連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第56回
ヒューマントラストシネマ渋谷で開催された“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回は人と軍用に開発されたロボットの交流を描く、アドベンチャー映画の登場です。
人類最良の友である犬。その能力と忠誠心は、警察犬や軍用犬としても活用されています。
その犬を基にした人工知能を搭載した、戦場で兵士の最強のパートナーとなる軍用犬ロボット、“A-X-L”が極秘に開発されていました。
ある日事故が起きて脱走した“A-X-L”が、モトクロスバイクを操る1人の青年が出会った事で、冒険が始まります。
第56回はSFアクション・アドベンチャー映画『A-X-L アクセル』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『A-X-L アクセル』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
A-X-L
【監督・脚本】
オリバー・デイリー
【キャスト】
アレックス・ニューステッター、ベッキー・G、アレックス・マクニコル、ドミニク・レインズ、トーマス・ジェーン
【作品概要】
青年と軍用犬ロボットが交流する姿を描いた、SF青春アクション映画。
2018年8月24日全米で公開されると、初登場時の興行成績ランキング9位となった作品です。
主演はNetflix海外ドラマ『Colony コロニー』の、主人公一家の長男を演じ、注目を集める若手俳優アレックス・ニューステッター。
ラッパーとして音楽活動を行い、俳優としては映画版『パワーレンンジャー』にイエローレンジャーとして出演のベッキー・Gがヒロインを、『パニッシャー』や『ミスト』に主演のトーマス・ジェーンが主人公の父を演じます。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『A-X-L アクセル』のあらすじとネタバレ
アメリカ軍にドローン兵器を開発しているクレイン社は、動物の中でもより忠誠心が高く、軍用犬として活用されている犬を参考に、最先端のAIを搭載した自立型兵器を開発していました。
それはAttack(攻撃)、Exploration(探査)、Logistics(支援)を略した、“A-X-L”と呼ばれるロボットでした。高い性能の攻撃力を持ち犬の様に意思疎通できる、戦場で兵士のパートナーとなる、究極の軍用犬ロボットとして紹介されています。
モトクロスレースに参加したマイルズ・ヒル(アレックス・ニューステッター)。レース中ライバルのサム・フォンテイン(アレックス・マクニコル)のバイクと接触、チェーンを切断します。
マイルズが父チャック(トーマス・ジェーン)と親子で組んだバイクチームには、予備のチェーンは無く、このままでは最終レースに出られません。チャックはフォンテインのチームに、チェーンの貸し出しを頼みますが、断られてしまします。
それを見ていたフォンテインチームの一員、何をスケッチしていたサラ(ベッキー・G)が、チームの予備チェーンを持ち出し、密かにマイルズに渡します。
父とバイクの修理を終え、最終レースに出場したマイルズ。サラが見守る中マイルズは、サムを抜いて見事優勝します。
引き上げるマイルズに、サムはフォンテイン家のパーティーに来ないかと誘います。女の子もいる、と勧められますが、父の工場を手伝っているマイルズは断ります。
そんな息子にチャックは、たまには羽根を伸ばせ、そしてあいつの父にはコネがある、成功したいなら上手くやれ、とアドバイスします。
その頃、クレイン社にサイレンが鳴り響いていました。“A-X-L”が暴走し、敷地外に脱走したのです。開発担当アンドリックは、無数のドローンを飛ばし捜索を指示します。
荒野を駆け抜ける“A-X-L”は、街の灯りを見下ろす岩山に登ります。
その街の灯りの中に、パーティーを行っているフォンテイン家の邸宅がありました。マイルズもパーティーに姿を現します。
挨拶したマイルズを、サムは皆に俺のライバルだと紹介します。俺のチームに入るかと誘うサムに、バイクは父と組んで整備していると答えるマイルズ。
