Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

【多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

巨匠・中島貞夫監督が20年ぶりに完成させた映画『多十郎殉愛記』。
2019年4月12日(金)より全国ロードショー!

ちゃんばら時代劇のヒロイン・おとよ役の多部未華子(たべみかこ)さん。


©︎Cinemarche

映画『多十郎殉愛記』の監督を務めたのは、1960年代から活躍し、『木枯し紋次郎』『真田幸村の謀略』『新・極道の妻たち』などを作り続けた名匠・中島貞夫。

監督が20年ぶり、84歳にして撮り上げた本作にて、主人公・清川多十郎に心を寄せるヒロイン・おとよ役を多部未華子さんは熱演しました。

今回は映画公開に伴い、演技派女優として人気を注目を集める多部未華子さんにインタビューを行いました。

中島貞夫監督の時代劇の撮影現場に参加した印象や、ヒロインの役作り、また女優としての現在(いま)についてなど多岐に渡り、お話しを聞かせていただきました。

時代劇に参加する思い


(C)「多十郎殉愛記」製作委員会

──最初に台本を読んだ時にどのような印象を受けましたか?

多部未華子(以下、多部):最近にはあまりみられない古風な作品だという印象を受けました。
一人の男性を愛したり、支えたり、愛に生きる、といった今までに求められたことのない役柄だったのでとても新鮮でした。

──「おとよ」というキャラクターをどのように表現していきたいと思われたんですか?

多部:衣裳合わせの段階で、中村貞夫監督と木村了さんと高良健吾さんと4人でお話しする機会があり、おとよは「母性愛」の人ということを言われました。好きな男性のことを放っておけない、好きな男性に頼まれたら、使命感を持って全うする女性だと。

おとよの「母性愛」をどのように表現するか考えているうちに、好きな男性のために一所懸命生き、そして自分の居場所を見出した強い女性というイメージが湧きました。

母性を持つヒロインの役作り


©︎Cinemarche

──今までにない「母性」の強いキャラクターを演じてみていかがでしたか?

多部:そうですね、おとよは放っておけない男、多十郎のことを常に意識し気にかけている。演じる際にも多十郎を意識し、懐を大きく、広くもつことで母性愛を表現したつもりです。

特に監督からは演出の面で直接的な指示をいただくことはあまりなかったので、現場でのやり取りの中で、気づいていくという感じでした。おとよの数馬への想いについても、それこそ母親が子どもに接するような、母性愛というのはこういう感じかなと理解をしながら演じていくことができました。

──多部さん自身は、おとよと共感するようなところはありますか?

多部:多十郎のような放っておけない男性に惹かれる気持ちは理解できるけれど、もし、おとよが友達だったら、「絶対にやめときなさい」と思います(笑)。

ですが、自分が好きになったら客観的に見られないものなのかもしれないですね。

おとよのように突っ走る気持ちは、分からなくはないけれど…分かりたいとは思わないです(笑)。

──本格的な時代劇、ちゃんばら映画は初めてということでしたが、「おとよ」の立ち居振る舞いに凛とした美しさを感じました。

多部:撮影の中で、感情面のお芝居のことやイントネーションについて指示をいただくことはほとんどなかったのですが、反対におとよの所作については、中島貞夫監督から場面ごとに細かい指示をいただきました。

撮影当初は、手の動きをもっと表現豊かにと言われても、どの感情の時にどこを触るのか、どこを押さえるのかなど、手をどのように動かすのかが難しく、監督をはじめたくさんの方々に教えていただきました。

以前出演した時代劇『大奥』では、将軍を相手にしたお芝居で着物でも打ち掛けを着ていたので、今回の町娘とは全く違いました。町娘の所作というものがわからなくて。「(町娘だから)もっと雑な座り方で」と言われても、着物はこうやって、正座で座るものではないのか…?と。

雑な立ち方が、正しい所作と言えるのか、それとも常識が分かっていない立ち方となるのか、自分では判断ができなかったため、「教えてください」とお願いしました(笑)。

京都太秦の撮影所にいく時には、いつも「勉強させてください」という気持ちで現場に入らせていただいています。

中島組の撮影現場の印象


(C)「多十郎殉愛記」製作委員会

──「映画界のレジェンド」とも言われる中島貞夫監督率いる現場の雰囲気はいかがでしたか?

