日本を代表する特撮ヒーローシリーズ「仮面ライダー」。
今年生誕50周年を迎えた同シリーズは、テレビシリーズと並行する形で何度かリブートが試みられてきました。
2000年から始まった「平成仮面ライダー」シリーズと並行する形で、2005年に初代仮面ライダーのリブート、『仮面ライダーTHE FIRST』が公開されました。
生誕50周年を記念して2023年に公開が予定されている『シン・仮面ライダー』の制作発表により、新たなリブート作品に対する期待が高まっています。
今回は『仮面ライダーTHE FIRST』をご紹介します。
CONTENTS
映画『仮面ライダーTHE FIRST』の作品情報
【公開】
2005年(日本映画)
【原作】
石ノ森章太郎
【監督】
長石多可男
【キャスト】
黄川田将也、高野八誠、小嶺麗奈、ウエンツ瑛士、小林涼子、津田寛治、板尾創路、宮内洋、風間トオル、並木史朗、北見敏之、石橋蓮司、本田博太郎、佐田真由美、辺土名一茶、天本英世(デジタル出演)
【作品概要】
平成仮面ライダー6作目『仮面ライダー響鬼』(2005)放送中に公開された初代「仮面ライダー」のリメイク映画作品。テレビシリーズに登場した本郷猛、一文字隼人のふたりの仮面ライダーの活躍を現代的解釈に基づいたリメイクをしています。
脚本を務めたのは「平成仮面ライダー」シリーズでも活躍中であった井上敏樹。製作総指揮を務めたのは、「パワーレンジャー」シリーズ海外ヒットの功績で知られる鈴木武幸。
製作に白倉伸一郎、武部直美など、同じく「平成仮面ライダー」シリーズのプロデューサーとして知られる面々が名を連ねています。
現代的にアレンジされた初代ライダーのリメイクとして、本作は「時を経て遂に現れた、これが‟原点(オリジナル)”だ!」というキャッチコピーがつけられています。
映画『仮面ライダーTHE FIRST』のあらすじとネタバレ
一見平和に見える人間社会、しかしその影で“ショッカー”と呼ばれる謎の組織が、秘密裏に暗躍していました。
城南大学大学院で水の結晶を研究する若き科学者・本郷猛は、コウモリのマスクを被った不気味な男に連れ去られてしまいます。
彼を拉致した“ショッカー”は彼の身体に改造手術を施し、バッタの改造人間=ホッパー1へと改造。脳改造で彼の身体を“ショッカー”の意のままに操り、その尖兵としました。
雑誌記者の緑川あすかは「怪人」の都市伝説を取材していました。
婚約者の矢野克彦と共に目撃者のあとを追ったところ、蜘蛛のマスクを付けた怪人=スパイダーとホッパー1の姿を目撃してしまいます。
ホッパー1は克彦を手にかけるも、降り注いだ水の結晶を目にしたことで猛としての自我を取り戻します。
猛はスパイダーから克彦を助けようとしますが、すでに彼は息絶えていました。
その様子を見ていたあすかは、猛が克彦を殺したものだと思いこみ、彼に激しい憎しみを向けます。
一方、“ショッカー”は裏切り者となった猛の抹殺を目論み、新たな改造人間を遣わします。
その姿は本郷猛の変身した姿=ホッパー1と、そして死んだ克彦と瓜二つの顔を持つ男、一文字隼人=ホッパー2でした。
隼人は、克彦のふりをしてあすかに接触。陰ながら彼女を守ろうとする猛をおびき出そうとします。
埠頭にあすかを連れ出した隼人は、ふたりの後を追ってきた猛に戦いを挑みます。
隼人の襲撃を逃れたホッパー1は、帰宅途中のあすかとすれ違います。
“ショッカー”の襲撃から何度か彼女を助けたホッパー1の素顔を知りたいと、あすかは正体を尋ねますが、ホッパー1は立ち去りました。
場所は変わって、郊外の病院。不治の病を理由に、屋上から投身自殺を図ろうとしていた三田村晴彦は、寸前で看護師らに止められるも、自身の生涯に絶望していました。
誰も見舞いに来ず、自暴自棄になっていた彼のもとへ、足繁く通うひとりの少女がいました。
彼女の名は原田美代子。
彼女もまた、晴彦と同じように不治の病に侵されており、同じ境遇だと知り、ふたりは惹かれ合っていきます。
映画『仮面ライダーTHE FIRST』の感想と評価
紆余曲折あったリメイクの方向性
1971年に放送開始したテレビシリーズ第1作目、原作者の石ノ森章太郎による漫画版、そして本作の順に比較していくと、時代ごとの変遷や細かな違いが見られます。
初代「仮面ライダー」企画当初、当時深刻化していた公害問題を作品テーマに反映させ「大自然の使者」としてバッタをモチーフにした異色のヒーローが注目を集めました。
