを考えることができないと答えます。
真っ直ぐなニコはそんな店長に対し、店長と自分の時間はちゃんと向き合っていないと感じたことはないと、2人は平行線のままです。
そしてニコは自分が店長に避けられていると感じ、辛い想いをするくらいなら店長への気持ちを諦めようと思ったのでしたが、ニコの店長への素直な想いに突き動かされた劇団員は、ニコにもう一度店長に想いを伝えるよう彼女の背中を押します。
ニコの真っ直ぐな告白を聞いた店長は今すぐに付き合うことはできないが、少しずつ自分なりの方法で好きになっていきたいと気持ちが変化します。
ニコのもどかしいほど真っ直ぐな気持ちと違い、鏑木の気持ちはふらついていて情けなさすら感じます。鏑木は好意を抱いてくれる女性と何となく関係を続け何人もの女性と交際し、本命はかつての恋人、チー坊だと思い込んでいます。
しかし、チー坊は結婚が決まっており、2人の関係はとうに終わっていました。
終わっていることに気づけず抗おうとする鏑木と、純粋に店長に恋をし想いを伝えようと必死になるニコ。
2人の姿はかつての自分や、今恋している自分、恋している誰かの姿に重なるほどで、どこかにいそうなリアルさやもどかしさを感じます。
共感できる人々のコミカルで滑稽さも愛おしく思えるような姿を199分という長尺で描きますが、様々な人が織りなすドラマの愛おしさ、終盤に向け恋も加熱していく様が観客の心を惹きつけ飽きさせません。
まとめ
どこにでもいるような人々のちょっぴり滑稽だったり、不器用だったり……と、様々な人々が織りなす恋愛群像劇『恋愛依存症の女』。
タイトルにもなっている『恋愛依存症の女』は劇中では鏑木の書いた小説のタイトルであり、ニコら劇団が演じる演目が『恋愛依存症の女』です。
ニコが演じるさえは恋愛依存症の女であり、恋愛に夢中になるあまり友人を騙したり、お金を渡したりしてしまう人物として描かれていますが、ニコをはじめ本作に出てくる登場人物にはそのような“恋愛依存症”の人物がいません。
そのようなギャップもありながら、様々な恋愛現像劇を描く本作は199分という長尺ながら観客を飽きさせず、心を鷲掴みにするようなリアルさ、愛おしさがあります。
見終えた後は登場人物の誰かを好きになったり、いつかの自分と重ねたりして、心があったかくなるでしょう。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第11回は、ながおか映画祭や田辺・弁慶映画祭、山形国際ムービーフェスティバルなど数々の映画祭で賞を受賞した松本卓也監督の『マイ・ツイート・メモリー』。
次回もお楽しみに!