志駕晃のスマホ犯罪を題材とした、現代社会ならではのSNSミステリー同名小説を、映画『リング』などジャパニーズホラーの名匠・中田秀夫が映画化した『スマホを落としただけなのに』。
中田監督がとことんリアルにこだわった“スマホあるある”が満載な本作は、あなたのスマホのセキュリティ対策やSNSとの付き合い方を問う作品となっています。
そこで今回は、本作を鑑賞し、「スマホもSNSも怖い!でもスマホがないと生きていけない!」という方のために、「スマ落と」キャラクターに学ぶ、スマホとの上手な付き合い方を探っていきます。
CONTENTS
映画『スマホを落としただけなのに』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【原作】
志駕晃
【脚本】
大石哲也
【監督】
中田秀夫
【キャスト】
北川景子、千葉雄大、成田凌、田中圭、原田泰造、バカリズム、要潤、高橋メアリージュン、酒井健太、筧美和子、桜井ユキ、北村匠海
【主題歌】
ポルカドットスティングレイ『ヒミツ』
【作品概要】
映画『リング』などの世界的ホラーの巨匠・中田秀夫最新作映画『スマホを落としただけなのに』。
期待の新人作家・志駕晃の同名小説を北川景子主演で映画化しました。脇を固めるのは田中圭、高橋メアリージュンなど。
若手注目俳優の千葉雄大と成田凌は、これまでにない役どころで新たな魅力を発揮しています。
映画『スマホを落としただけなのに』あらすじとネタバレ
友人から仕事関係の連絡先、写真、行動範囲、検索履歴といったすべての個人情報が詰まっており、いまや自分の分身とも言える欠かせないツールとなったスマートフォン(以下、スマホ)。
そんなスマホを彼氏が落としてしまったばかりに、猟奇的殺人犯に内部データを抜き取られ次から次へとスマホトラブルに襲われるOLの稲葉麻美。
映画『スマホを落としただけなのに』にみる“スマホあるある”
本作の悲劇は、富田が冒頭で取引先との会議に急ぐあまり、タクシーの中にスマホを置き忘れてしまうことから始まります。
人間は無意識下に物を置いてしまい、本人は置いたつもりはないので、どこに置いたかわからなくなるということが多々発生します。
そうでなくても、鞄やポケットに入れようとして落としてしまった、出先の店に置いてきてしまったなどスマホを落としてしまうシチュエーションは日常で溢れるほど遭遇しますよね。
会議に遅れてしまった富田は、取引先と「スマホ落としたあるある」で盛り上がり、事なきを得ますが、ここで観客は「盛り上がってる場合じゃないよ!」と富田のウッカリぶりにハラハラさせられます。
その後も富田は、クレジットカードの見覚えのない引き落としに際しても50万円もの大金が引き出されているのに「困ったなー。」と言うだけで自分の行動を振り返り原因を探るということをしません。カードを止めただけです。
富田のような憎めない愛され系ウッカリさんが家族や恋人にいる方は、自分の情報を託さない、大金の入った口座でクレジットカードを作らせないなど、前もってフォローが必要でしょう。
麻美もまた、何の知識もなくSNSを再開し、個人情報を世間に晒し続け、ネットストーキングに遭ってしまいます。
麻美に接触してきた小柳が本当の小柳だったのか、いつから浦野とすり替わっていたのかは定かではありませんが、自分の行動をストーキングされているかもと思った時点で、彼氏である富田や警察に相談はしておくべきです。
二人の行動の根底には、“情報”が盗まれる可能性があるという危機意識の欠如があります。誰でも財布を盗まれることに関しては気をつけますよね。
けれど、“情報”が盗まれた場合、何が起こってしまうのか想像できません。
