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Entry 2019/04/08
Update

映画『麻雀放浪記2020』ネタバレ感想と評価。斎藤工と白石和彌による風刺と皮肉

  • Writer :
  • 河合のび

2019年4月5日より公開中の映画『麻雀放浪記2020』

超人気俳優・斎藤工の主演をはじめ、豪華キャスト陣の出演で大変話題になった白石和彌監督の映画『麻雀放浪記2020』。

賭博としての麻雀を描いた阿佐田哲也の代表作である小説『麻雀放浪記』を大胆にアレンジした、強烈な風刺と笑いに満ちたエンターテインメント・コメディ映画です。

2019年4月6日、渋谷TOEIにて行われた公開舞台挨拶では、キャストであるもも、ベッキー、竹中直人、そして本作の脚本を担当し、今回急遽登壇することとなった佐藤佐吉がゲストとして壇上に上がりました。

撮影や脚本執筆の裏話に観客たちは耳を傾ける一方で、竹中直人とベッキーによる漫才のような軽快なトークに、場内は終始笑いに包まれていました。

そんなゲストたちの尽力によって形作られた、これから訪れる2020年を舞台とする『麻雀放浪記』の物語とは、一体どんな内容なのでしょうか。

映画『麻雀放浪記2020』をご紹介します。

映画『麻雀放浪記2020』の作品情報


(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

【日本公開】
2019年(日本映画)

【原案】
阿佐田哲也

【監督】
白石和彌

【脚本】
佐藤佐吉、渡部亮平、白石和彌

【キャスト】
斎藤工、もも、ベッキー、的場浩司、岡崎体育、ピエール瀧、音尾琢真、杉村蝉之介、伊武雅刀、矢島健一、吉澤健、堀内正美、小松政夫、竹中直人

【作品概要】
『麻雀放浪記』の主人公である坊や哲が、戦後の1945年から第三次世界大戦が勃発し新たな戦後と化した2020年へとタイムスリップしてしまい、元の時代へと戻るべく麻雀によって奮闘するコメディ作品です。

監督には、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』『凶悪』『孤狼の血』で知られ、日本のエンターテインメント映画を牽引する映画監督の一人である白石和彌。

脚本は、『殺し屋1』『東京ゾンビ』の佐藤佐吉、『3月のライオン』『ビブリア古書堂の事件手帖』の渡部亮平と第一線で活躍する脚本家が担当。

キャストには主演の斎藤工、人気の音楽姉妹ユニット「チャラン・ポ・ランタン」ボーカルのもも、ベテラン俳優にして自身も映画監督である竹中直人、タレント・女優・歌手と多岐に渡って活動しているベッキーのみならず、『就職戦線異常なし』『新GONIN』の的場浩司、『岸辺の旅』『オケ老人!』の小松政夫、人気シンガーソングライターで本作が映画初出演の岡崎体育など豪華キャストが勢揃いしました。

映画『麻雀放浪記2020』のあらすじとネタバレ


(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

戦後、1945年。若き博打打ちである坊や哲は、その日麻雀クラブ「オックス」で麻雀を打っていました。

同じく博打打ちであるドサ健と出目徳、そして同棲しているクラブのママ・ユキとの金を賭けた勝負。その最中、哲は「それをアガった(和了った)者は死ぬ」という迷信がある麻雀の役満役「チューレンポートン(九蓮宝燈)」をテンパイ(聴牌)し、ついにアガリ牌を引いてきます。

しかしアガリを宣言しようとした瞬間、建物に落雷が落ち、気付いた時には、哲は75年後の未来である2020年の日本に来ていました。

第三次世界大戦の勃発によって再び敗戦国となり、開催されるはずだった東京五輪も中止され、マイナンバー制度の強化による超監視・管理社会と化した2020年の日本の姿に困惑する哲。

その中で、博打ではなくゲームとしての麻雀が打てるコスプレ喫茶で働く売れないアイドル・ドテ子、彼女が所属する芸能プロダクションの社長兼マネージャーであるクソ丸と知り合い、哲はスラム街にあるドテ子の家に身を寄せることになりました。

ママとの関係、タイムスリップする前に打っていた麻雀の内容などを話す哲に、最初は「コスプレイヤーとしてのキャラ作り」と信じていなかったドテ子も次第に彼が本当にタイムスリップしてきたのではないかと思い始めます。

一方、とある研究施設では、最高水準のAIを搭載したアンドロイド・YUKIが開発され、それを世界に向けて宣伝するためのイベントとして人間対AIの麻雀勝負を行う「麻雀五輪」を開催すること、そしてAIに対抗しうる程の実力を持つ雀士を探すことが秘密裏に計画されていました。


(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

やがて哲は、チューレンポートンでもう一度アガれば元の時代に戻れるのではないかと気付きます。ドテ子・クソ丸と共に三麻(三人麻雀)を打つ中、哲は再びチューレンポートンをアガりますが、何も起きませんでした。

落ち込む哲を余所目に、クソ丸は彼の実力とイケメンぶりに目をつけ、麻雀番組にタレントとしてデビューさせることを思いつきます。

学ランにフンドシという奇抜な衣装に最初は笑われるものの、「現代にはない打ち筋」がもたらす規格外の実力に哲はたちまち人気者になります。

しかし、哲は圧勝し続ける現状に「もっと強い奴と麻雀が打ちたい」と嘆き、その後ドテ子が教えてくれたネット麻雀の世界へと足を踏み入れます。

圧倒的実力によりネット麻雀界の頂点に立つ「ミスターK」と対決すべく、寝食も忘れネット麻雀に没頭する哲。

哲は上位ランキング2位へと到達し、ついにミスターKと対決する中で、再びチューレンポートンをテンパイします。

1945年のオックスでの勝負の時と同じく、空には雷雲が立ち込め始め、いよいよ戻れるという期待が高まったものの、結局ミスターKが逃げてしまったことでアガることは叶いませんでした。

