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Entry 2020/08/31
Update

映画『マウスマン 愛の塊』感想考察とレビュー評価。ピエール伊東の自主制作アニメは“愛する人の定義”を問う

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

映画『マウスマン~愛の塊~』は2020年9月25日より、シネ・リーブル池袋で劇場公開。

青いマウス型サイボーグの活躍を描いた「マウスマン」シリーズ。2016年から現在まで、短編を含め計70本が制作されている「マウスマン」シリーズは、ニコニコ動画やYouTube、札幌ねっとてれびの他、各種アニメイベントでの上映で火が付き、話題になった作品。

シリーズは2018年の『ピリオド オブ・ザ マウスマン』で一度、完結しましたが、新章として新たな「マウスマン」シリーズがスタートしました。

新たな「マウスマン」シリーズとして制作され「横濱インディペンデント・フィルム・フェスティバル2019」にて、アニメ―ション部門最優秀賞を受賞した『マウスマン/ゼロ』に続き、新章「マウスマン」シリーズ第2弾として制作された映画『マウスマン~愛の塊~』が、2020年9月25日より、シネ・リーブル池袋で劇場公開されます。

ハードボイルドな世界観で、人類において永遠とも言えるテーマに挑戦した、映画『マウスマン~愛の塊~』の持つ魅力をご紹介します。

映画『マウスマン~愛の塊~』の作品情報


(C)スタジオ金魚色

【公開】
2020年公開(日本映画)

【原作・監督・脚本】
ピエール伊東

【脚本・副監督】
八木橋拓美

【キャスト】
細谷佳正、藤咲あかね、夏川みわこ、星川愛、大埼晋司、櫻庭彩華、フェアリィ緑川、藤沢愛、有野優樹、夜弓神楽狐之灯矢、ピエール伊東

【作品概要】
ピエール伊東監督が生み出した、青色のマウス型サイボーグの活躍を描く自主制作アニメ「マウスマン」シリーズを、新たに描き直すリブートプロジェクトの第2弾作品。

主人公のサイボーグ、マウスマンを『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』や『この世界の片隅に』『この世界のさらにいくつもの片隅に』などの、話題作に出演している人気声優、細谷佳正が演じています。

アニメーション制作の「スタジオ金魚色」は、関東で自主制作アニメを制作や上映することを目的にした社会人サークルで、現役アニメーターをはじめ、アニメーター志望の高校生から主婦、会社員など、幅広いメンバーで制作しています。

映画『マウスマン~愛の塊~』のあらすじ


(C)スタジオ金魚色
恋人だったリカを亡くし、失意の中にいる32歳の男、根須幹夫。

周囲から「ネズミ先生」と呼ばれている幹夫は、冴えない毎日を送っていました。

ある日、酔いつぶれてゴミ捨て場で寝ていた女性、ヒロコと出会った幹夫は、友人とも恋人とも言えない、ハッキリしない関係を続けていました。

ある時、幹夫がヒロコを車で送っていると、国家機関による検問に遭遇します。

検問を担当している兵士に、自身の免許証を見せた幹夫は、兵士に麻酔を打たれて拘束されます。

麻酔を打たれ、意識を失った幹夫は、スーパーコンピューターが生み出した空間の中にいました。

スーパーコンピューターが生み出した空間の中で、幹夫は「その空間の中にだけ存在できる」という、ユミと名乗る少女と出会います。

ユミに「電源が入ると、もうすぐあなたは目を覚ます」と言われた幹夫が目覚めると、青いマウス型のサイボーグ「マウスマン」になっていました。

国家機関により改造されてしまった幹夫はマウスマンとして、未知の侵略者との戦いに巻き込まれていきます。

マウスマンは複数の個体を持ち、バックアップした記憶を個体に入れる事で、蘇生するサイボーグです。

戦いの中で、何度も死を経験したマウスマンは、次第に心が蝕まれていき、やがて戦いの中で、ヒロコやリカとの、時空を超えた「愛の記憶」が錯綜するようになります。

「マウスマン」に改造された幹夫は、苦しみの果てに何を見るのでしょうか?

