映画『二階堂家物語』は、2019年1月25日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開。
3世代の家族の愛と葛藤を見つめる人間ドラマ『二階堂家物語』。
一人息子を亡くし、代々続く名家が途絶える危機に頭を痛めている辰也とその母親ハル。息子を失い妻が東京に出て行ってしまった辰也に対し、跡取りを産ますために望まぬ女性との結婚を迫るハル。
そして娘の由子に婿養子を取らせるようと、過剰な期待をかける辰也。 家系の跡継ぎを巡って家族の繋がりが崩れていく先には…。
CONTENTS
映画『二階堂家物語』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【脚本】
アイダ・パナハンデ/アーサラン・アミリ
【監督】
アイダ・パナハンデ
【エグゼクティブプロデューサー】
河瀬直美
【キャスト】
加藤雅也 石橋静河 町田啓太 田中要次 白川和子 陽月華 伊勢佳世 ネルソン・バビンコイ
【作品概要】
奈良県天理を舞台にエグゼクティブプロデューサーを『あん』『光』河瀬直美がを務め、名家の跡継ぎ問題を抱えた3世代の家族たちの葛藤を描いたヒューマンドラマ。
演出にあたるのは、2015年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で“期待すべき新人賞”を長編映画『NAHID』で受賞し、なら国際映画祭2016では最高賞に獲得したイランのアイダ・パナハンデ監督。
辰也役を加藤雅也、由子役を石橋静河が演じるほか、町田啓太、白川和子、田中要次、陽月華らが顔をそろえる
アイダ・パナハンデ監督のプロフィール
参考映像:『NAHID』(2015)
アイダ・パナハンデ(IDA PANAHANDEH)は1979年生まれのテヘラン出身。
テヘラン芸術大学在学中から多くの短編映画作っています。初長編作品『NAHID』は、2015カンヌ国際映画祭にて「ある視点」部門・期待すべき新人賞(Prix de l’Avenir)を受賞。
なら国際映画祭2016ではゴールデンSHIKA賞を獲得。『二階堂家物語』は長編第3作品目でイラン国外で初めて撮影した作品です。
河瀬直美(エグゼクティブプロデューサー)のプロフィール
参考映像:『Vision』(2018)
河瀬直美は日本の映画作家。生まれ育った奈良を拠点に映画製作を続けています。
フランスのカンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭での多数の映画賞を受賞。
代表作は『萌の朱雀』(1997)『殯の森』(2007)『2つ目の窓』(2014)『あん』(2015)『光』(2017)などがあります。
表現活動の場を世界に広げながらも故郷である奈良を思い、2010年からなら国際映画祭を立ち上げています。
2018年公開のジュリエット・ビノシュ主演の『Vision』が世界で公開され、同年11月23日には、
パリのポンピドゥセンターにて大々的な河瀬直美展が開催されました。
また2020年東京オリンピック公式映画監督に就任したことでも話題を集めました。
映画『二階堂家物語』のあらすじ
山々に囲まれ、緑豊かな自然を持つ奈良県天理市。
先代から引き継いだ種苗会社を経営する二階堂辰也。彼は一人息子を亡くし、妻とも別れ実家に住んでいた。
二階堂家は町の発展に尽力するなど、一目置かれている田舎の名士でした。
父が建てた社屋のかけらの石を新社屋の入り口に飾り、毎朝、お清めの 水をかけることが日課。
大きな旧家で娘の由子と病を患う母ハルと暮らしていました。
他人が羨むような生活を送っている辰也ですが、大きな悩みを抱えていた。数年前に 跡取り息子を亡くし、それを機に、妻と離婚。
二階堂家は息子の死後、家名を継ぐ者がいませんでした。
ハルは長年にわたって辰也に好意を抱いている美紀を辰也の再婚相手に望み、息子を産むことを願っていました。
ハルの意のままに好きでもない相手と再婚しようとする辰也に、由子は愛のない結婚だと責めます。
辰也自身も内心もどかしい感情を抱えて、美紀に対しても愛を拒む態度を見せています。
実は辰也は自分の秘書として働く沙羅に惹かれていました。
一方で沙羅はシングルマザーで、未就学児の幼い娘を育ていました。
やがて辰也と沙羅は互いの愛情を受け入れた関係になりますが、ある日、沙羅から子供を産めない身体なので結婚できないと辰也に告げます。
そんな辰也とハルは娘の由子と幼なじみの洋輔に由子の夫として婿養子に来てくれることを期待します。
しかし、由子には交際をしている彼氏がいました。
もともと由子に好意を寄せていた洋輔から婿養子になってもいいと告げられた由子。
保身的な辰也の思惑だと思い込み、ショックを受けて実家を飛び出してして行くのだが…。
映画『二階堂家物語』の感想と評価
