Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

アニメーション

Entry 2024/10/09
Update

『ロボット・ドリームズ』あらすじ感想評価。おすすめアニメ映画は各国映画賞総なめで新しき監督パブロ・ヘルベル才能に注目!

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ロボット・ドリームズ』は2024年11月8日(金)より全国順次公開!

「一人」の犬と「一人」のロボットによる心のふれあいを描いた映画『ロボット・ドリームズ』

犬とロボットというキャラクターの出会い、そして別れを描いた本作。スペインのパブロ・ベルヘル監督が、アメリカの作家サラ・バロンによる同名グラフィックノベルを原作に物語を紡ぎました。

ベルヘル監督としては初挑戦のアニメーション作品でありますが、2024年の第96回アカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネートされるなどの高い評価を得ています。

映画『ロボット・ドリームズ』の作品情報


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

【日本公開】
2024年(スペイン・フランス合作映画)

【原題】
Robot Dreams

【原作】
サラ・バロン

【監督・脚本】
パブロ・ベルヘル

【作品概要】
犬やアライグマなどの動物たちで構成された1980年代のニューヨークで、犬とロボットがおりなす友情、愛をセリフやナレーションの言葉を使わずに描いた物語。

2013年に発表したモノクロ・サイレント『ブランカニエベス』で話題を呼んだスペインのパブロ・ベルヘル監督が、本作で長編アニメーション映画初挑戦をおこないました。

映画『ロボット・ドリームズ』のあらすじ


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

ニューヨーク、マンハッタンのとあるアパートに住む、一人の「ドッグ」は、いつも生活の中で深い孤独を抱えていました。

ある日彼はテレビのコマーシャルから「友人専用」の触れ込みで売られているロボットのことを知り、自分の友人にすべく購入、自宅でロボットを作りあげます。

新たな世界への目覚めに感動するロボットと、彼との友情をはぐくんでいく「ドッグ」。ところが夏になり海水浴へ出かけたロボットは、海水で錆びついて動けなくなってしまいます。

どうにかロボットを修理しようとする「ドッグ」でしたが、あまりの重さにロボットを一人で移動させることもできず、海水浴場はロボットを砂浜に置いたままの状態でシーズンオフとなり閉鎖、「ドッグ」と離ればなれになってしまいます。

ロボットを諦めきれない「ドッグ」は、再びのシーズン到来を待ちますが……。

映画『ロボット・ドリームズ』の感想と評価


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

アメリカのカートゥーン作品を彷彿する、シンプルな線で構成されたキャラクターたちが登場する本作。そのキャラクターが非常に生き生きした印象を放っている点は、本作の大きな魅力であります。

その秘密は、シンプルなデザインながら、コミカルさを醸しつつどこか哀愁味を帯びたキャラクターの背景、そしてその背景をうまく生かしたストーリーにあると言えるでしょう。

物語はニューヨーク、マンハッタン島で無気力に生きていく「一人の犬」が、一台のロボットとの出会いで大きく人生を変えていき、さらにその別れによって大きく心を乱される様子を描いていきます。

その端々に見られる、犬との再会を心待ちにするロボットの夢は、理想の美しさと現実の厳しさを如実に表しています、単純な線ながらその構成が素晴らしく、微視的に目で見える以上に緻密な世界観が感じられるものとなっています。

またこの世界観をさらに深いものとしている要因として、音楽が挙げられます。それはセリフの一切ない物語の中で数少なく言葉が発せられる、劇中に流れるアース、ウィンド&ファイアの「セプテンバー」。


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

78年に発表された不滅の大ヒットナンバーともいわれているこの曲は、9月という夏の日を懐かしむ感情を表したラブソングであり、主人公とロボットが出会い、それぞれの世界が色めきだった夏の日、そしてその時の思いをはせる二人の感情を表すのに非常によい選曲をしていると言えるでしょう。

