連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第20回
1月よりヒューマントラストシネマ渋谷で始まった“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、ジャンル・国籍を問わない貴重な58本の映画が続々公開されています。
第19回は福本伸行の気コミック「賭博黙示録カイジ」を、国際的スケールで映画化したギャンブル・エンターテインメント映画『カイジ 動物世界』を紹介いたします。
自堕落な日々を過ごしていた青年カイジは、ある日、友人にだまされ借金を背負います。
謎の組織から借金を一括返済のチャンスを与えると言われたカイジは、彼らが仕切る船「デスティニー」に乗り込みます。
船内では勝てば借金帳消し、負ければ命の保障が無いギャンブルが行われていました。カイジは人生の一発逆転を狙い、命をかけた究極のゲームに挑みます。
カイジを演じるのは中国で人気上昇中の若手俳優リー・イーフォン、そしてギャンブルを仕切る謎の男をマイケル・ダグラスが演じます。
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CONTENTS
映画『カイジ 動物世界』の作品情報
【公開】
2019年(中国映画)
【原題】
動物世界 Animal World
【監督】
ハン・イエン
【キャスト】
リー・イーフォン、マイケル・ダグラス、チョウ・ドンユィ、ツァオ・ビンクン、ワン・ゴー
【作品概要】
シリーズ累計売上は2150万部超え、アニメ化・実写映画化された人気漫画「賭博黙示録カイジ」を、製作費70億を投じ中国で完全映像化した作品です。
病床の母を抱え、自堕落な日々を送っていたカイジは、儲け話を持ってきた友人にだまされ、巨額の借金を抱えてしまいます。
債権者である闇の組織に、借金を一括返済できる方法を提案されたカイジは、ギャンブル船「デスティニー」号に乗り込むと、そこでは欲望にまみれた人間たちの命を賭けた究極のゲームが行われていた。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『カイジ 動物世界』のあらすじとネタバレ
アニメーション番組の中で次々倒し、不敵に笑うピエロ。
アニメ番組「無敵のピエロ」は好きでは無かった。しかしピエロがモンスターを倒すシーンは、8歳の誕生日から俺の心に刻まれていると、カイジ(リー・イーフォン)は振り返ります。
感情が高ぶるとピエロが飛び出してくるとカイジは語ります。頭の中でカイジはピエロの姿となり、モンスターと化す人間を次々倒していきます。
このピエロは俺の人生とつながっている。俺の人生はピエロの様なものだとカイジは続けます。
カイジには確信が一つありました。俺の頭はイカれているという確信でした。
ピエロ姿のカイジがゲームセンターにいます。物思いにふけっていたカイジは授業員から注意を受け、仕事に戻ります。
カイジは客との写真撮影に応じていきます。しかし彼の中に怒りがこみ上げると、頭の中では「無敵のピエロ」と化したカイジが暴れ回ります。
カイジの前に不動産会社に勤める友人のリー・ジュン(ツァオ・ビンクン)が現れ、確実に儲かるという投資話をもちかけます。
父親の残した家を担保にすれば金は調達できるとリー・ジュンは説明しますが、カイジは断ります。
職場を後にしたカイジは、母を見舞いに病院に向かいます。母は植物状態で寝たきりの状態でした。
母を世話してくれているのは看護婦のリウ・チン(チョウ・ドンユィ)。周囲には彼女を友人と説明しますが、互いに深く想いあっているようです。
カイジは彼女に金を貸してくれるよう求めます。入院費用も工面できず、このままでは母は病室から出されかねない状況です。
リウ・チンをからかう患者の振る舞いに、怒りをたぎらせたカイジの頭の中で、ピエロが暴れ出します。現実ではカイジが患者に暴力をふるっていました。