多面的に見つめることの重要性
本作『二階堂家物語』の監督を務めたのはイランの首都テヘラン出身のアイダ・パナハンデ監督。
外国人である女性監督が日本の地方に来て、ひと時を異邦人としてその土地で暮らす。
そこで出会った人や風景、あるいは文化をどう観察し、何かを収集しながら選択し、どのよう作品制作を行いながら映画にするのか。
この作品はひとりの女性が見た異国の土地を見つめ、作品にしたありのままの記録です。
その示された映画を日本人の観客はどのような視点から見るのだろうか。
見手の育った環境や理解力によって大きく印象が異なる作品に仕上がっています。
それは河瀬直美自身が奈良を舞台にした映画を撮りながらも、愛する故郷を多面的に捉えようとするチャレンジであり、エグゼクティブプロデューサーの仕事として重要な意味が存在しています。
それは本作が何かを政治的な意味を持ち批判するために撮影されたものでなく、奈良や奈良県民を多様性な理解や共有をするために映画が道具として用いられたからです。
観客は異邦人であるアイダ・パナハンデ監督のまなざしを通して、日本人である自分に“何かの問い”を得るきっかけを与えてくれるはずです。
二階堂家の“愛の家系図”
この物語のベースに描かれたテーマは、他人を愛する行為と、家系という時間の継承を守る行為に揺れる個人の葛藤を描いています。
それを中心にいる二階堂家の三世代の親と子を軸にしながら、そこに関わる他の家族との距離感も見せていました。
前述したように多面性で物事を考えた時、観客が都会や田舎のいずれかの地域に住むか。
男や女のいずれかに生まれたか、同じ男でも長男や次男であるかの意味など、観客の状況いかんで二階堂家の登場人物たちの理由や思いが見えてくることでしょう。
イラン人のアイダ・パナハンデ監督と脚本家アーサラン・アミリが、奈良県の天理で過ごすなかで、地域の住民の家々を回りながら人々の話に耳を傾ける聞き取りを行ったシナリオハンティング。
その入念な調査を異邦人(よそ者)だから話してもらえた日本の状況、また彼らが映画作家であるから感じ取れた疑問や発見としての人間関係のドラマ(出来事)。
これらをひとつひとつ集めたことで、“田舎暮らしにある深刻さと、ある意味では滑稽さ”ともいうべき事柄、そして生きているからこそ、個人の誰もが不器用にもがく愛する姿を克明に映像にしています。
家族という集団と何か。家系を守るとは何をして来たのか。親は子に何を求めるのか…。
映画の結末で加藤雅也が演じて見せた二階堂辰也の選択は、誰と向き合ったのか。
それまでは一切見せなかった“他者への愛のカタチ”であるものの、ラストショットは何か闇のなかで蠢く因習の恐ろしさすら感じされられるかもしれません。
あなたは何をこの映画で見つけますか。
まとめ
“一般的な邦画”の場合、日本の都会を舞台に描いた作品は、あまり登場人物の家族に触れたり、語ることを好まない傾向にあります。
個人の恋愛問題や劇的で派手なドラマ(出来事)を過ごす登場人物たちにとって、家族背景や家族の都合などは、都会に生きる者と無用なものなのかもしれません。
しかし、実際は見ないようにしているだけで、“誰にでも家族という煩わしさ”というものは存在するものです。
映画『二階堂家物語』は、田舎にある問題をテーマに描きながら、実は“都会という光に押し付けられた田舎の闇の役割り”という一面も見せていたような気がします。
それ現実問題として、都会というシステムが少子化を生み、都会という状況が田舎の役割り分担を支配して決めているからです。
本作のなかでも、親と子、名家の家族と仕様人の家族、また男女や国籍までパワーゲームも、そんな都会の縮図かもしれません。
そのようなことをイランの首都テヘラン出身の女性監督アイダ・パナハンデは、丁寧かつ、繊細な映像設計の演出を紡ぐことで、シリアスで重厚感のある日本の田舎によく見受けられる問題をヒューマンドラマに仕上げてくれましたのです。
そしてこのような点にも気がつかされました。
加藤雅也が演じた主人公の二階堂辰也の営む職業は、代々続く名家で野菜の種子を売る家業です。
自然に発芽したものでなく、品種改良や遺伝子操作を行うことで、たくさんの美味しい野菜や収穫ができる種子を販売しています。
その種子や苗を買って育てるのは、田舎の農家の仕事。それらは都会で消費されるために作られたりもします。
それを劇中で感じたときに、どこかシニカルに笑ってしまうような要素だなと感じました。
さて、二階堂家の家族たちの愛のカタチや、代々続いた家系図はどうなっていくのか?
あなた自身の目で、エグゼクティブプロデューサーの河瀬直美と、イラン人監督のアイダ・パナハンデが見せた、奈良発の新しい邦画をご覧くださいね。
映画『二階堂家物語』は、2019年1月25日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開。