多部:現場全体の雰囲気として、圧倒的な中島貞夫監督への愛を感じました。それは他の現場ではこれまで感じたことのない、強い愛です。

監督が求めているものを、スタッフさんも役者の皆さんも全員で達成しようという意識が強かったです。

これまで長い年月撮影所にいらした監督が、現場のスタッフさんとの強い信頼関係を作ってこられたことが全面に出ていました。そのような現場に、これまで「ちゃんばら映画」に携わったことのない私が幸運にも参加できたこと、密度の濃い時間を過ごせたことを幸せに思いました。

女優映画・舞台女優としての幅の広さ


(C)「多十郎殉愛記」製作委員会

──映画だけでなく、ドラマや舞台など幅広く活躍されています。お芝居をする上でこれらの違いについてどのように感じていますか?

多部:映画は瞬発力。ドラマや舞台は準備期間や撮影期間も長いことが多いですが、映画は短期間でその役柄を演じます。短い期間でやるからこそ一回の本番にどれだけ表現できるか。

映画の場合、「初めまして」の段階で、いきなり深いシーンを演じることもあります。だからこそ、その場面での「瞬発力」が大切だと感じています。

──多部さんの奥行きのある声にとても魅力を感じます。今回の作品は京言葉でのお芝居でしたが、発声や台詞の言い回しなど意識して行なっていることはありますか?

多部:普段から何に、どう気をつけているということは特にありませんが、今回に関しては、京言葉を聞いて覚えて、覚えたイントネーションを発声して…という感じでした。

ただ、以前舞台をやっていた時は、声を張ることを心がけていたのですが、2018年の秋に、大竹しのぶさんと段田安則さんと『出口なし』でご一緒した時に、もっと普通に話す感じでやりましょうと言っていらして…。

それまで私の中で舞台は声を張るイメージがありましたが、その時「普通の発声で舞台をやるってどういう感じなのだろう?」と…。毎回現場が変わるたびに、求められることや皆がやろうとすることは違ので、前もって焦って準備をしたりというよりは、その場で感じたり先輩方に聞いたりすることを、心がけています。

映画『多十郎殉愛記』の見どころ


©︎Cinemarche

──この映画を若い世代の人たちに楽しんでもらえるオススメのポイントは?

多部:昔ながらの「ちゃんばら映画」を知っている人は、懐かしさを感じると思います。効果音や音楽の入れ方や、タイトルの出し方など、昔、父が見ていたような作品で、私自身がそこに自分が出ていることの不思議を感じました。

若い人たちは、その昔ながらの「ちゃんばら映画」自体を知らない方が多い。だからこそ「こういう映画があるんだ」という発見は、若い人しかできないと思うんです。

だから若い人たちにとって「ちゃんばら映画」は新鮮に映るのではないでしょうか。

チャレンジする女優・多部未華子


©︎Cinemarche

──芸能生活15年目の節目に際し、これまでのターニングポイントになった場面や作品は何でしょうか?

多部:「私はこの仕事をして行くんだ」という自覚が芽生えたのは19歳。連続テレビ小説『つばさ』に出演した時でした。

周囲の人たちが就職して行く中で、自分は何がしたいのだろうと向き合うきっかけとなった作品です。

そして23歳の時、このお仕事を、お芝居を心の底から楽しいと思わせてくれたのは、『私を離さないで』での、蜷川幸雄さんとの出会いでした。

作品を作り上げていく過程で、毎日ワクワクして、毎日楽しくて、本当に毎日が刺激的でした。

小さなターニングポイントは他にもたくさんありますが、この2つは、ふと蘇るターニングポイントです。

──今後どのようなことにチャレンジしたいですか?

