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Entry 2019/03/17
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映画ドラえもんのび太の月面探査記|あらすじネタバレと感想。作家 辻村深月がシリーズの真髄を言語化させた

  • Writer :
  • 野洲川亮

『映画ドラえもん のび太の月面探査記』は、映画ドラえもんシリーズ第39作として製作されました。

この映画は、直木賞作家の辻村美月を脚本に迎えた映画オリジナル作品。

ドラえもん、のび太やおなじみのメンバーたちが、月面を舞台に冒険を繰り広げます。

映画ドラえもんのび太の月面探査記』のあらすじネタバレと、ご感想を紹介します。

『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の作品情報


(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2019

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
八鍬新之介

【キャスト】
水田わさび(ドラえもん)、大原めぐみ(のび太)、かかずゆみ(しずか)、木村昴(ジャイアン)、関智一(スネ夫)、皆川純子(ルカ)、広瀬アリス(ルナ)、中岡創一(キャンサー)、高橋茂雄(クラブ)、柳楽優弥(ゴダート)、吉田鋼太郎(ディアボロ)、酒井藍(カイア)

【作品概要】
アニメ「ドラえもん」に長編劇場版の第39作目となる本作は、直木賞作家でドラえもんファンでもある辻村美月(『鍵のない夢を見る』、『凍りのくじら』など)が、映画脚本に初挑戦。

八鍬新之介がシリーズ3作目となる監督を務め、ゲスト声優には広瀬アリス、柳楽優弥、吉田鋼太郎らが起用されています。

『映画ドラえもん のび太の月面探査記』のあらすじとネタバレ


(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2019

いつものように遅刻しそうになり慌てるのび太の目に、あるニュースが飛び込んできました。

月面探査機が謎の白い影を捉えたというニュースは、クラスの中でも「エイリアン」だ「宇宙ゴミ」だと、話題にのぼっていました。

そんなクラスメイトたちにのび太は、「あの影は月のウサギだ」と告げますが、当然のように皆の笑いものになってしまいます。

ドラえもんにまで馬鹿にされたのび太ですが、「いつから月にウサギがいないことになっているんだ!」と憤慨します。

そこでドラえもんが取りだしたのが“異説倶楽部メンバーズバッジ”という秘密道具でした。

バッジを付けたものだけに、異説(=世間一般で信じられる定説とは違った異なる説)が現実となった世界を観ることが出来るという秘密道具で、これを使って月にいるウサギを現実のものにしようというのです。

バッジをつけて月の裏側に向かったドラえもんとのび太は、秘密道具を使い、生物が住める環境を整え、ムービットと名付けたウサギを作りだします。

月の王国が発展することを願い、一旦地球へ戻ったのび太は、不思議な転校生ルカ(皆川純子)と出会います。

その頃別の宇宙のカグヤ星では、姿を見せない星の長・ディアボロ(吉田鋼太郎)にゴダート隊長(柳楽優弥)が叱責されていました。

ディアボロはカグヤ星を救うために、エスパルと呼ばれる種族をゴダートに見つけるよう命令していましたが、一向に見つからないことでゴダートを責めます。

理不尽な命令に困惑しつつも、ゴダートは部下とともにエスパル捜索へと出発します。

再び話は地球へ戻り、月の王国は発展し、のび太はウサギの件で自分を馬鹿にしたジャイアン、スネ夫、そしてしずかちゃんを異説メンバーズクラブへと招待します。

密かにのび太の様子を見張っていたルカも仲間入りを志願し、全員でバッジを付けて月へと向かいます。

ドラえもんはバッジが外れると異説の世界が見えなくなり、現実の空気が無い月の裏側へと戻って死んでしまうと一同に警告します。

月の王国は1000匹以上に増えたムービット、そして工場やショッピングモールまで出来上がる程に発展していました。

のび太の真似をしてメガネをかけるウサギ、ノビットと出会った一行は王国を案内してもらいますが、そこへのび太が作った失敗作が巨大に成長したウサギ怪獣が現れ、ノビットを捕まえて王国の地下へと逃げ込みます。

一人でウサギ怪獣を追いかけたのび太は、ノビットを助けることには成功しますが、異説バッジが外れ谷底へと転落してしまいます。

外れたバッジを見つけ慌てる一同でしたが、谷の底からのび太の声が聞こえてきました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『映画ドラえもん のび太の月面探査記』ネタバレ・結末の記載がございます。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
谷底へと向かった一同はのび太を発見、そこにはウサギの耳のようなものを付けたルカの姿もありました。

