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映画『救いの接吻』あらすじと感想レビュー。フィリップ・ガレル監督が描く愛の残像。

  • Writer :
  • 加賀谷健

映画『救いの接吻』が2019年4月27日より東京都写真美術館ホールにて公開

フランス映画界でヌーヴェル・ヴァーグの精神を受け継ぐ孤高の映画作家フィリップ・ガレル。

ガレル監督の日本初公開となる『救いの接吻』(1989)が、中期を代表する『ギターはもう聞こえない』(1991)とともに2019年4月27日から公開されます。

特に、これまで“愛”についての問いを深めてきたガレル監督の原点とも言える『救いの接吻』は、多くの観客を至福の映画体験へ誘うことでしょう。

映画『救いの接吻』の作品情報

【製作】
1989年(フランス映画)

【原題】
Les Baisers de secours

【監督・脚本】
フィリップ・ガレル

【キャスト】
ブリジット・シィ、フィリップ・ガレル、ルイ・ガレル、モーリス・ガレル、イヴェット・エチエヴァ

【作品概要】
“ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ”の巨匠フィリップ・ガレルが紡ぐ家族映画の原点。

家族との関係性に苦悩する映画監督をガレル自ら演じ、当時のパートーナーであるブリジット・シィや息子ルイ・ガレル、そして名優の父モーリス・ガレルが出演。

ガレル特有の鮮烈なモノクロームと詩人のマルク・ショロデンコによるダイアローグが、忘れがたく観客の心に記憶されていく至高のフランス映画です。

フィリップ・ガレル監督プロフィール

1948年、フランス・パリ生まれ。16歳で学校を辞め、短編映画『調子の狂った子供たち』(1964)を発表し、批評家のジョルジュ・サドゥールに激賞されます。

19歳の時に監督した『記憶すべきマリー』(1968)がイェール映画祭で名優ミシェル・シモンに絶賛され、ヤングシネマ賞を受賞。翌年、「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」の歌姫ニコと出逢い、1972年の『内なる傷跡』から彼女を主演に据え、私生活を共にしながら7本の作品を製作しています。

ニコとの破局後は、アンヌ・ヴィアゼムスキーを主演にした『秘密の子供』(1979)で商業復帰し、1982年のジャン・ヴィゴ賞を受賞。

モーリス・ピアラ、ジャック・ドワイヨンらとともに「ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ」の旗手として精力的に作品を発表し続け、1983年には、父である名優モーリス・ガレルを主演に据えた『自由、夜』で第37回カンヌ国際映画祭のフランス映画の展望部門にてグランプリを、前妻ニコの事故死に捧げられた『ギターはもう聞こえない』(1991)では第48回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞をそれぞれ受賞。

第62回ヴェネツィア国際映画祭で2度目となる銀獅子賞を見事受賞した『恋人たちの失われた革命』(2005)から息子ルイを俳優として本格的に起用し始め、その後も私小説的な作品製作を続けています。

映画『救いの接吻』のあらすじ

映画監督のマチュー(フィリップ・ガレル)は、新作映画のキャスティングに悩んでいました。

主役が別の有名女優に決まり、明らかに自分をモデルにした役をもらえず、裏切りを感じた妻のジャンヌ(ブリジット・シィ)はマチューを責め立てます。

愛する息子(ルイ・ガレル)と3人でクラスアパートからも追い出されたマチューは、作品作りと私生活との間で苦悶しながらも家族関係の崩壊の危機を乗り越えていこうとするのが…。

映画『救いの接吻』の感想と評価

参考映像:短編映画『調子の狂った子供たち』予告編

ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ作家

フィリップ・ガレルの映画作家としての初まりは早く、16歳の時にすでに短編映画『調子の狂った子供たち』(1964)を発表しています。

ヌーヴェル・ヴァーグがフランス映画を席巻していた真っ最中に無名の少年の手で撮られたこの作品の映像感覚は、フランスの映画史家であるジョルジュ・サドゥールに「神童」と言わしめたほどの才能でした。

そうしたフランス映画の文脈の中で次々と作品を発表していく彼もやはりジャン=リュック・ゴダールから強い影響を受けていた1人です。

ガレルが妻ニコを主演に映画を制作していった1970年代は、先行するヌーヴェル・ヴァーグ作家たちがすでに円熟味ある作品を発表しています。

ヨーロッパ映画がそれぞれ作家の個性を活かした多様な流れを形成していた中で、ヌーヴェル・ヴァーグの申し子として常にフランス映画の最前線にあり続けているのが映画作家フィリップ・ガレルなのです。

家族映画の原点

参考映像:『恋人たちの失われた革命』(2005)予告編

パートーナーとの関係や家族との関係を常に私小説的に描いてきたフィリップ・ガレルですが、『救いの接吻』には自分の妻と子ども、名優である父親をキャスティングし、主人公の映画監督も自ら演じています。

後に『恋人たちの失われた革命』(2005)から父ガレル作品の常連となる息子ルイはこの時わずか6歳。『彼女は陽光の下で長い時間を過ごした』(1985)の初登場に続いての出演です。

カフェで息子の相談相手になる父モーリス・ガレルの筋金入りのダンディズム。

当時のパートナーであったブリジット・シィが主演の座を手にした相手方の女優のアパートを訪れ、役を譲ってほしいと懇願する場面では、窓から吹き込む風が彼女の髪を艶やかに靡かせ、鮮烈なイメージを刻み付けています。

そして、息子ルイが雨の中、坂道を三輪車で下っていく忘れがたいロングショットの尽きせぬ魅力……。

フィリップ・ガレルにとって創作と私生活とは切り離せないもので、ガレル家はまさに映画を生きる一家です。

ガレルの風景

なぜそうしたガレルの画面は映画的なものを感じさせるのでしょうか。

ガレルがカメラを向けるのは、どこにでもありそうなパリの街の日常風景です。

彼が好むシャープなモノクロームの画面も極めて質素なものです。

しかしそれがかえってカラー映画以上に鮮やかな印象を感じさせます。

ガレルが描き出そうとするのは現実そのものの生々しさなのです。

スクリーンに映し出される映像は確かに現実を切り取ったものですが、ガレルはカメラの再現性という特性を巧みに利用して、自分だけがみているもうひとつの現実を見事に浮かび上がらせています。

透徹したリアリズム志向の作家でありながら、ただ眺めているだけでは依然ぼんやりしたままの日常に人間の生の輝きを再発見していくガレル。

彼が見つめているパリの風景は、ゴダールやトリュフォーが捉えたヌーヴェル・ヴァーグの街並以上の生々しさを伴って記憶されるはずです。

まとめ

フィリップ・ガレルの映画はいつでも観る者の心を震わせます。

どのショットをみても映画的な息づかいを感じない瞬間はなく、そのひとつひとつに手応えを感じてしまいます。

それは、ガレルが被写体にカメラを向けると映画は自ずと生起し始めてしまうからで、これほどまでに根源的で豊かな映画体験が他にあるでしょうか。

この貴重な上映の機会に、至高の私小説(家族)映画に身も心も浸ってみてはいかがでしょうか。


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