シリーズヒットのきっかけとなったのは、2クール目以降。つまり、藤岡弘のバイク事故による一時降板の影響で、急きょ設定された「2号ライダー編」からでした。
今ではシリーズの象徴ともなった「変身」シーンもこの時期に導入された新要素で、70年代初頭の変身ヒーローブームを牽引しました。
「仮面ライダー」のリメイク版として、本作が着想を得たのは、前述したTVシリーズではなく、原作者、石ノ森章太郎がテレビ放送と並行して連載していた漫画版。
本作は、漫画版独自の「ヘルメットを自分で装着し変身が完了する」や「2号ライダーは正義に目覚めた1号ライダー抹殺のためにショッカーから送り込まれた刺客」といった設定を引き継いでいます。
しかし、原点回帰を標榜し本作を制作したのは石森プロではなく、当時「平成仮面ライダー」シリーズを手掛けていた東映。
漫画版の設定を流用しつつも、TV版の要素、韓流ドラマ流行を取り入れてのラブロマンス路線など、本作はキメラ的にあらゆる要素を織り交ぜています。
「仮面ライダー」シリーズとは、原作者石ノ森章太郎ひとりの手で生み出されたものではないため、本作は漫画版の「仮面ライダー」のみを原点(あるいは聖典)としなかったのでしょう。
あらゆる要素を複合した上でリメイクがなされた本作は、肯定的に受け入れられました。
味方側と敵側の両方でラブロマンスが展開し、それが漫画版のような政治色の強い冒頭のタッチとの食い合わせが悪い印象も受けますが、出渕裕がリファインしたライダースーツのデザイン、横山誠によるアクション演出は、今なお根強い人気を誇っています。
本作以前の90年代までは「仮面ライダー」という作品のブラッシュアップには、『強殖装甲ガイバー』のような、モチーフであるバッタを有機的に解釈することこそが正攻法と思われていました。
しかし「平成仮面ライダー」シリーズが作品を重ねるにつれ、スーツデザインの系統は、生物的デザインか同じ東映ヒーローの「メタルヒーロー」シリーズの延長線上にあるようなメカニカルなデザインへと集約されていきます。
本作は、仮面ライダーのモチーフをバッタではなくライダースーツ自体とし、そこにディティールアップを施したことに発明がありました。
レザースーツにバッタのモチーフを散りばめたのは、「昭和仮面ライダー」の着ぐるみであるジャージスーツの現代アップデートとして順当であったと言えます。
本作の着ぐるみアクションを実際に観ると、同時代の日本映画『ゴジラ FINAL WARS』(2004)の等身大アクションシーンに非常に近しい印象を受けます。
デザインやアクションに関する同様のアプローチが、ひと昔前の特撮ジャンルではトレンドでした。
言ってしまえばどちらもアメコミ実写化作品に多大なインスピレーションを受けて作られており、「リアルな」スーツデザインからワイヤーを多用したアクロバティックなアクションなど、00年代のアメコミ映画の雰囲気を感じさせます。
しかし本作には同年のアメコミ映画『バットマンビギンズ』(2005)よりも凝縮されたケレン味あるアクションがあり、バイクアクション、クライマックスの2対2の決闘など、日本特撮特有の見どころが満載でした。
ライダーの解釈を拡大した本作が見出した可能性
本作は仮面ライダー生誕35周年を目前にした2005年に公開された作品で、2000年代ならではのアプローチがなされた作品でした。
しかしながら、1971年に誕生した仮面ライダーを作り直した現代で、当時の荒削りな作風自体を再現することは出来ません。
元の仮面ライダーには、ある程度メソッド化された昨今の作品にはないアバンギャルドさがありました。
その魅力とは、チープさが醸し出す恐怖感であり、過剰なまでに前のめりになっている作り手の姿勢、そして何よりもご都合主義的に理屈をすっ飛ばした作劇でした。
怪奇ホラーを謳ってはいるものの、子供向け作品として、デティールの解像度が下げられていました。
ある意味そういったご都合描写は、本作劇中にも散見されており、変身シーンにおいてカメラが腰のベルトに寄ったかと思えば、次の瞬間には全身ライダースーツに着替えているなど、省略された描写にもっともらしい理由付けはなされていません。
この解像度の低さが仮面ライダーを象徴しているのかもしれません。リアリティの追求を徹底しない、隙の多い世界観こそが仮面ライダーらしさなのではないでしょうか。
