母の思い出の味。その味は、人種も国境も超え、家族の絆を繋いでくれました。
映画『家族のレシピ』は、日本とシンガポールの外交関係樹立50周年記念として、シンガポール・日本・フランス合作で製作されました。
日本とシンガポール、それぞれの国の経済発展と共に成長してきた代表的な食べ物、ラーメンとバクテー。それぞれの国の「食」文化を知ることは、とても大切なことです。
世界中のすべての家に、その家庭の味があります。美味しいものを一緒に食べること。自分の好きな食べ物を分けてあげること。「食」は大事なコミュニケーションのひとつです。
母の「レシピ」がもたらした奇跡とは。ばらばらになった家族の絆が、ひとつのレシピを通して再生していく感動の物語、映画『家族のレシピ』を紹介します。
映画『家族のレシピ』の作品情報
【日本公開】
2019年(シンガポール・日本・フランス映画合作)
【監督】
エリック・クー
【キャスト】
斎藤工、マーク・リー、ジネット・アウ、伊原剛志、別所哲也、ビートリス・チャン、松田聖子
【作品概要】
2016年のシンガポールと日本の外交関係樹立50周年を記念して、シンガポール・日本・フランス合作で製作された映画『家族のレシピ』
監督にはカンヌやヴェネチアなど世界でも常に高い評価を得ているシンガポール映画界の第一人者、エリック・クー監督です。
日本とシンガポールの架け橋となる主人公・真人役に、常に新しい顔を見せ、映画監督としても国際交流に積極的に取り組んでいる、斎藤工。
シンガポール在住のフードブロガー美樹役には、アジア全域で不動の人気を誇る永遠のアイドル、松田聖子が登場。みごとなマンダリンの言語を披露しています。
映画『家族のレシピ』のあらすじとネタバレ
丁寧に手際よく作られていくラーメン。琥珀色に輝くスープに煮卵がのった、しょうゆラーメンは「らーめん すえひろ」の看板メニューです。
群馬県高崎市で、行列が出来るほどの「らーめん すえひろ」を営むのは、店主の和男とその弟の明男、そして和男のひとり息子の真人の3人です。
しかし、和男は店が終わると一人バーで飲んだくれる日々でした。真人が10歳の時に妻のメイリアンを亡くした和男は、口を閉ざし息子と会話もしない、石のような父親でした。
ある日の朝、真人は店で倒れている父親・和男を発見します。和男はそのまま帰らぬ人となりました。
突然両親を亡くした真人は、思い出を手繰るように、母の故郷、両親が出会い自分も10歳まで暮らしていたシンガポールを訪ねる決意をします。
父の遺品の中から見つけた、幼い頃の写真と母の日記を持って、ひとりシンガポールへと旅立つ真人。
シンガポールで現地を案内してくれてのは、以前から交流のあったシンガポール在住の日本人フードブロガ―美樹でした。
彼女は、結婚してシンガポールに移り住みますが、今はシングルマザーとして働きながら、趣味のブログを更新し、子育てをしています。
勉強熱心な美樹は、真人におすすめの食べ物や、シンガポールの食の歴史を教えてくれます。
真人の旅の目的のひとつに、幼い頃食べた叔父のバクテーの味を再現したいという願いがありました。
バクテー(肉骨茶)とは、豚の骨付きあばら肉などをスパイスやハーブと一緒に煮込んだ薬膳料理です。
名前に反して、茶葉は入っておらず、バクテーの食後にお茶を飲んだことから付いたという説もあります。栄養のあるバクテーを食べ、一緒にお茶を楽しむ。人と人とをつなぐ大事なソウルフードです。
真人の事情を知った美樹は、叔父探しに協力してくれます。マンダリンで書かれた母の日記も訳してくれました。
母の日記は、シンガポールから日本へ行く時の心情から始まり、病気がわかった時から真人へ残したメッセージ。そして、故郷料理のレシピが書かれていました。
美樹の協力もあり、真人は母の弟・ウィーに再会することが出来ます。
真人の成長にウィーは感動し、家に招待します。住み込みながら、バクテーの味を習いたいとお願いする真人に、秘伝のスープの味を伝授してくれました。
真人にはもう一つ、旅の目的がありました。
映画『家族のレシピ』の感想と評価
映画『家族のレシピ』は、日本とシンガポールの外交関係樹立50周年記念として製作されました。
主人公の真人は、シンガポール人の母と日本人の父の間に産まれた子どもで、幼少をシンガポールで暮らしていたという設定です。
真人の父は、シンガポールに日本料理の店を開くために単身でやってきます。バクテーの美味しい店で働いていた母と出会い、恋に落ちます。
シンガポールの町で美味しいものを食べ歩き、食の文化を学んでいく姿に、現在の真人の姿も重なります。
時代は変わっても「食」は変わらない。美味しいものを食べている時、人は幸福を感じます。
映画では、日本とシンガポールを繋ぐ「食」の大切さの他にも、負の歴史という乗り越えられない壁もテーマとなっています。
主人公の真人は、史実を知り自分ではどうすることも出来ないことに悩みます。自分のせいではないけれど、関係ないとは言えない歴史のこと。
歴史は変えることが出来ません。戦争の痛みを抱えているのは、どの国も同じです。加害者も被害者もない。世代を超えて誰もが、負の歴史の犠牲者なのです。
映画を通して、国境を越え家族の絆が取り戻される姿に、お互いが歴史を知り、歩み寄る努力をすることが大切なことだと気付かされます。
両親を亡くし、自分のルーツを探しに旅立つ主人公、真人を演じた斎藤工は、まさに日本とシンガポールの架け橋となるような存在感でした。
ひたむきに「食」と向き合い、不器用ながらも家族の愛を大切にする主人公の姿を、誰よりも日本人らしく演じているように見えました。
自分の産まれた国、育った国はどんな国なのでしょうか。世界に目を向けた時、自分のアイデンティティはどこにあるのか。世界の中の日本を考えるきっかけにもなる作品です。
まとめ
映画『家族のレシピ』では、日本とシンガポール、それぞれの国の代表的な食べ物として、ラーメンとバクテーが登場しますが、その他にも美味しそうな食べ物が次々と登場します。
シンガポールのハイナンチキンライスにラクサ、チリソースがたっぷりかかった丸ごと蟹料理チリクラブ、日本の焼き魚朝食に、母のオムライスと、スクリーンの中から湯気や香りが届いてきそうな映像にお腹が空いてしまいます。
ラストに完成する、日本とシンガポールのまさに合作レシピ「ラーメン・テー」は、「けいすけ」ブランドで斬新なラーメンを次々に誕生させ、シンガポールでも多くの支店を展開する竹田敬介が監修しています。映画の中でも敬介本人の登場もあり見どころです。
ベルリンやサン・セバスチャン国際映画祭のキュリナリー・シネマ部門に正式招待され、チケットは即日完売するほどの人気映画となりました。