自分は父と仲が悪い。だが父は使える奴だと言い、父に買わせたトーチバーナーを、サムは火炎放射器のように使ってふざけます。マイルズにも使用させようとしますが、断った彼をつまらねぇ奴とつぶやいたサム。
パーティーの喧噪を離れたマイルズは、邸宅のガレージで新しいバイクを見つけ夢中になります。そこに現れたサラ。マイルズは彼女にレースの際の礼を伝えます。
サラは自分を、フォンテイン家の離れに住んでいる、家政婦をしている母の娘に過ぎないと紹介しますが、マイルズはサムは彼女を別な目で見ていると告げます。
マイルズはレース場で拾った、サラの描いた絵を渡します。2人が親し気に話す姿を見たサムは、快く思いません。
翌朝帰宅したマイルズは、父チャックの工場を手伝っていました。フォンテイン家がレースにつぎ込む資金力を目にして、サムの2倍は頑張らないと勝てないとマイルズは実感していました。
学校の成績も振るわず、大学に進学する目戸も無く、得意のモトクロスレースでも結果が出せるかどうか。不安を口にする息子をチャックが励まします。
クレイン社のアンドリックは、今だに“A-X-L”を発見出来ずにいました。700万ドルの予算をつぎ込んで開発した“A-X-L”の成果について、軍のウェバー大尉から説明を求められます。
アンドリックはウェバー大尉に“A-X-L”の逃亡を隠し、その成果を強調します。助手のランドルはアンドリックの態度を危うく感じますが、彼の指示に従い捜索を続行します。
マイルズはサムに郊外で、共にモトクロスバイクのプロモーションビデオを撮影しないか、と誘われます。スポンサーが付くと言われ承諾するマイルズ。
郊外の廃棄物が放置された場所で、繰り広げられるバイクパフォーマンス。マイルズがサムと談笑している隙に、サムの仲間がマイルズのバイクの燃料タンクに、ジュースを注ぎます。
その上でマイルズに、カメラを取り付けたバイクで大ジャンプをさせるサム。エンジンの調子が落ちジャンプは失敗、派手に転倒するマイルズ。その姿をサムたちは撮影していました。
傷付いて転倒したままのマイルズを残し、その場にバイクの燃料を置いて立ち去るサムと仲間たち。彼は騙され、笑い者にされたと気付きます。
起き上がってバイクに燃料を注ぎ、帰ろうとするマイルズ。しかし廃棄物の中からする物音に気付きます。コンテナの中に何かいると、近寄るマイルズの姿をバイクのカメラが捉えます。
扉を開けるとそこに動物型のロボットが隠れていました。驚いたマイルズは逃げ出しバイクに跨ります。遭遇した相手を「身元不明」と認識した軍用ロボット“A-X-L”は、彼を追いかけます。
猛獣のように追って来る“A-X-L”を、華麗なバイクテクニックでかわすマイルズ。ジャンプしたバイクを追い跳んだ“A-X-L”は着地に失敗、ボディに鉄パイプが刺さり動かなくなります。
動かなくなった“A-X-L”に近寄るマイルズ。“A-X-L”は「自爆モード」に入ります。マイルズは目の前の犬型をしたロボットに声をかけ、手を伸ばし声をかけて撫でてみます。
その態度に“A-X-L”は敵でないと認識したのか、「自爆モード」を解除します。マイルズがロボットに刺さった鉄パイプを抜くと、“A-X-L”はマイルズを「信頼すべき対象」と認識します。
マイルズが良く観察すると、ロボットには口輪が付けられ、他にも損傷がありました。中には銃弾による傷もあります。するとマイルズのスマホに、メッセージが入ります。
メッセージは目の前のロボットからでした。自らを“A-X-L”と表示したロボットは、自らの損傷個所を伝えてきました。マイルズはロボットをコンテナの中に隠し、散乱していた廃棄物やバイクの部品を使い、夜を徹して修理します。
“A-X-L”は自分を修理するマイルズを、「管理者」と認識していました。
翌日、サムと仲間はマイルズが失敗したジャンプの映像を、面白おかしく編集してネットに流していました。彼を置き去りにしたサムの行為を非難したサラは、その場所を聞き出します。
修理を終えたロボットに、マイルズは動けそうかと声をかけます。燃料不足と気付き、ロボットにガソリンを補充するマイルズ。マイルズは俺たちは友達だと語りかけ、口輪を外します。
