連載コラム「インディーズ映画発見伝」第23回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第23回目では、高橋伸彰監督の映画『夏の夜の花』をご紹介いたします。
中国の中央戯劇学院に留学経験のある高橋伸彰監督が大阪芸術大学と中央戯劇学院の学生と協力し自身の卒業制作として制作。
大阪に住む中華系の親子のすれ違いと愛の再生を描いたヒューマンドラマ。
映画『夏の夜の花』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本】
高橋伸彰
【キャスト】
梅舟惟永、ジャック・リー(李遠)、林恒毅、谷原広哉
【作品概要】
高橋伸彰監督は大阪芸術大学映像学科卒業後、『葛城天使』(2007)、『地上からの観測』(2009)などを手がけました。2012年、中国に留学、中央戯劇学院の映画学科演出シナリオコースに在籍します。
中央戯劇学院の卒業制作として『夏の夜の花』(2019)を制作。本作は2019年の東京神田神保町映画祭ファンタスティックフィルムコンペティションにて、グランプリを受賞し、第21回ハンブルク日本映画祭に正式出品されました。
母親を演じたのは演劇ユニット「ろりえ」で活動し、『痛くない死に方』(2021)、『寝ても覚めても』(2018)などに数多くの作品に出演している梅舟惟永。待機作は『成れの果て』(2021年公開予定)。
映画『夏の夜の花』のあらすじ
大阪で生活する中華系の母子。
絵描きの夢を追い、絵のために旅行すると嘘をつき父は近くに部屋を借りています。そんな父に母は我慢ができず、4歳になる息子のヤンヤンに会わせないでいます。
ヤンヤンの世話をしながら遅くまで働く母は毎日くたびれ、ヤンヤンと花火に行くという約束も忘れてしまいます。
ある日、保育園から目を離した隙にヤンヤンがいなくなったという連絡がきて……。
映画『夏の夜の花』の感想と評価
“ママ大好き、パパも大好き”
本作は大阪に住む中華系の親子を描いていますが、母親一人で子供を育てる大変さ、子供の気持ちにまで余裕を持てない姿など親子のすれ違いや互いを思い合う心は普遍的なものなのだと感じさせてくれます。
幼いヤンヤンは父親と母親関係が良くないのも、母親が大変なのも幼いながら理解しています。しかしヤンヤンにとっては父親も母親も大切で、一緒にいたい気持ちに変わりはないのです。
ヤンヤンが思わず取ってしまった行動、母親に言えなかったこと、ヤンヤンの健気さに胸がいっぱいになります。
父親がヤンヤンを連れ去ったのではないかと疑う母親は父親の元に押しかけ、怒鳴ります。毎朝7時に起きて、夜遅くまで働いて、週末はずっと一緒に遊んで、あなたにそれができるのか、と。一人で子育てしていくことの大変さが強く伝わってきます。
それでもヤンヤンのために頑張る母親ですが、いつしか忙しくてヤンヤンの気持ちに気付いてあげられていなかったことに気づくのです。
子が親を思う気持ち、親が子を思う気持ち。すれ違っていた親子の愛が再生していく姿にあったかい気持ちになります。
一方で父親はどうでしょうか。あまり父親の心情は多く描かれていませんが、ママが怒ったら、“ママ大好き、パパも大好き”と言うんだぞとヤンヤンに言ったのは父親でした。
一人でヤンヤンを育てている母親の大変さ、そして自分の不甲斐なさもどこかでわかっているのかもしれません。
更に、子供のヤンヤン目線で語ることにより、その健気さがより胸を打つ映画となっています。
タイトルにある“夏の夜の花”とは“花火”のことであり、母親は忙しさに花火大会に行く約束を忘れてしまいます。商店街を駆け抜けるヤンヤン、そしてヤンヤンの元へ走り出す母親。
すれ違っていた母子の気持ちが結びつくクライマックスと共にある花火にも注目です。
まとめ
中国に留学経験のある高橋伸彰監督が大阪芸術大学と中央戯劇学院の学生と日中合作で制作した映画『夏の夜の花』。
大阪で暮らす中華系親子のすれ違いと愛情の再生を4歳の息子ヤンヤンの視点で描きます。
“ママ大好き、パパも大好き”
不仲の両親の事情を理解しながらも、親を思い一緒にいたいと思うヤンヤンの健気な気持ち。一方で、毎日必死に働き何とか一人でヤンヤンを育てていこうと奮闘する母親。
親を思う気持ち、子を思う気持ちは万国共通であり、その普遍的な日常と親子の愛情に心が温まります。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第24回は、河内彰監督『光関係』『幸福の目』を紹介します。
次回もお楽しみに!