病院で騒ぎを起こしたカイジを見て、看護婦長はリウ・チンに彼と別れるように勧めます。彼女は婦長を説得し、事を穏便におさめます。
カイジはリウ・チンに、いい人に出会ったら嫁に行けと告げます。彼女の返事はいい人なら、もう出会っているでした。
カイジは意識の無い母の前で、一人泣きます。
人生を逆転するには金が必要、と考えたカイジは、リー・ジュンの投資話に乗ることにしました。
家の権利書を持ち出し、カイジは病院でリー・ジュンに渡します。彼はカイジの目の前で、それをライダースーツの男に渡しました。
数日後、スクーターで街を走るカイジを、あのライダースーツの男が監視していました。
カイジがリー・ジュンに何度電話してもつながらず、連絡が取れなくなっていました。
カイジの携帯にリー・ジュンからのメッセージが入ります。彼はカイジに謝罪し、この借りは来世で返すと叫んでいました。
友人にだまされたカイジの頭の中で、またピエロが暴れ出します。
リー・ジュンの務めていた不動産会社を訪ねると、彼は2ヶ月前に解雇され失踪していました。
唖然とするカイジに電話が入ります。窓の外にライダースーツの男がいました。
カイジは覆面を被せられ、彼によってどこかへと連れて行かれます。
カイジはモニターが並ぶ一室にいました。彼の前に英語を喋る男が現れ、カイジに自動翻訳機を付けさせます。
アンダーソン(マイケル・ダグラス)と名乗った彼は、ライダースーツの男の名はアンドウと紹介すると、カイジの置かれた立場を説明します。
リー・ジュンの借金の保証人となったカイジ。借金を担保にした家で返しても、残った負債を返すには今の水準の仕事を4つ行っても30年かかる。
リー・ジュンと話したいというカイジに、アンダーソンは彼は拘束されていると言い放ちます。
追い詰められたカイジにアンダーソンは提案します。「デスティニー」号に乗れば、借金を清算するチャンスがある。
ただし条件は、そこで行われるゲームに勝利すること。敗北すれば我々に全てを委ねてもらう。
ゲームの詳細の説明は無く、参加するか否かの決断に与えられた時間は1分。カイジはゲームに参加する契約書にサインします。
病院に戻ったカイジはリウ・チンに母を頼む、1週間で戻らなければ母につながれた管を外せ、そしてお前は先に進めと告げて去ります。
アンドウらの前に集められた、ゲームの参加者の中にカイジの姿もありました。
目覚めれば然るべき場所に着いていると、参加者は注射を打たれます。危険を感じたカイジの頭の中でピエロが暴れますが、現実にはカイジも注射を打たれます。
「デスティニー」号に乗せられたカイジたちゲームの参加者は、メインホールに集められます。参加者は国籍も喋る言語もバラバラです。
一同の前に現れたアンダーソンが、ゲームのルールを説明します。
全員にじゃんけんのカード12枚、グー・チョキ・パー各4枚と、星が3つ配られます。
各々がカードを使って勝負し、使用したカードは棄てられます。勝者は敗者から星1つを得ますが、あいこの場合は星の移動は無くカードだけが消費されます。
ゲームの勝者は手持ちのカードを0にして、星を3つ以上獲得した者。終了時に星2つ以下の者、カードを0に出来なかった者は敗北、また星が0になった時点で即敗北となります。
ゲームの制限時間は4時間。残り時間と全プレイヤーの持つ合計カード数は、グー・チョキ・パーの種類ごとに表示されます。
星とカードのプレイヤー間の交換は自由。また主催者から高利で金を借りて、売買することも自由です。
基本ルールは以上ですが、プレイヤー間で話がつけば独自の取り決めでプレイを行うことも可能です。
参加者は様々な術策を用いてプレイし、ゲームに勝つだけでなく他のプレーヤーを喰いものにして利益を得ようとする者もいます。
ゲームは中継され、プレイヤーの勝ち負けを対象に賭けをする者もいるのです。
アンダーソンはゲームの開始を宣言します。ようこそ、アニマルワールド(動物世界)へ!