そこのリアリティラインを上げる試みをしたのがテレビシリーズ『仮面ライダーBLACK』(1987)であり、オリジナルビデオ作品『真・仮面ライダー序章』(1992)でした。
これはヒロイズムの根幹にまつわる問題で、リアリティラインを上げてしまうほどに、仮面ライダーの本質やテーマ性が損なわれてしまう恐れがあります。
青年以上の特撮ファンが求めてしまいがちなリアルでダークな路線において、仮面ライダーをヒロイックに描くことは事実上不可能です。
初代『仮面ライダー』(1971)の第1クール、いわゆる旧1号編は、針の穴を通すようなバランスで、怪奇ホラーにおけるヒーロー、仮面ライダーを描いていました。
そして生誕50周年となる2021年。初代仮面ライダー初回放送日である4月3日に新作映画『シン・仮面ライダー』(2023)の制作が発表されました。同作品では『シン・ゴジラ』(2016)『シン・ウルトラマン』(2021)を手掛けた庵野秀明が脚本・監督を務めると報じられました。
同じく初代仮面ライダーのリメイク作品である本作と比較した上で、『シン・仮面ライダー』がどのような内容になるのかをここで少し予想をしてみます。
2021年5月現在、公開を控えている『シン・ウルトラマン』(2021)において初代ウルトラマンデザイナー、成田亨の『真実と正義と美の化身』をモデルとしたウルトラマンを映像化したようにオリジナルの作家が構想していたイメージを庵野秀明、樋口真嗣によるビジョンのもと、具現化していくのが”シン”を冠した映画版の特色だと考えられます。
そこで『シン・仮面ライダー』(2023)は、本作『仮面ライダーTHE FIRST』(2005)が踏襲しなかった原点回帰がなされるのではないかと予想します。
その参考資料となるのが、原作者石ノ森章太郎がオリジナルの劇場版をイメージして描いた絵コンテ漫画「仮面ライダー」です。
同作の仮面ライダーは本郷猛ではなく、風谷光二。
「悪の秘密結社ショッカーは、フリーメイソンの機関の一つであり、古代から伝わる秘法と超先端科学の混合技術を駆使し、人類を超人化させようと企てている…」という劇場版ならではの設定も、背景に広がる壮大な世界観を感じさせます。
『シン・仮面ライダー』(2023)発表と共に公開されたティーザービジュアルでは、トレンチコートを纏った仮面ライダーがマフラーをなびかせている様子が描かれていました。
このコンセプトには、石ノ森章太郎が1986年3月に記した絵コンテ漫画の設定資料「キミは仮面ライダーをみたか⁈」内で構想していた「肉体変化を伴う変身シーン」と「変身した肉体を隠すための”変装用”として身に纏うライダースーツ」の設定に通ずるものがあります。
元はショッカーの他怪人同様に、バッタの改造人間である仮面ライダーが、生物的なバッタ男の姿を経て、仮面とスーツを装着し従来の仮面ライダーの姿になっていく段階的な変身は、『真・仮面ライダー序章』(1992)をはじめとした90年代のネオライダーシリーズでも構想のみで実写映像作品においては実現していません。
怪人がスーツを纏ってライダーになるという段階的な変身は、”シン”を冠した映画でこそ満を持して活用される設定ではないでしょうか。
まとめ
本作は、「平成仮面ライダー」がシリーズとなっていた2005年に制作された作品で、原点回帰を見せた記念作でもあります。
ドラマやアクションからは平成らしさを感じるものの、初代仮面ライダーから取り入れられたエッセンスによって昭和らしさも感じさせる全仮面ライダー作品の中でも、類を見ないその独特さが光ります。
昭和仮面ライダーに馴染みがある人にとっては、平成の世にリファインされた1号2号の姿を新鮮に感じられますし、平成仮面ライダーに親しんでいる人にとっては、昭和と平成のミッシングリンクとして捉えることも出来ます。
本作の後に続編である『仮面ライダーTHE NEXT』が公開されました。3作目は実現に至らなかったものの、昭和仮面ライダーをリバイブしようとする企画は『仮面ライダーアマゾンズ』(2016)へと受け継がれていきます。
他作品とも繋がりが少なく、世界観が閉じてている本作は仮面ライダーシリーズ入門としてもオススメの1作であり、これから公開される『シン・仮面ライダー』(2023)への予習として、まずおさえておくべき作品とも言えるでしょう。