連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第25回
今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。様々な58本の映画を続々公開しています。
旧ソ連時代に軍事目的で秘密裏に超能力実験や、心霊実験を行っていたと語られているロシア。
そんなエピソードをヒントに製作された、新感覚ホラー映画を紹介します。
第25回は撮られた者の命を奪う、ポラロイドカメラの恐怖を描いたホラー映画『シャッター 写ると最期』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『シャッター 写ると最期』の作品情報
【公開】
2019年(ロシア映画)
【原題】
ФОТО НА ПАМЯТЬ / Deadly Still
class=”fontBoldMore”>【監督】
アントン・ゼンコヴィッチ
【キャスト】
イリーナ・テミチェヴァ、アナスタシヤ・ゼンコヴィッチ、サンザール・マディエフ、ソフィア・ザイカ、イゴール・ハルラモフ、ステパン・ユラロフ
【作品概要】
合コンパーティーに集まった7名の男女が、冬の深い森の中で体験する恐怖を描いたホラー映画。
同上映企画で公開された映画『黒人魚』を撮影したアントン・ゼンコヴィッチ。その彼が撮影とともに初監督を務めています。
ロシア製スーパーヒーロー映画『ガーディアンズ』製作陣が手掛けたホラー映画です。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『シャッター 写ると最期』のあらすじとネタバレ
旧ソ連時代のロシア。ステージの袖で軍服の男カルノフは、これから舞台に立つシュルテンに、緊張した面持ちでこの実験は国家事業だと告げています。
観客に対して、ヒトラーの死を予言した男と紹介されたシュルテンは、新しい霊視方法と称する公開実験を行っていました。
即席予見と名付けられたこの実験は、シュルテンが開発したポラロイドカメラで撮影すると、被写体の未来が映し出されると説明されます。
観客の中から実験に懐疑的な科学者、アウリフコフらが選ばれて、この公開実験を手伝うことになりました。
舞台上に並べられた花瓶を撮影した写真は、間違いなく撮影後に移動した後の姿を映し出していました。
実験の成功に観客は拍手を送りますが、何か仕掛けがあると疑って、ポラロイドカメラを手に取って調べていたアウリフコフは、思わずシュルテンを撮影します。
撮影後、シュルテンは舞台の上で倒れ絶命していました。
カメラが映し出した写真は、シュルテンの絶命後の姿を捉えていました。
現代。食堂で合コンパーティーを楽しもうとする男女が待ち合わせをしていました。
アリョーナ(アナスタシヤ・ゼンコヴィッチ)とベラ姉妹、カーギク、イリヤ、ユラ、写真家のニック、そして最後に現れた女イラ(イリーナ・テミチェヴァ)が集まりました。
男4名、女3名が集まり、パーティーの場となる郊外の別荘へと移動。彼らが乗り込んだ車は、雪の積もった森を奥へと進んで行きます。
車内は盛り上がっていましたが、不注意から路上にいた大きなシカに正面から衝突します。
車は大破し、カーギクは手を傷つけ、足を負傷したアリョーナは身動きもままならない状態です。
携帯で助けを呼ぼうにも、電波が悪く連絡がとれません。彼らは外に男の姿を目撃しましたが、その姿は消えてしまいます。
目的の別荘まではまだ距離があります。他の車が通りかかると思えぬ場所で、このまま立往生すると全員が凍死する危険があります。
アリョーナとその世話をするイリヤを車に残し、ユラは助けを呼びに、1人で一番近くの村まで道沿いを歩いて戻ります。
残る4名のベラとイラ、カーギクとイリヤは、近くに避難できる山小屋が無いかと探します。
4名は狩猟小屋でしょうか、外に動物の骨が散らばった寂れた山小屋を見つけ、中に入ります。
誰もいませんが、小屋には電気が通じており、救急箱を見つけカーギクを手当て出来ました。
閉ざされた扉をイラがこじ開けると、その部屋の壁一面に写真が貼られており、机の上には古いポラロイドカメラが置いてあります。
