Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

映画『アルピニスト』あらすじ感想解説と内容評価。命綱なしの無名クライマーが断崖絶壁に挑む姿を鮮明に描く|映画という星空を知るひとよ103

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第103回

断崖絶壁に命綱なしで挑む若き天才アルピニスト、マーク・アンドレ・ルクレールに密着したドキュメンタリー『アルピニスト』。

2018年のドキュメンタリー『フリーソロ』のクライマー、アレックス・オノルドが絶賛したという、孤高のアルピニストを追った作品です。

アウトドア・ドキュメンタリー作品のベテラン監督ピーター・モーティマーとニック・ローゼンが手がけ、2022年度のスポーツ・エミー賞の最優秀長編スポーツドキュメンタリー賞を受賞しました。

作品では、目もくらむような絶壁に命綱をつけずに登り、たったひとりで頂点を目指すマーク・アンドレ・ルクレールに密着して撮影。

体力と精神力の極限に挑むマークの姿を映し出し、バックの雄大な大自然と、驚くべき“フリーソロ”というスタイルをたっぷりと映し出します。

山を愛する人は絶対見るべきと言えるドキュメンタリー映画『アルピニスト』をご紹介します。

映画『アルピニスト』は2022年7月8日(金)TOHOシネマズ シャンテ 他、大阪ステーションシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OSにて公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『アルピニスト』の作品情報


(C)2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.

【日本公開】
2022年(アメリカ映画)

【原題】
The Alpinist

【監督】
ピーター・モーティマー、ニック・ローゼン

【製作】
レッドブルメディアハウス

【撮影】
ジョナサン・グリフィス、ブレット・ローウェル

【出演】
マーク・アンドレ・ルクレール、ブレット・ハリントン、アレックス・オノルド(『フリーソロ』(2018))ほか

【作品概要】
映画『アルピニスト』は、断崖絶壁に命綱なしで挑む若き天才アルピニスト、マーク・アンドレ・ルクレールに密着したドキュメンタリー。雄大な大自然に挑む孤高のアルピニストの姿を、迫力ある映像で描き出します。

監督は、これまでクライミングを題材にしたドキュメンタリー作品を数多く手がけてきたピーター・モーティマーとニック・ローゼン。

アメリカの第43回スポーツ・エミー賞最優秀長編スポーツドキュメンタリー賞を受賞しています。

映画『アルピニスト』のあらすじ


(C)2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.

誰にも知られることなく、たった一人で登頂不可能とされていた山を次々と制覇している男がいました。

その話を耳にしたドキュメンタリー映画監督のピーター・モーティマーは、噂の謎めいたクライマーに興味を持ちます。

男の名はマーク・アンドレ・ルクレール。カナダのブリティッシュ・コロンビア生まれの23歳の青年です。

モーティマーはマークを探し出し、その魅力的な人柄、そして、天才的なクライミング技術に惹かれました。

マークは命綱のロープを使わず、身体ひとつで山に登ります。マークは子供の頃、ADHD(注意欠陥障害)と診断され、母親は将来息子が仕事につくのは難しいかもしれない、と不安を抱きました。

しかし、マーク少年はクライミングに興味を持ち、一人で山に登り、みるみる間に才能を開花させます。

彼は登頂に成功したことなどを誇らしげに発表したりはせず、自分の楽しみのためだけに登頂が難しい山に挑み続けます。

そんな彼を支えるのは、同じように優れたクライマーでもある恋人のブレット・ハリントン。2人は一緒に世界中を旅してクライミングを楽しんでいました。

モーティマーはマークの映画を撮ることを決意。クライミングに同行して、至近距離からマークの姿を撮影しはじめます。

映画『アルピニスト』の感想と評価


(C)2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.

作品誕生の裏話

『アルピニスト』は、独自のクライミングスタイル貫いてきたマーク・アンドレ・ルクレールに密着したドキュメンタリー。

マークは、登頂困難な岩壁や氷壁を命綱もつけずに一人で挑んで、次々と登頂を成し遂げていました。

人びとが驚くような記録的なクライミングをしているのに、マークは自分の成功を公表しません。なぜなら、彼は自分の楽しみのためだけに登山をするアルピニストだったから……。

そのため無名に近い存在でしたが、マークの天才的なクライマーぶりは噂となり、20年にわたってアウトドアのドキュメンタリー映画を共同で監督してきたピーター・モーティマーとニック・ローゼンの耳に入ります。

それが映画『アルピニスト』誕生のきっかけとなりました。監督はマークの元を訪れ、彼と共に過ごすことで信頼を得てクライミングに密着します。

アウトドアのドキュメンタリー映画のベテラン監督たちを魅了したのは、マークの素晴らしい「フリーソロ」の技術

惚れ込んだこの技術を撮影するため、監督たちは危険を伴うクライミングにも同行し、絶妙なカメラアングルで撮影しました。

岸壁に挑み続けるマークの美しいと言えるクライミングスタイルが、次々とスクリーンに映し出され、観客を圧倒することでしょう。

また『フリーソロ』(2018)のアレックス・オノルドやラインホルド・メスナーなど、伝説的なクライマーたちも登場し、マークや登山について語っているのも魅力のひとつとなっています。

驚くべき「フリーソロ」技術


(C)2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.

