連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第26回
今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。様々な58本の映画が公開中ですが、今回は映画ファン必見のパロディ映画が登場です。
伝説的ヒップホップ・グループ・N.W.Aの姿を描き、大ヒットした伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』。
その大ヒットラッパー映画をオマージュしつつ、何故か巨大スネークが大暴れする作品です。
悪ノリが全編にみなぎる、掟破りのラップ&モンスター・パニック映画が登場します。
第26回はラップと映画のパロディに溢れたコメディ映画『スネーク・アウタ・コンプトン』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『スネーク・アウタ・コンプトン』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Snake Outta Compton
【監督】
ハンク・ブラクスタン
【キャスト】
リッキー・フラワーズ・Jr.、モータウン・モーリス、ドンテ・エシエン、タルカン・ドスピル、アウレリア・マイケル、エリック・エリクソン
【作品概要】
カリフォルニアの犯罪多発地帯、コンプトン。あの大ヒットラップ映画の舞台のなった街で、キャムと仲間たちとラッパーとして成功し、街を抜け出すことを夢見ています。
ある日彼らに人生最大のチャンスが舞い込みます。大手レコード会社のスカウトの目にとまり、オーデションを受けることになりました。
ところがオーディションを目指すキャムの前に様々な障害が現れます。借金を取り立てるワルに暴力悪徳刑事、しかもラップに反応する、巨大スネークまでが襲いかかってきます。
大物ラッパーがまさかの出演!音楽(ビート)と言葉(ラップ)を武器に戦う、モンスターパニック・コメディ映画です。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『スネーク・アウタ・コンプトン』のあらすじとネタバレ
カルフォルニアのコンプトン上空を飛ぶジェット旅客機。『スネーク・フライト』でお馴染みの、Fワードを含む言葉が叫ばれる中、機体からヘビが落ちてきます。
コンプトンの街を走る覆面パトカーの中で、黒人悪徳刑事のデンズは新米白人刑事イーサンに、ゲキを飛ばし指導しています。
『トレーニング デイ』みたいと語るイーサンに、俺は絶対ビビらない!と言うデンズ。そんなやりとりをしているパトカーにヘビが直撃、さすがのデンズもビビってパトカーは右往左往。
パトカーの去った路上に、ヘビの死骸が残されます。それに気付いたバーケル(ドンテ・エシエン)は子持ちヘビだと興奮して、死骸から卵を取り出します。
卵からさっそく子ヘビがかえって大喜びするバーケル。そこにイケてる美女、ネオン(アウレリア・マイケル)が現れます。彼女が自分に気があると、バーケルは大喜びです。
実のところ彼女はヒップホップ・グループの仲間ピンボール(モータウン・モーリス)に、エミネムを意識した姿のビーズニーズ(タルカン・ドスピル)に会いに来ただけでした。
それでもネオンに、ヘビの幹細胞を刺激すれば巨大化すると説明するバーケルですが、ピンボールとビーズニーズに科学オタクと馬鹿にされます。
そこにグループのリーダー、キャム(リッキー・フラワーズ・Jr.)が、街のホームレスやブラザー連中にリスペクトされながら登場。彼こそネオンの恋人です。
