連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile062
新宿シネマカリテにて2019年7月13日より4週間に渡り開催された「カリコレ2019/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2019」。
新旧作合わせ古今東西の様々な映画が公開されたこのイベントで上映された作品は、独特のセンスが光るものが多く、とても刺激的でした。
今回は「カリコレ2019」の当コラム的おさらい第1弾として、「カリコレ2019」で上映されたカナダ製の壮絶な復讐ホラー映画『ガール・イン・ザ・ミラー』(2019)の魅力をご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『ガール・イン・ザ・ミラー』の作品情報
【日本公開】
2019年(カナダ映画)
【原題】
Look Away
【監督】
アサフ・バーンスタイン
【キャスト】
インディア・アイズリー、ミラ・ソルビノ、ジェイソン・アイザックス、ハリソン・ギルバートソン、ペネロープ・ミッチェル、ジョン・C・マクドナルド
映画『ガール・イン・ザ・ミラー』のあらすじ
他者を寄せ付けようとしない陰気な性格が災いし、両親から腫れ物扱いされる少女マリア(インディア・アイズリー)。
学校でも一部の生徒からいじめを受けるマリアの心が限界に達した時、鏡に映る自身の姿をした女性がマリアに語りかけ始めます。
彼女の言葉に心を動かされたマリアは、自分自身を変えようと努力しますが思うようにはいかず…。
正反対の性格を持った鏡による復讐劇
母からは過剰なほどの愛を貰い、厳格な父からはまるで装飾品のように清く美しくあることを押し付けられ育ったマリアは、幼馴染の親友こそいるものの日常生活は上手くいっているとは言えません。
一方で鏡に映ったもう一人の彼女は、マリアとは違い感情を押し殺すことなく振る舞い、マリアとは正反対の性格であることを伺わせます。
さらに、鏡の少女はマリアとは違い超えてはならない行為を平然と行い、マリアを追い詰めていた人間たちを手にかけ始めます。
鏡の少女が何をするか分からない静かな「恐怖」は理性を捨てた人間そのものの脅威を感じさせ、心霊ホラーと言うよりはサイコホラーに近い印象を覚える作品でした。
考察の余地を残す鏡の少女の正体
マリアの妄想とも現実とも取れる鏡の少女の正体。
「鏡」が「正反対の性格」を示唆していることは明らかであり、彼女の抑圧された心が噴き出たようにも考えることが出来ます。
しかし、作中ではその正体に迫る「答え」が丁寧に描写されていながらも、明言されてはいません。
鏡の少女は決して全能の存在ではなく、「あること」をしてしまった際に酷く動揺する姿を見せます。
そのことが本作をありがちなホラー映画に留まらせず、作品そのものの魅力を大幅に引き出しています。
理知的な解釈も、心理的な解釈も出来る彼女の正体を鑑賞後にじっくりと検証してみるのも面白さの1つと言えます。
怪演が光る俳優陣
派手なスプラッタや悲鳴が響き渡るような大きなパニックの無い静かな「ホラー」であるからこそ俳優の演技が光る本作。
中でも怪演とも言えるような印象的な演技をしていた主演のインディア・アイズリーと、父親役のジェイソン・アイザックスについてご紹介したいと思います。
インディア・アイズリー
秀逸なホラー映画として根強い人気を持つ『暗闇にベルが鳴る』(1975)のオリヴィア・ハッセーを母に持つインディア・アイズリー。
日本のアニメを実写化した『カイト/KITE』(2015)で主演を務め、大物俳優サミュエル・L・ジャクソンと共演を果たすなど、俳優として活躍する彼女の演技への姿勢は本作でも充分に発揮されており、陰気なマリアと自由な鏡の少女が同じ人間とは思えないほどの変貌ぶりを見せてくれます。
無垢な少女のような姿と艶やかな大人びた女性の姿を演じ分ける本作での彼女の演技は正に怪演であり、物語だけでなく映画としての根幹部分を担ったとさえ言えます。
ジェイソン・アイザックス
整形外科医であるマリアの父親を演じたジェイソン・アイザックス。
ハリウッド映画にも数多く出演し、人気映画「ハリー・ポッター」シリーズでは主人公のライバルであるドラコ・マルフォイの父ルシウス・マルフォイを演じ、幅広い年齢層での知名度を誇る彼は本作でも圧巻の演技。
整形外科医と言う職業柄なのか表面上のことや世間体のみを重視し、マリアの抱える悩みを一笑に付すことで惨劇の起因となる、派手さはないものの重要な役回りを堅実に演じていました。
まとめ
陽気に見える人間が実は誰も見ていないところでは陰気な部分があると言うように、意外な二面性を持つ人は少なくありません。
まるで「鏡」のような性格の変貌はもしかしたら、マリアのように鏡の中のもう1人の自分と対話しているのかもしれません…。
「カリコレ2019」で公開された『ガール・イン・ザ・ミラー』は刺激的かつ繊細なカナダ製の復讐ホラーの秀作映画でした。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile063では、「カリコレ2019」おさらい第2弾としてオーランド・ブルームが主演した宗教的復讐映画『復讐の十字架』(2019)をご紹介させていただきます。
8月14日(水)の掲載をお楽しみに!
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