連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第30回
今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。様々な58本の映画が公開中ですが、今回はガンアクションファン必見の作品を紹介します。
メル・ギブソンを父に持ち、父の監督作『ハクソー・リッジ』でスクリーンデビューしたマイロ・ギブソン。
その彼が初主役を務めたアクション映画で、父が『リーサル・ウェポン』で演じたマーティン・リッグス刑事以上の、複雑な過去と心に傷を持つ男を演じます。
第30回は様々な思惑に翻弄されつつ闘う傭兵を描いたアクション映画『リーサル・ソルジャーズ』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『リーサル・ソルジャーズ』の作品情報
【公開】
2019年(イギリス映画)
【原題】
All the Devil’s Men
【監督】
マシュー・ホープ
【キャスト】
マイロ・ギブソン、シルビア・フークス、ウィリアム・フィクトナー、ジョセフ・ミルソン
【作品概要】
民間軍事会社、警備会社の形をとって活動している現代の傭兵たち。CIAに雇われてテロ組織と対決する傭兵を、マイロ・ギブソンが演じます。
『ブレードランナー 2049』でライアン・ゴズリングと対決した女レプリカント、ラヴを演じたシルビア・フークスが、主人公を指揮するCIAの女エージェントを演じています。
またクセのある役を好んで演じるベテラン俳優、ウィリアム・フィクトナーが出演し、脇を固めます。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『リーサル・ソルジャーズ』のあらすじとネタバレ
モロッコの都市マラケシュの、とある一室で黙々と体を鍛える男ジャック・コリンズ(マイロ・ギブソン)。日常となっているのか、何かの薬を服用します。
ジャックは近くの市場を歩き、1人の女からすれ違いざまにUSBメモリを受け取ります。中身には「ターゲットは11時にマラケシュ空港に到着」のメッセージが入っていました。
部屋に戻ったジャックは拳銃を手入れし、サイレンサーを取り付けると、車で空港に向かいます。
地元の公安機関でしょうか、ジャックの行動は監視されていました。彼はCIAから命じられた非合法活動をする人物として警戒されていました。
空港から護衛と共に車に乗り込み、移動するターゲットをジャックは車で追跡します。そのジャックも公安機関の車に尾行されていました。
ターゲットの人物は何者かに電話をかけ、裏切り者の名を知りたければ金を払えと告げます。話はまとまり、裏切り者はオレグ、CIAの人間だと告げます。
パトカーに追われたジャックは、ターゲットの追跡を諦め逃走します。巧みな運転でパトカーや公安機関の車を引き離すと、車を乗り換えてターゲットを追います。
先回りしてターゲットを待ち伏せしたジャックは、停止した車のドアを遠隔操作でロックします。護衛の男たちが車から出ようとしてもドアは開きません。
車に近寄ったジャックは設定でロックが解除される一瞬の隙をつき、ドアを開けてターゲットを射殺し、その場を立ち去ります。
任務を果たしたジャックは飛行場に向かいます。そこにはCIAの用意したジェット機が待機していました。
ジャックをCIAの女エージェント、アレン・リー(シルビア・フークス)が迎えます。
リーは任務の成功を手短に褒めると、ジャックを次の任務に備え民間軍事会社のフルスペック社に雇わせたと告げます。
次の任務とは、あるテロリストを殺害でした。2人はジェット機に乗り込み、機は目的地のロンドンに向かいます。
機内にはジャックと旧知の間柄であるマイク・ブレナン(ウィリアム・フィクトナー)と、若く最近軍を離れ、傭兵となった黒人ピート・サミュエルソンがいました。
マイクはジャックに親しく語りかけますが、薬を服用して手の震えを抑えるジャックの姿に、経験が浅く怖いもの知らずなサミュエルソンは不審を感じます。
