『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、鬼才クエンティン・タランティーノ監督の最新作
タランティーノ監督の9作目となる長編作品。2大スター初共演でレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットを起用。
舞台は1969年のハリウッド。テレビ俳優とそのスタントマンの友情を通して時代の潮流を鮮やかに映し出し、女優シャロン・テートに象徴される当時の寛容さや自由な風土を描写した笑い溢れる物語です。
本作は、『ビバリーヒルズ青春白書』で90年代初頭のアイコンと評されたルーク・ペリーの遺作です。
CONTENTS
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Once Upon A Time in Hollywood
【監督】
クエンティン・タランティーノ
【キャスト】
レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、カート・ラッセル、ダミアン・ルイス、マイケル・マドセン、マイク・モー、オースティン・バトラー、ルーク・ペリー、アル・パチーノ
【作品概要】
監督・脚本を兼務したクエンティン・タランティーノは、1969年に惨殺されたシャロン・テートを物語に含めるのか当初かなり悩みましたが脚本を書き進めるうちに自信を持ち製作を開始。妹のデボラ・テートさんも脚本を読んで支持を表明しています。
タランティーノ監督と組むのは本作で3回目となる撮影担当のロバート・リチャードソンは、アカデミー賞を3度受賞している撮影監督。「アル・パチーノの出演作品は全部観ている。彼を撮るのが夢だった!」と話しています。
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のあらすじとネタバレ
リック・ダルトンは西部劇の主演ドラマがキャンセルになった後、テレビドラマにゲスト出演を続けています。
リックのスタントマンであるクリフ・ブースとは親友。飲酒運転で免許を失ったリックの代わりに、クリフが運転手を務めています。
ある日、リックは、配役担当責任者のマーヴィン・シュワルツから、ローマで撮影されるスパゲッティ・ウェスタンの出演を打診されます。
リックは、ハリウッドでいよいよ落ち目になりキャリアも終わりに近いと感じてクリフの肩に顔を埋めて涙ぐみます。
愚痴を聞いたクリフは、「メキシコ人の前で泣くな」とサングラスをリックに渡し、そんなに悪い話ではないとリックを慰めます。
シエロ・ドライブの自宅に2人が到着するとシャロン・テートと映画監督の夫ロマン・ポランスキーが車で隣家へ入って行きます。
リックは、1ヶ月程前に引っ越して来た有名監督に興奮し機嫌を直します。クリフはヴァン・ナイに在るドライヴインシアターの隣に停めたトレーラーへ帰宅。
一緒に暮らすピットブルのランディにドックフードの缶詰を開け、ランディはクリフの合図を待ってから食べ始めます。
リックは、音楽を聴きながらプールの浮き輪に寝そべり作ったお酒でくつろぎます。
シャロン・テートはプレイボーイ・マンションで開かれたパーティへ出かけ、踊りながら夜を楽しみました。
翌日、撮影現場へリックを送り届けたクリフは、スタントの仕事があるか訊いて欲しいと頼みます。
リックは、その日のスタント・コーディネーターはランディなので、また別の日に声を掛けて見ると言い、自宅のテレビのアンテナを修理して欲しいと頼みます。
以前、リックは、ランディにクリフをスタントに使うよう頼みました。妻だった女性を殺害した過去を持つクリフをランディの妻・ジャネットが嫌がると断られます。
リックは、それは噂だと言い返し、クリフが戦争に従軍して功績を残したと訴え、やっと承諾を得ました。
しかし、ブルース・リーに絡まれたクリフがスターであるリーを投げ飛ばし、駐車していたジャネットの車をへこまして解雇されたことがあったのです。
リックの自宅にアンテナを直しに来たクリフは、屋根の上からチャールズ・マンソンが隣へ行くのを目撃します。
対応に出たジェイ・セブリングに、マンソンはテリーを探していると言います。 ジェイは、現在ポランスキー家が住んでおり、テリーという人物は居住していないと答えます。
様子を見に出て来たシャロンを見たマンソンは、笑顔で挨拶をした後立ち去ります。
その頃、怪我で降板した俳優の代わりに抜擢されたリックは、待機中に8才の共演者に出会います。
彼女はリックに俳優としての心構えを説きます。今の自分が惨めで涙ぐむリックは、8才の共演者に慰められます。
シャロンはウェストヴィレッジに行きたいというヒッチハイカーの女性を送ってあげた後、夫の為に購入した本を取りに行きます。
ブルーイン・シアターで『レッキング・クルー ~伝説のミュージシャンたち~』を上映しているのを見掛け、帰りに映画館へ立ち寄ります。
自分が出演している作品なので無料で観賞させて欲しいと頼み、写真撮影に快く応じ映画を楽しみます。
一方、リックは深酒がたたり、台詞を何度もトチって周囲は興ざめ。リックは自己嫌悪に陥りトレーラーに戻って大暴れします。
