2017年7月8日より全国公開されたダニエル・エスピノーサ監督の『ライフ』。
砕く!また砕く!走る!また走る!未知なる生物との死闘の果てに最後に生き残る一体…誰か?!
国際宇宙ステーションという密室な船内を舞台にしたSFパニック・スリラー映画『ライフ』をご紹介します。
CONTENTS
1.映画『ライフ』の作品情報
【公開】
2017年(アメリカ)
【原題】
Life
【監督】
ダニエル・エスピノーサ
【キャスト】
ジェイク・ギレンホール、レベッカ・ファーガソン、ライアン・レイノルズ、真田広之、アリヨン・バカレ、オルガ・ディホヴィチナヤ
【作品概要】
『デンジャラス・ラン』、『チャイルド44 森に消えた子供たち』を手掛けたスウェーデン人監督ダニエル・エスピノーサがメガホンを取ったSFスリラー。
主演にジェイク・ギレンホールを迎え、共演にライアン・レイノルズ、レベッカ・ファーガソン、真田広之と豪華キャストが集結。
2.映画『ライフ』のあらすじ
国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士のクルーは、火星探査機の回収に成功をします。
その際に採取した探査機が持ち帰ったサンプル分析をすると、“地球外生命体の存在を示す細胞”を示すものを発見。
船内にいる世界各国から集められた6人のクルーたちは、“未知なる生命体”について極秘調査を始めた実験のサンプルが次第に進化と成長を遂げては高い知性を持つことが判明します。
地球にいる小学生たちと宇宙飛行士がテレビ局の企画によって衛星更新をした際に未知なる生物の名称を小学生の女の子が“カルビン”と名付けます。
地球外生命体の存在を示す“カルビン”に喜びに沸くクルーであったが、急速に成長するサンプルによってISSに閉じ込められてしまうクルーたち。
“カルビン”の反撃行動によって船内のクルーたちの人間関係も狂い始め、ついには初めの死者航空エンジニアのローリー・アダムスの命を奪われてしまう…。
クルーは地球を守るため、孤立無援の状況でカルビンと戦うことに…。
3.映画『ライフ』の感想と評価(注意:ネタバレをたくさん含んでいます)
今作『ライフ』のタイトルを「Life(原題)」の意味をgoo辞書で調べると、このように書いてあります。
1:生命。命。また、他の語と複合して用い、生命の、救命のための、の意を添える。「ライフボート」
2:一生。生涯。
3:生活。「ライフスタイル」
この作品をこれから鑑賞する際、または観た後に作品を振り返るのなら、このようなワードから映画のテーマを深掘りすると、あなたの興味を広げるともっと楽しめますよ。
国際宇宙ステーション(ISS)の6人の宇宙飛行士や火星生命体カルビンちゃん、または白ねずみ(マウス)をそのような目線から見ると、単なる SFパニック・スリラー映画でないことはすぐに見抜くことができます。
もちろん、娯楽として怖い!キモイ!オモシロイ!だけでも充分に楽しめますので、ご安心を!
でも、何でこのようなタイトルが付いたのか?
ちょっと考えてみると、さらに面白さを倍増させることができるのもまたオススメです。
“ライフってこんなもんだよねー”と、ブラックジョークやシニカルに笑える映画でもあるかもしれませんよ。(個人的には娯楽として。ホホホと笑えましたよ)
それがSF映画の持つ、サイエンス・フィクション(Science Fiction)という“科学的な空想”の醍醐味でもあるのです。
では、今作『ライフ』の見どころを2つにしぼってお薦めしていきましょう。
見どころ1:宇宙ステーション内の無重力表現の演出
参考映画①『ゼロ・グラビティ』(2013)
この作品は宇宙ステーション内で6人のクルーとカルビンちゃんの攻防戦が見せ場です。
お互いの人生をかけた死闘の恐怖を描くために無重力表現は欠かせません。
作品の冒頭で下手からフレーム・インする日本人俳優の真田広之の遊泳する姿を機に物語は始まります。
彼とカメラも一緒になって船内遊泳しながら一気に観客の心を鷲掴みにする移動映像を見せてくれます。
これは実に凄い映像ですよ。
カメラのショットが一緒になって動くだけではなく、ショット内にあらゆる方向から宇宙飛行士のクルーが飛んで入ってくるのです!
