連載コラム「電影19XX年への旅」第6回
歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」。
第6回は、『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』のスタンリー・キューブリック監督が完全犯罪を企てた男たちの映画『現金に体を張れ』。
競馬場から200万ドルを強盗をするため、綿密な計画を立てた男たち。しかし、仲間の一人が妻に計画を話すと、妻は浮気相手に話を漏らし……。
時間軸をずらして、犯罪に挑む姿を描いた犯罪映画です。
映画『現金に体を張れ』の作品情報
【公開】
1956年6月6日(アメリカ映画)
【原題】
The Killing
【監督・脚本】
スタンリー・キューブリック
【キャスト】
スターリング・ヘイドン、コリーン・グレイ、ヴィンス・エドワーズ、ジェイ・C・フリッペン、テッド・デコルシア、マリー・ウィンザー、エリシャ・クック、ジョー・ソウヤー、ティモシー・キャリー、コーラ・クワリアーニ、
【作品概要】
『2001年宇宙の旅』(1968)や『時計じかけのオレンジ』(1971)のスタンリー・キューブリックが監督を務める犯罪映画。原作はライオネル・ホワイトの小説『見事な結末』です。
当時ハリウッドスターだった『アスファルト・ジャングル』(1950)のスターリング・ヘイドンや、日本でもヒットしたドラマ『ベン・ケーシー』(1961 – 1966)のヴィンス・エドワーズが出演しています。
映画『現金に体を張れ』のあらすじとネタバレ
競馬レース会場では、高らかなファンファーレが鳴っています。マービンは競馬などの賭け事には興味がありませんでしたが、会場に足を運んでいました。
それぞれの馬に5ドルずつを賭けますが、負けることは目に見えています。しかしマービンは、大金が手に入る計画を進めている途中でした。
一週間ほど前、警官のランティーは、バーを訪ねていました。ランティーは文無しで、借りた金を返すことができません。
一方、5年の牢屋生活を終えたジョニーは、マービンが帳簿係を勤める宿に住んでいました。結婚を考えているフェイに、大金を手に入れる方法を思いついたと話します。
マービンがドアを開くと、ジョニーたちは愛想良く挨拶をします。
ジョージは、退屈で家事もしない妻シェリーに、愛されない日々を過ごしていました。金を目的に結婚されたジョージでしたが、仕事も成功せず、みすぼらしい生活を送っています。
ジョージは大金を手にするチャンスを手に入れたと妻に語ります。しかしそれも信じてもらえません。
愛する妻のため、金を集めようとしたジョージでしたが、シェリーは堂々と浮気をしようとしています。見かねたジョージは、計画についての話を漏らしてしまいます。
シェリーは浮かれた様子で、浮気相手のバンに会っていました。そこで、ジョージが話した計画の話をします。それは、競馬場で売り上げの金を盗むという計画でした。
ジョージとは別れようとしていたシェリーでしたが、金のため関係を続けます。バンは計画を知ると、分け前だけでなく、盗んだ金全てをかっさらう計画を考えます。
マービンはスポンサーとして前金を支払い、計画のためプロの雇用を提案します。
そこに、話を盗み聞きしていた、ジョージの妻シェリーが現れます。ジョージは話を漏らした疑いをかけられます。
シェリーは寝かされ、ジョージは力ずくで家に帰されました。ジョニーは、計画の成功ためには何もするなと忠告します。
ジョージはグループを抜けると口にします。しかしシェリーは計画を諦めません。成功させれば愛するという妻の誘惑に負け、計画の実行を決意しました。
3日後ジョニーは、暴れ役としてプロレスで金稼ぎをする男モーリスを2500ドルで雇います。また、銃の腕がいいニッキーに、レースの大本命の馬であるレッド・ライトニングを撃つよう依頼し、5000ドルを支払います。
マービンは、大金を手にした次第、ジョニーと二人で逃げないかと提案します。しかしジョニーはその提案には応じませんでした。
映画『現金に体を張れ』の感想と評価
名匠スタンリー・キューブリックが、完全犯罪を目論む男達の失敗するまでを描いた映画『現金に体を張れ』。
現金と書いて”げんなま”と呼ぶ絶妙な邦題のセンスが効いています。
時間軸をずらして物語を進めていく演出は当時斬新なもので、キューブリックの開発とされています。
それも、ただ斬新なだけではありません。この演出をキューブリックは、登場人物の視点を強調するために用いました。
それぞれの人物がそれぞれの物語を持って犯罪に挑む。そこには、借金を返すためや妻に愛してもらうためといった、個人的に金を必要とする理由があります。
物語全体を時間に忠実に追っていくのではなく、個人の視点で時間を戻すことで、それぞれの目的が強調されていました。
計画の失敗の原因は、利己的に動いていたことにあります。最も足を引っ張ったジョージにとって、金を手にすることと、計画を妻に話すことは、同等の価値がありました。
どちらもジョージにとって、妻に愛されるという目的を達成するための行動です。だからこそジョージは、妻のシェリーに計画を漏らしてしまいました。
また、時間を巻き戻すことでラストまで焦らされ、盛り上がりも加速していました。非常に素晴らしいキューブリックの演出です。
まとめ
時間軸をずらして物語を進めていく演出は、タランティーノの名作『パルプ・フィクション』(1994)にも影響を与えました。
金の束が舞う場面から警察に見つかるまでの場面では、計画が水の泡と化したことを象徴する哀愁を伝えています。
スターリング・ヘイドンが演じたジョニーの放心状態を、表情と背中だけで訴える好演技も光っていました。
キューブリック監督作品『博士の異常な愛情』(1964)で、核爆弾が人類を滅亡させた場面を思い出させるような、積もり積もった努力の結晶が一瞬で崩れる様は、キューブリックのユーモアセンスが発揮されています。
犯罪映画『現金に体を張れ』の壮観なラストは、特に必見です。
次回の『電影19XX年への旅』は…
次回は、信仰と欲望をテーマに描いたイングマール・ベルイマンの神の沈黙3部作の第1作映画『鏡の中にある如く』を紹介します。どうぞ、お楽しみに。