自分が怪物だと知った少女の苦悩の物語
アニメ制作スタッフとして働いた経験のある漫画家のコタニジュンヤが、完全個人制作で手がけた30分の短編アニメーション映画です。
アニメーター経験も演出の経験もないまま、コタニ監督がデジタル作画で一枚一枚書き上げ制作しました。2023年にはキャットチャンネル12にてテレビ放送されています。
主役の少女を演じる麻言は、監督がSNSで偶然見つけた声優未経験の素人です。偶然と努力、そして作品への強い思いが重なり合った一作となっています。
ある日突然、自分が醜い姿の宇宙人であることを知った少女。過酷な事実を知った彼女は、どんな運命を選び取るのでしょうか。
強烈な印象を残す本作の魅力についてご紹介します。
CONTENTS
映画『絶望の怪物』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【アニメーション制作】
コタニジュンヤ
【出演】
星野葵:麻言/大宮圭吾:香川理沙/星野俊夫:小川隼/星野佳苗・藤田真央:川嵜かおる/星野雄太・島村典子 :門倉智美/男子生徒・他:犬飼真志
【作品概要】
テレビアニメーション制作に関わった後、漫画家デビューしたコタニジュンヤが、完全個人制作で手がけた短編アニメーション映画。
自分と家族が醜い宇宙人の怪物だと知った中学生の少女の過酷な運命が描かれます。
コタニ監督がSNSで偶然見つけた麻言が、素人ながら主人公の葵役を務め、主題歌「星の終わり」も歌っています。
映画『絶望の怪物』のあらすじ
ある日、母に頼んだテレビ録画が失敗したことを知った中学生の星野葵は、怒って食事をとらず、空腹で体育の授業中に倒れてしまいます。
そんな彼女を心配して、サンドイッチを差し入れしてくれた圭吾。彼は葵が観たかった番組を録画していると話し、彼女を自宅に連れていって観せてくれました。
圭吾はクラスでトラブルが起きるといつも解決してくれるような少年でした。彼は葵に好きだと告白します。驚いて赤くなる葵。
ところが、圭吾が宅急便の受け取りに出ている間に、葵の手が化け物のように変化します。
驚いて自宅に逃げ帰った葵が異変を告げると、母は娘の首に注射薬を打ちました。すると、葵はすぐにもとの姿に戻ります。
実は、彼ら一家は醜い宇宙人の怪物でした。両親は20年前に地球にたどり着き、ずっと正体を隠してきていましたが、葵と弟の雄太はそのことを知らないまま育ちました。
おぞましい姿をしていた彼らは、薬を使って人間の姿に化けていました。
その薬が、なぜか葵にだけゆっくりと効かなくなっていき…。
映画『絶望の怪物』の感想と評価
突然居場所をなくしてしまう恐怖
アニメ制作を経験した漫画家のコタニジュンヤによる完全個人制作映画『絶望の怪物』。ふと思い立って短編アニメを作ってみたと監督本人は語っていますが、3年の月日を費やして作られた情熱の詰まった一作です。
コタニ監督がSNSで偶然見つけたという葵役を演じる麻言は、監督がほれ込んだのがよくわかる個性的でパンチのある声の持ち主です。過酷な運命を背負う少女を生き生きと演じています。
主人公の葵は、母親に文句を言ったり、学校で授業を受けたり、淡い恋心を抱く少年がいたりする、ごく普通の女子中学生でした。恐ろしい真実を知るまでは。
突然自分の手がおぞましい姿に変化するのを見てしまった葵は、自分が実は醜い姿の宇宙人だという事実を知ります。両親は20年前に宇宙から地球にたどり着いた宇宙人で、自分と家族に注射薬を打つことで人間に姿を変えていました。
やがて、薬に耐性を持ち始めてしまった葵の体には、注射薬が効かなくなっていきます。
甘やかな恋の味。なんでも気を遣わず言い合える家族の存在。楽しくお喋りできる友達。それら葵の日常のすべてが色を失いました。彼女は突然、自分の居場所をなくしてしまったのです。
自分が化け物だと知った時の恐怖。そして、人間の姿をとどめることができなくなっていく事実への恐怖。同じ境遇にあるはずの弟は、苦しみを分かち合うにはまだ幼すぎ、葵はひとり孤独のなかを彷徨います。
「居場所を失う」ということほど怖いことはありません。まだ中学生の少女が向き合うにはあまりにも辛い現実だったことを思い、胸が締め付けられる作品です。
「インディーズアニメ最前線2023」監督スペシャルトークイベントのご案内
新進気鋭のインディーズアニメの監督たちが集い、熱く語り合うトークイベントが3年ぶりに復活します。
変わりゆくインディーズアニメの過去と現在。そして、これからの戦い方とは。コタニジュンヤ監督新作アニメPVも初公開されます。
出演監督おすすめインディーズアニメのプレゼン大会もおこなわれますので、インディーズアニメ、自主制作アニメに興味がある皆さま、ぜひご参加ください。
開催日
2023年3月18日(土)
実施時間
OPEN 18:30 / START 19:00
会場
南阿佐ヶ谷トーキングボックス
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1丁目9−1 第 6 志村ビル4階 ℡03-5929-7764
チケット
前売¥2,000/当日¥2,500 ※要 1ドリンクオーダー
配信¥2,000(ツイキャスプレミア配信 見逃しアーカイブ視聴2週間)
出演者
コタニジュンヤ(『絶望の怪物』監督 )
粟津順(『猫企画』監督)
塚原重義(『クラユカバ』監督)
敬称略
※出演者は予告なく変更になる場合があります。あらかじめご了承ください。
まとめ
一人の少女が残酷な真実と向き合う物語『絶望の怪物』。漫画家のコタニジュンヤがたったひとりで完全個人制作に挑んだ衝撃作です。
自分が実は宇宙から来た怪物だったというあまりにもショッキングな事実が、純粋な少女の心を追い詰めていきます。
彼女が覗き込んだ絶望の淵を、自分は一生見ずに済みますようにと願わずにはいられません。