もし、あなたが2013年にアルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』を観ていたら、さらなる宇宙船内のクルーの浮遊感と躍動感に驚くはずです。
無重力感のある映像作りを求めたダニエル・エスピノーサ監督に、見事に答えたスタント・コーディネーターのマーク・ヘイソン率いるスタントチーム、ムーブメント・コーチのアレクサンドラ・レイノルズ。
また、その動きを可能にしたキャスト陣まで含めた高度なパフォーマンスのコラボレーションは、この作品の大切な見どころです!
さらには、イギリスの宇宙生物学者ヒュー・デリー役を演じたアリヨン・バカレ。
彼が黒人で足が不自由で地球上では車椅子生活というのも、そこらあたりに巧みに絡んでいますね。
参考映画②『U・ボート』(1981)
参考映画③『ブラック・シー』(2014)
また、宇宙ステーション内の密閉された船内は潜水艦のようなものです。
1981年に公開されたウォルフガング・ペーターゼン監督の『U・ボート』や、近年では2014年制作のジュード・ロウ主演の『ブラック・シー』。
このような映画で用いられる船内の閉鎖空間で起きる緊迫感のドラマに、無重力が加えた面白さが楽しめかもしれません。
見どころ2:未知なるものへの探求と間違ったアクションとは?
今作『ライフ』の宇宙ステーションのクルーたちに注目をすると、物語では語られていない、それぞれキャラクターの背景をそこはかとなく感じることができる演出がなされています。
そのことが宇宙ステーション内という窮屈で居心地の悪い無重力空間で、各自の人生のバックボーンが静かに噴出することで怖さを煽っているのはいうまでもありません。
黒人俳優アリヨン・バカレが演じた足の不自由な宇宙生物学者ヒュー・デリーが、カルビンちゃんに異常な愛情を見せたのもその点を指摘できますよね。
ただし、宇宙生物学者ヒューが最初の行った未知なる生命体に与えたコンタクトは「電気ショック」。あれが間違いで失敗の始まりでした!
未知なる生命体を目覚めさせることに成功はしたが、一方で未知なる生命体(命名を含め)にとっては外的な攻撃だったのです。
そこからカルビンちゃんは生き残るために反撃行為に出たのです。
生命体として目覚めたカルビンちゃんではなく、攻撃されたカルビンちゃんは学習能力として、電気ショック、火炎放射器、隔離と窒息などの攻撃の繰り返しで攻撃のみを教育され増幅していきます。
それがこの作品の重要なテーマのモチーフと言えるでしょう。
また、ジェイク・ギレンホール演じるアメリカ人の医師デビット・ジョーダン。
彼はシリア戦線で難民に医療行為する医師として活動をしていました。
しかし、その後、病院が空爆されたことによって難民患者が殺戮された事実を自身の心が自己処理できずにいます。
“醜い80億人”の地球で生きる意味を感じていないことも、攻撃の連鎖のひとつを連想させています。
攻撃の繰り返しが生む憎悪と、自身が抱いた無常感の孤独こそが、宇宙ステーションでの長い暮らしという、“引き籠り”状態に至った医師デビットの本心なのでしょう。
だからこそ、彼は脱出用ポットに乗り込み、最後の最後に医師デビットがカルビンちゃんと“醜い80億人”の住む地球に帰還するという結末のブラックユーモアをむかえましたね。
またそこに群がる、漁師たちの未知なる存在への“攻撃的に見える好奇心と興味”は笑っちゃいますよね。
“弱者と強者”と“連鎖する攻撃”をキーワードに、キャラクターである宇宙飛行士それぞれ各自が持つ、孤独感、不安感、不信感、無力感、鬱などが“絶望的な孤”を感じて生きる(ライフ)なのだと感じてなりません。
ダニエル・エスピノーサ監督はこのように述べています。