しかし、気を取り直して次の場面を上手くこなし、リックは監督から褒められ安堵します。8才の共演者からも賛辞を贈られ、リックはまた涙ぐみます。
クリフは運転中に度々ヒッチハイクしようとしている同じヒッピー女性を見掛けます。チャッツワースに在るスパーン・ランチと呼ばれる映画撮影用のセットに住んでいると聞いて、クリフは車に乗せてあげます。
スパーン・ランチに到着すると、その女性は一緒に来るようにクリフを誘いチャーリーを紹介したいと言います。
たくさんの女性が建物から出て来てクリフの様子を伺い、馬に乗ったテックス・ワトソンも現れクリフに声を掛けます。
クリフは、土地の所有者であるジョージと以前一緒に仕事をしたことがあり、挨拶をしたいと言いますが、明らかに嫌な顔をされます。
奇妙な集団が住み着いたのを見てジョージを心配したクリフですが、ジョージはクリフを全く覚えていませんでした。
外へ出て来たクリフはブーイングを浴びせられ、更にリックのキャデラックがパンクしているのを発見します。
薄ら笑いを浮かべ、自分がやったと認める男をクリフは殴ってタイヤを交換させます。
事態を聞きつけたテックスが戻ると、クリフは車で走り去るところでした。
クリフはリックを撮影現場に迎えに行きリックの家に戻ります。2人でリックがゲスト出演するテレビドラマ『F・B・I』を見ながらビールとピザで夜を過ごします。
クリフは、車に乗せたヒッピー女性から50セントで買ったLSD入りのタバコをリックのシガレットケースに入れ、間違って吸わないようにリックに注意します。
6ヵ月後、マーヴィンからの紹介でセルジオ・コルブッチの映画に出演し、続けて複数の映画撮影を終えたリックはある程度の収入を得てクリフとアメリカへ帰国します。
リックは、イタリア人女性・スカーレット・コルブッチと結婚。2人の新生活が有るので、今後はクリフを雇い続けられないと打ち明け、ビバリーヒルズの家も売却するつもりだと話します。
クリフは事情を理解。9年間続いたリックとクリフの二人三脚は終わりを迎えようとしていました。
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の感想と評価
**一部、ネタバレ・結末の記載がございます。閲覧にご注意ください**
リックとクリフの2日間を通し1969年のハリウッドを緻密に再現したクエンティン・タランティーノの絶妙な脚本と構成が光ります。
ブルース・リー扮するマイケル・モーのうんちくを述べる場面、そしてピットとの手合せシーンは、タランティーノならではと言える台詞と展開で、見所の1つです。
直後にカート・ラッセルと妻役のゾーイ・ベルがピットを怒鳴る所は、前日にタランティーノが新たに追加した場面です。
『キル・ビル』のウマ・サーマンのスタントだった彼女を本作に登場させることで、タランティーノはスタントマンという映画に必要不可欠な職業に敬意を表しています。
更に、ディカプリオがトレーラーで怒りを爆発させる場面も当初の脚本に無かった部分でディカプリオの即興です。物語の進行に合わせてリックの心情を2人が話し合った結果捕捉されました。
タランティーノ監督にとって9作品目となる本作は、シャロン・テート殺害事件から50年を迎える2019年に公開。
哀悼の意を捧げると共に彼女が生きていた世界は悪ばかりでは無かったことをタランティーノは描いています。
事件後、麻薬絡みだと誤報が飛び交いシャロンさんを半ば責めるような報道があり、ヒッピー文化は批判を受けました。
タランティーノは製作に当たり独自に調査を進め、シャロン・テートという女性が大きく誤解されていたと確信に至ります。
演じたマーゴット・ロビーは、若くて美しい将来有望な女優の大らかさと寛容さを瑞々しく表現し、タランティーノが知り得たシャロン・テートを鮮やかに蘇らせます。
本作の終盤で描かれる事件の夜、『イングロリアス・バスターズ』でヒトラーを殺したように、タランティーノは、凶行に及んだ犯人をリックとクリフに殺させる選択をしました。
惨殺された被害者に代わって復讐するかのように、犯人達はクリフ、ランディ、リックによって暴力的な死を遂げます。
そして、迎えるエンディングで、タランティーノが本作に込めた意図が明らかになります。
数週間後に出産を控えたシャロン・テートとジェイ・セブリング含め4人がリックを出迎えるラストシーン。全てはここに導く為に周到に構成された2時間だったことが分かるのです。
4人は70年代へ移行して行くアメリカに存在しませんが、タランティーノが物語る遠い昔のハリウッドで永遠に生き続けます。
まとめ
時代の過渡期を迎えた1969年のハリウッド。
俳優として生き残れるのか悩むリックと今に満足するスタントマンのクリフは親友です。
女優シャロン・テートと夫ロマン・ポランスキーが偶然隣に引っ越して来たことで思わぬ事態に巻き込まれます。
4才の時に移り住んだロサンゼルスを再現する為、クエンティン・タランティーノは、ハイウェイ101とハリウッド・ブルバードの4ブロックを閉鎖して撮影。
スクリーンに映し出される街は活気に溢れ、そこに生きた人々が息を吹き返し人生を謳歌する様子が描写されます。
登場人物を深く作り込むことに長けたクエンティン・タランティーノの秀逸な作品。