映画『よこがお』は、7月26日(金)より角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国公開
2016年の『淵に立つ』でカンヌ映画祭“ある視点”部門審査員賞を受賞した深田晃司監督。同作で競作した筒井真理子を主演に迎えた、オリジナル脚本によるヒューマンサスペンスです。
主人公の白川市子役を筒井が演じるほか、共演に市川実日子、池松壮亮、吹越満ら高い演技力の俳優が脇を固めています。
深田監督と主演の筒井のタッグが、不条理な現実に巻き込まれた善良な女性の絶望と希望を高尚に描いた作品です。
映画『よこがお』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【脚本・監督】
深田晃司
【キャスト】
筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤蓮、小川未裕、吹越満
【作品概要】
ある事件をきっかけに「無実の加害者」に問われた女。運命を受け入れる、ふたたび歩き続けるまでの絶望と希望を描くヒューマンサスペンス。
『淵に立つ』で女優筒井真理子のよこがおに惚れ込んだ深田監督が彼女を想定して作り上げた物語に注目。
映画『よこがお』のキャスト一覧
白川市子・リサ(筒井真理子)
信頼の厚い訪問看護師。ある事件をきっかけに人生が一変する。その後、リサという偽名を使って動き始める。
大石基子(市川実日子)
市子が通う家の長女。引きこもりに近い生活を送っていたが、市子出会い人生を前向きにとらえ始める。やがて、市子に友情以上の感情を抱くようになる。
米田和道(池松壮亮)
美容師。基子の恋人。リサと名乗る市子と出会う。
戸塚健二(吹越満)
医師。バツイチで息子と二人暮らし。市子と婚約中。
鈴木辰男(須藤蓮)
市子の甥。偶然の出会いから大きな事件を起こすことに。
大石サキ(小川未裕)
基子の妹。祖母の介護に来る市子とも親しくしている。ある事件に巻き込まれる。
映画『作品タイトル』のあらすじ
美容師の和道の店に、彼を指名してリサと名乗る女性がやってきます。
離婚を機にリフレッシュしたく、髪を明るいブラウンに染めて欲しいというリサ。
和道はどこかで会ったか見たような顔だとリサに聞きますが、リサ初めてだといいます。
数日後、リサはゴミ捨て場で偶然を装って和道に会い、会話の中で連絡先を聞き出します。
リサは自分の家と言って近くのマンションを指さし、そこに帰るふりをします。
和道が仕事へ向かうのを確認すると、マンションのエントランスから抜けて近くの安アパートに向かいます。
実際の彼女の家でした。そして、そこは和道の家の眼の前でした。
リサというのは偽名で本当の名前は白川市子といいました。
半年ほど前のこと…。
市子は訪問看護師として活躍していました。仕事の上でも人柄の上でも信頼されていた市子。
その中でも大石家とは家族ぐるみの付き合いと言っていい関係でした。
社会馴染めず引きこもりに近い状態にあった、長女の基子は、市子との出会いをきっかけに介護福祉士になる勉強を始めるほどでした。
基子は市子に対して憧れ以上の特別な感情を抱くまでになりました。
基子の妹・サキもまた市子になつき、基子と市子が勉強している喫茶店にも一緒にいたりします。
ある日、同じような勉強会の場に市子の甥っ子の辰男が資料を届けにきます。
市子の身内ということで基子もサキも辰男に挨拶をします。その夜から、サキが行方不明になりました。
事件を知った市子は大石家に寄り添い励まします。市子の婚約者で医師の戸塚も混乱する状況の中で支えてくれます。
一週間後、サキが保護されます。大きなけがもなく一安心でしたが、彼女を誘拐した人間が辰男であったことが判明しました。
それから、時は今に戻り、和道の連絡先を手に入れた市子は、客と美容師という関係を超え、個人的にも付き合いが深くなります。
リサと和道は、美術館や動物園などに一緒に出掛けては、楽しい時間を過ごします。夜には楽しいお酒を飲んだりもしています。
かつての記憶の断片…。
辰男の存在を知っているのは基子とサキだけ。基子は黙っていれば大丈夫だと市子に言い聞かせます。
基子は市子に対して特別な秘密を共有できたことに、特別な喜びを感じていました。
ところが、市子が戸塚と婚約していたことを知ると、態度が変わります。
数日後、週刊誌に辰男と市子の関係が記事に出ました。大石家からは絶縁を宣言され、さらに仕事場にもマスコミが押しかけてくるようになります。
週刊誌に情報を送ったのは、市子と戸塚の結婚の話を聞き、嫉妬を感じた基子でした。
間接的な加害者と取り扱われるようになった市子は仕事辞め、結婚が破談になり、心を病んでいきます。
犯罪被害者支援の団体に縋るように訪れた市子でしたが、ここはあくまでも被害者の側の存在で、加害者側の市子を受け入れる場所ではないと言われてしまいます。
絶望に打ちひしがれていたとき、ある男性とすれ違います。それが恋人・基子の妹・サキのために資料を集めに来た和道でした。
ついに肉体関係を結ぶまでになったリサ(市子)と和道。事後、隣で眠る和道のスマホを取り出した市子は自分の裸体などあられもない姿を和道のスマホから基子に送りつけますが…。
映画『よこがお』の感想と評価
深田晃司監督という人はとてもあたりが優しく、とても腰が低い方で、熱い思いを語るときも丁寧に語り掛けるように話す人です。
その一方で、監督の作品に登場する人々や彼らが紡ぐ物語はアッと驚くほど冷たく、鋭利な切り口にゾッとさせられることがあります。
カンヌ国際映画祭で受賞した『淵に立つ』(2016)の後半からのあまりにも残酷な展開、『さようなら』(2015)で有る女性がとる行動、『海を駆ける』(2018)でディーン・フジオカ演じる“男”が何の躊躇もなく“生死”を取り扱うさまなどなど。
また、その作品の大半がヒロインものです。
女性への畏敬の念を込めたキャラクター造形はどの作品も底辺でつながっているような気がします。
今回の『よこがお』は『淵に立つ』で出会った女優・筒井真理子の魅力に惚れ込んだ深田監督が、彼女を想定して脚本を描いた物語です。
様々な作品で、主役から脇役までこなす実力派の舞台出身のこの役者ですが、温かみや熱さを感じさせることはあっても、ここまで冷たさをたたえた美しさを見せることはなかったといっていいでしょう。
深田監督と筒井のコンビが今後も見ることができればとても楽しみです。
その一方で市川実日子の好演を見ると、深田監督の手によってまた別の女優が意外な顔を見せてくれるのかもしれないとも思い、色々な女優との競作も見てみたくもなります。
まとめ
本作品『よこがお』の監督と務めた深田晃司は、2016年『淵に立つ』で、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞しました。
その後、同作で毎日映画コンクール主演女優賞ほか、数々の映画賞を受賞した筒井真理子を主演に本作は迎えています。
深田監督が女優・筒井とともに映画賞の授賞式で見た、彼女の「よこがお」に惚れ込み、自身のオリジナル脚本に臨み生まれた作品。
被害者の市子が復讐を試みようとする時に、どのような精神状態となり事態を招くのか。
また抑制を利かせた深田監督がどのような人物像を描いたのかに注目です。
映画『よこがお』は、7月26日(金)より角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国公開。