史実に着想を得たコミック『アルキメデスの大戦』が、待望の実写映画化された!
第二次世界大戦前夜の日本海軍の建艦計画など、軍事技術を軸に歴史に埋もれた物語を取り上げ、漫画家・三田紀房がコミックとして世に発表した『アルキメデスの大戦』。
話題の作品が実写映画として製作、公開されました。
日本が世界から孤立し、戦争への道を突き進もうとしていた時代。日本海軍は世界を圧倒する巨大戦艦を建造する事で、各国海軍より優位に立とうと画策します。
しかし海軍部内では、航空機が目覚ましい発展を遂げる中、戦艦の建造は時代遅れであり、しかも巨大戦艦の威力への過信は、国家を誤った道に導きかねないと危惧する人々がいました。
その中心にいた人物が後の連合艦隊司令長官、山本五十六。彼は巨大戦艦の建造を阻止する為に、1人の男に目をつけます。
それは数学の偏愛する天才、そして大の軍隊嫌いの変わり者、スキャンダルで帝国大学を追われた経歴を持つ、一筋縄ではいかない男、櫂直(かいただし)でした。
山本五十六に希望を託された櫂は、巨大戦艦の建造を阻止し、戦争への道を進む日本を救う事ができるのか…。
CONTENTS
映画『アルキメデスの大戦』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本・VFX】
山崎貴
【キャスト】
菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、小林克也、小日向文世、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろし
【作品概要】
日本海軍の巨大戦艦建造を阻止しようと、1人奮闘する天才数学者の姿を描いた、史実に着想を得た歴史フィクション映画。
監督は日本のVFXの第一人者であり、近年はそれを駆使した様々な実写映画の監督として、比類の無い実績を誇る山崎貴。
『永遠の0』『海賊とよばれた男』に続く、戦争を背景とした激動の時代に立ち向かう、1人の男の姿を描いた作品を新たに生み出しました。
主演は『帝一の國』『銀魂』『火花』と、様々なジャンルの話題作に出演している菅田将暉。変わり者の数学者の奇矯な姿と、彼が1人権力と歴史に立ち向かう姿を熱演しています。
主人公をとりまく人物に、舘ひろしを初めとする日本俳優界の重鎮が並び、作品に風格を添えた本格的な歴史エンターテインメント作品です。
映画『アルキメデスの大戦』のあらすじとネタバレ
昭和20年4月7日九州・房の岬沖で、日本海軍の誇る巨大戦艦大和は、米機動部隊から発進した艦載機の激しい空襲を受けていました。
必死に反撃する大和ですが、魚雷や爆弾が次々と命中し船体は左舷への傾斜を深め、やがて大和は転覆し、大爆発を起こします。こうして大和は3000名以上の人命と共に、海に沈んでいきます…。
その12年前となる昭和8年。満州国を建国し国際的な孤立を深めていた日本。この激動の時代に第一航空戦隊司令官として、空母赤城の艦上にいる山本五十六少将(舘ひろし)。
彼は今後の戦争の主役は航空機であり、今後海軍に必要とされる艦艇は航空母艦、すなわち空母であり、一隻でも多くの空母が必要だと考えていました。
海軍省に戻った山本に技官の藤岡造船少将が、建造予定の新型空母の模型を持って現れます。山本と藤岡、そして海軍軍令部の永野修身中将(國村隼)は、新たな空母の建造を望んでいました。
しかし当時の日本海軍は、戦艦を第一に考える大艦巨砲主義が主流でした。同じ軍令部の嶋田繁太郎少将(橋爪功)は、他国海軍の戦艦を圧倒する巨大戦艦の建造計画を進めます。
嶋田は海軍大臣大角岑生(小林克也)に働きかけて、軍艦建造の権威である平山忠道造船中将(田中泯)の設計した、新型巨大戦艦の建造を認めさせようと画策します。
旧式化した戦艦・金剛の代艦として、平山の示した新型巨大戦艦案は、その美しい姿もあって戦艦主体の海軍の伝統に誇りを持つ、大角大臣ら海軍主流派の支持を集めました。
こうした流れを苦々しく思う山本と藤岡、永野は料亭で宴席を持ちます。そこで山本は1人で芸者を集めて騒ぐ、櫂直(菅田将暉)に出会います。
山本に対し軍人は嫌いと言い放つ櫂は、国の予算に見合わない軍備を進める軍部を、面と向かって批判します。数学は嘘をつかないとの信念を語り、山本の興味を惹いた櫂。
