野尻克己監督が長編デビュー作品『鈴木家の嘘』は、突然訪れた長男の死によって巻き起こる家族の混乱と再生テーマにを、ユーモアを交えた作品。
映画『鈴木家の嘘』が新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか公開中です。
本作は第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門作品賞に輝き、ヒロインの木竜麻生は同映画祭にて東京ジェムストーン賞を受賞しています。
さらに、12月7日に行われた第23回新藤兼人賞授賞式が行われ、見事「金賞」に野尻克己監督が輝きました。
満場一致で選ばれた野尻克己監督の金賞受賞
日本インディペンデント映画の父的な存在である新藤兼人監督の名を冠した「新藤兼人賞」。
2018年で第23回を迎える同賞は、日本映画の独立プロ50社によって組織される日本映画製作者協会に所属するプロデューサーから、「この監督と組んで仕事をしてみたい」や「今後この監督に映画を作らせてみたい」という観点から、その年の最もすぐれた新人監督を選ぶ映画賞です。
過去に金賞に選出された監督には、2002年公開作品『ハッシュ!』の橋口亮輔監督。
2003年公開作品『BORDER LINE』の李相日監督。
2009年公開の『南極料理人』の沖田修一監督など、今の日本映画界を担う映画監督たちが受賞してきました。
そんな名誉ある「新藤兼人賞」の金賞に、2018年公開の『鈴木家の嘘』の野尻克己監督が選ばれ、12月7日の授賞式に登壇しました。
式の冒頭に審査員の総評より、「満場一致に近い形で『鈴木家の嘘』が選ばれた。野尻監督の助監督として映画の製作現場を支えてきた経歴や、作品の演出・脚本の力、そしてキャスティングすべてを評価した結果」と絶賛されました。
新藤兼人監督の背中を追いつつ、抜かす!
授賞式に壇上し、金賞のトロフィーを渡された野尻克己監督は、開口一番に、11月30日に惜しまれながらもこの世を去った映画プロデューサーの黒澤満さんへ追悼の意を表しました。
「黒澤さんとは生前ご挨拶した程度だったのですが、とてもかっこいい不良で、やさしいプロデューサーでした。子供の頃に観た作品を思い出し、かっこいいと思っていました。どうぞやすらかにお眠りください」
またこの度の金賞受賞について野尻克己監督は「この場を借りまして、『鈴木家の嘘』のスタッフのみなさまに御礼を申し上げます」と感謝の気持ちを述べると、声が詰まり目には涙がこぼれました。
「『鈴木家の嘘』で私は映画監督になることが出来ました。関わってくださったすべての人に感謝しております。賞というものをあまりもらったことがないので、喜びよりも緊張の方が勝っていますが、とにかく嬉しいです」
涙をこらえながら喜びの言葉を述べます。
さらに金賞の重みを感じながら、次のような今後の意気込みを語りました。
「新藤兼人監督の冠がついた賞を頂いたということは、これからが映画監督のスタートラインに立ったということ。また生涯250本以上の脚本を手掛け、100歳まで監督をやられていた方なので、その背中を追いつつ、抜かすという目標が出来ました。
100歳まで映画を作れるかは分かりませんが、引き続き良い作品を撮っていきたいと思っています。応援宜しくお願い致します!」
野尻克己監督の意気込みを、鈴木組でヒロインを務めた木竜麻生も会場で聴きながら、監督の晴れの日のお祝いを喜びました。
また授賞式後に喜びに溢れた野尻克己監督と、木竜麻生は共に喜びを分かち合ったようです。
映画『鈴木家の嘘』の作品情報
【公開】
2018年
【監督】
野尻克己
【キャスト】
岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、吉本菜穂子、宇野祥平、山岸門人、川面千晶、島田桃依、金子岳憲、レベッカ・ヤマダ、政岡泰志、岸本加世子、大森南朋
【作品概要】
長男が亡くなり、倒れた母の心を守るため、残された家族はある優しい嘘をつきます。
いつかは終わる嘘の日々の中、悲喜こもごもを乗り越えていく家族のストーリーです。
監督、脚本は橋口亮輔、石井裕也、大森立嗣などの数多くの作品で助監督を務め、本作が劇場映画初監督作となる野尻克己。
俳優陣は岸部一徳、原日出子、大森南朋など実力派が揃う中、長女を演じる木竜麻生が瑞々しくも鋭い存在感を示しました。
映画『鈴木家の嘘』のあらすじ
ある晴れた日、鈴木家の長男・浩一(加瀬亮)は突然自室で首を吊り自死。台所にいた母・悠子(原日出子)は、死体を発見したショックで昏倒してしまいました。
その後、帰宅した娘・富美(木竜麻生)によって助けられたものの、悠子は昏睡状態に陥ります。
悠子は気絶した時包丁を持ち、左手首を傷つけていたため、浩一の後を追おうとしたのだろうと考えられていました。
父・幸男(岸部一徳)以外は皆、もはや悠子は寝たきりだと諦めていました。しかし、ちょうど浩一の四十九日となった時、悠子は奇跡的に目覚めます。
何の後遺症もなく目覚めたかと思われましたが、なんと悠子は浩一の死を忘れていました。
浩一はどこかと尋ねる悠子に、富美はとっさに嘘をつき、浩一は悠子の入院費を稼ぐため、叔父・博(大森南朋)の仕事を手伝いにアルゼンチンに行ったと口走ります。
そんな嘘を幸男もフォローしたため、悠子はすっかり信じ込みました。
大学を卒業後、何年も引きこもっていた浩一。それが立派に海外で働いているという事に悠子は感動し、退院に向けてリハビリに意欲を見せ始めます。
担当の医師は、しばらくは事実を告げない方が良いと幸男たちに助言。嘘のつじつまを合わせることにします。
そのため幸男と富美は博をも巻き込み、浩一からの手紙や贈り物をねつ造しながら、“アルゼンチンで働く浩一”像を作り上げていきますが…。
まとめ
今回「新藤兼人賞」で金賞を受賞した野尻克己監督にとって、本作『鈴木家の嘘』が初めてとなる長編オリジナル作品。
ヒロインの富美役を演じた木竜麻生をはじめ、劇中に登場した鈴木家の家族のごとく、真剣に悩みながら生きている姿は、野尻克己監督そのものなのかもしれません。
今後も真摯な映画作りを持ち続け、巨匠である亡き新藤兼人監督の背中を追いつつ、追い抜かして欲しい。心から野尻克己監督におめでとうのエールを送りたいですね。