ルカの正体は、カグヤ星からやってきたエスパルと呼ばれる超能力を持った11人だけの種族で、かつてゴダール博士夫婦によって作られた、永遠の命を持つ存在でした。

耳のようなものは、エーテルというエネルギーを体内で作りだす超能力の源で、彼らは月の裏側に同じくカグヤ星から同行してきたモゾという喋る亀と共に、自分たちの拠点を作り暮らしていました。

ルカの双子の姉ルナ(広瀬アリス)や、ジャイアンと同等の強烈な歌声を持つアルなど、エスパルたちと交友を深めた一同は、月面でレースをすることにします。

ところがレースの最中、ジャイアン、スネ夫、アルが乗るマシンが衝突しそうになり、アルはエスパルの超能力、エーテルの力を発動させ、その危機を回避します。

しかし、ルカたちエスパルはその事態に慌てふためきます。

彼らは1000年前、エーテルの力を兵器に利用されそうになり、ゴダール博士夫婦によってカグヤ星から逃げ出してきた過去がありました。

エーテルの力を使ったことで、カグヤ星に存在がばれてしまうことを危惧しますが、その不安は的中し、エーテルの反応を探知したゴダートが、ワープして月へと現れます。

ゴダートとその部下たちはエーテルミューターを起動し、エスパルの力を無効化、次々と捕えていきます。

ルカを連れて地球へ通じるどこでもドアまで逃げる一同は、なんとかドアまでたどり着きますが、仲間を置いては行けないと、ルカはその場に残ることを決意します。

ドラえもんたちは何とか地球へ戻ることが出来ましたが、ドアが破壊されてしまい、月へ戻る手段が無くなってしまいます。

落胆する一同の前に一緒に脱出したモゾが現れ、ルカと地球へやってきた時に宇宙船があることを告げます。

ドラえもんの改造で全員が乗れるようになった宇宙船で月を向かった一同、するとノビットに案内されて向かった先には、足を怪我したルカの姿がありました。

ルカが異説バッジをルナに渡し、ゴダートたちには見えない月の王国に姿を隠したのです。

ルナの治療のため月に残るしずかちゃんに、緊急事態を知らせる虫の知らせアラームとスペアポケットを託し、他のメンバーはエスパルたちを助けるためにカグヤ星へと出発します。

その頃、ディアボロの面前に連れてこられたルカは、月を訪れた際に見つけた地球をディアボロが狙っていることを知ります。

崩壊しつつあるカグヤ星を救うために、エスパルの力を使うと信じていたゴダートも、カグヤ星を見捨ようとするディアボロにショックを受、エスパルたちを逃がそうとしますが、裏切りを察知したディアボロにあえなくやられてしまい、エスパルと共に牢屋に閉じ込められてしまいました。

そこでゴダートは、自分がゴダール博士の子孫であることをルカに伝え、先祖から代々引き継いできた青い石を渡します。

不思議な力を持つその石には、ゴダート博士夫婦とエスパルたちの思い出が秘められていました。

カグヤ星に到着したドラえもんたちは、ディアボロの居城に潜入することに成功し、牢屋にいたルカたちを救出に現れます。

その時、アルが突然「1000年の時を経て友と一緒に舞い戻らん。1000のウサギが降り注ぎ光の台地を取り戻さん。」と予言を口にします。

予言に戸惑いながらも、一行は決着を付けるためディアボロの元へと向かいます。

ディアボロの元にたどり着いた一行は、ディアボロの正体が1000年前に作りだされた人工知能を持つ破壊兵器だと知ります。

ディアボロの力の前に敗れ、エスパルたちはエーテルの力をディアボロに吸い取られ、秘密道具とポケットを奪われたドラえもんたちも溶かされそうになってしまいます。

そこへ突然、大量のムービットたちが出現、その胸には“定説バッジ”が付けられていました。

あべこべの発明をしてしまうノビットが、異説バッジを真似て作ったのが定説バッジで、それを付けると異説の世界のものが定説となるのです。

そのことに気付いたしずかちゃんが、ムービットたちにバッジを付け、スペアポケットを手に救出にやってきたのです。

予言通りの光景となり、次々とディアボロの手下のロボットたちを倒していくドラえもんたち、追い詰められたディアボロはルナを捕まえ、宇宙船で脱出しようとします。

しかし、宇宙一硬い甲羅を持つモゾを弾にして打ち込んだのび太の空気砲が宇宙船を貫き、ディアボロは消滅しました。

そしてゴダール博士が残した青い石がエーテルの力に反応し、荒れ果てたカグヤ星に1000年振りに光が差し込みます。

平和を取り戻したカグヤ星、ゴダートはルカたちに一緒にカグヤ星で暮らすことを提案しますが、ルカはそれを断ります。

ルカは、エスパルが1000年の間に「エスパルは伝説の存在で、ただの人間」という異説の存在となっていることを知って、異説バッジの力で超能力の無い人間になりたいとドラえもんに頼みます。