キャムと仲間は友人を集め、ガンガン音楽を鳴らしパーティーを始めます。ネオンに脈の無かったバーケルは、連中を見返そうと、手に入れたヘビを使って巨大化実験を開始します。
バーケルは自室に成長ビームを放つ実験装置、効果音は『宇宙戦争』のビームと同じ…を持っていました。ヘビの次に大きくするのは、と股間に目をやるバーケル。頭は良くても品はありません。
キャムには将来の計画がありました。レコード会社のスカウトの女、レルが彼らの才能を評価しファンになったのです。
キャムがデモテープを作ってレルに売り込んだ結果、レコード会社のオーディションを受けることになったのです。
デモテープを作る金は、ピンボールがコンプトンでクラブを経営する悪党、アリ・ジョーズ(エリック・エリクソン)に借りていました。
パーティーでラップを披露するキャムたち。ラップ嫌いのバーケルは、嘘とセックスばかり歌いやがって、と激怒し成長ビームをヘビに照射し続けます。
ラップに合わせて動くヘビは徐々に大きくなり、日本の有名な怪獣の様に巨大化とバーケルは興奮しますが、いきなり実験装置がシステムダウンします。
突然銃撃されて皆が伏せます。危険な男、アリ・ジョーズが趣味の悪い金ピカのカラシニコフ銃を乱射したのです。
様々な人種の女を引き連れたアリ・ジョーズが、借金の取り立てに現れました。パーティーを開く金があるるなら利子を返せと、ピンボールに迫ります。
この騒ぎでケースが壊れ、ヘビは外へと逃げ出しバーケルは慌てます。
キャムは成功したら金は必ず返す、将来の投資と思って待ってくれとアリ・ジョーズを説得しますが、どうも頭の悪いアリとは話がかみ合いません。
一色触発の危機ですが、キャムは逃げ出したヘビを投げつけ、隣家のおばさんミス・ジョーンズの加勢もあって、アリ・ジョーズは銃を捨てて引き上げます。
キャムたちは頼りになるミス・ジョーンズに礼を述べますが、実のところ彼女はクスリ目当てに手助けしただけでした。
バーケルがヘビを探しに現れますが、ヘビはどこにもいません。その頃、家を後にしたミス・ジョーンズが、実験で凶暴化したヘビに襲われていました。
デンズとイーサンは、悪徳刑事らしく路上の売人(アイス売り)から、商品(ただのアイス)を巻き上げていました。そしてキャムたちの姿を目にします。
ヘビは成長ビームのせいで不安定と慌てるバーケルに皆は、ヘビ探しを手伝おうとします。
白人女のレルが銃を持っても何とも思わないデンズ。しかし黒人のキャムが銃を手にするや、いかにも悪徳警官らしく彼を逮捕します。
仲間が事情を説明しても、デンズは耳をかしません。バーケルが突然変異のヘビを逃がしたと騒ぐと、問答無用で彼も逮捕し2人を連行します。
キャムが拘留されてはオーディションが受けられません。保釈金を用意するためにピンボールとビーズニーズは、強盗を計画します。
プロレスの覆面を着け、オモチャの銃でコンビニを襲うピンボールとビーズニーズ。店主の反撃され大慌てですが、店主は妙に協力的です。
店主は強盗してくれれば、保険金が手に入ると大歓迎。レジの金を差し出し、ATMを壊せと指示しますが、不器用な2人に呆れて自らATMを破壊する始末です。
キャムとバーケルを連行中のデンズとイーサンは、車を止め点数稼ぎにホームレスをいじめようとします。
しかしホームレスはヘビに襲われ、体の一部を残すだけ。それを発見したイーサンは戸惑いますが、デンズはとりあわずパトカーに乗り込み引き上げます。
そのパトカーの後部に噛みつき、引きずられてゆくヘビ。とんでもないサイズに巨大化しています。
コンビニのピンボールとビーズニーズは引き上げようとしますが、覆面姿を通りがかったデンズに目撃されます。慌てて2人は逃げ出し、店主は被害者を装い倒れます。