PTSDに苦しんでいるジャックを理解しているマイクは、リーに彼を任務から解放すべきと意見しますが、任務を最優先するリーにその意志はありません。
ジャック自身にも任務を断る気は無く、リーは3人に任務の詳細を伝えます。
今回のターゲットは、大統領の暗殺リストのトップに名があるテロリスト、テリー・マクナイト。元諜報部員でISに潜入していましたが、リーたちを裏切りテロ組織に寝返った人物でした。
マクナイトの裏切りで、リーは多くの同僚を失っていました。
ロンドンで武器の密売を行う人物、ファルークの仲介でロシアから大量破壊兵器を手に入れ、テロを行おうとしているマクナイトを殺害し、計画を阻止するのが今回の秘密任務です。
マクナイトに関係する人物の中に、ジャックはトニー・デイトン(ジョセフ・ミルソン)の名を見つけます。彼はジャックが昔、アフガニスタンの戦場で命を救った人物でした。
デイトンを知るジャックは、彼が悪に手を染める人物ではないと考え、デイトンに接触してマクナイトの情報を得ようと提案します。
その頃、マクナイトはオレグと話していました。彼が内通者との情報を得ていたマクナイトは、彼を脅迫し情報を得ると殺害しました。
ジェット機はロンドンに到着しました。CIAの隠れ蓑であるフルスペック社に着くと、ジャックはデイトンに連絡をとり会う約束を取り付けます。
ジャックの身を案じるマイクは、テロ対策に傭兵を使い捨てにする、CIAのリーに忠誠を誓うつもりかと指摘します。
マイクはジャックに家に帰ることを強く勧めますが、しかし彼は耳を傾けません。
ジャックとマイク、サミュエルソンの3人は、デイトンに会いに向かいます。酒場で会ったデイトンは、ジャックと親し気に話しました。
ジャックはファルークに会いたいと、デイトンに話を切り出します。ファルークは友人だと言うデイトンに、彼はテロ組織に関わる人物だと、ジャックは説明します。
デイトンはファルークの元に案内すると告げ、3人を店の外に連れ出します。しかし突然サミュエルソンを殴り逃げ出します。
ジャックとマイクはデイトンを追いますが、覆面を着け武装した一団が現れ銃撃戦となり、マイクは射殺されます。
ジャックとサミュエルソンはカービン銃を取り反撃しますが、デイトンを逃してしまいます。
2人はリーの元に戻りますが、彼女はマイクを失っても作戦を続行すると宣言します。言い争うジャックとサミュエルソンをリーは叱り、協力するよう命じます。
CIAの動きは敵側に漏れていましたが、リーはデイトンの動きを追うことで、マクナイトを見つけ出そうと計画を変更します。
一方のデイトンもTJDセキュリティーという会社に属する傭兵として、マクナイトの警護に雇われていました。
デイトンはマクナイトに対し、ジャックはシールズ時代の同僚で、能力も自分と同程度の男だと説明し、彼を安全な隠れ家へと向かわせます。
リーはコンピューターを駆使してデイトンの動向を探り、そのアジトの1つを突き止めます。
デイトンのアジトの廃工場に向かうジャックとサミュエルソン。ジャックはデイトンに電話し、なぜ裏切ったか問いますが、ビジネスに過ぎないと返事が返ってきます。
リーの支援を受けアジトに突入するジャックとサミュエルソン。デイトンの姿はありませんが、2人はここで待ち受けることにします。
PTSDに苦しむジャックに、サミュエルソンは薬を飲めと告げます。
侵入を知ったデイトンは部下と共に現れます。2人はリーに敵が餌に喰いついたと報告すると、銃を手に迎え撃ちます。
次々敵を倒す2人。その姿をリーはドローンで監視しています。混戦の中2人はデイトンを捕えスタンガンで無力化すると、連行しようと試みます。
敵の数は増え、ついにサミュエルソンが撃たれます。ジャックはデイトンの拘束を諦め、サミュエルソンと共に脱出します。
今回の襲撃でデイトンを捕えることは出来ませんでした。それを知ったリーは、密かにデイトンへの接触を試みます。
車に乗り込んで逃げたジャックとサミュエルソン。サミュエルソンの負傷は軽く、これで200万の報酬は割に合わないと笑います。戦いを通じて2人は信頼関係を築いていました。