山本は身近に仕える田中正二郎少尉(柄本佑)に、櫂について調べさせます。櫂は帝国大学数学科の学生で、後にノーベル賞を受賞する湯川秀樹と並び評される、数学の天才でした。
しかし軍需産業に関わる尾崎財閥の令嬢、尾崎鏡子(浜辺美波)の家庭教師をしていた櫂は、その関係を疑われ帝国大学を放校されていました。
山本らは自分たちの空母建造案の予算見積もりが9300万円、平山の巨大戦艦建造案が8900万円という数字に疑問を感じていました。そこを突けば巨大戦艦の建造を阻止できる、と山本は考えます。
しかし建艦計画を決定する会議までに、残された時間は僅か。この短い期間で、平山案の予算の検証出来るのは、櫂しかいないと見込んだ山本。
ところが軍人嫌いの櫂は、山本の依頼を拒否します。彼は軍や財閥が支配する日本に見切りをつけ、アメリカへの留学を決意していました。
山本は巨大な戦艦の建造は軍人だけでなく、日本国民にも自分たちの力に誤った過信を抱かせ、戦争への道を進ませると櫂を説得します。拒否を続ける櫂ですが、山本は彼の態度に手応えを感じます。
櫂は尾崎財閥を訪問した嶋田少将に、数学的な興味から戦艦の主砲の命中率について、素朴な疑問をぶつけ怒りを買っていました。その思考や態度から、軍人に不信の念を抱いていました。
翌日アメリカへの出発の日を迎えた櫂。彼を見送りに鏡子が現れます。しかし天才的な頭脳で、戦争に突き進み荒廃する日本の姿を予見した櫂は、出国を断念し山本への協力を決意します。
こうして山本少将により海軍に迎えられた櫂は、本人の意志に関係なく主計少佐に任命され、海軍の会計監査課に配属されます。山本に彼に仕えるよう命じられ、困惑する田中少尉。
こうして櫂は田中と共に、残された2週間に満たない日数で、平山の巨大戦艦建造案の予算見積もりが、果たして妥当であるか検証を行います。
しかし戦艦建造派は、軍事機密を盾に設計図面等の資料の、櫂への提供を拒否します。櫂の手元にあるのは概略の数値と、会議の際に藤岡が記録した大まかな船体図のみ。
明かな妨害工作に田中は憤りを覚えますが、櫂はならば実地に戦艦を見て、それを参考に平山案の設計を再現しようと思い立ちます。
永野中将の働きかけで、横須賀に停泊中の戦艦長門に乗り込んだ櫂と田中。2人を長門艦長の宇野積蔵大佐(小日向文世)が歓迎します。
長門艦内に詳細な設計図はありませんが、大まかな装備の配置を示す艤装図が保管されています。田中が艦長を連れ出した間に艤装図を広げ、書き写してゆく櫂。
艤装図で読み取れない部分は、巻き尺で実際に計測し、戦艦を自分の感覚で掴もうとする櫂。徐々に彼は、戦艦の持つ美しさに魅かれていきます。
嶋田から監視に派遣された高任中尉は、巻き尺を手に長門を測る櫂の姿を目撃し、嘲笑します。
櫂の行動を馬鹿げていると感じていた田中も、やがて彼の行動に感心し、自身も長門艦内を動き回って、歩幅で計測した数字を櫂に渡します。
こうして海軍省に戻った櫂は、計測した数値と書き写した艤装図を基に、まず戦艦長門の設計図を自分で再現する事にとりかかります。
その長門の図面を参考にして、平山の設計した新型戦艦の設計図を再現し、長門と比較・拡大計算する事で、建造費の見積もりを算出する計画でした。
高任の報告を受けた嶋田もあざ笑いますが、平山中将は櫂の姿勢にただならぬ物を感じ取り、更なる妨害工作を指示します。
一晩で戦艦長門の図面を書き上げた櫂。その為に彼は造船関係の書籍を読破し、内容を理解していました。櫂の軍を軽んじる態度に反発していた田中も、彼の才能と努力に感銘を受けます。
こうして櫂は、平山の新型戦艦の図面を再現に成功します。しかし具体的な装備の価格、建造にかかる日数や人件費が判らなければ、予算の算出と検証は不可能です。
嶋田と平山の意向を受けた高任は、尾崎鏡子の身辺を嗅ぎまわり、櫂のスキャンダルを知ると怪文書を貼り出します。高任の企みで、海軍省内で孤立してしまった櫂。
ただでさえ少なかった軍内部の協力者は減り、必要な資料を得れない櫂と田中。そこで軍艦を建造する民間業者に接触しますが、嶋田と平山が手を回した結果か、協力は得られません。
そこで櫂は、尾崎鏡子に再会し助力を願います。しかし軍需産業に関わる尾崎財閥とはいえ、当然ながら自宅にその様な資料は保管していません。