「探求することや未知なるものを発見するものは、人類の核を成すもののひとつで、この映画は恐ることなく未知に出会う勇気に対するオマージュなんだ。ただ作品の根底には、これまで未知なるものに対して素晴らしいとは言えない形で対処してきた人類の歴史がある。だから問題は、未知なるものが人類にどのようなことをするか、なのかもしれない。未知なるものに対して、ひどい扱いをすれば、あちらもひどい扱いをしてくると思わないか?こちらが恐怖を感じながら対処すれば、相手はその恐怖心に反応するんじゃないか」
(映画『ライフ』パンフレットから)
黒人であり、障がい者でもある宇宙生物学者の呼び覚ました未知なる生命体という設定には深い意味があるのはお気付きになられましたか。
また、真田広之演じるシステム・エンジニアのショウ・ムラカミ。
彼は宇宙飛行士クルーからの船内システムのバックアップ体制など常に先の先きまで行っていることや、その機転の効く発想に関して信頼も熱い存在でした。
また、ジニアス(天才)とも呼ばれていましたね。
そんな機械に強いショウにとって、新たな命である娘メイの誕生は、喜びとともに、生命に対する恐怖に近い畏敬の念なのです。
カルビンちゃんと娘メイの誕生はメタファー(比喩)として対比が効いていました。
また、地球にいる小学生の女子が名付けた未知なる生命体に名前カルビン。
これは新たな宇宙飛行士7人目の誕生を意味し、名前で呼ぶことをとても嫌がったライアン・レイノルズ演じた飛行エンジニアのローリー・アダムスの嫌悪感と不信感も見事な演出でした。
今作は単純なSFパニック・スリラー映画の物語を借りながら、ダニエル・エスピノーサ監督は人間が心に抱く孤独感を宇宙空間で見せたのです。
これは言わば、“宇宙での神の不在”をメッセージの根幹にして観客に伝えようとしたのでしょう。
ダニエル監督はこの作品に影響を与えた“SF映画”にアンドレ・タルコフスキー監督やイングマル・ベルイマン監督の名前をあげています。
特に1963年のベルマン作品『沈黙』を引き合いに出している点からも、鑑賞中に哲学的であり、詩的だな“ライフ”ってと感じていたことは、個人的な感覚だとしても、一概に誤りではなかったなあと思いました。
参考映画④『沈黙』(1963)
ぜひ、参考映画としてベルイマン監督の『沈黙』も一緒にご覧になってはいかがでしょうか。
ダニエル監督の思考にせまる発見や深掘りがきっとありますよ!
まとめ
今作のラスト結末でカルビンちゃんは、どのようになるのでしょう?
太古の火星に水や運河があったことは知られていますね。今作でも水については重要なポイントで取り上げられていました。
現在の火星では水が無くなってしまったことで未知なる生命体は当初は収縮していました。
しかし、カルビンという命名式を地球上と宇宙ステーションの衛星中継で行い、“存在”として広く認知されます。
やがて、カルビンちゃんは、水や酸素を求めて成長していきました。
オルガ・ディホヴィチアナ演じるロシア司令官エカテリーナこと“キャット”が宇宙で水死した際も、“毒の水”だけはカルビンちゃんは飲みませんでしたね。
そんなカルビンちゃんが物語のラストシーンで地球にやって来ると、海水と空気を手に入れることを予測させて終わりました。
ひとつの答えとして、ラスト結末後は、カルビンちゃんの存在は巨大化すると考えられますよね…。
さて、2017年7月8日より全国公開されたダニエル・エスピノーサ監督の『ライフ』。
カルビンちゃん砕く!また砕く!カルビンちゃん走る!また走る!カルビンちゃん襲う!また襲う!人間は逃げる!また逃げる!
国際宇宙ステーションという密室な船内を舞台にしたSFパニック・スリラー映画『ライフ』オススメの1本です!
ぜひ、劇場でお見逃しなく!