以下、『麻雀放浪記2020』ネタバレ・結末の記載がございます。『麻雀放浪記2020』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

チューレンポートンを逃し、再び落胆した哲はスラム街の人々とのチンチロリン(3つのサイコロの出目で争う博打)へと逃避します。

しかし、そこで年老いた本物の博打打ちと出会ったことで、彼は恐怖し、博打打ちとしての自信をなくしてしまいます。

直後、スラム街に警官隊が雪崩れ込み、違法である賭博を行っていたことで哲は捕まりそうになります。

哲はドテ子と共にラブホテルへと逃げ込みます。自信を失った哲を、ドテ子は体で慰めようとします。

けれでも、ドテ子は人間とセックスすることができず、どうしてもしなくてはならない場合には相手にシマウマの覆面を被らせなくてはいけないという悩みを抱えていました。

ドテ子は「哲さんとならできるかもしれない」と哲とキスしますが、体はどうしても受け付けてくれず、彼女は嘔吐してしまいます。そして、ラブホテルに警官隊が現れたことで、二人は逮捕されてしまいました。

留置場の中、哲は同じく逮捕されていた博打打ちの老人と再会します。腕や内臓、左眼とあらゆるものを博打で失ってきた老人は、サイコロを取り出し、自分の残っている右眼を賭けて勝負してくれと哲に頼みます。

怯える哲に「賭けるものは何でもいい」と言う老人。とうとう哲は勝負に乗り、結果勝利します。負け分を支払うために自ら右眼を抉りとった老人の姿に、哲は慟哭します。

そして、自身とドテ子の釈放を条件に大会関係者から提案されていた麻雀五輪の参加を決意しました。

勝負の舞台、そこにはクラブのママ・ユキと瓜二つなアンドロイドYUKI、ドサ健と瓜二つなミスターK、出目徳と瓜二つな中国人雀士が対戦者として待っていました。1945年の勝負を思い出し、あまりの偶然に動揺しながらも、哲は人間対AIの麻雀勝負へと挑みます。

YUKIの正確無比にして桁違いの実力に、たちまち苦戦を強いられる三人の雀士。しかしドテ子の行動によって機材トラブルが発生し、それまでの全自動麻雀卓での勝負から手積みでの勝負へと移行したことで、三人はYUKIのAIにプログラミングされていなかった古典的な麻雀のイカサマ技によって、苦境を打破しようとします。

ところが、間もなくYUKIは三人のイカサマ技に気付き、再プログラミングを行なったことで自らも様々なイカサマ技を使い始めました。

再び苦戦を強いられ、ついに勝負は哲とYUKIの一騎打ちとなります。哲は勝負を降りた雀士二人に協力を頼み、イカサマ技によってチューレンポートンをアガろうとします。

テンパイへと辿り着いたものの、アガリ牌であるウーピン(五筒)はすでに4枚とも捨てられていました。しかし、1945年の勝負でのチューレンポートンのアガり牌、1945年から2020年に来た際に哲が握り締めていた牌である1枚のウーピンによって、哲は見事にチューレンポートンをアガりました。

雷が落ちる中、哲と会場に駆けつけたドテ子は再びキスしました。ドテ子は嘔吐することなく、二人はキスをし続けました。

気付いた時には、哲は1945年の、オックスでの勝負する前の時間へと戻っていました。

哲は麻雀を打つために、オックスへと向かいました。

映画『麻雀放浪記2020』の感想と評価


(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

麻雀を知る人間であれば誰もが読んだことがある、或いは見聞きしたことがある、阿佐田哲也の往年の傑作小説『麻雀放浪記』。

1969年から1972年にかけて描かれたこの作品は、1984に和田誠監督の手によって映画化されたこともあります。

しかしながら、原作小説のことを知っていれば知っている程、本作の「坊や哲が戦後の1945年から2020年へとタイムスリップする」というハチャメチャな設定に驚かされることは間違いないでしょう。

本作の劇中には、小説『麻雀放浪記』に登場するキャラクターやイカサマ技、名台詞に至るまで、様々なネタが散りばめられており、思わずクスリとしてしまうシーンがたくさんあります。

大胆なアレンジによって作られた本作ですが、そこには確かに、小説『麻雀放浪記』という作品への愛が見受けられます。


(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

本作は映画のジャンルとしてはコメディにあたりますが、より細かく分類すれば「ブラック・コメディ」にあたる作品です。

物語の時代設定である2020年。現実においては東京五輪が開催される希望と未来に溢れた年として、多くのメディアで扱われています。

ところが本作での2020年は、第三次世界大戦で敗戦して新たな戦後を迎え、東京五輪は中止されてしまった年として描かれています。

そして2020年の日本では、もはやディストピアと化した社会が築かれていることも明らかになります。

コメディとしての笑いと共に、現代の日本社会、そして未来の日本社会に対する風刺と皮肉を臆面なく描く。

それはまさにブラック・コメディであり、そんな2020年を描いた作品をその前年にあたる2019年に公開する意味は計り知れないでしょう。

そして、それほどまでの過激さを持ちながらも、観客たちが楽しむことができるエンターテインメント作品へと昇華されているのが、映画『麻雀放浪記2020』なのです。

まとめ


(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

マスコミを賑わせ、様々な話題で取り上げられた映画『麻雀放浪記2020』。

麻雀を愛する人も、全く知らない人も共に楽しめる、風刺と皮肉に満ちたエンターテインメント作品です。

映画『麻雀放浪記2020』、ぜひご鑑賞ください。

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