映画『カイジ 動物世界』の感想と評価
世界に向けてスケールアップしたコミック実写化映画
邦画のコミック実写化作品は、今も続々と製作されています。個々の作品の出来栄えや原作ファンの満足度はともかく、ある程度の動員と二次利用が見込めるジャンルとして、製作されやすい環境にあります。
一方でマーケットに見合った規模の費用、製作期間の中で製作される作品が多いのもまた事実です。
現在経済的に大きく成長した中国は、出資者としてハリウッドで存在感を増し、中国の国民人口数13.86億 (2017年次)を観客数として見込めばリスクはなく積極的です。
その中国がコミックを実写化した『カイジ 動物世界』は、邦画のコミック実写化作品とは異なるアプローチが随所に見れます。
ハリウッドスターの起用、原作の枠を超えた表現など、映画化に際して大きくスケールアップされたのは明白です。
映画が世界をマーケットにする前提であれば、原作を知らない多くの観客がターゲットとなります。
原作者の監修を受けながらもコミックの再現に拘らない、表現の幅が大きく広がった作品になっています。
参考映像:『カイジ 人生逆転ゲーム』(2009年)
コミック実写化の邦画では、評価も興行成績も良く続編も製作された『カイジ 人生逆転ゲーム』。
異なるアプローチで、スケールアップして製作された本作と比較すると、様々な発見があるのです。
原作の何を削り何を膨らませるのか
コミックであれ小説であれ、実在の事件であれ映画化するに当たって脚色が必要となります。
膨大なスケールの物語を2時間程度に収めるには、多くの要素を削る必要があります。可能な限り忠実に再現するなら、アニメかドラマのシリーズ作品にするしかありません。
『カイジ 動物世界』を見て一番多い反応が“じゃんけんゲーム”しかやっていない!、原作ファンは物足りなく感じているようです。
だからと言って面白くない訳ではありません。ゲームを一つに絞ったおかげで、展開を詳細に解説しながら、多くの見せ場を用意しています。
原作を知らない観客に、「カイジ」ワールドを理解させる適切なアプローチと言えるでしょう。
一番大きな改変は“ピエロ”の登場。ハリウッド映画のCGスタッフを動員して作った見せ場で、地味になりがちなギャンブラー映画を、華のあるものにしています。
そして主人公、カイジの人間像の掘り下げ。より感情移入しやすいキャラクターとして描かれています。
これも原作ファンは違和感を覚えるでしょうが、原作を知らない者に、映画の枠内で説得力のある物語を創造するには必要な作業だと理解出来ます。
数々の改変を行った本作ですが、ギャンブルに憑りつかれた各キャラクターの狂気は、見事に描き切っております。
これには監修した原作者ぼ福本伸行も納得しているでしょう。
まとめ
スケールの大きな作品として映画化された『カイジ 動物世界』、ラストは“to be continued”で幕を閉じます。
思惑通り続編が作られるのかは興行次第ですが、世界を相手に野心的に作られた映画であることが実感できます。
本作の製作規模やチャレンジ精神は、現在の中国映画の勢いを象徴するものと言えるでしょう。
中国を舞台にしながら主人公の名は“カイジ”、原作に忠実なだけではなく、本作は危険なギャンブルが存在する、コミック的ファンタジー世界であるとの表明でしょう。
そしてマイケル・ダグラスの起用。かつてならSF的設定、しかし今や身近に感じられる翻訳機設定で、彼は英語のまま中国語と渡りあって会話します。
どうやら国際スターも、言語に関係なく起用できる時代になりました。無論、ジャンルにもよりますが。
それでもマイケル・ダグラスの役名が、原作に倣って“利根川”になることは…おそらく今後も無いでしょう。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第20回はニコラス・ケイジ主演の超常現象リベンジ・スリラー映画『トゥ・ヘル』を紹介いたします。
お楽しみに。