大空を舞う青春の物語
競技かるたを題材とした「ちはやふる」や薙刀を題材とした「あさひなぐ」など、深く知られてはいなかったスポーツを取り扱う作品によって新たな世界を知ることが出来る創作と言う世界。
国内であってもまだまだ深く知られていないスポーツは多く、その世界を除き見ることが出来るのは漫画や小説、そして映画の特権とも言えます。
今回はグライダーで空を飛ぶ技術を競う「航空部」の活動を描いた映画『ブルーサーマル』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
アニメ『ブルーサーマル』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
橘正紀
【脚本】
橘正紀、高橋ナツコ
【キャスト】
堀田真由、榎木淳弥、島﨑信長、古川慎、小野大輔、小松未可子、河西健吾
【作品概要】
小沢かなによる漫画「ブルーサーマル -青凪大学体育会航空部-」をアニメ「プリンセス・プリンシパル 」シリーズを手掛ける橘正紀が劇場アニメ化した作品。
『ライアー×ライアー』(2021)や『ハニーレモンソーダ』(2021)に出演する堀田真由が主人公たまきの声を演じました。
アニメ『ブルーサーマル』のあらすじとネタバレ
長崎から東京へと上京した都留たまきは「青凪大学」へと入学。
恋に憧れるたまきは出会いの場としてテニスサークルへと体験入部しますが、よそ見しながら返球した球がフェンスを越え、歩いていた2年生の空知に当たってしまいます。
球が当たったことでバランスを崩した空知は牽引していたグライダーに倒れ込んでしまい、グライダーの翼を破損。
150万円もの修理費をたまきに求める空知でしたが、ショックで気を失ったたまきを「体育会航空部」の部室で介抱します。
その場に航空部の主将である4年生の倉持が現れ、たまきの言動を気に入った倉持は休日に行われるグライダーの体験試乗会に誘いました。
たまきは高校時代はバレー部に所属していましたが、背の低い自分が「体育会系」の部活に所属することに対し「気持ち悪い」と陰口を叩かれたことをトラウマとしており、試乗会への参加を逡巡します。
しかし、弁償費用の件もあり、試乗会の場所となる妻沼を訪れたたまきは、彼女を気に入らない空知に雑用を押し付けられる最中に倉持の操縦するグライダーへの同乗を誘われます。
グライダー自体に動力は存在せず、専用のウィンチで空に引っ張り上げる形で飛び出したグライダーに乗るたまきは空から見る世界に一目惚れします。
グライダーから降り、空の世界に魅了されてもなお「体育会系」のサークルに所属することに迷うたまきでしたが、倉持は大会に優勝すれば300万の賞金が出ると言い弁償費用に困るたまきは所属を決めました。
健康診断を受け許可証が発行されたたまきは同期となるゆかり、綾子、映太の3人と共に航空部の合宿に参加。
合宿の最中、倉持が学生でありながら教官としての資格も持ち、個人戦で1位を取り続ける優秀選手であることを聞いたたまきは、倉持のフライトに同乗します。
初のフライトの際に視認不可の上昇気流「ブルーサーマル」を見抜いたたまきに興味をもっていた倉持は、2度目のフライトで彼女の持つ平衡感覚と空間認識能力に驚きます。
倉持がたまきを評価する一方で倉持に憧れる空知は彼女を敵視し、たまきの自分勝手な振る舞いを叱責。
その日、たまきの些細なミスから部員総出でのドライバーの捜索活動が行われると、たまきは空回りする自身の性格を悔み泣き始めます。
その様子を目撃した空知は自身の言動や行動を謝罪し、たまきのミスを慰め一緒に捜索活動に加わり、ドライバーを発見。
合宿から月日が流れ、長野に遠征した航空部はそこで関西の強豪校「阪南館大学」との練習試合を行ないます。
しかし、その場に阪南館の主将として現れた矢野ちづるは腹違いのたまきの姉であり、再会を喜ぶどころか矢野はたまきを嫌っていることを周囲にも吐き捨てます。
倉持の取り仕切りで練習試合は終わりますが、矢野はたまきと和解することなく去って行きました。
たまきの実力は上達し、青凪大学の新人戦への参加権を空知とともに勝ち取り、新人戦へと参加します。
新人戦には最年少で飛行資格を得た阪南館の有力選手羽鳥が参加しており、たまきは闘士を滾らせますが、落し物を届けたことでテスト飛行の時間を失ってしまいます。
新人戦初日、規定の高度に至らず、上昇気流の目安となる雲も見つからないたまきでしたが、「ブルーサーマル」を探し当て羽鳥の記録を抜き1位を取ります。
落ち込む羽鳥を発破し焚き付けたたまきは2日目、指導員として矢野が同乗する中、羽鳥と同時にフライトが始まります。
羽鳥はたまきに上昇気流を探させた上で自身の操作技術でたまきを圧倒。
しかし、たまきは無謀とも言える舵取りで羽鳥を越え、その技量に同乗していた矢野は驚愕。
数日間に及ぶ総合スコアでたまきは1位を逃しますが、空知や羽鳥、そして他の参加者と仲を深めます。
そんなたまきを見る矢野は倉持に「たまきを見ていると自身の惨めさが目立つから嫌いだった」と言い、準優勝したたまきに近寄ると祝辞を述べ和解しました。
アニメ『ブルーサーマル』の感想と評価
たまきの人生を変える「上昇気流」
「鳥人間コンテスト」等で用いられる自主設計の機体とは異なり、航空部で用いられるグライダーは決められた規格のものを用います。
それ故にグライダーでの航空速度は「気流」を見極められる操縦者の腕にかかっており、センスが直接実力に関わっているスポーツと言えます。
本作では主人公のたまきは恋や普通の大学生活に憧れる中で、あるトラブルから「体育会航空部」へと入部することになってしまいます。
しかし、そのことがたまきの中に秘められた圧倒的な航空センスを開花させるきっかけとなり、彼女の人生を変えていくことになりました。
航空部への入部が彼女にとっての「ブルーサーマル(目に見えない上昇気流)」であったように、出会いと言う奇跡の存在を教えてくれる作品となっています。
実在の地名と空の美しさを描く青春アニメ
本作では埼玉県熊谷市に実在する「妻沼滑空場」を舞台としており、グライダーを曳航するウィンチも実在するものと同型のものが登場します。
さらに作中における新人戦は現実同様に岐阜県の「木曽川滑空場」で開催されるなど、本作はとことんまで現実と同じロケーションでの物語を意識しており、未経験者でもグライダーの世界に引き込まれるような作り込みが成されていました。
大空を飛ぶ鳥のように「上昇気流」をに乗って大きく羽ばたくグライダーというスポーツ。
日本の物流を支える企業「鈴与」が正式にCMコラボレートを行った初の映画となる『ブルーサーマル』は、空の美しさを感じることのできる作品でした。
まとめ
過去のトラウマと腹違いの姉との険悪な関係を抱える主人公のたまき。
流されるように所属した航空部で自身の弱さに打ち勝ち、複雑な人間関係を持ち前の明るさで解していく物語は青春映画としても良質なクオリティとなっています。
大空を舞うグライダーに人生を賭ける「航空部」の青春を味わえる映画『ブルーサーマル』は、スポーツ系映画好きにも必見の作品です。