本作の時代設定はほぼ歌がヒットした時期、すなわち携帯電話などなく音楽は「ラジカセ」から流れてくるもの、ロボットのデザインもなんとなくアナログな雰囲気を表したいわゆる「古きよき時代」に合わせたもの。インターネットを介さない直接的な意思疎通やふれあいが非常に心地よく感じられます。

ラストはどこか『シェルブールの雨傘』を彷彿するセンチメンタルな展開でありますが、アニメーションならではの特質を生かした演出、そして先述の「セプテンバー」をうまく生かした演出が施され、その展開の作り方にもうまさが冴え渡っています。

「犬とロボット」という、ある意味個性を排除したキャラクター設定の中で、美しいラブストーリーを描いたセンスは高く評価できるものであります。

まとめ


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

作品を手がけたパブロ・ベルヘルのデビュー作『Torremolinos 73』(2003)は、ある一組の夫婦の感情を奇想天外な物語でコメディタッチにより描いたもの。

2013年に発表した『ブランカニエベス』が童話『白雪姫』を大胆にアレンジしたものであることと比較すると、ベルヘル監督としてはラブストーリーに対するさまざまな試みが、映画作りに対する一つのテーマであると見ることもできるでしょう。

また『ブランカニエベス』はモノクロ・サイレントという現代ではわりに特殊な映像手法をとった作品で、第85回アカデミー賞のスペイン代表として出品、2012年のサン・セバスチャン国際映画祭、第27回ゴヤ賞などで多くの賞を受賞するなど大きな話題となりました。

監督のアニメーション初挑戦作品という点では気になる本作ですが、セリフのない作品としては前作と共通するチャレンジであり、ベルヘル監督ならではの作品に対する想像への意欲性と優れたセンスにあふれた作品であるともいえるでしょう。

映画『ロボット・ドリームズ』は2024年11月8日(金)より全国順次公開!





関連記事

アニメーション

【ネタバレ】かがみの孤城|あらすじ結末感想と評価考察。原作の映画アニメ化で悩みを抱える中学生たちに訪れる奇跡を描く

ベストセラー小説待望の映画化『かがみの孤城』 2018年に本屋大賞を史上最多得票数で受賞した辻村深月の「かがみの孤城」。多くの読者に支持されるこの小説をアニメーション映画化したのは、『映画クレヨンしん …

アニメーション

『ヒーローマスク2』ネタバレ感想と考察。Netflixアニメのシーズン2で明かされるマスクの謎とそれぞれの信念の行先

『ヒーローマスクHEROMASK PART2』で“マスク”に隠された秘密が明らかになる。 2020年8月23日からNetflixで独占配信中の『HERO MASK』。 Part1で、刑事・ジェームズは …

アニメーション

ネタバレ『犬王』あらすじ感想評価と結末解説。実在の能楽師の謎と平家物語の意味をめぐる“名”の物語

謎に包まれた猿楽能の太夫「犬王」の秘密とは? 「犬王」とは室町幕府三代目将軍・足利義満の庇護を受けたとされる近江猿楽比叡座の太夫、のちの道阿弥のことです。当時、かの観阿弥・世阿弥父子と人気を二分してい …

アニメーション

映画『ドラゴンボール超ブロリー』あらすじネタバレと感想。アニメファンの見たいものをたっぷりと!

2013年『ドラゴンボールℤ神と神』から再始動した、「ドラゴンボール劇場版」シリーズの第三弾で“超”のブランドとしては初の映画。 90年代に連作された劇場版シリーズに登場して、強烈なインパクトを残した …

アニメーション

【ネタバレ】クレヨンしんちゃん映画2023|あらすじ感想評価と結末解説。しん次元THE MOVIE超能力大決戦で“歴代初3DCGアニメ”が描くのは“マイペースでがんばる”?!

笑いと涙を届ける劇場版はついに“しん次元”へ!? 臼井儀人による漫画が原作のテレビアニメシリーズにして、もはや日本を代表するアニメ作品の一つに数えられる『クレヨンしんちゃん』。 また子どもから大人まで …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学