追跡装置で停泊している船にマクナイトがいると判断した2人は、車で向かいます。
その頃リーはデイトンと接触していました。マクナイトを殺害するためには手段を選ばぬ彼女は、デイトンを利用しようと考えたのです。
マクナイトはリーの父を殺害していました。彼女はその復讐心からもマクナイトを追っていたのです。
奴を殺すには俺を頼るしかないと、リーに告げるデイトン。彼はマクナイトが手に入れようとしているのは、核弾頭だと告げます。
目的を果たすためリーはデイトンに、マクナイトと核弾頭を引き渡せば、身柄を保証しCIAと契約を結ばせると提案します。
それを知らぬジャックとサミュエルソンは任務の続行しています。それに対処するのはあなたの問題だと、リーはデイトンに告げます。
目的地に到着したジャックとサミュエルソンは、武装して船に乗り込みます。警備の者を倒していきますが、デイトンとマクナイトの姿はありません。
部下と共に現れたデイトンは、船を包囲して2人を襲います。計画された攻撃に2人はバラバラになり、デイトンに挑発された対決したサミュエルソンは殺されます。
サミュエルソンが付けていた無線を取り、デイトンはジャックに彼の殺害を告げます。
残されたジャックは、逃れた車の中で怒り狂い叫んでいました。
映画『リーサル・ソルジャーズ』の感想と評価
CIAとテロ組織の傭兵を使った“代理戦争”
大量破壊兵器を用いたテロを計画する悪の組織と、それを阻止する正義のスパイ!
アクション映画にありがちな設定ですが、CIAもテロ組織も雇った傭兵を使って対決する、これがその映画のミソです。
参考映像:エクスペンダブルズ (2010)
高額な報酬が支払われるとはいえ、傭兵は使い捨てできる存在。どちらの組織にも都合よく使用される、『エクスペンダブルズ(消耗品)』以上に消耗される男たちの物語です。
条件によって裏切りもあり、という傭兵の扱いが二転三転するストーリーを生みますが、正直話が判り辛い、との感想が海外でも「未体験ゾーンの映画たち」で鑑賞の方にも多い模様です。
興味深い設定を得て、短い上映時間に対して脚本が欲張り過ぎたのかもしれません。
誰もが納得のガンアクション
その一方辛口の海外の評論家も評価しているのが、この映画のガンアクションシーンです。
拳銃、アサルトライフル、カービン銃などを使用したシーンが何度も登場しますが、どれもこだわりを感じさせるものばかりです。
参考映像:リーサル・ソルジャーズ(2019) | Suppressed Guns Shootout Scene
例えば主人公らがサイレンサーを付けた銃を使用するシーン。発射光も見えず乾いた音で、次々薬莢を排出され、銃弾が発射されます。
一方クライマックスシーンではサイレンサーの無い状態。音は大きく派手に発射光が輝きます。後から申し訳で発射光を合成しました、という映画と異なる本格的な表現です。
拳銃を使用したシーン、ナイフを使用したシーン、また仲間と声をかけあって行う銃撃戦など、マニアでなくともアクションシーンにかけた工夫が感じ取れます。
プロップ(小道具)としての銃器の見せ方に、相当こだわりを感じさせる映画です。
まとめ
2世俳優として、初めて主役を演じたマイロ・ギブソン。いわゆるマッチョなヒーロー像ではなく、PTSDなど問題を抱えつつも、自分なりの正義を貫く人物を演じています。
参考映像:バトル・オブ・ブリテン 史上最大の航空作戦 (2018)
2018年公開の『バトル・オブ・ブリテン 史上最大の航空作戦』にも出演していますが、今後も多くの映画作品で活躍しています。
複雑な人物を演じる意欲のある彼が、今後映画やドラマの中で、どのように活躍をしていくかご注目下さい。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第31回は中国に実在した伝説的武術家ウォン・フェイホン(黄飛鴻)を、再びチウ・マンチェクが演じたカンフー映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 南北英雄』を紹介いたします。
お楽しみに。