情報化社会で誰でも簡単にスマホを持てる時代において、自分の身は自分で守るといった自己防衛意識を身に付けることが大切になってくるのかも知れませんね。
友人から流出!?他人にされてしまう“スマホあるある”
麻美は壮絶な過去を周囲に隠すため、SNSは休眠状態で必要以上に他人と関わらない生活を送っていました。
しかし、同僚の加奈子に「もっと自分を開きなよ」と言われ、SNSを再開。
さらには、加奈子が浮気を疑われているとの理由から「お願い!」と懇願され、麻美と加奈子のツーショットの写真をSNSにアップすることに同意してしまいます。
「1回だけ」という条件付きで・・・。
その1枚がネット上に永遠に残り、辛い過去に繋がる可能性があるとわかっているはずなのに、その時の雰囲気で「まぁ、大丈夫だろう」と過信してしまいました。
一個人がネット上でひとつの情報を見つけるのは「干し草の中の針」を見つけるくらい難しいと言われていますが、現代社会においてネットの世界人口は40億人超え。
その数%が浦野のように、IT系の知識が豊富だと考えると、麻美の写真を見つけ、そこから個人情報に繋げるのなんてあっという間だということがわかります。
案の定、麻美はSNSを再開した途端、過去に因縁のある武井に見つけられてしまい、早速会う席までセッティングされてしまいます。
武井がスマホに保存しているポルノ写真が拡散されてしまうこともまた、他人にされてしまう“スマホあるある”です。
現実に数年前、韓国の某人気俳優のPCから流出した写真が原因で、関係者が社会的に抹殺されてしまった事件がありました。
誰かに見られて困るものは「撮らない撮らせないアップしない」がセキュリティマナーですね。
クラッカー、ランサムウェアって何?
本作で麻美たちが巻き込まれる様々なスマホトラブルの中には、IT関連の仕事に就いていないとわからないであろう専門用語がいくつか登場します。
麻美と富田同様、浦野に早口で説明され「ポカーン」となってしまった方向けに、スマホ犯罪用語をわかりやすくご紹介します。
クラッカー
元IT会社社員という異色の経歴を持つ刑事・加賀谷は捜査の過程で一人の“クラッカー”を逮捕します。
“クラッカー”とはネットワークに不正に侵入し、データを改ざんしたり破壊してしまう犯罪者のこと。
加賀谷が逮捕した“クラッカー”は激レア商品を低価格で転売し、その際に得た口座番号とパスワードで大量の高額商品を注文。その商品を転売することを繰り返し不正に儲けていました。
富田も浦野という“クラッカー”に引っかかってしまい、見覚えのない商品を大量に購入させられてしまいます。
もうこうなってくると、スマホでお財布ケータイもAmazonの注文も怖くてできなくなってしまいますよね。
パソコンでは「侵入探知システム」が市販化され始めていますが、スマホに対しても同様のものが必要となる辛い時代に直面しています。
ランサムウェア
富田のスマホを襲った突然の“ランサムウェア”。本作でいう“ランサムウェア”とはスマホのロック画面に仕掛けられるウイルスのことです。
このウイルスに感染すると利用者は自分のスマホへのアクセスができなくなり、内部データを破壊されたくなければ期限までに金銭を支払うよう要求されます。
その終末へのカウントダウンはまるでスマホの時限爆弾のよう!
ただ、浦野いわく、スマホへのランサムウェアは身代金を払えば、解除され、内部データも消されることはないとのこと。
理由は身代金を払ってデータが消えていたら、悪評が広がり、要求金を払ってもらえなくなるからだそう。
富田が要求された金額は3万円ですが、あなたはこれを高いととるか?安いととるか?払うか?払わないか?
