MCU版スパイダーマン完結作にして、原点回帰となる作品
『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)から始まった、「MCUスパイダーマン」シリーズ。そのシリーズ完結編となるのが『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』です。
前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)のラストで、世界中に正体をバラされてしまったピーター・パーカー。
その直後から始まる本作では、「MCUスパイダーマン」シリーズ以前に製作された「スパイダーマン」シリーズ・「アメイジング・スパイダーマン」シリーズののヴィランが登場するという、衝撃的な内容となっています。
ドクター・ストレンジをも巻き込んだ本作の物語は、どのような終幕を迎えるのでしょうか?
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、事前情報を一切入れない方が楽しめる作品となっておりますので、ご注意ください。
映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の作品情報
【公開】
2022年公開(アメリカ映画)
【原題】
Spider-Man: No Way Home
【監督】
ジョン・ワッツ
【製作】
ケビン・ファイギ、エイミー・パスカル
【脚本】
クリス・マッケンナ、エリック・ソマーズ
【キャスト】
トム・ホランド、ゼンデイヤ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジェイコブ・バタロン、アルフレッド・モリーナ、ジョン・ファブロー、ジェイミー・フォックス、ウィレム・デフォー、ベネディクト・ウォン、マリサ・トメイ、トニー・レボロリ、J・K・シモンズ
【作品概要】
スパイダーマンとして戦うピーターが、別世界から現れた新たな敵と戦うことになる「MCUスパイダーマン」シリーズの最終作。
主人公のピーターを演じるトム・ホランドの他、MJ役のゼンデイヤや、ネッド役のジェイコブ・バタロンなどのメインキャストは続投。さらに、MCU版以前に製作された「スパイダーマン」シリーズに登場したグリーンゴブリンやドック・オクなどの歴代ヴィランを、ウィレム・デフォーやアルフレッド・モリーナなどのオリジナルキャストが引き続き演じています。
また『スパイダーマン:ホームカミング』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』も手がけたジョン・ワッツが監督を務めています。
映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のあらすじとネタバレ
ロンドンでミステリオを倒しニューヨークに戻って来た、スパイダーマンことピーター・パーカー。
ですがタブロイド紙「デイリー・ビューグル」の編集長であるJ・ジョナ・ジェイムソンが、ミステリオが残した映像を入手したため、世界中に「スパイダーマンはピーター・パーカーである」と報道されてしまいます。
その報道は瞬く間に広がってゆき、ピーターとメイおばさんが住んでいるアパートは、報道陣に囲まれてしまいます。
ミステリオは人々を「宇宙の平和を守るヒーロー」と欺いていたことから、世間はスパイダーマンを「ヒーローを殺した悪人」と信じる「ミステリオ派」と、「皆を守ってくれるヒーロー」と信じる「スパイダーマン派」に別れてしまいます。
ピーターは「ミステリオ殺し」の汚名を着せられ、警察の尋問を受けます。さらに警察の尋問は、ピーターだけでなく恋人のMJや親友のネッド、メイおばさんにも行われました。
腕利きの弁護士マードックにより、拘留を解かれるピーター。それにも変わらずアパートの周囲は混乱しているため、ピーターとメイおばさんはハッピーの自宅に匿われます。
大学入試を控えたピーターは学校に通いますが、学校の周囲もマスコミや「ミステリオ派」が集まっており、厳戒態勢が敷かれていました。
突然の大混乱に戸惑いながらもピーターはMJとネッドと共に「同じ大学に通おう」と約束します。ところが混乱を嫌った大学側から、ピーターとMJ、ネッドは不合格を言い渡されます。
周囲の人間にまで迷惑をかけたことに責任を感じたピーターは、魔術師ドクター・ストレンジの屋敷に相談へ行きます。
ストレンジは、全世界の人間から「ピーターがスパイダーマンである」という記憶を消す魔術を使おうとします。ですが、この魔術は異世界との境界線を壊しかねない、危険な魔術でした。
慎重に魔方陣を描くストレンジに、ピーターは「MJ、ネッド、メイおばさんの記憶は残して」など、細かい注文をつけます。
ピーターの細かい注文により集中できなくなったストレンジは、魔術を中断して魔術の結晶を箱に封じ込めます。さらにストレンジは、ピーターが大学側に一切の交渉を行っていないことを知り激怒、自身の屋敷から追い出します。
大学と交渉できることを知ったピーターは、車で空港に向かう大学の副学長を追いかけます。ようやく副学長に追いついたピーターが、MJとネッドだけでも入学許可を貰おうとした瞬間、道路に亀裂が入ります。
そして、マシンアームを操る別世界からやって来たヴィラン「ドクター・オクトパス/ドック・オク」ことオットー・オクタビアスが姿を現します。
映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の感想と評価
前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のラストで、全世界に正体をバラされてしまったピーターの、その後が描かれる『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。
スパイダーマンの正体を全世界に発表する「デイリー・ビューグル」の編集長J・ジョナ・ジェイムソンを、サム・ライミ監督版「スパイダーマン」シリーズでも同じ役を演じていたJ・K・シモンズがそのまま出演していたことに驚きましたが、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の驚きはその比ではありませんでした。
MCUフェーズ4の鍵を握る「マルチバース」と呼ばれるパラレルワールド的な概念により、サム・ライミ監督版「スパイダーマン」シリーズとマーク・ウェブ監督版「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのヴィランが、キャストそのままで登場するという、とんでもない映画です。