ロボットの態度を見て、遊んで欲しいのかと声をかけるマイルズ。彼がバイクで走ると“A-X-L”は、じゃれる様に追ってきます。バイクと“A-X-L”は共にジャンプします。
その姿をドローンが発見し、映像がクレイン社に送られます。ランドルは“A-X-L”のシステム破壊を提案しますが、開発責任者のアンドリックはこれを想定外の好機ととらえます。
“A-X-L”は犬を模したAIを搭載していますが、その開発は思わしくありませんでした。マイルズと交流する“A-X-L”の姿を見て、今までにないAIの育成が図れる機会だと考えたのです。
マイルズが置き去りにされた場所に車で現れたサラ。その姿を見た“A-X-L”は、彼女を「拘束すべき対象」と認識し、車の荷台に飛び乗りタイヤを地中に沈め、動けなくさせます。
突然出現したロボットをサラは恐れますが、マイルズは彼女は友達で仲間だと、“A-X-L”に説明します。
話を理解するロボットの姿に驚くサラに、子犬のように勉強中だと説明するマイルズ。
“A-X-L”はサラの画像を分析し、彼女のスマホにアクセスします。「対象の識別」を終えると、彼女も仲間であると認識した“A-X-L”は、2人の乗るバイクを追って走ります。
サラが来てくれた事に感謝するマイルズ。サラはこのロボットは恐らく軍が作ったもので、持主に返すべきだと語ります。しかし“A-X-L”に銃弾の痕がある事を知るマイルズは、それが正しい判断か決めかねていました。
サラの車は朝まで動かせません。2人と“A-X-L”は一夜を過ごす事になります。2年前に母は死んだと語るマイルズに、父は出て行ったと語るサラ。共に街を出るチャンスを掴めずにいました。
2人の様子を見た“A-X-L”は、サラのスマホの履歴情報から彼女の好みの音楽を選び、搭載したスピーカーから流します。それに合わせてダンスする2人。
その様子はクレイン社で監視されていました。データベースから2人とも貧困家庭出身と知り、金を出して“A-X-L”を買い取ろうと提案するランドル。
しかし“A-X-L”が2人との交流を通じ、AIの成長が5年は早まったと評価しているアンドリックは、ランドルの意見を取り上げず、この状態の継続を命じます。
“A-X-L”はネットに流されたマイルズの動画から、彼の「俺はやるぜ」の言葉を拾っていました。
翌朝、マイルズは“A-X-L”にサラの車を牽引させ、脱出させます。ロボットの持主は自分たちで探そうと提案するマイルズ。サラはロボットが次に出会う人物に、どう反応するかを心配します。
そこで“A-X-L”を荷台に乗せシートをかけて隠し、2人は車で街に向かいます。
2人はガソリンスタンドで給油しようとしますが、“A-X-L”は給油機にアクセスすると、金を払わずに給油させます。さらに近くのATMにもアクセスし、2人の前で大金を払い出させます。
2人はロボットを、サラしか来ない場所に隠すことにします。そこは廃墟となった建物で、サラはその壁にスプレーで絵を描いていました。いつもの様に絵を描き始めるサラ。
サラが壁に描いた羽根の絵は、知らずにクレイン社のマークをモチーフにしていました。その画像を認識した“A-X-L”は、プロジェクターでクレイン社の極秘扱いのデモ映像を流し始めます。
映像は軍用犬をベースに開発したロボット、“A-X-L”を紹介するものでした。パートナーと認識したバイクに乗る兵士を支援し、共に偵察・攻撃任務に当たる兵器として開発されたのです。
映像が終わると“A-X-L”の頭部から、小さな認証装置が出されます。知らずに掴んだマイルズの指先を刺し血液を採取すると、“A-X-L”はマイルズとの生体承認を完了させます。
それをモニターしていたクレイン社のランドルは、これで“A-X-L”は、この子としか組めなくなったと言います。しかしアンドリックは、彼も連れてくれば良いだけだとと答えます。
マイルズとサラの元に、サムが現れます。2人が一緒にいる事に怒り、マイルズに殴り掛かるサム。それを見た“A-X-L”は、サムを敵と認識し襲います。
“A-X-L”に抑え込まれたサムを、マイルズは2度と自分たちに構わぬ様警告します。許しを乞うサムの姿を見て、マイルズは“A-X-L”に彼を解放するよう命じます。慌てて逃げ去るサム。
“A-X-L”がマイルズの命令に忠実に従う姿を見て、アンドリックはAIの成長を確認し喜びます。しかしランドルは、彼が攻撃を命じていたらどうなっていたかと、懸念を示します。