また、マウスマンと未知の侵略者との戦いの末に、辿り着く真実とは?

映画『マウスマン~愛の塊~』感想と評価


(C)スタジオ金魚色
2016年~2018年にかけて制作された「マウスマン」シリーズ。

これまで短編を含めて、計70本が制作されている「マウスマン」シリーズは、2018年の『ピリオド オブ・ザ マウスマン』で完結しました。

ですが「マウスマン」シリーズの生みの親、ピエール伊東監督の「もっと描きたいことが、マウスマンにはたくさんある」という想いから、新たな「マウスマン」シリーズがスタートしました。

映画『マウスマン~愛の塊~』は、新章マウスマンシリーズとして制作された『マウスマン/ゼロ』に続く第2弾となる作品ですが、「マウスマン」シリーズの予備知識なしでも、楽しめる作品となっています。

また、マウスマンは、青いマウス型のユニークな見た目である事から、コミカルな作風を想像される人もいるかもしれませんが、本作はかなりシリアスな物語となっています。

まず、世界を守る為に戦う人造人間、マウスマンの能力ですが、敵を引き付けて自爆するという戦い方です。

しかし体を失っても、バックアップされた記憶を新たな個体に入れる事で、マウスマンは復活します。

復活しますが、死ぬ事への恐怖は覚えている為、侵略者と戦う度に、マウスマンは相手と自分を殺す事になり、その恐怖に心が蝕まれています。

つまりマウスマンは、何度でも蘇る事ができますが、それは相手を殺し、自分も死ぬ事が前提になっているのです。

精神的にボロボロになりながらも、絶望的な戦いを強制させられているマウスマンですが、弱音を吐く事はあれ、逃げ出す事はありません。

そこには「世界を守る」という使命より「愛する人を守る」という、マウスマンの意思を感じます。

そして、この「愛する人」という部分は、本作の重要なテーマとなっています。

『マウスマン~愛の塊~』は、3幕構成となっており「現在」「過去」「真実」とも言える、3つのカテゴリーで物語が進みます。

そして、幹夫とヒロコとリカ、それぞれのエピソードで「恋と愛と共依存」というテーマを描いています。

「愛する人」という表現を用いましたが、では「愛する人」の基準とは何なのでしょうか?

それが仮に、寂しさを埋め合わせる為だけの、依存しあう関係だとしたら、果たしてそれは愛なのでしょうか?

本作は「愛する人」の基準を問いかけ、1つの答えを出します。

また「愛の塊」というサブタイトルは、本作において重要な意味を持っていますので、そちらにも是非注目して下さい。

まとめ


(C)スタジオ金魚色
『マウスマン~愛の塊~』は、クラウドファンディングで制作資金を募り、インターネットでスタッフやキャストを集め、ネット上での会議や、制作スキームによって作られた、完全自主制作アニメです。

自主制作アニメの為、作画のクオリティが正直厳しいと感じる部分もありますが、マウスマンの飲むウィスキーの液体の動きなど、ハードボイルドな世界観を引き立てる為の映像には、かなり力が入っています。

マウスマンは見た目は個性的ですが、ピエール伊東監督の「カッコいい大人のイメージ」を、最大限に詰め込んだキャラクターとなっています。

3幕構成で語られる「恋と愛と共依存」というテーマの他、「何故、根須幹夫がマウスマンに選ばれたのか?」「侵略者の正体」などの謎の部分が、物語を牽引しています。

かなり練られた構成になっており、これまで「マウスマン」シリーズを知らなかった人でも楽しめる内容になっています。

新たに生まれ変わったマウスマンの活躍を描く、映画『マウスマン~愛の塊~』。

この機会に「マウスマン」の世界を堪能してみてはいかがでしょうか?

映画『マウスマン~愛の塊~』は、2020年9月25日(金)よりシネ・リーブル池袋にて公開です。

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