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Entry 2019/03/27
Update

映画『阿吽(あうん)』感想と考察。楫野裕(カジノユウ)が描く“怖さ”というモノクローム映像|SF恐怖映画という名の観覧車42

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile042

映画で感じる「恐怖」のタイプには複数の種類があります。

「呪怨」シリーズのような得体のしれない「何か」に襲われる「恐怖」が、ホラーと言うジャンルではメジャーであり、例え相手が人間であっても多くのホラー作品がこの種類の「恐怖」を描いてきました。

しかし、現実世界では人生の間でこの種類の「恐怖」を体験することはあまりありません。

今回は、『胸騒ぎを鎮めろ』(2006)『SayGoodbye』(2009)など、自主製作映画を多く製作する楫野裕監督が、独特の表現法で描き出した「恐怖」映画である『阿吽』をご紹介します。

カナザワ映画祭2018「期待の新人監督」部門のオープニングを飾った、楫野映画『阿吽』の魅力と、本作の描く「恐さ」を解説します。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『阿吽』の作品情報


(C)2018yukajino

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
楫野裕

【キャスト】
渡邊邦彦、堀井綾香、佐伯美波、篠原寛作、宮内杏子

映画『阿吽』のあらすじ


(C)2018yukajino

大手電力会社に勤める岩田寛治(渡邊邦彦)は、電話やネットでの執拗なバッシングに神経をすり減らし始めていました。

まるで別人のように衰弱した寛治は恋人にすら見放されますが、やがてあるものと出会い…。

独特な技法で描かれる「恐怖」の形


(C)2018yukajino

びっくりさせるような演出や、恐るべき怪物が血塗れの殺人を繰り返していく。

そんな演出も「ホラー」作品の魅力ではありますが、現実に近い身近な「恐怖」が描かれる作品でも身の毛のよだつ感覚を覚えます。

しかし、本作では非現実的な要素を描きながらも様々な演出で、身近な「恐怖」を描いていました。

身近な「恐怖」

参考映像:『ヒメアノ〜ル』(2016)

2016年に公開された吉田恵輔監督の映画『ヒメアノ〜ル』。

森田剛演じる森田が次々と人を殺していく様を描いたこの作品は、彼の巧みな演技と脚本により、サイコキラー森田があくまでも等身大の人間として存在していました。

そのため、もしかしたらどこにでも居るのではないかとすら思えるサイコキラー像と、決して派手に描写しないリアルな殺害シーンの演出が重なり、ゾクゾクと背筋が凍りつく恐ろしい感覚を味わうことになります。

『阿吽』で描かれる「恐怖」の源流は、『ヒメアノ〜ル』と同じ身近な「恐怖」。

ですが、『ヒメアノ〜ル』と違い『阿吽』で「恐怖」の対象として描かれるのは「人間」ではありません。

本作は現代ではあまり類を見ない意外な手法で、身近な「恐怖」を作り出していました。

「静」を描く手法


(C)2018yukajino

この映画を紹介する上で、避けては通れない要素が「映像」にあります。

全編を8ミリモノクロフィルムで撮影した本作は、映像だけでなく様々な演出も一昔前の技法を使用。

近代の作品では合理的なセリフ回しと、適切なバックミュージックで映画全体に「動き」をつけています。

しかし、本作では敢えてセリフ回しやバックミュージックに「間」をつけることで、会話や生活感にリアリティを生んでいます。

物語に登場する「怪物」のような「非現実的」な要素と、どこまでも拘りぬいた「リアリティ」。

相反する2つの要素が、見事な融合をみせる「恐怖」映画の新たな一面を描いています。

広がる「未来」を潰す「悪意」


(C)2018yukajino

本作には様々な現代的なワードが登場します。

そのワードの多くが「世界」の素晴らしい「未来」を描く一方で、物語は真逆の方向性を辿るんです。

この章では、本作で描かれるその面の一部をご紹介させていただきます。

「IoT」が根付く未来


(C)2018yukajino

電子技術はここ数十年で飛躍的に進化し、「IoT(Internet of Things)」と言う言葉を聞くようになりました。

劇中でも登場するこの言葉は、全てのモノがインターネットに接続される事象のことを指しています。

エアコンの消し忘れ、鍵の閉め忘れ等がインターネットを通して操作出来る仕組みが既にあるように、便利な時代の到来を予期し、明るい「未来」を想像させるこの言葉。

一方で危険な「闇」の部分も存在します。

「IoT」の危険性


(C)2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

全てのモノがインターネットに繋がる未来。

そこには、1つの大きな障害が存在します。

大ヒットを記録したアニメ『名探偵コナン ゼロの執行人』(2018)で描かれたように、やり方次第では「悪意」ある人間も全てのモノに接続できてしまいます。

実際に全国のセキュリティの弱い監視カメラの映像を公開しているサイトがあるように、世の中が便利になるほど、その知識のない人のプライバシーは侵害されます。

「悪意」の流入を防ぎきることは技術が進歩しても難しく、必ず何かの方法で「IoT」は悪用されるはずです。

広がる「未来」とそれに対する「脅威」、見方を変えると『阿吽』は様々な対立を描き、私たちの想像を遥か遠くへと向かわせてくれる作品です。

まとめ


(C)2018yukajino

自然環境に配慮した茶葉である「マイティーリーフ」や前述した「IoT」など、本作に登場する様々な「未来」を考える言葉。

しかし、「未来」を語る登場人物は主人公の寛治が出会う謎の存在により、あっさりと崩されていきます。

果たしてその存在が比喩しているのは自然による「災害」なのか人々による「悪意」なのか。

独特な手法で「恐怖」を描いた映画『阿吽』は、4月13日よりアップリンク吉祥寺で公開。

ぜひ、全編を8ミリモノクロフィルムで撮影した本作を劇場でご覧になってください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…


(C)2017 MARROWBONE, SLU; TELECINCO CINEMA, SAU; RUIDOS EN EL ATICO, AIE. All rights reserved.

いかがでしたか。

次回のprofile043では、話題の注目俳優たちが出演するスペイン産ホラー『マローボーン家の掟』(2019)をご紹介させていただきます。

4月3日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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