壁の写真をよく見ると、それは死んだ動物や人間を写したものばかりです。その中に先程のシカが、車に突っ込んで死んでいる写真もありました。
一同は不審に思いますが、説明のつかない状況です。カーギクはこれがリアリティ番組ではないかと疑います。
小屋にあった珍しいポラロイドカメラに、ニックは興味を引かれカーギクの姿を写真に撮ります。写真はカメラに詰まって出てきません。
小屋の4名は相談して、ベラとカーギクが車に戻り、待っているアリョーナとイリヤを小屋に連れて来ることになりました。
ベラとカーギクは近道で戻ろうと森を突っ切って進みます。小屋の中の2人は、カメラから写真が出ている事に気付きました。
写真には、撮影された時とは似つかぬ姿のカーギクが写っていました。
その頃カーギクは、ベラの目前でつまずいて倒れます。そこに狩猟用のワナがあり、挟まれたカーギクは首を切断されます。
カーギクの血を浴びベラは悲鳴を上げます。その声を聞いたニックとイラは彼女を探しに小屋から出ます。
ニックとイラはカーギクの遺体を見つけました。その姿は写真に映し出されたものと一緒でした。
森の中は危険と判断したニックは、イラを小屋に向かわせて1人で車に向かいます。
その頃ベラは2人と入れ違いに小屋に戻り、カーギクを姿を捉えた写真に気付き愕然とします。そこにイラが帰ってきました。
一方ニックは悲鳴を聞いて車から出てきたイリヤと出会います。ニックに写真のことを説明されてもイリヤには理解出来ません。
ベラが車に到着していないと聞いたニックは、イリヤと共に小屋に戻ります。
小屋の中ではイラがベラを落ち着かせると、改めて怪しい部屋の中を探っていました。
鍵のかかった机に引き出しを開けると、中には8㎜フィルムが入っていました。イラはそれを映写機にかけて映し出します。
フィルムには冒頭の実験に参加した科学者、アウリフコフの姿が映っていました。
そのフィルムは1989年のものでした。彼の言葉によると、シュルテンの死後アウリフコフは彼の開発したカメラの謎を解明しようと実験していました。
このカメラは、不変の時空連続体に干渉することで、被写体の運命を変え死に至らせる。その未来の姿をカメラは映し出すのです。
そう語ったアウリフコフは妻と共に、ネズミを撮影して実験を行いますが、そこにカルノフが乱入してきます。
アウリフコフがシュルテンを死なせた結果、実験失敗の責任をとらされて15年服役したカルノフは、その恨みから夫妻を殺害します。フィルムの最後は、カルノフがこの撮影を止める姿を映し出していました。
小屋のいた者は、カメラが人を殺すものと理解しましたが、ベラが不用意な操作で撮影されてしまいます。
パニックになったベラの口に毒クモが飛び込み、それに噛まれたベラは血を吐き絶命します。それは写真に写された姿と同じでした。
ニックとイリヤ、イラの3人はあとは警察にまかせようと、小屋から逃げ出します。
しかし外には血の匂いを嗅ぎつけあつまった野犬の群れがいました。やむなく3人は小屋に戻りますが、そこにはアリョーナがいました。
彼女は自力で車を出て小屋にたどり着き、姉ベラの遺体を目にしました。誰かが姉を殺し、その姿を写真に撮ったと考え、彼女は3人を責めます。
3人はカメラが人を殺したと説明しますが、アリョーナは納得しません。ありえない話だと彼女はイリヤをポラロイドカメラで撮影します。
撮影され恐怖するイリヤの姿を見て、アリョーナもただ事ではないと理解します。写真を破れば、あるいは燃やせば、埋めれば助かるだろうかと、イリヤは自問自答します。
パニックになったイリヤは小屋を出ますが、集まった野犬の群れに襲われます。3人は野犬をカメラ写して殺し、イリヤを救おうとしますが電柱が倒れ、下敷きとなってイリヤは死にます。
ニックは人の命を奪うカメラを壊そうとしますが、イラは事故の直後に目撃した人物、おそらくこのカメラと小屋の持主が外にいる、それと闘うにはカメラが必要と制止します。
残された3人は小屋の中に釣り道具があるので、近くに川におそらくボートがあると判断しました。
翌日明るくなっても、事故直後に1人で助けを呼びに向かったユラが戻って来なければ、ボートを使って脱出しようと決めます。