対策としては、ウイルスソフトを常に最新のものを入れておく、バックアップをこまめにとる、セキュリティソフトの窓口を頼り、復旧ツールをすべて試すくらいでしょうか。
ただ、ランサムウェアの期限はとても短いことが多いので、これらの対策が間に合うかどうかは微妙なラインです・・・。
スマホ犯罪に遭わないために(麻美たちの行動とその対策)
本作の公開記念イベントで中田秀夫監督と原作者の志駕晃がセキュリティ部門に属する社員とトークショーを行いました。
その中では話されていたのは、スマホを落としてしまう前にできることはやはり、スマホのロックをしっかりかけておくことだそうです。
これはよく言われますが、暗証番号も自分の身近に転がっている番号ではない、他人からは推測されないものを選ぶべきだそうです。
劇中では富田も麻美も、浦野の手によって簡単にパスワードを突破されてしまいますが、麻美はパスワードの組み合わせで麻美と美奈代との関係もバレてしまいます。
あと、意外と知られていないのは、スマホで撮った写真は日時と場所がデータとして記録されており、麻美と加奈子のようにパスタの写真だけアップしても、簡単に位置情報が割り出されてしまうのです。現実社会ではこれで浮気がバレたなんてことも。
スマホのロック画面も指紋の流れを追って解除されてしまうなんてこともあるそうです。
他人が見ている場所でロックを解除しない、暗証番号は本人に繋がらないもので定期的に変えるのがベターですね。
スマホ犯罪に遭ってしまったら?
本作で麻美や富田を襲うスマホトラブルと毒島と加賀谷が動く連続殺人事件は同時進行で描かれていますが、実際にこの二組が顔を鉢合わせるのは、クライマックスの遊園地シーンからです。
そう、麻美や富田はこんなにも怖い思いをしているにも関わらず、警察に一度も相談に行きませんでした。
麻美が自身の過去を探られたくないから行かなかったという部分もありますが、その根底には、私たちの「警察は実際に被害に遭わないと動いてくれない」という諦めが存在している気がします。
しかし、警視庁には「サイバー犯罪相談窓口」がありますし、2018年8月には女子高生の裸の画像を拡散させた罪で14人もの高校生が書類送検されています。
麻美も「もう嫌!!」と部屋で叫ぶ前に警察に相談していたら、浦野に拉致されるという最悪の事態は避けられたかも知れませんし、運よく加賀谷たちと繋がっていたかも知れません。
基本的に、スマホ犯罪は個人でどうにかできるレベルは超えており、拡散力も凄まじいので、一人で何とかしようとせずに、銀行、セキュリティ会社、警察などとどれだけ素早く繋がれるかが重要なのではないでしょうか。
まとめ
ジャパニーズホラーの巨匠と呼ばれ、日本のみならず世界中にファンを持つ中田秀夫監督。
その怖さの秘密は、より人々の生活に近い視点で近いところにある物事から恐怖を引き出すリアルさの追求にあります。
映画『リング』で言えばテレビ、映画『クロユリ団地』で言えば団地、どちらも人々が毎日目にしている、またはとても身近な存在ですよね。そして、『スマホを落としただけなのに』ではスマホです。
スマホを落としたせいで起こるトラブルもすべてが“スマホあるある”だらけで、観ている最中は「あ~あるある!」と笑っていられるのですが、身近だからこそ、観終わった後に自分の身の回りを振り返り、自分にも十分に起こり得ることだと、ジワジワと恐怖が忍び寄ってきます。
中田監督はホラーの巨匠と呼ばれていますが、本人が「本当に撮りたいものはホラーではない」と公言しているように、人間ドラマにおいても緻密な演出をする映画監督のひとりです。
中田監督が演出する、振り返る、驚くといったタイミング、各キャラクターの癖、目を開ける大きさの数%まで指定する細やかさが、本作でも浦野を演じている成田凌の怪演に繋がっています。
事実、「成田凌が怖すぎる」「サイコパス」という感想が多く、成田自身はモデル出身のイケメン俳優なのに、しばらくはテレビや雑誌で成田凌を観るたびにビクッとしてしまうほど恐怖が残ります。
ホラーやスリラー映画は劇場の大画面で体感するのが一番だと思うので、ぜひ劇場に観に行き、お友だちと“スマホあるある”話で盛り上がってください。