無理な依頼をしたと侘びる櫂に、鏡子はかつて尾崎財閥の下で軍艦の建造に関わり、今は財閥との取引から離れ、大阪で商船の建造をしている大里造船を紹介します。
海軍の新型艦の建造を決める会議まであと6日。大阪への往復だけで2日間を費やします。しかし僅かな望みを託して、櫂と田中は大阪へ向かいます。
映画『アルキメデスの大戦』の感想と評価
原作漫画の戦艦大和建造秘話に絞る
日本海軍を象徴する存在として、またその後のサブカルチャーの分野でも、ゆるぎない存在感を示す戦艦大和。
その大和が冒頭、撃沈される衝撃的なシーンから映画は始まります。沈みゆく大和の姿は、何を物語っているのでしょうか。
原作の漫画では、巨大戦艦建造は1つのエピソードでしかありません。しかし山崎貴監督は大和建造に関する物語に話を絞り、見事な1本の映画を完成させました。
史実を基にしたフィクションです、と最後に締めくくられる作品です。ほぼ史実通りの名で登場する軍人の多い中、平山中将(モデルは平賀譲造船中将)と藤岡少将(モデルは藤本喜久雄造船少将)は、原作漫画同様別の名で登場します。
この2人が別名となり、創作された人物と関わる展開に、原作者と山崎監督が、フィクションの部分に託した意図が見て取れます。
なお史実ではこの時点での海軍軍備計画に、大和のような巨大戦艦建造案は検討されていません。古くなった戦艦金剛に代わる金剛代艦型戦艦の計画案を、平賀中将・藤本少将がそれぞれ提出しますが、共に採用される事はありませんでした。
VFXの第一人者山崎監督が再現する海軍艦艇
戦争から長い年月が経つと同時に、様々な資料が発掘され、また技術の進歩でそれが再現可能となった、映像表現の世界。
戦争の時代に暮らす人々の日常を描き、話題となった『この世界の片隅に』もアニメ映画化するにあたり、呉軍港や空襲の描写、広島市内の風景への、片渕須直監督の綿密なリサーチによる再現が話題になりました。
VFXを駆使して様々な物を映像に再現してきた山崎貴監督の、この映画に登場する艦艇への拘りも、目を見張るものがあります。
冒頭、山本五十六少将の乗る空母赤城は、改装前の三段式空母の姿で登場、珍しい90式艦上戦闘機を発艦させるシーンを見せます。
櫂が乗り込む戦艦長門も、近代改修を受ける前の屈曲煙突を持つ姿で登場。CGというと簡単に聞こえますが、多くのマニアの方が持つ精密なモデルを提供してもらい、それをベースにブラッシュアップして製作する手法をとっています。
横須賀に停泊する長門の姿も、また最期の戦いを繰り広げる大和の姿も、徹底的なリサーチを経て再現されたものです。
また劇中に登場する模型、藤岡少将が持ち込む新型空母の模型は、当時検討された設計案の1つ、連装主砲を三基搭載した姿で登場します。
また平山中将が櫂に見せた巨大戦艦の模型は、大和でありながら舷側砲のある、少し実物と異なる姿。実際の戦艦大和計画案の1つなのか、大和に金剛代艦型戦艦のデザインを加えた物なのか、詳しい情報を得たいものです。
これらのシーンへの拘りは、艦船マニアを唸らせること間違いありません。
まとめ
山崎貴監督が拘ったシーンの数々は、ただマニアを満足させる物に終わりません。
大和の最期の戦いで、撃墜された米軍機から脱出した搭乗員が、大和の乗組員の目前で飛行艇に救出されるシーン。
これも史実に基づく描写ですが、セリフも無く展開されるこのシーンが、日本軍兵士と米軍兵士の置かれた状況の差、人命に対する考え方の違いを、歴然と描いています。
そして軍人に批判的な、軍国主義の風潮に知力で立ち向かう人物として登場する、主人公・櫂を演じた菅田将暉。
数字を愛し信じた彼が、数字が生み出す技術の魔力に魅入られ、戦艦の建造に取り付かれる姿は、フランケンシュタインを生み出した、マッドサイエンティストそのものです。
同時に数字に未来を託し、日本を捨てアメリカに新天地を求めようとしたはずの彼が、日本的な情緒に取り付かれ、大和沈没という悲劇に加担する姿も印象的です。
数字を偏愛する合理主義者である彼を虜にした、兵器の持つ魔力、日本的な価値感とは何だったのでしょうか。
原作のコミックが生んだ物語を、このような問いかけを持つストーリーに変貌させた山崎貴監督の演出、それに応えた菅田将暉の演技が光る作品です。