電気が消え暗くなった小屋の中で、ニック、イラ、アリョーナの3人は休んでいました。
突然シャッターを切る音と共に、フラッシュが光ります。ニックは誰かが自分を撮影したと叫びます。
ニックはイラとアリョーナを責めますが、誰が撮影したかは判りません。暗い小屋の中を走って逃げだしたニックは、シカのはく製の角に刺さり絶命します。
何者かが撮影した写真には、やはりニックの最期の姿が写っていました。
映画『シャッター 写ると最期』の感想と評価
ホラーアイテムの正体は“呪われたひみつ道具”
写された者に死の運命を与える、古びたポラロイドカメラ。
映画の中では「時空連続体に干渉」という設定を語っていますが、実のところどんな構造で、どのように作られたかは全く明かされていません。
原理はさておき、ユニークな設定を持つ“ひみつ道具”を軸にストーリーを作るドラえもん的、あるいは『ドラえもん』など作者藤子・F・不二雄が提唱するSF(少し・不思議)的発想で作られたホラー映画です。
このカメラに呪いだの悪魔だの、何らかのオカルト的設定を与えた方が、見る者が納得しやすいホラー映画になったかもしれません。
しかしこの映画は科学的な設定で語られています。ロシアは旧ソ連時代、西側への対抗の名目で超能力など、様々なオカルトめいた実験が行われました。
このロシアで信じられている、都市伝説的な背景を基に作られた映画が『シャッター 写ると最期』です。
写真に関するオカルト信仰
黒沢清監督の『ダゲレオタイプの女』という映画があります。ここで登場するダゲレオタイプとは、銀板写真とよばれる写真撮影技法です。
初期のものは撮影に10~20分かかり、その間被写体となる人物はカメラの前に静止することを余儀なくされました。
科学の知識に乏しかった幕末時代の日本人が、いきなり銀板写真に接して「写真を撮ると(3人で撮ると真ん中の人間が)魂を抜かれる」と信じたのも、感覚的に納得できる気がします。
参考映像:『ゴースト・ブライド』(2017)
ロシアでも銀板写真が入ってきた19世紀頃に、「写真を撮る銀板に被写体の魂が宿る」と信じる風潮がありました。この迷信を現代のホラー映画に甦らせて描いた作品が『ゴースト・ブライド』です。
写真に対する素朴な恐れが、地域を越えて似た迷信を生み、日本とロシアで新たな都市伝説や怪談を生んでいると思うと、興味深いものがあります。
待った無しに、ストレートに襲い来る死
この映画は写真に撮られることで、逃れられぬ死に襲われる男女の姿を描かれます。
参考映像:『ファイナル・デスティネーション』(2001)
その設定はシリーズ化されたホラー映画、ジェームズ・ウォン監督の『ファイナル・デスティネーション』の影響が感じられます。
『ファイナル・デスティネーション』では、偶然を積み重ねた様々な形で無惨な死を迎える登場人物の姿が見せ場であり、ブラックユーモアを交えて描いています。
一方『シャッター 写ると最期』で描かれた死はあまりに強引な展開で、思わず笑ってしまう方もいるでしょう。しかし映画全体のブラックユーモア的要素は、実に控え目に描かれています。
若い男女グループが主人公だけにコミカルな描写もありますが、全体のムードは冬のロシアの風景のように、暗く静かな雰囲気を漂わせています。
文学や芸術となると、何故か生真面目な描写になる、ロシア的なホラー映画といえるでしょう。
まとめ
暗く冷たい冬のロシアの森。古さと固さを備えた旧ソ連時代の描写。ポラロイドカメラとそれが写した写真のレトロな雰囲気。
ホラー映画である『シャッター 写ると最期』は、これらを基調とした暗く、落ち着いた映像で全編が描かれています。
これは監督が、撮影監督出身のアントン・ゼンコヴィッチならばの味わいと見て良いでしょう。
合コンで集まった男女グループの物語にしては、やや硬くユーモアが少ない印象を与えますが、この監督らしい、ホラー映画的な映像の雰囲気を楽しんで下さい。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第26回は大ヒットラッパー映画のオマージュ?様々な映画をパロディにしたモンスター・パニック『スネーク・アウタ・コンプトン』を紹介いたします。
お楽しみに。