願いを聞いたドラえもんは、ルカたちやムービットたちがこれから先も見つからないよう、異説メンバーズクラブを解散し、バッジを裏山に埋めることを決めます。

ルカやムービットたちと別れたドラえもんたちは、裏山にバッジを埋め、月にある空を見つめながら、いつものように学校へと登校していきました。

『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の感想と評価


(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2019

映画ドラえもんは第1作『のび太の恐竜』(1980)を皮切りに、この40年間で39作が作られてきました。

2005年には、ドラえもん役の大山のぶ代を始めとする、メインキャラクターの声優陣が交代、水田わさびらの若い声優陣へと引き継がれます。

同年はその交代の影響もあって、毎年製作されてきた映画ドラえもんが唯一公開されなかった年となりました。

映画版は、この大山のぶ代らが演じた1980~2004年までの作品群を第1期、2006年以降の現在に至る水田わさび版を第2期としており、通称はそれぞれ“のぶドラ”、“わさドラ”と呼ばれています。

そして幼少期に第1期作品群を観て育ってきた世代にとっては、「のぶドラこそがドラえもん」という思いが強く、声優陣交代をきっかけにTV版や映画から離れていった人も数多く見受けられます。

第2期のわさドラ版の映画は、『のび太の恐竜2006』が始まりとなりますが、同作が第1期のリメイクであったように、その後数年はリメイク、オリジナル作品が交互に製作されていきます。

これは、第1期も『のび太のねじ巻き都市冒険記』(1997)以降がそうであったように、藤子・F・不二雄原作ではなくなったことで、ドラえもんで描かれるべきテーマ、演出が見失われていったことが影響しています。

さらに第2期では、それまで第1期作品の大多数で監督を務めた芝山努がいなくなったこともあり、過去作のリメイクを製作することで、テーマ的にも興行的にも確実さを重んじて製作されていたことが伺えます。

この潮流に変化が見られ出したのが、『のび太の秘密道具博物館』(2013)前後の作品からでした。

参考映像:『のび太のひみつ道具博物館』

特に完全オリジナル作品である『のびたの秘密道具博物館』では、未来で秘密道具がどのように生まれ、進化していったかが明確に描かれており、旧来のドラえもんファンだけでなく、今ドラえもんに魅入られている少年少女たちに向け、“21世紀の現在、より現実的な未来となった22世紀を見据える子供たち”を意識したメッセージが盛り込まれています。

さらに同時期の作品群は、ジブリ作品、『ゴーストバスターズ』や『ドラゴンボール』など、過去のアニメ、SF作品を想起させる演出、シーンが多々あり、一新されたスタッフにより新たなドラえもん像を確立していこうと、様々な試みがされており、単なるオマージュに終わらない作品のクオリティーを高める装置として、大いに機能しています。

翻って本作でも、直木賞作家でドラえもんファンの辻村深月を脚本に迎え、破壊されたカグヤ星の月が『スターウォーズ』のデススターを思わせるデザインをしているなど、挑戦的、野心的な製作方針がとられています。

小説家、辻村深月のセリフを大事にした展開は、少々説明口調の強いところもありましたが、ディアボロの想像力を否定する言葉に対し、ドラえもんが「想像力は未来だ」と反論する場面は、長年継承されてきたドラえもん映画の真髄を明確に言語化してみせてものだと言えるでしょう。

まとめ

第1期作品群を楽しんできた今の大人たちにとって、現在のドラえもんがなかなか受け入れづらいものであることは間違いありません。

まして子供の付き添いでもない限り、自ら進んでドラえもん映画を観に行こうというモチベーションも出てこないことでしょう。

しかし、我々が長年ドラえもんを観てきたように、同じく当時ドラえもんを愛し、楽しんでいた世代のスタッフたちが生み出した新たなドラえもん像は、単に童心に立ち返るという意味だけに留まらない、新鮮な喜びをもたらしてくれるはずです。

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