連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第24回
世界中のセレブたちが集うという、“秘密の宮殿”の魅力に迫る――。
今回取り上げるのは、2019年8月9日(金)からBunkamuraル・シネマほかで全国順次公開される『カーライル ニューヨークが恋したホテル』。
ハリウッドスターやミュージシャン、ファッションモデルたちが愛してやまないニューヨークの名門ホテル、「ザ・カーライル ア ローズウッド ホテル」の魅力が明らかとなります。
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CONTENTS
映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Always at the Carlyle
【監督・脚本】
マシュー・ミーレー
【キャスト】
ジョージ・クルーニー、ウェス・アンダーソン、ソフィア・コッポラ、ジョン・ハム、アンジェリカ・ヒューストン、トミー・リー・ジョーンズ、ハリソン・フォード、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、ウディ・アレン、ヴェラ・ウォン、アンソニー・ボーデイン、ロジャー・フェデラー、レニー・クラヴィッツ、ナオミ・キャンベル
【作品概要】
ニューヨークのアッパーイーストサイドにそびえ立つ、1930年創業の「ザ・カーライル ア ローズウッド ホテル」の魅力に迫るドキュメンタリー。
ジョージ・クルーニーやウェス・アンダーソンをはじめとする総勢38名のセレブたちや、実際にホテルに勤めるスタッフたちのインタビューを交え、カーライルにまつわる秘話や、究極のおもてなしの真髄が明かされていきます。
監督のマシュー・ミーレーは、これまでにニューヨークに関するドキュメンタリー映画を多数手がけてきた人物で、本作制作のためにカーライルに4年間通い詰めました。
映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』のあらすじ
ニューヨーク、アッパー・イーストサイドにある「ザ・カーライル ア ローズウッド ホテル」。
1930年に、金融と海運業で富を築いたモーゼス・ギンズバーグによって建てられ、イギリスの思想家トーマス・カーライルにちなんで名づけられたこのホテルは、富裕層が暮らすアッパー・イーストサイドの象徴として、数多くのセレブに愛されてきました。
この格式高い5つ星クラシックホテルの魅力を、ジョージ・クルーニーやソフィア・コッポラ、ウェス・アンダーソンといった総勢38名のスターたちが語ります。
一方で、宿泊客に愛されるホテルスタッフからのインタビューも交えつつ、カーライルに脈々と息づく、究極のおもてなしの真髄が明らかとなります。
ドキュメンタリーのニューヨーク派マシュー・ミーレー監督
参考映像:『ティファニー ニューヨーク五番街の秘密』予告
本作監督のマシュー・ミーレーは、長編映画『Everything’s Jake』(2000、日本未公開)の監督としてスタートするも、2010年に『Gentleman Gangster』 (日本未公開)を手がけて以降はドキュメンタリー制作に専念。
老舗デパート「バーグドルフ・グッドマン」の歴史を追った『ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート』(2013)に、高級ブランドの知られざる逸話に迫った『ティファニー ニューヨーク五番街の秘密』(2016)と、ニューヨークの名門ショップがテーマの作品を連続で発表します。
ニューヨークを活動拠点とし、ニューヨークが舞台の作品を撮る、いわゆる“ニューヨーク派”な監督としては、シドニー・ルメット、マーティン・スコセッシ、ウディ・アレン、スパイク・リーがいますが、ミーレーはさしずめ、“ドキュメンタリーのニューヨーク派”監督といったところでしょうか。
「ドキュメンタリーの魅力は綿密な取材にある」と語るミーレーは、本作でも4年もの歳月をかけてザ・カーライルホテルに密着。
ホテルの常連客の一人であるジョージ・クルーニーを筆頭に、数々のセレブインタビューも実現するまでに2年もかかったと明かしています。
豪華セレブたちが明かす高級ホテルの魅力
本作ではそのクルーニーや、モデルのナオミ・キャンベル、映画監督のウェス・アンダーソンに、はては元政治家のコンドリーザ・ライスといった名だたるビッグネームが次々登場し、ホテルにまつわるエピソードを語っていきます。
クルーニーが「まるで自宅のようにくつろげる場だ」と語れば、テレビドラマ「マッドメン」シリーズで人気を博したジョン・ハムは、「このホテルに泊まれたら自慢になる。僕は泊まったことがないけど」とジョークを交えます。
なかでも特筆すべきは、『ゴーストバスターズ』(1983)のビル・マーレイがインタビューに答えていることでしょうか。
マーレイといえば特定のエージェントを持たず、取材にほとんど応じないばかりか、公の場にさえめったに姿を見せないことで知られる人物。
映像からしても、偶然ホテルに居合わせた時を捉えたものと推測できるだけに、そんな彼のインタビューに成功しているのは、何気にスゴイ事なのです。
“秘密の宮殿”スタッフのプロフェッショナルな流儀
さらに本作では、カーライルに勤めるスタッフやOBたちにもカメラを向けます。
元ベルボーイがホテル内でジョン・F・ケネディ元大統領とマリリン・モンローが逢瀬を重ねる秘密の通路の存在をうやむやにかわせば、勤続20年のルームサービスは、サービス精神旺盛なジャック・ニコルソンのエピソードを披露。
「我々はお客様の情報は一切漏らしません」と言いつつ、嬉々としてインタビューに応じるスタッフの機転の良さが表れます。
一方でカメラは、“秘密の宮殿”のプロフェッショナルな仕事ぶりも捉えます。
宿泊者のイニシャルを刺繍した枕カバーを用意すれば、レストランの給仕長は毎日の朝食において100もの注文をこなす。
さらに、「連れてきたペットの犬の用足しを室内で済ませたい」という、無理難題ともいえる客の要望にも、「No」とは言わない究極のおもてなしで対応します。
ホテルが宿泊客を選ぶ
数々のスタッフにスポットを当てる中で、カーライルというホテルの何たるかを象徴するのが、36年もの長きに渡って主任コンシェルジュを勤めてきた、ドワイトの存在です。
吃音症を抱えながらも、仕事への有能ぶりとその人柄から、宿泊客の絶大な信頼を得てきたドワイトですが、彼は雇われる際、ホテルの経営陣から「吃音を治す必要はない」と告げられていました。
会話こそスムーズではないかもしれませんが、ホテル側にすればそれは問題ではなく、客へのおもてなしがしっかりと出来ることが重要。
もっと言えば、「応対したコンシェルジュが吃音であることを不満に思う客は、カーライルの宿泊客としてふさわしくない」ことを暗に意味します。
究極のおもてなしをするに値する、“豊かな心”を宿泊客にも求めるカーライル。
本作は、名門ホテルを紹介するカタログ映像としての意味合いもなくはありません。
しかしその実は、長年築き上げてきたホテルとしてのプライドが、節々に見え隠れしているのです。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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