裏口から出た2人は、人を丸のみできるサイズに成長したヘビと遭遇し、悲鳴を上げて店内に戻ります。デンズとイーサンに巨大ヘビが出た、と言っても信用される訳がありません。
覆面パトカーの車内に残されたキャムとバーケルの前に、『ジュラシック・パーク』の恐竜のごとく巨大ヘビが現れます。ヘビはどうやらバーケルが何者か判る様子です。
ボクのかわいい巨大ヘビちゃん、と近寄るバーケル。しかしあっさりヘビが丸呑みにします。異常な事態に刑事たちも気付きました。
キャルと刑事の目前で、ヘビはバーケルを吐き出します。コンビニに入ったヘビは店主を丸呑み、デンズは恐れ知らずの悪徳刑事らしく、巨大なヘビに殴りかかります。
巨大ヘビは店の奥に姿を消します。デンズはこれは俺たちの秘密だぞと、イーサンにヘビの件を口止めします。
一方バーケルは何かを拾い、これは使えるとつぶやきます。
巨大ヘビは店の奥の、トイレの下にある下水道に姿を消しました。デンズはイーサンに命じて下水を手探りさせますが、イーサンは指と腕時計を失う始末です。
バーケルは自室に戻り、ヘビを倒す解毒剤を作ります。一方キャムとピンボールとビーズニーズは、ネオンの働くクラブへと向かいます。
そのクラブの経営者はアリ・ジョーズ。ピンボールは彼に金を返し、ネオンを連れて皆で引き上げようとしますが、怒ったアリがラップバトルを仕掛けてきます。
頭の悪そうな歌詞のアリのラップに、続いて歌うキャムは楽勝と思えましたが、アリの部下のDJ演奏はでたらめビートでまともに歌えず、負かされそうになります。
ピンボールとビーズニーズが一計を図り、DJを色仕掛けで去らせて自らミキサーを操作、こうしてキャムのノリのいいラップが披露されます。
ラップバトルに勝利しましたが、そのビートを聞きつけた巨大ヘビがクラブへと向かってきます。
突然クラブに巨大ヘビが現れ客は逃げまどい、ヴィン・ディーゼルみたいな用心棒も倒されます。アリ・ジョーズは、とりまきの女を囮にして逃げ去ります。
クラブはパニックとなりますが、ネオンがヘビを感電させて追い払います。しかしヘビにはね飛ばされたキャムは倒れ、意識を失います。
キャムの目の前に、伝説のラッパー2PACや、ビギー・スモールズこと、ノトーリアス・B.I.G.が走馬燈の如く現れます。
俺は死んだ、とキャムは自覚しますが、大物ラッパーに夢を見てるだけ、とツっこまれます。19代米大統領ラザフォードまで現れる、いい加減な内容ですから間違いなく夢でしょう。
キャムは今見た夢のメッセージでヘビ退治を決意し、意識を取り戻します。
ヘビを退治すべく解毒剤を手に現れたバーゲルですが、ラッパー嫌いの彼はピンボールらと争いになります。
ところがバーケルの解毒剤を、悪徳刑事のデンズが狙っていました。自分が巨大ヘビを退治して、ヒーローになろうと企んでいました。
取り調べ室でバーケルから解毒剤を取り上げ、今更ながら『スネーク・アウタ・コンプトン』!と叫ぶデンズ。
邪魔な黒人は射殺、事実は簡単に隠ぺい出来ると、バーゲルに向けて発砲します。イーサンもしれを止めずに警官って最高!と叫ぶ始末。2人は巨大ヘビ退治に向かいます。
ところがバーケル死んではおらず、奇声を発して警察署から走り去ります。
ネオンの元へと帰ったバーケル、家を中を窓から伺うと、そこにはネオンとキャムが愛し合う姿がありました。傷心のバーケル、月に向かって咆えます。その口にはキバが生えていました。
どうやらバーケルの体にはヘビの毒が回った模様です。
バーケルの前に巨大ヘビが登場、1人と1匹に何があったのか、種を越えてよからぬ行為におよびます。目撃したキャムたち、さすがにドン引きです。
もはや巨大ヘビの仲間?になったバーケル。解毒剤は悪徳刑事の手に。そして今日はオーディション当日です。
彼らとコンプトンに、いかなる運命が待ち受けているのか!?