多部:色々な演出家さんと会ってみたいです。

特に舞台は楽しいですし勉強になります。全ての作品に言えるのは、一つの作品に様々な役割の方たちがいて、目指すゴールが一つというのが一番楽しいです。

私は芝居をする立場、メイクさんもいれば照明さんもいる。色々な人が良いものを作ろうとする現場にいられることが幸せで、毎回現場を楽しんでいます。

インタビュー/ 久保田奈保子
写真/ 出町光識

映画『多十郎殉愛記』の作品情報

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
中島貞夫

【キャスト】
高良健吾、多部未華子、木村了、寺島進

【作品概要】
『893愚連隊』(1966)や『狂った野獣』(1976)、または「極道の妻たち」シリーズなど、さまざまな代表作を生み出した日本映画界の伝説的存在である中島貞夫監督の、20年ぶりとなる時代劇作品。

主人公の多十郎役を高良健吾が演じ、おとよ役を多部未華子が務めます。多十郎の腹違いの弟である数馬役には木村了。

監督補佐には中島監督の秘蔵っ子で、『私の男』(2014)の熊切和嘉が参加しています。

映画『多十郎殉愛記』のあらすじ

時は幕末、京都。

尊皇攘夷派の長州や薩摩脱藩志士たちと、新撰組や見廻組が斬り合いの抗争を繰り返していました。

長州を脱藩した清川多十郎(高良健吾)は夢も大義もなく、根無し草のような生活を送っています。

小料理屋「満つや」を切り盛りするしっかり者のおとよ(多部未華子)は、そんな多十郎に好意を寄せていました。

しかし身の回りの世話をやく、おとよの思いを、多十郎が気づく気配はありません。

町方からの注進で多十郎の存在を知ることとなった見廻組は、新撰組に目にものを見せようと多十郎への襲撃を企てますが…。

多部未華子(たべみかこ)のプロフィール


©︎Cinemarche

1989年生まれ。2002年に女優デビューし、テレビドラマ『仰げば尊し』(TBS)や『先に生まれただけの僕』(NTV)に出演。

映画出演は、田口トモロヲ監督の2015年の『ピース オブ ケイク』、2016年の『あやしい彼女』で主演を演じたほか、『続・深夜食堂』(2016)、『日日是好日』(2018)、『トラさん~僕が猫になったワケ~』(2019)などでヒロインを務めました。

ドラマや映画だけでなく、多数の舞台、CMなどに出演しており、今後は声優としてNetflix『リラックマとカオルさん』や、映画『アイネクライネナハトムジーク』のヒロイン役などが控えています。

30歳を記念したイべント「MIKAKO30〜多部の素〜」が2019年5月1日、2日にこもれびホールにて開催予定。

ヘアメイク/ 倉田明美(cinq NA)
スタイリスト/ 轟木節子

【衣装クレジット】
ブラウス¥46,000、スカート¥36,000/ともにArobe
<問い合わせ先> Arobe tel03-6228-3470

関連記事

インタビュー特集

【塚本晋也監督インタビュー】映画『斬、』一本の刀に込めた死生観と時代劇で現代を描く真意。

世界中に熱狂的なファンを持つ塚本晋也監督が挑んだ初時代劇『斬、』。 ©︎ Cinemarche 前作『野火』では過酷な戦闘地域に身勝手に放り込まれたことで、飢えと本能によって精神を壊していく人たちを描 …

インタビュー特集

【中村公彦監督インタビュー】映画『たいせつなひと(仮)』制限のある中で育まれる“人と人の温もり”を描きたい

映画『たいせつなひと(仮)』は2023年10月7日(土)より高円寺シアターバッカスで限定公開! レンタル彼女を題材に人々の心の交流を描く『たいせつなひと(仮)』が2023年10月7日(土)より高円寺シ …

インタビュー特集

アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる

アーロン・クォック出演の映画『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』は2020年2月7日(金)より全国ロードショー! 香港の街中にある、24時間営業のファストフード店。貧しい生活に必死に耐えながら生き …

インタビュー特集

【谷口悟朗監督インタビュー】『BLOODY ESCAPE 地獄の逃走劇』“観るためのパワー”を持つ人々への映画×持ち続けたい“どんな作品も”という自由さ

映画『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』は全国絶賛上映中! 魔改造された実験都市「東京」を舞台に、改造人間となった男、それを追うヤクザ、そして異形の者たちの壮絶で血みどろな三つ巴の戦いを描 …

インタビュー特集

【霧生笙吾監督インタビュー】映画『JOURNEY』SKIPシティアワード受賞作がSF映画を通してつなげる“意識と意識”

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022・国内コンペティション長編部門 SKIPシティアワード受賞作『JOURNEY』! 肉体から意識を解放することが可能となった近未来で、生きることの意味という普遍的 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学