『アットホーム・ダッド』や『結婚できない男』、NHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』など数々のTVドラマの脚本を手掛けてきた尾崎将也監督。
監督第2作目となる本作では、主演に門脇麦をむかえ“引きこもりのオタク女子”を描きます。
今回は『世界は今日から君のもの』をご紹介します。
以下、あらすじや結末が含まれる記事となりますので、まずは『世界は今日から君のもの』の作品情報をどうぞ!
1.映画『世界は今日から君のもの』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【監督・脚本】
尾崎将也
【キャスト】
門脇麦、三浦貴大、比留川游、岡本拓朗、安井順平、駒木根隆介、マキタスポーツ、YOU
【作品概要】
人気脚本家・尾崎将也の長編監督作は、不器用な女の子が一歩外の世界に踏み出す成長物語。ヒロイン・小沼真実を演じるのは、持ち前の独特な雰囲気を活かしてテレビドラマ・映画で大活躍の女優・門脇麦。個性的なキャストがヒロインを取り巻きます。
真実の才能を見抜くゲーム会社社員の矢部遼太郎に三浦貴大。真実を居候させることになるスタイリストの安藤恵利香に人気モデルの比留川游。心配性の父親・英輔に個性派のマキタスポーツ、真実の心を縛ろうとする母親・美佳をYOUが演じます。他にも安井順平、駒木根隆介など魅力的なキャストが勢揃い。
フジテレビ系月9ドラマ『ラヴソング』でヒロインに抜擢されて注目を集めた、シンガーソングライターの藤原さくらが主題歌を提供。カントリー調メロディーと英語歌詞による楽曲「1995」が、ヒロインの心に寄りそいます。
音楽は『機動警察パトレイバー』や『攻殻機動隊』などでおなじみの川井憲次が担当。この作品のユーモラスで暖かみのある世界を多彩なメロディーで彩ります。
劇中のファッションも要注目。外の世界に踏み出せないものの、自分の世界をきちんと持っている真美のキャラクターを表現するために、門脇麦が身に着ける衣裳はすべて古着からチョイス。『アメリ』のオドレイ・トトゥのような “ちょっと風変わりな女の子”を現代日本にリアルに誕生させました。
2.映画『世界は今日から君のもの』のあらすじと結末
引っ込み思案な性格で自分の世界に閉じこもってきた真実は、自立するために工場でバイトを始めるが、クビになってしまい、ニート生活に逆戻り。
真実は娘との距離感を上手くつかめない父・英輔と2人暮らし。娘の個性を認めない母・美佳と英輔は、真実が高校生の時に離婚していた。
娘の将来を心配した英輔は、新たなバイト先を見つけてくる。それは新作ゲームに不具合がないかを探す”デバッカー”という仕事。真実は誰とも会話せずに黙々とゲームをプレイし、バグ探しの日々を送り始める。
ある日休憩中に非常階段で一人菓子パンを食べていた真実は、新作ゲームのキャラクターのイラストが描かれた資料を拾う。
それは製作部ディレクターの矢部遼太郎が担当する新作ゲームのキャラクター・デザインだった。遼太郎はこのキャラクターの修正に苦心している最中だった。
真実はイラストを遼太郎に返そうとするが、引っ込み思案なあまり行動に移すことができなかった。その翌日、遼太郎のパソコンに一通のメールが届く。それは完璧に手直しされたキャラクターイラストだった。しかしその送り主は謎。
その正体不明のデザイナーこそ、真実だった。引きこもり生活を送る中で、真実は好きな漫画やイラストを正確に模写することだけが楽しみだった。
その5年間で培われてきた腕前はプロ顔負けのもの。やがてメールの送り主が真実だと知った遼太郎によって、真実は能力を認められることに。
単調な日々が一転、初めて自分自身の存在を肯定された真実は、気持ちを新たに真っ白なスケッチブックに向き合うのだが・・・。
3.映画『世界は今日から君のもの』の感想と評価
本作は、5年間の引きこもりを経験した真実が悩みながらも新たな一歩を踏み出すまでの成長物語がゆっくりと描かれていきます。
尾崎監督はTVドラマで有名な人気脚本家ですが、映画は本作で2本目のため、監督としてはまだ新人の部類。その辺りのことは公式HPに丁寧に書かれていて非常に好感が持てます。
主演の門脇麦の好演が光ります。尾崎監督はドラマで仕事をした時に彼女主演の映画を撮りたいと本作の企画をスタートさせたそうです。
マキタスポーツのお父さんぶりも素晴らしい。三浦貴大も役にハマっていたと思います。
私自身もニート、フリーター、会社員と全部経験している身なので真実の気持ちはよくわかる部分がありました。ただ、演出や物語で気になる箇所がいくつかあります。
TVドラマと映画の一番の違いはもちろん長さです。映画は人物描写にそこまで時間をかけられないため、演出などで工夫が必要です。
しかし、個人的にはそれと同じくらい違いを感じるのがリアリティーラインです。ドラマではなんとか許容範囲になる突拍子のない出来事も、映画に移ると途端に目の当てられないことになります。
それは多分に、基本的には無料で自由に見られるテレビと、高いお金と時間をかけて能動的に観に行っている映画、2つのフォーマットの違いのせいでしょう。
どうしても、手間をかけた分だけいい結果を期待してしまうものですから。映画監督が時折厳しい批評にさらされるのはやむを得ないことです(まったく配慮のない闇雲な批判は別)。
ギャグとしてあまり機能していないと思う表現(落武者など)、いささか説明的すぎる台詞(特に回想シーンまわり)、逆にキャラクターの行動原理の説明が足りない物語運び(真実はあんな怪しい人の言うことを聞いて講演会に行くのか?)。
本作はサバゲーを巡る描写が大きな話題になってしまいました。確かにそこは未経験の私ですら気になりました。
しかし、それ以上に気になったのはあの遼太郎の元恋人。キャラクター設定から物語上の役割に至るまで、彼女にまつわる多くの描写が首をひねるものばかり。結局、彼女が本当はどんな人物だったのか私には理解することが出来ませんでした。
もっといかせそうなキャラクターであるあの同級生を、あの役割に置き換えることは出来なかったのかなと少し思いました。
などと偉そうに個人的に気になる箇所を挙げていきましたが、そんなことを忘れてしまうくらい映画的な瞬間というのが本作には確かに刻まれていました。
明らかに真実の子ども時代を投影している女の子とのやり取りのシーン。真実の人生が自らによって肯定し合えたとても美しい場面です。
母と対峙するシーン。子どもは成長するにつれ、いつしか周りの真似っこではなく自らで道を選択しなければならなくなります。
親としては切ないけど確かに必要なこと。遅くてもゆっくりでも一歩ずつでもきちんと自分で選んで歩きだした真実の未来は明るいことでしょう。
公開館数が少ないので、迷っている方は早めに行くことをお勧めします。
まとめ
その人が出ているとその作品が観たくなるという役者さんが誰しもいると思います。門脇麦という女優は私にとってその一人です。
過激なシーンにも挑んだ『愛の渦』。
ラストシーンが圧巻の『太陽』。
色気がすごかった『二重生活』。
私が観た映画では、その独特の声と雰囲気で、いずれも素晴らしい演技を披露していました。
今年だけで映画出演4本、今後のさらなる活躍が期待されます。