サラはマイルズの行動を非難します。これで母はフォンテイン家の仕事を失うかもしれません。そして力を手に入れるや、面白がって行使する姿はサムと一緒だと彼を責めます。
2人は“A-X-L”に廃墟に隠れているよう指示すると、マイルズの父チャックに、今後を相談する事に決め、彼の元に向かいました。話を信じないチャックに、2人は“A-X-L”の生体認証装置を見せて説明を続けます。
その頃廃墟にサムと仲間が現れます。マイルズへの復讐と話題になる動画の撮影のため、“A-X-L”を壊そうと企んでいました。マイルズにサムの解放を命じられた“A-X-L”は、彼を襲いません。
サムらの姿をモニターしたアンドリックらは慌てますが、保安部隊の到着までは2時間はかかり、打つ手がありません。
チャックは軍が関与したものなら返却すべきだと告げますが、マイルズはそれでは“A-X-L”は、兵器として利用されると激しく反対します。
サムは“A-X-L”の周囲にガソリンを撒きます。“A-X-L”が破壊される光景をサラに見せようと、彼は撮影を命じます。バーナートーチを“A-X-L”に向けるサム。
送りつけられた動画に気付いたサラは、マイルズと共に廃墟へ急ぎます。サムは“A-X-L”に向け炎を放ち、モニターしていたアンドリックは止めろと叫ぶ中、“A-X-L”は炎に包まれます。
マイルズとサラが廃墟に到着した時、サムたちの姿は無く、焼け焦げて横たわった“A-X-L”だけが残されていました。
映画『A-X-L アクセル』の感想と評価
意志を持った軍事用ロボットと青年の交流物語
軍事用に開発されたロボットが自我に目覚めて脱走、知り合った人間と交流する。ロボットを扱ったSFのお馴染みのパターンの1つです。
参考映像:『ショート・サーキット』(1986)
今や同じテーマの古典的作品となった『ショート・サーキット』に登場するロボット、“ジョニー5”は雷に打たれ自我に目覚めるという設定。今となっては牧歌的にすら感じられます。
対して犬を模したAIを搭載した“A-X-L”。主人公と交流する姿は古典に忠実ですが、インターネットの時代、“A-X-L”はボディが滅びても、その自我は電脳世界で生き延びます。
設定といいロボットを描く特殊効果といい、『ショート・サーキット』から時代と共に、SF映画も大きく変わったと実感させてくれる映画です。
オリバー・デイリー監督のサクセス・ストーリー
『A-X-L アクセル』の監督・脚本はオリバー・デイリー。学生時代映画関係の講義は受けていませんが、起業家精神を身に付けた彼は、大学卒業後は医療関係の仕事に携わりながら、アニメーションの製作に関わります。
そしてオフロード・バイクに出会った彼は、その世界の人々と交流を深める中、バイクレーサーとロボット犬を描いた映画を作る事を思いつきます。
参考映像:『Miles』(2015)
クラウドファンディングで4万ドルの資金を募る事に成功した彼は、短編映画『Miles』を製作。これを基に代理店や製作会社に売り込んだ結果、長編映画『A-X-L アクセル』として実を結びます。
その撮影は極めて苦労の伴うものだった、と振り返るオリバー・デイリー監督。映画の製作こそが、夢の様なサクセス・ストーリーであったと振り返っています。
まとめ
この映画はアメリカではレイティングがPG指定。無制限のGより上ですが、子供の鑑賞は親が検討して下さい、という程度の指定。大半の親は子供だけで見せる事を許す映画です。
ゆえに派手な流血・人体破壊シーンも無く、恋愛シーンもお上品。ティーンエイジャー同士で鑑賞可能なアクション・バイオレンス・恋愛要素で描く、まさに青春映画です。
このティーン向け映画は、家庭の事情で地方から出る事が難しい若者の姿を描いています。
同時に彼らがチャンスとあれば、政府を手玉にとる形で故郷を出ていく姿は、ある意味実にアメリカらしい姿を描いています。青春映画にも、お国柄が現れてくるものです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第57回は108時間眠らずにいた先に何が待っているのか。絶対にマネの出来ない極限状態のスリラー映画『108時間』を紹介いたします。
お楽しみに。