映画『スネーク・アウタ・コンプトン』の感想と評価
正統派のパロディ映画の系譜に巨大ヘビ映画
いい加減なサイズ感に巨大化するヘビが登場の映画。アサイラム製作の『メガ・シャーク』シリーズなど、低予算巨大CGモンスター映画を思い浮かべた方も多いでしょう。
確かにヘビの描写に関してはその通り。しかしご紹介した通り、この映画はアメリカのコメディ映画の系譜である、映画の“パロディ映画”のスタイルで作られた作品です。
映画の“パロディ映画”は、有名なところではウディ・アレンの『007 カジノロワイヤル』、メル・ブルックスの『ブレージングサドル』までさかのぼれます。
しかし本格的な、映画の“パロディ映画”といえば、デヴィッドとジェリーのザッカー兄弟とジム・エイブラハムズの映画製作チーム“ZAZ”が製作した『フライングハイ』です。
参考映像:『フライングハイ』(1980)
『フライングハイ』はレスリー・ニールセンをコメディ演技に目覚めさせ、“ZAZ”の『裸の銃を持つ男』シリーズが当たり役となりますが、本作以降多くの映画の“パロディ映画”が作られました。
“ZAZ”の映画製作が下火になると、2000年にウェイアンズ兄弟が製作した『最終絶叫計画』が登場し、新たな映画の“パロディ映画”のブームが始まります。
参考映像:『最終絶叫計画』(2000)
『最終絶叫計画』もアンナ・ファリスというコメディエンヌを生み、次々続編が製作されました。
ウェイアンズ兄弟がこのジャンルから離れた後、『最終絶叫計画』の脚本に参加したジェイソン・フリードバーグとアーロン・セルツァーが『鉄板英雄伝説』を製作します。
彼らは引き続きこのジャンルの映画を製作しますが、その作品はラズベリー賞ノミネートの常連となりましたが、コメディ映画としては勲章ものでしょう。
しかしジェイソン・フリードバーグとアーロン・セルツァーの活躍を最後に、映画の“パロディ映画”の製作は徐々に下火となっています。
そのような環境に登場した『スネーク・アウタ・コンプトン』。新たな映画の“パロディ映画”製作の流れが産まれるでしょうか。
芸能パロディに寛容なアメリカン・カルチャー
時に巨額の金が動くアメリカ映画界。製作された映画が盗作だ、盗用だと裁判沙汰になったと報道されることも多数あります。
一方本作の様なパロディ作品の製作には、実に寛容です。強面なイメージ重視の有名ラッパーたちも、下ネタありなこの映画に、多数賛同して出演しています。
アメリカには、社会には多様な視点・意見が提示されるべきという、表現の自由に重きを置く価値観が根付いています。
パロディはオリジナルを茶化し、時に批判も行いますが、それはオリジナルに無い新しい情報や視点であり、社会に有益な表現かもしれない、という考え方が根底にあります。
故にパロディに参加することは、オリジナル作者や著名人にとっても、決して恥ずべきもので無い、ユーモアを交えた創造への参加となります。
参考映像:『俺たちポップスター』(2017)
2017年に公開された、ジャド・アパトー製作の映画『俺たちポップスター』。
「サタデー・ナイト・ライブ」などで活躍する、アンディ・サムバーグを中心とするコメディグループ“ザ・ロンリー・アイランド”が監督・脚本・出演を務めた作品です。
この映画には、洋楽に詳しくない方もご存知の、著名な大物音楽アーティストが、『スネーク・アウタ・コンプトン』以上に多数出演しています。
モキュメンタリー形式で作られた『俺たちポップスター』は、大いに笑えるコメディですが音楽業界や特定の人物・楽曲を皮肉った内容になっています。
それでも多くのアーティストが喜んで参加したパロディ映画。アメリカ芸能界の奥深さが感じられます。
現在、日本のテレビ番組・映画においてパロディ表現は、表現の自由より対象へ忖度・自己規制が働くのか実に低調。パロディで元気があるのは、アニメ番組だけでしょう。
まとめ
映画の“パロディ映画”である『スネーク・アウタ・コンプトン』。
しかし登場するパロディシーンは、“ZAZ”やウェイアンズ兄弟の作品の様に、元ネタを判りやすくパロディにしたシーンは控え目です。
映画そのものが『ストレイト・アウタ・コンプトン』、そして『トレーニング デイ』のパロディとなった構成は、ウディ・アレンやメル・ブルックスのパロディ映画に近いと言えます。
もっともラッパーたち登場人物の小ネタに下ネタは豊富、全編笑える内容になっています。
気楽に笑える映画、でも映画ファンには元ネタ探しを楽しめる作品です。
ヒップホップ・ラップ音楽ファンには、クレジットされた以外のラッパー探しを試みて下さい。
あんな大騒ぎになったのに、登場する主要人物が1人も死なない、実にお気楽な映画です。もっとも主要でない人物は、軽く扱われて多数お亡くなりですよ。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第27回は宇宙空間で時空のループに囚われた宇宙船と、そのクルーの運命を描くSF映画『グラビティ 繰り返される宇宙』を紹介いたします。
お楽しみに。