さらに、サム・ライミ監督版「スパイダーマン」シリーズのトビー・マグワイア演じるピーター・パーカー、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのアンドリュー・ガーフィルドが演じるピーター・パーカーも登場し、3人のスパイダーマンが勢ぞろいするというスパイダーマンファンからすれば信じられない内容となっています。
3人のピーターも「真面目」「陽気」「無邪気」と各シリーズごとで性格づけが違うので、それぞれの絡みも面白いです。
それでは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はお祭りのような作品かというと、そうではありません。
スパイダーマンが真のヒーローになる物語が『スパイダーマン:ホームカミング』、トニー・スタークを失った世界で「アイアンマンの精神」を受け継いだスパイダーマンのさらなる成長の物語が『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』であるとすると、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、本当の意味でも「親愛なる隣人」としてのスパイダーマン誕生を描いた、原点回帰のような作品です。
スパイダーマン誕生の物語で欠かせないのは、ベンおじさんの死です。
ピーターが「自分とは関係ない」と見逃した犯人が、育ての親であるベンおじさんの命を奪い、ピーターが怒りと復讐に狂った後に後悔し、街を守るスパイダーマンとなる展開が、サム・ライミ監督版とマーク・ウェブ監督版では描かれていました。
ですがMCU版スパイダーマンは、明るく楽しい雰囲気が特徴で、そういった暗いエピソードは描かれず、ピーターがヒーローを目指す理由は父親のような存在であるトニー・スタークに認められたい一心からでした。
ですが『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、ヴィランを助けたいピーターの決断が、結果的にメイおばさんの死につながるという衝撃的な展開となります。
そして、スパイダーマンを代表する有名な台詞「大いなる力には、大いなる責任が伴う」は、メイおばさんから伝えられます。
その後ピーターは、メイおばさんを殺したグリーン・ゴブリンを憎しみのみで追い詰めますが、別世界のピーターによって止められ、改めて「人を助ける道」を選びました。
世界を救うため、ストレンジの魔術で自身の記憶を消去させたピーターは、これまで使用していたスターク製のさまざまな機能が付いたスーツを捨て、手作りのコスチュームを身にまとい、人知れず街を救う「親愛なる隣人」スパイダーマンとなるのです。
つまり『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、シリーズの最終作で、スパイダーマンの王道とも呼べる展開を描いているのです。
アベンジャーズの一員として戦うMCU版スパイダーマンはこれで見納めですが、2022年公開予定の『モービウス』、現在製作中とされる『クレイヴン・ザ・ハンター』など、スパイダーマンの宿敵が次々に映画化され「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」は広がっていきます。
今後、スパイダーマンは「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」に登場するのでしょうか? 期待したいですね。
まとめ
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で特筆すべきは、ヴィランを倒すのではなく、治療することで救おうとする展開にあります。
本作に登場するヴィランは、もともとはピーターの尊敬する教授や恩人・友人でしたが、科学実験の失敗などで人間を越えた存在になり、狂気に取り憑かれてしまいました。そのためピーターも倒すのではなく、あくまでも救うことを望んでいたはずです。
サム・ライミ監督版「スパイダーマン」シリーズと、マーク・ウェブ監督版「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのピーターがそれぞれのヴィランを救うことで、これまでの全シリーズがハッピーエンドになるという『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』だけでなく、過去作もまとめて完結させたような印象を受け、この構成は凄いの一言です。
細かい台詞や表情の意味などを読み取るためにも、サム・ライミ監督版とマーク・ウェブ監督版、5作品を事前に鑑賞しておけば、さらに楽しめるでしょう。
また『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、さまざまなオマケ要素があるので、そちらにも少し触れておきます。
盲目の弁護士マードックの正体
本作の前半でピーターたちの弁護をしてくれる、盲目の弁護士マードック。
家に投げ込まれた石もキャッチするという恐るべき感覚を持つ弁護士ですが、彼の正体は「デアデビル」という、超人的に研ぎ澄まされた感覚によって戦うヒーローです。
過去に何度も映画化されており「Marvel デアデビル」というテレビシリーズもありましたが、彼のゲスト出演は、今後の映画化などを示唆しているのでしょうか?
エンドロールに登場する「あのキャラクター」
本作のエンドロールでは、シンビオートに寄生され「ヴェノム」に変身するジャーナリストのエディ・ブロックが登場します。
『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)のラストからの続きで、MCUの世界に飛ばされたエディが、スパイダーマンの情報だけを聞いてまた元の世界に戻ってしまいます。
今回の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でスパイダーマンといよいよ顔を会わせるかと思いましたが、今回はお預けです。
少し残念ですが、どこかヴェノムらしくていいですね。
マルチバースの真相は?
本作で「謎に包まれている」と言われている「マルチバース」。
この真相は、2022年公開予定の『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』にて語られるようで、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のラストで予告があります。
「マルチバース」の扉を開いてしまったストレンジが、どのような戦いを繰り広げるのか? 今後に目が離せないですね。