命綱をつけず、たった一人で山に登るスタイルは「フリーソロ」と呼ばれています。

このスタイルでは登山の醍醐味を最高に味わえますが、必要となるのは安全に登山を行うための卓越した技術とセンスです。

本作では、世界中のクライマーを驚かせたパタゴニアのトーレ・エガー登頂の映像をはじめ、その優れた技術を駆使して登頂に挑むマークの姿を間近で目撃できます。

アウトドア作品のプロフェッショナルな撮影陣が用意され、絶景の自然美と「フリーソロ」技術だけでない美しい登山スタイルも登場します。

まず映画の最初に映し出されるのは、雄大な山々の岩肌に小さな虫のようにうごめくひとつの影。

山々と空を映し出すカメラはだんだんと山に近づいてきて、初めて虫ではなく人間だと気がつきます。大自然の中においては、人間とはこんなにちっぽけなものなのだと思い知ることでしょう。

そして、次に胸に刺さるのは、ポスターにもなっている垂直な岸壁をスパイダーマンのようによじ登る場面。

困難を極めたというクライミング・シーンの臨場感あふれる出来栄えは、お見事としか言いようがありません

「なぜ、山に登るのか。そこに、山があるからだ」。

これは、イギリスの伝説的登山家、ジョージ・マロリーの言葉ですが、この名言を地でいくようなマークの「フリーソロ」に目も心も奪われます。

まとめ


(C)2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.

挑戦を続けるすべての人に贈る、知られざる究極のクライマーを追ったドキュメンタリー『アルピニスト』をご紹介しました。

「アルプス登山者」が語源の「アルピニスト」とは、 登山家の中でも特に高くて困難を伴う山に挑む、高度な技術を持つスペシャリストのことを呼びます。

本作に登場するのは、目も眩むような断崖絶壁や崩れ落ちそうな氷壁に、命綱もつけずにたった一人で挑むアルピニストです。

息を呑む大迫力の映像に続き、卓越した技術で確実に「フリーソロ」を行うマークの姿に惚れ惚れすることでしょう

クライマーは映像を見て興奮、あるいは感動することは間違いないでしょうし、改めて大自然の美しさと怖さを思い知るのに違いありません。

険しい山へ挑戦するアルピニストの山への愛着とフリーソロの技術を、臨場感いっぱいの映像で映し出す本作は、2022年度のスポーツ・エミー賞の最優秀長編スポーツドキュメンタリー賞を受賞しました。

迫力いっぱいのこの作品は、ぜひ劇場の大きなスクリーンでご覧ください。

映画『アルピニスト』は2022年7月8日(金)TOHOシネマズ シャンテ 他、大阪ステーションシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OSにて公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。


関連記事

連載コラム

【イカゲーム4話ネタバレ】結末あらすじ感想と考察評価。28番と29番⁈そして212番と団体戦は“仲間はずれ”で新展開を呼ぶ|イカゲーム攻略読本4

【連載コラム】全世界視聴No.1デスゲームを目撃せよ 4 2021年9月17日(金)よりファーストシーズン全9話が一挙配信されたNetflixドラマシリーズ『イカゲーム』。 生活に困窮した人々が賞金4 …

連載コラム

映画『ブエノスアイレス』感想考察と評価あらすじ。 ドキュメンタリー摂氏零度から浮かぶ作品の真実とは|偏愛洋画劇場13

連載コラム「偏愛洋画劇場」第13幕 香港の映画監督、ウォン・カーウァイ。 若者たちの刹那的な青春や恋人たちの胸の痛みを繊細に描き出すカーウァイ監督の作品は、世代を超えて愛され続けています。 今回ご紹介 …

連載コラム

映画『ブータン 山の教室』感想評価と内容解説。初監督のドルジが“世界一幸福度の高い国”から「真の幸せ」を問う|OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録2

第16回大阪アジアン映画祭上映作品『ブータン 山の教室』 毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で16回目。2021年3月05日(金)から3月14日(日)までの10日間にわたって、アジア全域から …

連載コラム

『私はいったい、何と闘っているのか』映画原作ネタバレとあらすじ結末の感想評価。キャストに安田顕を迎えて中年男の脳内妄想を描く|永遠の未完成これ完成である28

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第28回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは、お笑い芸人・つぶやきシローの小説『私はいったい、何と …

連載コラム

映画『ベイマックス』ネタバレあらすじとラスト結末の感想。ヒロとかわいいロボットがヒーローとしての友情を育む|SF恐怖映画という名の観覧車144

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile144 2020年9月、東京ディズニーランド内のエリア「トゥモローランド」にアトラクション「ベイマックスのハッピーライド」が新設されました。 ベ …

U-NEXT
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学